あいつとの思いで
難しいことは昔からよく分からなかった。学校の授業も教師が何を言っているのか全く理解できなかった。
母親は俺のことをよくかわいそうといった。クラスメイトと教師もそうだ。
でも、俺は何でかわいそうなのか分からなかった。
友人はいた。よく俺に面白い話をしてくれた。そいつの話は不思議とよく頭に入ってきた。
そいつが言うには、人には悪いやつしかいないらしい。人は常に自分のことをよく見せたいという欲求がある。でも、それを隠したがる。そして、平気で人のことを落とし、裏切る。
そいつは難しい言葉をよく知っているので、たまに俺にいろんなことを教えてくれた。
だから、俺はそいつが好きだった。そいつも俺が好きだった。そいつはよく俺に秘密を打ち明けてくれた。
その秘密は俺とそいつの友情であるから誰にも教えられない。
そいつは学校では人気者だった。でも、そいつは俺といるときだけが楽しいってよく言っていた。
ある日、そいつが夜中に俺の家に尋ねてきた。俺は心配だった。そいつの家はものすごく厳しいことを俺は知っていたからだ。しかし、そいつは、俺が心配の言葉を掛ける前に話しかけてきた。いつもなら分かるそいつの話もその晩だけは全く理解できなかった。ひとしきり話し終えたそいつは少し深呼吸をして俺にこう言った。
「お前なら、分かってくれると思ったよ」
そういうとそいつは暗闇の中に走って消えていった。
俺は、ただ、その暗闇を眺めることしかできなかった。