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「先週、探してる人がいたよ」

 次の週、市に出ると、いつも近くで花を売っているフリーデが声をかけてきた。

「魔法の実を売ってる店は来ないのかって。若くて結構かっこいいお兄さんだったけど、なになに、とうとういい人できたか?」

 ニヤニヤ笑ってこっちを見ているけど、いい人も何も心当たりがない。

 若い男、と言えば、

「先々週に来た、魔法の実をいっぱい買っていったお兄さんかなあ…。」

 気に入ってくれたならいいが、気に入らなくて文句でも言いに来たのなら、会わないに越したことはない。

「今時、魔法の実を探す人、いるんだね」

「珍しいよね」

「売ってるあんたがそれ言っちゃ駄目でしょ」

 全くフリーデの言うとおりではあった。

「そろそろ商売替えしたら?」

 フリーデが、誰もが勧めることを言ってくる。

「今時、あんな森の中で女の子が一人で住んでて、作っているのは流行らない魔法の実。森の畑を引き継ぐって気持ちはわからないでもないけど、充分頑張ったと思うよ」

 何かあっても街の警備隊の人が来てくれるような距離でもないし、森の中なのをいいことに、それこそ「家がある」ことを知られないことで安全を守ってるようなところがある。

 それでも、ずっとあの場所で暮らし、あの畑を触って生きてきたアーレには、まだそれを捨てて生きるだけの勇気も自信もなかった。

「一生魔法の実を作って生きる、魔法の実ばばあになってもいいかな…」

「それを言うなら、魔法の実の魔女、でしょ?」

 友達の優しい言い替えに感謝した。


 昼近くになって、この前の若い男が現れた。

「いらっしゃい」

「…君、この辺りで魔法の実を売ってるおばさん、知らないか?」

 こいつの目は節穴か。と、アーレは思った。

 目の前に置いているものは、何?

「魔法の実なら、あるけど?」

 若い男は、魔法の実を見る。じっと見た後、アーレを見る。

 そしてまた実を見る。

 しばし考える。

 わかってない。

 アーレはフードをかぶってみせた。

「あ!」

 男は自分より年下の娘をおばさん扱いしたことにようやく気がついた。

 フードを取ると、アーレは冷ややかな目で若い男を見た。

「…すまない」

 男は顔を赤くして謝った。

 間違いは誰にでもあるもの。気にするな。

 そう思いはしたが、親切に言葉にすることはなかった。

「今日も魔法の実をご入り用で?」

「あ、ああ。それなんだが…」

 罪悪感を持つ人には、笑顔で接する。

 ニコニコ。

 ニコニコ。

「…いただこう」

 勝った。

 今日もお買い上げ、ありがとうございます。

 心の中で礼を言い、

「あるだけ全種類、二つづつでいい?」

 先々週と同じ数を言うと、男はこくりと頷いた。

 やや押し売り気味で恐縮だったが、売れればいい。

 ここにあるものを全て二つづつ入れて、紙袋を手渡すと、男は受け取ってから少し考えて、

「実は、依頼があって来た」

と、ようやく本題に入った。

「依頼?」

「魔力の実と滋養の実を三百個、三ヶ月後に納品してもらえないだろうか」

「無理」

 アーレの即答に、男は聞き間違えたと思ったのか、ずいぶんと間を置いてから、

「え」

とつぶやいた。

 三百という数だ。個人の依頼とは思えない。

 簡単に言ってくれる…。アーレはため息をついた。

「うちの畑、私一人で作っていて、そんなに広くもないから」

 自給自足しているアーレにとって、そんな無茶なオーダーを引き受けたら自分の食べるものが作れなくなる。

「一人で…?」

 男は驚いていた。

 アーレも、深々と頷く。

「一人で」

 男は、紙袋を持ってしばらく考え込んだ後、

「…また来る」

と言い残して、去って行った。


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