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キノは〜ふ! Return  作者: 七月 夏喜
第1話 キノとマコとおんなキノと
18/87

その18


 その式は静かに取り行われた。黒い喪服の二人は焼香の後、しばらくその場から離れられない。

 あの夜から三日後、『緒方 空』は逝った。

「大丈夫、じゃないよね、キノ」

 二人はベンチに腰掛ける。


 キノの荒れ方は、マコが今まで見たことがないくらいだった。道場の壁を殴るキノを、亜紀那もフェイルも、誰も止められなかった。その拳は潰れ、無数の血が飛び出し、今でも包帯をしている。もしマコが飛び出して拳を押さえなかったら、キノの手は使いものにならないくらいになっていたかもしれない。飛び出した拍子に、マコは腹部に一撃を喰らった。その痣も彼女には未だに残っている。そこまでしなければならないほど、我を忘れた状態だった。


「マコ、ごめん。また心配、掛けてる」

「何も言わないで」

 マコはキノの手を優しく包む。

「少し、血が滲んでる。帰ったら、手当てするね」

 包帯の上に滴が落ちていた。

「何故、大切な人はいなくなるんだろう。どうして、僕の前からいなくなっちゃうの」

「キノ……」

 大きな瞳から、大粒の涙が流れ落ちている。

「キノ、ねえ、見てキノ」

 マコは両手でキノの顔を優しく包んだ。

「私を見て」

 涙で瞳が潤んでいる。

「私は、あなたに助けてもらって、ここにいる。あなたの前からいなくなっていない。これまでも、これからも、ずっと」

 キノの嗚咽が上がった。

「あなたをもう一人には絶対しない。私がいつでもいる」

 マコはキノを強く抱きしめる。

「絶対に、いつでも……」


「先輩」

 キノはその声に反応する。マコはゆっくりと、その手を緩めた。

「周……」

「悲しまないで下さい。鈴美麗先輩」

 彼は毅然とした態度でキノに向う。

「あいつは……、空は、きっと先輩に会えたことを喜んでいます」

 キノは立ち上がった。

「あいつ、あいつは、きっと先輩から貰ったイヤリングつけて、天国で笑ってます……。今まで、本当にありがとうございました」

 包帯が血で滲む両手を男は気遣いながら触る。

「もう、自分を傷つけないで下さい。空が悲しみます」

 緒方をキノは抱き締めた。

「大丈夫ですよ、鈴美麗先輩。僕はこれからも空を守っていきます」

「……周」

 呟く声は嗄れて、小さい。

「先輩、お願いです。花宗院先輩を……、しっかり守っていって下さい」


 緒方はキノから離れると空のもとに走っていった。振り向き、そして手を振る。

 傍に来たマコが手を重ねた。キノはようやく微笑み、息を吸う。

 

 見上げた空は、夏に向かう澄んだ晴天だった。



 第2話につづく


 

第2話『キノと芦川と偽りの恋人(前編)』は来週から!

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