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キノは〜ふ! Return  作者: 七月 夏喜
第2話 キノと芦川と偽りの恋人(前編)
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その6


「決めたわ、キノちゃんの勝負服」

「なんだよ、勝負って」

 メイド喫茶『プリティサジタリウス』で千秋が鼻息荒く言う。

今日は昼から芦川のお見合い合戦が始まる日曜日だ。昨晩から彼に連絡を取っているのだが、一向に繋がらない。出来ることなら、やはり断りたかった。よりにもよって花宗院家の後ろ盾があるとは、思いもよらなかったからだ。何か不吉で悪寒が走る。

「最高のデザインよ。これは勝てるわ」

 恍惚としている店長が微笑んだ。

「だから、誰に勝つのさ」

 キノは二人が言っている意味がわからない。

「とにかく、これで戦さに乗り込んで頂戴」

 千秋はロッカーから外に連れ出した。更衣室内のメイドスタッフたちが驚嘆の声を上げる。

「ち、千秋。本当にこんなんでいいのか? これが令嬢の服なのか」

「間違いない、絶対に、多分」

「多分って!」

 千秋はキノの手を引っ張り、更に店内に出た。するとそれだけでキノを見た客の三人が卒倒する。

 ゴスロリの格好のキノは、この服が誰に受けているのか理解不能だ。しかし確かに、効果はあるらしい。黒を基調とした、半袖ワンピース。赤いリボンは胸と肩、丈のスカートについていて、スカートはレースのフレアになっている。長い髪は二つに分けられカールヘアに、束ねるリボンは白い。長い脚にはピンクタイツ。そして赤いエナメルの靴が足元を輝かせていた。キノの白い顔にはナチョラルな化粧が施され、長い睫がさらに色濃く飾られ、艶と弾力のある桃色の唇は発色のある鮮やかなサーモンピンクを帯びさせている。

「これ?」

 窓に映る自分の姿を見て、改めてその姿に驚き立ち留まる。

「千秋、これなのか、これがいいのか」

 両手を振りあげて、拳を上下した。その度にくるくると巻いたロール髪が揺れる。

「マコさんも良いけど、やっぱりグレードアップしたキノちゃんね。鈴美麗家のリーサルウェポンだわ」

「だから戦いじゃなくて、お見合いに行くんだぞ!」

「いいじゃない、あなたがする訳じゃないんだし」

 そう言うと彼女の目が何かを差している。背後から店長が、息が止まる程はがい締めして抱きついた。

「あう!」

 悶絶する美少女の表情が、店内の客を更にニ人ほど倒す。

「て、て、てん、ちょうおう」

 キノは店長の腕を三度タッピングした。その腕が緩む。

「連日徹夜でやってたみたい。キノちゃん、あの娘のこと、よろしくね」

「ち、千秋の」

 ため息を深くついて口を真一文字に締め、キノは拳を振り挙げる。

「ええぃ! 男は黙って、突き進むのみだ!」

「キノちゃん、可愛い! いえ、格好いい!」

 店内が一気に華やいだ。


 その頃、鈴美麗家に一本の電話が入る。

「花宗院様、あいにくキノ様はお出かけになっております。マコ様はいらっしゃいますが」

 亜紀那の後ろから、マコが歩いてきた。

「誰?」

「花宗院綾子様です」

「お母様から?」

 それまでの表情から、明らかに顔が晴れる。彼女は亜紀那から受話器を受け取った。

「真琴ちゃん、元気にしてる?」

 電話の向こう側の綾子の顔が、マコには頭に浮かぶ。彼女の声も弾んだ。

「はい。お母様も如何ですか」

「元気よ。ただ大介さんとお屋敷は、ちょっと寂しそうだけど」

「お母様……」

 彼女は暫くその場に佇みながら、綾子との会話を楽しんだ。

「キノに用があったのですか?」

「みんなで久し振りにお食事はどうかと思っててね。紀乃ちゃんいないんだったら残念ね」

 やや落胆の声の後、急に声色が変わる。

「ねえ、真琴ちゃん」

「はい」

「そちらが良ければ、こちらに遊びに来ない」

「いいの?」

 綾子はため息を付く。

「いいのって、ここはあなたの家よ。たまには帰ってきて顔見せて。大介さんも喜ぶわ」

 マコは振り返って、近くにいる亜紀那の顔を見た。彼女はもうその事情を察していて、微笑んで頷く。

「少しくらい、甘えて欲しいわ。お母さんも」

「うん……」

 急に両親が恋しくなった。家を出てから、半年が過ぎている。寂しくないと言えば、嘘になる。確かにマコはキノといると心が安らぐ。しかしその愛情とは、別の感情がある。親のいないキノのことを考えると、両親に逢いたいなどと彼女は言えなかった。言ったとしても、キノとの間に何か問題が起こるとは思わないが、後ろ冷たい気持ちもあったのだ。

「マコ様、こちらは大丈夫ですよ」

 亜紀那の小さな声が聞こえる。

「行く。今から花宗院へ行くから」

 マコの声が、再び弾んだ。

「そう。楽しみにして待ってるから、気をつけて来てね」


 鈴美麗家の門前で運転手の後藤が、自家用車の前で待っていた。

「マコ様どうぞ」

 後部席のドアを開け広げた。

「ありがとう。後藤さん」

「たまには里帰りも良いことでしょう。キノ様のお相手は私共に任せなされ」

 いそいそとマコは後部座席に乗り込む。ドアが閉まるとともに、ウィンドウが下がった。

「亜紀那さん、後のことお願いいたします」

 マコは顔を出す。

「ゆっくり、してらしゃって下さい。お帰りの際はお呼び下さいね。すぐにお迎えに参りますから」

 後藤がトランクに荷物を入れた。

「マコ様」

 もう一度亜紀那が窓に顔を近づけると、再びマコは窓枠に手を掛ける。

「キノ様に、お電話をお入れ下さい。あのお方は、マコ様がいないときっと寂しそうにされますから」

「うん」

 亜紀那のウインクにマコはクスリと笑った。

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