表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

承  『黄昏の紙芝居やさん』

「紙芝居ですか?」


 なんというレトロなアトラクション。

 ボクはかえって興味をそそられる。


 自転車の紙芝居やさんは、各家庭にテレビが普及する前の時代、子どもたちの娯楽の王様だったそうな。

 昭和初期から20~30年代ごろまでか。

 内容も大衆的で、ちょっとワクワクするくらい刺激的だったとか。


 ハンチング帽のお兄さんは、自転車をとめて木箱を開くと、


「ジャジャーン!」


 箱がみごとに展開して、組み立て式の紙芝居装置になった。

 紙芝居の表紙に、何だか愛嬌のある金色のドクロが描かれている。


 挿絵(By みてみん)


 黒いマントを羽織った黄金ドクロは、かつて一世を風靡した筋骨隆々のダーク系骸骨ヒーローを思わせた。

 暗めの絵の具で、絵柄は昭和初期の雰囲気たっぷり。


「お~! 初めて見るなあ~」


 ボクはそれだけで拍手を送り、打ち合わせた手の平から星のかけらがこぼれる。

 これ、『黄金コウモリ』ってやつだよね?

 大衆紙芝居の大ヒット作で、のちにテレビアニメにもなった。


「お客さんに、おせんべいと〝特製の飴〟をあげよう」


 お兄さんは紙芝居装置に変形した木箱の、側面に付いている三段構えの引き出しから、海老せんべいなどの色々なお菓子を出してくれた。

 特製の飴っていうのは、りんご飴のような棒の付いた球状の飴だった。


 受け取ってリンゴかと思ってよく見たら、ドクロだった。

 蜂蜜色のべっこう飴で、まるで棒付きの黄水晶ドクロみたいに見える。


「あの土管に座って、舐めながら見てね」


 そこには、おあつらえ向きに『ドザえもん』の空き地みたいな場所があって、大きな土管が3本積まれていた。

 それにしても、ドクロの頭を舐めるなんて妙な気分だ……まあ普通の飴なんだろうけど。


「その紙芝居、どんなお話なの?」


 ボクが土管に腰かけながら観劇気分で訊くと、


「よくぞ聞いてくれました。きょうの演目はこれです! ジャーン! 『黄金のスケルトンに転生したオレは、世界平和を守る正義のヒーローと判定されたのに、外見がキモいと勇者パーティを追放されたので、闇市商売で成り上がることにしました。~女の子にモテモテで、肋骨が折れまくって困ってます。勇者どもめ、今さら純金製だって気付いても遅いんだからね~!』」


 まさかの長文タイトル!

 でもそこは、『黄金コウモリと悪の組織』とか、『オールウェイズ四丁目の夕暮れ』とかの方が、かえって世界観的に分かりやすかったんじゃないかな? とは思うけどね?


「さてさて、はじまり、はじまり~」


 拍子木とともに、紙芝居の幕が上がった。

 ストーリーの内容は、初っ端からタイトルとはぜんぜん違っていた。

 でも、戦後昭和の大衆文化への独自の視点が感じられ、もの凄いボリュームで見応えがあった。


「……ねぇ。お兄さんはまだ若いのに、生まれるずーっと前の昭和文化に興味があるんだ?」


 ボクが黄色い骸骨の頭をベロベロ舐めながら訊くと、


「そうなんだよ」


 と、お兄さんは嬉しそうに笑って、お喋りしてくれた。

 そう。これがボクが好きな『なろうよ』の醍醐味の一つ。

 お気に入りの作者に質問すると、お返事がもらえるのだ!

 しかも長文だぜ?


「きっかけはね、全盛期の日本映画を観たことかな。自分的に、昭和29年が当たり年だと思っているんだけどね。まだ映画がモノクロだった時代だけど、後世に燦然と輝く『三十人の侍』『君は誰だっけ』『水爆怪獣ゴルゴダ』『大山椒魚太夫』『七十二の瞳』が、ぜんぶ同じ年に公開されたなんて、すごいと思わない? 当時の世相が、僕の目にはまるでファンタジー世界のように魅力的に映ったのも仕方ないよね。……僕は映画の世界へのめり込むように、昭和初期~中期の時代に興味を広げていったんだ。……で、この紙芝居装置もね、もちろん手作りで再現したんだよ。そしてこの、ハンチング帽やスーツもね、自分で縫製したんだけど……。どう? カッコイイでしょ?」


「うん!」


 かっこいいし、よく似合ってるよ。

 紙芝居も、しっかりとした時代考証をベースに、熱いロマンが感じられる。

 たしかに『なろうよ』の本流ではないけれども、お兄さんの創作への熱意は正真正銘、本物だ!


 ボクはお兄さんの真摯なパフォーマンスにすっかり魅せられてしまった。

 間違いなく★5をあげたい。


 ボクが腕いっぱいに抱えた星のかけらを5つ渡すと、お兄さんは、


「あぁ」


 と目を細めて、しっかり受け取ってくれた。

 そして破顔一笑、


「ありがとう。小さなお客さん」


 と、ボクの頭をくしゃくしゃっと撫ぜた。

 ボクはこの、心から星をあげたときに返される笑顔がとても好きだ。

 1演目につき1回しかあげられないのが、なんとも歯がゆい。


 お兄さんは子どもみたいにはしゃいで、ボクがあげた星を自転車のライトの部分に付けたり、紙芝居の木箱に飾り付けたりして、とても喜んでくれた。

 そして最後の一つは、金メダルみたいに胸元に飾ってくれた。


「キミのおかげで夜道が明るくなったよ」


 そしてボクに手を振ると、自転車に乗って颯爽と宵闇の路地裏へ消えていった。


 ◇ ◆ ◇


 次にボクが入ったのは、ひっそりとした佇まいの小洒落たレストランだった。

 店名は、『いにしえの地層』という。


 とても料理店とは思えない名前だけど……。

 アンティーク調のドアベルが付いた扉を開けると、店内は仄暗く、洞窟のような内装でとても神秘的だった。


「いらっしゃいませ。蘊蓄の多いレストランへようこそ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 紙芝居いいですね。 いわゆるなろう小説を凝縮した紙芝居ってどんな感じなんでしょうね?
[良い点] 昭和レトロな素敵イラストも相まってほのぼのしながら読み進めていたら、まさかの『ドザえもん』に吹き出してしまいました( *´艸`)笑 お星さま、一回しかお渡しできないの、本当に歯がゆいですよ…
2021/10/17 08:41 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ