かかぁ天下と軽トラ
「真菜さんようこそ!」
典久の母景子が玄関で迎え、真菜の手荷物に手をかけ彼女をさぁさぁと、急かすように引込む。義理父の敏正はとなりで、はにかんだ表情で立ちすくみ、2人の後ろにつく。典久は無言でさっさとリビングに向ってしまった。
「これが噂のかかぁ天下?」
真菜はこころの中で呟き、笑顔を取り繕う。
典久の後を追って、ダークブラウン色の食卓が鎮座するリビングへ。
「よく農家に嫁いてくれました!」
など義理母・景子が、矢継ぎ早にお茶、お菓子をだしながら一方的に話しかける。
「おふくろ、餌やりの時間があるからそろそろ準備しないと」
暫くすると典久が、景子の次から次へ、千本ノックごとく真菜に打ち込む言葉に牽制球を投げた。
真菜も千本ノックに相槌をつくにも疲れ始めていた。
典久と義理父敏正はそそくさと立ち上がる。
「あらこんな時間、そうね!真菜さん早速で申しわけないけど手伝ってね」
「はい、分かりました」
…って何を?エサやり?犬、猫に?
そんな事を考えつつ、裏口から景子に囃し立てられ外に出される。するとベージュのプレハブ小屋が現れ、そこに案内された。
先に、典久と義理父敏正がグレーのつなぎ服に着替え終わりかけている。景子も服を恥ずかしげも無く脱ぎ、オレンジ色のつなぎ服を慣れた手つきで身につける。
「真菜さんはとりあえずこれ着て頂戴!」
サイズを聴かれ渡されたのは黒のつなぎ服。
言われるまま着替え、カカトに「マナ」と誰かの文字で書かれた白い長靴を履く。
典久と義理父は先に白い軽トラで、F1カー宜しくエンジンをふかして、勢いよく出ていく。
「真菜さん乗って」
景子もピンク色の軽トラに乗り込んで真菜を呼ぶ。慌てて真菜も助手席に乗り込むやいなや、景子はマニュアルトランスミッションを乱暴に「ガコン!」と扱うとアクセルを一気に踏込み、畑の中に飛び出し白い軽トラを追跡しはじめた。