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38 「ヴァルドマンの魔女」達 (2)

 その日の夜、ロベルトとローランドはガルドナー家に招待された。

 まず、アルトゥールとアーレが呼び出され、婚約が成立したことが伝えられると、二人はそれを謹んで受諾した。

 その後、家族の紹介を兼ねた会食があった。ガルトナー伯爵夫妻のほか、前伯爵夫人のエレオノーラ、普段は領地にいる長男ユリウスと妻マルティナ、その子供達、間もなく婚礼を控えた長女コンスタンツェが同席した。

 冷やかす家族にも顔色を変えず、馴初めの話を振られてもほぼ反応することのないアルトゥールに、ロベルトはこんな男に任せて大丈夫なのだろうかと不安を感じたが、さすがに気まずく思ったアーレが代わりに話し始めると、アルトゥールは次第に硬かった表情を崩し、時にちょっと焦った様子で「それ以上は…」とアーレを止めて、少し顔を色づかせた。その姿を見てロベルトは安心し、そこにいた誰もがこれは尻に引かれるな、と思った。


 「ヴァルドマン」と「アレクシエラ」の名のつながりに、十二年前の事件を連想するものも少なくなかったが、引き取った町娘にあえて孫娘の名を名乗らせているという噂が複数筋から流され、孫を思う貴族のこだわりということで納得されると、やがて噂をする者はいなくなった。


 ヴァルドマン家の両名は王城での披露宴にも参列することになっており、式までの一週間をエッフェンベルガー子爵邸で過ごした。

 アーレは農園の仕事も追い込みになり、勤務は週四日に増えていたが、仕事がある日は終わるとすぐに、仕事がない日は午後からエッフェンベルガー邸へ向かい、祖父と二人の伯父との時間を持った。


 エッフェンベルガー子爵には既に嫁いだ娘がいた。この機会に祖父や叔父に会うため実家である子爵邸を訪ねていて、アーレも自分のいとこに当たる者達に会うことができた。

 長女のイーナは「ヴァルドマンの魔女」だった。母より長く生きられるよう、魔法の調整に努めていて、その夫はエッフェンベルガー子爵にも認められた魔法使いだった。

 もう一人の娘エルダは「ヴァルドマン」の力はなかったが、水魔法の使い手で名を馳せており、その娘は「ヴァルドマン」らしき才を見せることがあるという。

 どちらも名に「ヴァルドマン」は持たなかったが、その力は途切れることなく引き継がれていた。

 また、ウィンダルの分家にも「ヴァルドマンの魔女」が何人かいることを知った。

 もしかしたら、他にも名は持たねど大地の魔女の子孫はいるのかもしれない。

 アーレは自分の力を知ったばかりではあったが、その力は自分だけのものではないのだとわかり、この力と共に生きていく勇気を持つことができた。

 決して充分な時間とはいえないまでも、アーレと共に過ごした1週間はロベルトの心を癒やすことができた。

「いつかきっとお国にも参りますね。あまり長居はできないかもしれませんが」

 期待しなかった約束は、その後思いのほか早く守られることになる。



 爽やかに晴れ上がった日、ヴァルドシュタットの王城で、第二王子ベネディクト・アイクシュダートとコンスタンツェ・ガルトナー伯爵令嬢の結婚式がつつがなく執り行われた。

 絢爛豪華な式は、王家の威信と、ガルドナー家の人脈・財力を見せつけ、新しい公爵家の繁栄を約束していた。

 形も彩りも良く実った魔法の実をはじめとした各種野菜、王立牧場で育まれた肉もふんだんに出され、披露宴は好評を博し、式典は無事終了した。


 もう一、二週間は収穫が続く畑の魔法の実は、王により市井に振る舞われた。

 魔法石が容易に手に入るようになってから「古くさい」イメージがあった魔法の実は再評価され、王の農園でも、披露宴向けほどの規模ではないにしろ、継続して育成されることになった。

 アーレはその後も週に一、二回農園に通い、農園の手伝いを続けた。

 他国からの来客の評判もよく、王立農園印の魔法の実がヴァルドシュタットの特産品となるのはまた後日の話である。


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