その3
土曜日、朝からマコの姿はなかった。
「お友達と会う約束があると言われてました」
「そうか」
亜紀那は、朝食を用意し始める。
「誰と?」
「そこまでは聞いていません。キノ様こそ、ご存知無いのですか?」
「……いや、聞いてない」
キノは大きなため息をついた。
「どうかされましたか」
「亜紀那さん、最近マコの様子どうかな?」
トーストをひとかじりする。そして苦みの効いたコーヒーを飲んだ。
「さあ、今朝もにこやかでしたよ。何も特に感じませんでしたが……」
彼女はキノの苦悩する顔を見つめる。
「大丈夫ですよキノ様。それともマコ様が誰と会うのかが、ご心配なのですか」
キノは飲みかけのコーヒーを吹き出しそうになった。驚いて、亜紀那の方を向く。
「と、とんでもない」
「そうそう、それでいのです。それにキノ様は、女の子と違って男子ですよ。もっとどっしりと構えていなくては」
亜紀那は、目玉焼きとベーコンを皿に盛り、机に置いた。
「そう、だけど」
キノは椅子の上で膝を抱え、いつかの夜のことを思い出す。おんなキノのことが、なぜだか頭に浮かんだ。亜紀那は遠目でキノを見つめている。
「……キノ様。まだまだ色々、ありますわ」
「マコさん! こっち、こっち!」
遠くから『本田千秋』の声が聞こえた。マコは駆け足で、彼女のもとに急ぐ。千秋は手を振って待ち合わせの場所で微笑んでいた。
「ごめん、少し遅れちゃった」
マコの息が荒い。
「大丈夫、私も今来たとこ」
千秋はマコの顔をまじまじと見た。マコは不思議そうに見つめ返す。
「どっ、どうかした?」
千秋は、マコの近くに寄り添った。
「マコさん随分、綺麗になったね」
彼女はマコの肩に手を回す。久しぶりの突飛な行動にマコは少し驚いた。
「すっかり、鈴美麗家の妻だね」
彼女は向き直って、マコの顔を凝視する。目が真剣だ。
「千秋ちゃん?」
「キノマコ2世は?」
「え、え、え、え」
千秋は顔をじっと顔を覗き込んだ。マコは赤面して、体を硬直させる。
「冗談、冗談。マコさんったら、間に受けちゃって」
「ちょ、ちょっと、もう!」
マコは膨れた。
「でも、きっと可愛い子になるんだろうなあ。キノちゃんとマコさんのベビーは」
煌めく瞳の千秋の顔は恍惚としている。
「本当に、まだなの」
どんな想像をしているのかマコにはわからないが、焦って話を変えた。
「千秋ちゃん。そ、そんなことより、何かあったの」
千秋は我に返ったように、体を動かす。
「どこか、ゆっくり座って話ししよう」
「う、うん」
マコは胸を撫で下ろして、彼女の後を追った。