その11
「本気なの……」
「本気。嘘、言ってどうなる」
「で、でも……。ほら、花宗院の……」
「花宗院はどうでもいいって、言ったのはマコだ」
「そうだけど」
「決めたんだ。これは、僕とマコが同じ気持ちで、一つにならないと出来ない」
「けど……」
星白学園の夕刻の二人の問答である。
「……って、言うもんだから、慌てて切っちゃったよ!」
千秋は顔を赤くして、昨日よりも興奮している。
「大体、電話の途中で、そんな事!!」
「そんな事って、千秋ちゃん。何が、どうなったの、いったい?」
眼前の石井は怒っているのか、出来事を気にしているのか、理解出来ない彼女の扱いに困っている。
「私はどうしたら良かったの、睦さん!」
考え込む石井は、口には出せない。
「さ、さあ……」
「やっぱり答えは一つしかないわ!」
千秋は机を叩いた。
「きゃっ」
描きかけのBL原稿で使っていた鉛筆が転がり落ちる。遠くにいる海原の目が怯えた。大きな体が、小さい机に更に収まろうとしている。
「そう、あれだわ、絶対に!」
「まあまあ、いいじゃない。夫婦なんだし。何があっても、ありよ、あり」
石井は千秋を宥める。電話が中断され、挙げ句の果てに放置されたのが悔しかったのだろう。
「王子は私のこと、好きって言ってくれたのに!」
「いやいや、本田さんは如月くんがいるじゃない」
「邦彦と王子は違うの!」
千秋の存外悔しそうな顔を見て、石井は少し呆れている。
「王子って」
「確かめに行く!」
「ちょ、ちょっと、何を確かめに行くのよ!」
教室から駆け出した千秋を、石井は茫然とした眼差しで見送った。