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キノは〜ふ! Return  作者: 七月 夏喜
第3話 キノと芦川と偽りの恋人(後編)
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その8


「何ぃ!? もう一度会いたいだと!」

 芦川貴文の父、公助は驚いて叫んだ。自宅の大きなテーブルに膝が当たり、湯呑みが揺れる。

「おまえ、あれだけのことをしでかして、どの口が言わせるんだ。相手側のことも考えろ」

 父親は我が息子ながら常識の無さに、苦虫を潰した。

「だから、逢ってきちんと謝罪する」

 今までと違うその剣幕に圧倒される。

「おまえなあ。相手は花宗院家の親戚だぞ。もう二度と会ってくれるか」

 公助は言葉を吐き捨てた。

「それに、紹介してやったホテルで援交騒ぎにまでなったそうじゃないか。あの娘はとはそういう関係だったのか」

「い、いや、あいつは……」

 結果的に現役女子高校生に酒を飲ませて、寝ている間にホテルに連こんだという事実は、とても反論する理由など見つからない。更にその美乳を見てしまったということもマコにもバレている。何をどう繕うのか、それすら見つからない。

 しかし、だからこそ、会っておきたい。

「俺は、真琴から……。そのためにも、しっかり誤解は解いていきたい」

「何をぶつぶつ、言っとるんだ」

 苛つきを抑えようと、煙草に火を付ける。

「とにかくだ。話はしてみるが、期待はするなよ。花宗院を怒らせたんだ」

 公助は息子がため息を漏らしている顔を見た。少々息子よりも自分のメンツを気にしていることに気が付いて、少し肩を落とす。

「全く、親子揃ってダメだな」


「琴葉ちゃんに、もう一回会う?」

 ソファに座るマコの背中にキノは隠れて、芦川を威嚇している。テーブルを挟んで、向かい合わせに鎮座していた。亜紀那がアイスコーヒーを置く。

「どうして、また?」

「大変、失礼なことをしたし。まだ話しが、中途半端みたいなもんだから」

 マコは芦川に微笑んだ。顔が一瞬緩む。

「琴葉ちゃん。多分、気にしてないわ」

 恐らく、この間のパーティーの調子で彼女はそう感じたのだろう。

「とにかく、真琴からも頼んで欲しい」

 テーブルに額がつきそうなくらい、頭を下げる。

「ちょっと、先生、やめてよ。聞いてみるから」

 マコは慌てて立ち上がり、芦川を制止させた。

「そ、そうか。良かった」

 マコの背後霊の様に貼り付いたまま、キノは睨んでいる。その霊に芦川は目を合わせた。

「それと鈴美麗……、そんなに睨むなよ」

 マコの肩越しに顔を出す。

「あの時は、その……、色々と迷惑を掛けて、すまなかった。あの……、見たことも、どうか許してくれ」

 白い肌の柔らかい形の良い隆起が、男の脳裏に今でも焼き付いている。

「あう」

 視線に慌てて胸を隠した。

「先生、キノは私のものだから、もうダメだよ」

 つい、マコは興奮気味になる。少し膨れっ面だ。

「大きな声、出すなよ。わかってるよ」

 キノはマコの頭を撫でる。


「芦川殿、キノ様はお優しい方だ。それに付け入って乳を眺めるとは言語道断。成人男子として、あるまじき行為だ。幾ら頭を下げられても到底許しがたい」

 フェイルがいつの間にか腕を組んで横に座り、眼光鋭く威嚇していた。気配を感じなかった芦川は驚いて飛び上がる。

「だ、誰!?」

「芦川様。当然、マコ様の幸せも邪魔してはいけませんよ。キノ様の大事なお方なのですから」

「ひっ!」

 今度は亜紀那が反対側に座っていた。彼女は蔑んだ瞳を細くして微笑む。男の背筋が凍りついた。武道家の強者二人に挟まれて、恐怖感は増幅する。

「わっ、わかってます! わかってます!」

 吹き出す汗を手で払いのけながら、芦川はおののいた。


「じゃあ、先生」

 マコは立ち上がって手を差し出す。

「握手しよ。私、これからも先生のこと、応援しているから」

「真琴……、もっと早く君に伝えていれば。いや、そうじゃない。その時点で俺ではなかったんだな」

「まるっきり、では無いけど」

 その頃を思い出してマコは微笑んだ。

「でも君は言った。気にかけないといけない子がいるって」

 その言葉に思わずキノも凝視する。二人に見つめられてマコは真っ赤に頬を染める。


「少女時代の淡き恋心を抱いた人と、今の愛すべき大切なお方。そのお二人が、目の前にいて、あなた様を見つめている」

 芦川の座っているソファーの背後から、後藤が現れる。フェイルと亜紀那も驚いた。彼らも気配を感じなかったらしい。鈴美麗家一番の強者である。

「ほっ、ほっ、ほっ、マコ様。流石、花宗院家の御令嬢。こりゃ、女冥利につきますな」

「ご、後藤さん!」

 マコは顔に火が灯ったかのようにして叫ぶ。彼は腰を擦って、事の一部始終をまとめた。

「まあ、何にしろ、和解できたのか?」

 胸を撫で降ろした芦川は、キノが睨む前でマコと握手する。そして疲れきったようにソファに脱力して、へたり込んだ。



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