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キノは〜ふ! Return  作者: 七月 夏喜
第2話 キノと芦川と偽りの恋人(前編)
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その3


「むり、ムリ! 絶対、無理!」

 頭を大きく振るキノはテーブルを叩いて声を荒げる。

「大きな声を出すな」

 芦川は座るように、手を振り降ろして宥めた。

「だってそんなこと、出来る訳ない!」

「だから、おい、座れ。みんなから見られてるぞ」

 手振りで芦川は促す。キノは周囲の客や従業員から、注目と羨望の眼差しを受けていることに気づき、赤面して静かに腰を落とした。

「その時だけでいいんだ。ちょっと顔を見せて、少しだけ話をしてくれればいい」

 少し笑って男は言った。

「その後、俺がなかったことにするから」

 テーブルに付くかのように、深々と見え透いた嘘で頭を下げる。

「そんな気軽なことじゃないでしょ」

「ダメか」

 下げた頭を戻して溜息混じりに言った。

「ムリ!!」

 両手を胸の前で大きく交差させて、バツ印を作る。睨みつける大きな瞳は実に嫌そうだ。

「そうか、そこまで言われたなら仕方がないな。他に頼むことにするよ」

「他にアテがいるんだったら、最初からそうすればよかったのに」

 胸を撫で下ろしながら、キノは頬を膨らませる。

「そっちに頼んでもいいのか?」

 芦川は腕を組んだ。

「そりゃ、どうぞどうぞ」

 両手の平を上に向けて、安堵したした顔で促す。

「一応、許可を取ろうと思ってたんでな。安心したよ」

「許可?」

 怪訝なキノの視線を芦川はわざと外した。

「あいつ優しいから、俺が頼み込んだら、嫌とは言わんだろうな」

 腕を組んで、目を閉じてその状態で何度も頷く。

「まあ、俺の親が気に入ったら、まあそれならそれでいい」

「ちょっと!」

 テーブルに乗り出したキノは芦川の襟首を掴んだ。その仕草さえも周囲には優雅に映っていることだろう。

「誰に頼もうとしてるの」

 その睨みにも物ともせず、笑顔で応える。

「真琴だよ」

「はあ!?」

「俺のこんな馬鹿な事に付き合ってくれる知り合いは、あいつしかいないしな」

「何言ってんの!?」

 憤慨してキノは叫んだ。

「うん?」

 その姿をチラリと見て、再び目を閉じる。

「さっき君の許可は取ったと思うけど」

 何気に芦川はスマホの音声録音を再生した。

「武道家の君に、二言は無いよな」

 掴んでいた手の力が緩み、そのまま頭を垂れるとクリーム色の細長い髪がはらはらとテーブルに落ちる。その下の拳が震えながらきつく握られていた。


「やる……」

「何か言った? 聞こえないけど」

 男は耳をキノの唇近くに寄せる。

「やる! やるから、マコには絶対手を出すな!」

 顔が紅潮し、鼻息が荒いまま声が上ずった。

「さすが武道家。快諾してくれると思ってた」

 芦川は勝ち誇ったかのように、満足気な笑みを浮かべる。

「終わったら、もう一回ぶっとばす」


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