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29 ウィンダルへ

 アルトゥールは隣国ウィンダルへ向かうことになった。

 誘拐事件に関わったもののうちウィンダル側の人間、ミュラー夫妻と、被害者である子供のうち親に差し出された二人をウィンダルまで護送するのに同行するというものだった。


 アーレの農園の仕事は週初めの明日は休み、様子を見ていけそうなら四日後から再開するように段取りがつけられていた。その日も農園に近いガルトナー家から行き、送迎もガルトナー家の馬車で。城に近いガルトナー家なら農園には歩いてでも行ける距離だったが、それは禁止された。

 結局、アルトゥールが戻るまではガルトナー家でお世話になることが否応なく決まっていた。


 日帰りであれば森の家に戻ってもいいとも言われ、執事に頼めば馬丁があの小さめの荷馬車に馬をつないで用意してくれる手はずが整えられていた。

 馭者を連れて行っても、自分で行っても、どちらでもいいのはありがたかった。

 ただし、必ず家の者に言ってから出かけること。いつ帰るのかを伝えること。一人暮らしに慣れたアーレには忘れがちな約束だった。


 アーレは、森の中や街で、家族や仲の良い者達が少し特別な別れの挨拶をしていたのを思い出し、アルトゥールが出かける時、勇気を出してアルトゥールの頬に行ってらっしゃいの口づけをしてみた。すると、目を見開いて驚きながらも、アーレの頬にも唇が返ってきた。

 きちんと挨拶できたはず、と笑顔を見せつつも少し不安げなアーレと、生暖かい笑顔の執事に見送られ、アルトゥールは平静を装って出発した。



 護送車は二台。一台には子供二人が、もう一台にはミュラー夫妻が乗っていた。

 子供も事件関係者も要人ではなく、捕まった者も凶悪犯と言うほどでもないので、警備はかなり簡略化され、アルトゥール一騎が担った。

 三日かけてウィンダルに着くと、相手国の騎士団に夫妻と子供をそれぞれ別に引き渡し、事件についての情報を交換した。事件は未遂に終わり、関係者は既に逮捕されていることもあって、打ち合わせにさほど時間はかからなかった。

 ウィンダルでは親が自ら教団に送り出した子供が他にもいるかもしれない。もうしばらく調査が続くとの話だった。


 この場ではアーレの話は出ない。新聞も子供の事件は大きく取り上げていたものの、アーレのことは載っていなかった。ウィンダル領を無断で捜査するためにアルトゥールが一人で出向き、ヴァルドシュタットだけで内々に報告されて終わっていたからだ。


 引き渡しが終わると、一行はウィンダル城下の街に一泊し、アルトゥールを残して他の者はヴァルドシュタットに戻った。


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