表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キノは〜ふ! Return  作者: 七月 夏喜
第2話 キノと芦川と偽りの恋人(前編)
29/87

その11


「ぶたれた」

 キノの白い左頬が、うっすらと赤く染まっていた。

「まあ、変なことに首突っ込むと、そうなるのよ」

 その頬を千秋は人指し指でちょんと突く。

「突っ込まされたのは、こっちの方。痛い思いして、迷惑千万だよ」

 頬を丸く膨らませた。

「早く男子に戻れば。そうしたら、誰も言い寄って来ないよ、多分」

 帰り支度をしながら捨て台詞を言う。キノは彼女を見つめた。

確かに簡単なことだ、そうすればいい。

「そうだね。それが一番いい」

 キノは頷いて腰に手を当てた。ゆらりと千秋はキノの顔前に近寄った。

「参考程度に」

 伊達眼鏡を掛けなくなった円な瞳が悪戯に見つめる。

「どうやったら変身するの?」

「どうって……」

「そう。どうしたら、王子に変身するのかな」

 キノは彼女の瞳には弱い。その眼差しに耐えられず視線を逸らした。

「やっぱり、マコさんが関係する? 変身すると、出っぱたり、引っ込んだりって、どんな感じなの?」

 更に千秋の顔が近づくと、キノはその両肩を掴んで引き離す。彼女は体重を掛け、無理にでも体を押してくる。基本的に女性に対して手を挙げないのが、武道家の男子たる主義だ。

「そ、それは……」

「それは? キノちゃんに久しぶりに掛けた電話の時、聞いちゃたのよね」

 千秋の体を支えながらも、キノはどぎまきした。

「なっ、何を」

「マコさんと一つになることが……」

「ど、どこまで聞いてたんだ」

「さあ。キノちゃんが質問に答えてくれたら、教えてあげる」

 後ずさっていたが、壁に当たって行き場所を失う。千秋はそのままキノの足の上に跨がり、乗りかかった。

「さあ、教えて。どうなるの?」

 彼女の瞳がキノを犯す。

「やめろ、千秋。おまえどう見てもおかしいって。如月に言うぞ」

 その言葉をものともしない千秋は迫まってきた。

「何だろう。キノちゃんの顔って、やっぱり凄く美人で可愛い。引き寄せられる。ずっと眺めていたい」

「まっ、待て、千秋!」

 キノは肘を突っ張って、彼女の肩を止める。そのまま二人は重なり合うように横に倒れた。

「やめ……」

 だがキノの頭部は千秋の両手でガッチリと固定されている。いつもは彼女の体重くらいはね飛ばせるが、いかんせん今日は力が入らない日である。キノは重なろうとする唇を辛うじて右手掌で覆った。手に柔らかい千秋の唇が触れる。

「うーん。やっぱり、私のじゃダメ?」

 しばし、そのままの状態が続く。キノは置き場のない大きな瞳をくるくると回している。

「ダメに決まってるだろ!」

「別に私は気にしないんだけどなあ」

 手に張り付いた唇をそのまま押し付けてきた。

「千秋! 如月がいるのに!」


「お、おまえら」

 襖を開けた芦川は、その光景を見て言葉に詰まる。

「二人で何やってんだ」

 女子二人が床に転がって重なっている様は、奇妙な光景だ。と言うかキノの立場では混乱させる。

「鈴美麗、おまえ、真琴以外に愛人がいたのか?」

 いささか、呆れた様子で芦川は呟いた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ