転・結『溺愛ジェラート』
……そろそろカノジョとの待ち合わせの時刻になる。
早く中央広場のオペラハウス前へ戻らなければ。
でもその前に、ボクには寄らなければならない場所がある。
女神の神殿だ。
そこへ至る道筋は、来るたびに異なる。
ボクの敬愛する女神は神出鬼没であり、ひとところにとどまっておらず、この『なろうよワールド』の様々な場所に気まぐれに姿を現すからだ。
でも、ボクが会いたいと念ずれば神殿に辿り着くことができる。
ボクは迷路のような路地を彷徨い、心で呼びかける。
――するとほら、現れた。
精霊のように透明な姿で、渓流の澄んだ雪解け水に乗って現れた。
紡ぐ言葉は凛とした水晶。
かと思うと、宵の艶やかな風に乗って、たおやかに微笑んでいる。
紡ぐ言葉は南国の風。
女神がおわすこの空間、ここがすでに神殿なのだ。
さやけき月の光が地表の隅々にまで降り注ぐように、辺りに彼女の気配が満ち満ちている。
ボクはありったけの星のかけらをすべて彼女に捧げる。
「御姿を現していただき、恐悦至極に存じます」
そしてボクは両手で、揺らぐ魂そのもののような女神の手を取り、恭しく額に当てて敬意を表すのだ。
たったそれだけ。
ボクが言葉を発してしまえば女神は霧消し、神殿も消え去る。
◇ ◆ ◇
「まーた浮気してきたでしょう」
約束の刻限を過ぎて中央広場の噴水前へ戻ると、カノジョはボクの頬をつねった。
「いたたたた」
勘弁してよ。
キミだって光溢れるオペラハウスで、乙女ゲームの攻略対象、超美形の『アルバート王子』に夢中だったんだろう?
「歌劇は面白かったかい?」
「もっちろん!」
カノジョは夢見心地で公演のパンフレットを抱き締めている。
絢爛たる何億もの★のイルミネーションであふれ返るこの広場には、たくさんの屋台が出店していて、どこも長蛇の列。
ボクたちは人気の〝溺愛ジェラート〟を手に入れると、噴水の前に腰かけて一緒に食べた。
「う~ん、美味しい!」
「やっぱり★5が集まるだけはある。最高だね」
甘さと酸味の爽やかさが絶妙にくすぐる、とろけるような逸品。
大人気なのも頷けるよ。ボクだってこの味にはメロメロだもん。
「キミ、ずいぶん★5を奮発したみたいだね」
「そうよ? 当たり前じゃない。だって、どれも最高に面白かったんだもの。歌劇だけじゃなくて、人気のスイーツだってたくさん食べたし……。あのね、劇場でね、偶然お友達に会ったんだ。だから観終わった後、一緒にアトラクションにもいっぱい乗っちゃった! すっごく楽しかったんだよ。……まぁその間、誰かさんは、ひとりでどこか知らない場所で楽しんでたみたいだけどね~!」
カノジョはぷくっと頬を膨らませる。
なんだか拗ねているようだ。
ご機嫌をとろうと顔を覗き込むと、またボクのほっぺたをつねろうとした。
「わかった、わかった。今度は一緒にジェットコースターに乗るから許してよ。ね?」
ボクとカノジョとでは★の費やし方がそれぞれ違う。
楽しいもの、好きなものっていうのは、人それぞれだから。
でもね、
「ありがとう!」
「楽しませてもらったよ!」
「出逢えてよかった!」
って〝さくしゃさん〟に伝えたい、応援したいっていう気持ちは、まったく一緒なんだって思うんだ。
◇ ◆ ◇
ボクは作り手の精神と情熱を愛す。
そして作品に込められた作り手の魂を愛す。
ボクがブンガクを愛するとは、こういうこと。
魂が輝くすべての作品に★5を!
―(おしまい)―
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
主催者の 空野 奏多様 に、改めて感謝と敬意を表します。