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キノは〜ふ! Return  作者: 七月 夏喜
第3話 キノと芦川と偽りの恋人(後編)
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その6


「芦川殿」

 入口ドアの方から、先ほどの白髭の豪腕老人が声を掛けた。

「こちらへ」

 部屋から出るように手招きする。

「何?」

 先程のされた男たちが再び押し入って来た。芦川の両脇を持って部屋から引き摺り出す。

「お、おい!」

「今宵は、お二人だけにしてくれまいか」

「あいつらだけに?」

 幾分不服そうな顔をした。

「仲睦まじい二人の間に、何人なんぴとも入る権利は無いでしょう」

 老人は屈託のない笑みを浮かべる。

「あなたの部屋は隣に確保しております」

「しかし……」

「もう夜も深けておりますゆえ、あなたもこのまま宿泊した方が良いと」

「真琴が言ってるのか」

「そうですな。この部屋が気に入られましたかな」

 鬼頭は顎髭に手を掛けて、二人を眺めた。

「けど……」

「何かご不満なことが、おありかな?」

 未だに脇を抱えられている芦川は、キノとマコの動向が気になってしようがない。

「おまえに、選択の余地などない」

 島田は言った。


 マコが近づいて来る。

「先生、ごめんね。ゆっくり話したいの。これは私とキノの問題だから」

 シャワールームからキノは顔だけ出した。

「先生、本当にキノの何処にも手を出していない?」

 顔だけのキノは人差し指を口に当てる。

「な、何もないよ」

 その大きな真贋を見抜く瞳にとても耐えられなかった。

「触った?」

「う。ま、まあ、ぐっすりと寝ていて暑そうにしてたから、あ、汗を拭こうとね」

「寝ている間に、汗を拭くねえ」

 上目遣いに、瞳が訝しげさを訴える。

「そ、そしたらあいつ、寝返り打ちやがって。手が、その、胸の下敷きに、なった」

 指を真っ直ぐに伸ばした。

「ふーん。手は動かせなかったと」

 マコの眉が少し吊り上がる。

「あ、あのなあ。下敷きになってたし、そうなったのも不可抗力だ」

 少しだけ息を吐いて男は緊張した肩を落とした。


「じゃあ、その胸は見たの?」

 キノは大きく手を口元で一文字に切る。

 男の眼球にそれが写ったことを、マコは見逃さなかった。

「とても綺麗な形のおっぱいだった、でしょ」

 マコの瞳は嘘をつかせない。

「あ、う、うん……。確かに」

 思わず頷く頭に、ひと振り堅い拳を放つ。

「やっぱり、男性があの子に何も感じない、なんてあり得ないか」

 殴った後にマコは息を吐いて、妙に納得する。

「じゃ、先生、また明日。鬼頭さん、よろしくお願いいたします」

「畏まりました。お嬢様たちもごゆるりと」

 鬼頭は深々と頭を下げた。芦川を引き摺りながら四人は部屋から出ていく。


「さてと……」

 手を叩いてマコは振り返った。

「あのさ、キノ」

 シャワールームに飛び込む。

「マ、マコ!?」

 驚いて慌てたために、背中のシャワーヘッドを落としてしまった。蛇口を捻ったままのそれは、踊るようにルーム内を跳ねる。

「わああ!」

 マコはシャワーヘッドからのお湯を身体中に浴びた。キノも同じ様になりながら、それを拾い上げようと屈む。

「もう、何してるの……」

 見上げた瞬間、マコの濡れたまま服が目に飛び込んできた。悪戯な口元がキノを動揺させる。目を背けようとする顔を彼女は掴んだ。

「ま、マコ、こんな狭いところ」

 濡れた顔が近寄ってくる。思わずキノは尻もちを付いた。拍子にバスローブがはだけて、構える身体にマコが密着する。

「先生に胸を触られたんだって」

 そう言い放った瞬間、キノの胸を掴んだ。

「いてて、な、なにを」

 長い髪から落ちていく水滴が白い肌を伝って、マコの手にも溜まっていく。

「うーん、柔らかい」

 恍惚の表情をするマコを見た。ブラウスが身体のラインにぴったりと貼り付いている。透けて見える下着が気になって、キノの顔が更に紅潮していた。

「こんな綺麗なものを、私以外の人に見られたなんて、許せない」

「も、もう、いいでしょ」

 触れているマコの手を掴んだ。

「女の子の日でも、女子が気になる?」

 真剣な眼差しに、キノは魅せられてしまう。

「そ、そりゃ……、今すぐにでもマコの身体に触れたい」

「ふふん」

 マコはゆっくりとブラウスのボタンを外した。美しいニつの隆起と谷間が露わになる。

 そして暖めるかのように、キノの指が優しく包みこんだ。マコは耳まで赤くなっている顔を覆って、その胸に引き寄せた。

「やっぱり、男の人って……、おっぱい、大好きなのね」


「ちきしょう! 二人っきりで、何をしてるんだ!」

 隣の部屋で寝れない夜を過ごす、芦川貴文であった。


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