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キノは〜ふ! Return  作者: 七月 夏喜
第1話 キノとマコとおんなキノと
17/87

その17


 緒方空の容態は日々変化はない。命辛々、生きている状態だった。毎日、キノは空のもとに通っている。

「先輩、いつも、すみません」

「いいの、いいの」

 キノは笑顔で答える。

「それよりも、周の方こそ大丈夫か」

 確かに、緒方周の体も心配だった。彼こそ連日夜遅くまで付き添っているからだ。その彼も尋常じゃないほど痩せている。

 両親は早くに亡くし、その後親戚に預けられていた。空が入院している間、昼間は伯母が看てくれているが、その時間は限られている。彼は学校以外の時間をここで費やしていた。

「周、僕がいる時は、ゆっくろソファーで寝てろ」

「はい……。す、すみません」

「もう、謝るな」

 キノは彼をソファーへ押して、座らせる。毛布を頭に乗せた。

「そこで、じっとしてろ」

 緒方は毛布を取って横になる。空のベッドの近くに座っている、キノの後ろ姿を見つめた。

「先輩……、僕は……」

 緒方はそのまま深い眠りに落ちる。


 頭を撫でる感触をキノは感じた。

「マコ……」 

 はっとして、起きあがる。キノもいつの間にか、ベッドの側で寝ていたのだ。微かな笑い声が聞こる。頭の上のか細い白い手は、空だった。

「空ちゃん」

 キノは彼女の顔を眺める。笑っていた。

「気分いいの?」

 彼女は頷く。久しぶりに見る、空の笑顔だった。あの頃と変わらない。彼女は電動ベッドのリモコンを指さした。リモコンを取って、キノは言う。

「起きれる?」

 再び彼女は頷く。リモコンを押して、背上げする。空の体が、まるで空中に浮いてしまうかと思うほど、ふわりと起きあがった。

「キノ、先輩……」

「空ちゃん、いいみたいだね、今日は」

 彼女は笑っている。

「髪がくしゃくしゃだよ。といてあげる」

 キノはブラシを持って、ぎこちなく丁寧にゆっくりと黒髪をといた。

「先輩……、あれ、つける」

「あれ?」

 空は指さした。小さい紙袋が棚の上にある。

「あ……」

 それは、最初にここに来たときに渡した、イヤリングの入った袋だった。キノは立ち上がって、棚まで歩いていく。

「空ちゃん、きっと似合うよ」


「先輩……、今まで……、たくさん、ありがとう」


 空気の流れを感じて振り向いた。キノの息が止まる。ベッドの上の白い住人が横たわっていた。

「……、そ……ら」

 紙袋が手から、落ちていく。

「そ、そんな……、そんな……」

 手が震えていた。足がすくんでいた。声が出なかった。

「……そ、……ら、……そ、……そらちゃん!」

 その声に、周も起きる。

「せ、先輩?」

「空ちゃん! 空ちゃん!」

 キノは辿りついたその先のナースコールを押した。何度も何度も……。

「いやぁー!!」


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