序章2
朝が来た。窓を開けっ放しで眠ったせいで少し寒い。
シャワーを浴び、新しいワイシャツに袖を通す。
脱ぎ捨てた前日のワイシャツをクリーニング用のかごに入れ、
お湯を沸かしインスタントコーヒーを作る。
朝のコーヒーは必需。
頭をリセットし、スイッチを入れる効果がある。
このルーティーンは大学のころから変わらない。
半分飲んだところで、たばこに火をつける。
少しほろ苦い。たばこの香りとコーヒーのにおいが部屋に充満する。
平和な朝だ。何も変わらない。
カレンダーを見る。
ゴミの回収日は明日だ、部屋の掃除をするには今日だなと思いだす。
スラックスを穿き、ジャケットに袖を通す。
たばこを吸い終わり、名残惜しいが部屋を後にした。
8時35分に出社し、パソコンを立ち上げ資料を確認した。
今日は新規の商談である。
新商品を扱うためのプロジェクトで、我々は人員の手配をする役割だ。
商品の内容は興味がないが、いかに人手がいるように見せかけ上がりを確保することが求められる内容である。資料にはリテンションやらターゲティングやら歩留まりやらそれらしい文言を並べた。
本来は担当ではないが、後輩が泣きつき仕方なくアサインすることになっていた。
地下鉄に乗り、繁華街にあるビルへ商談。
先方は小太りの50絡み男と、作業着を着た30前後の女。
商談はうまくいったが、終始男は営業時代の自慢話と自社製品がいかに素晴らしいのかを力説していた。
昼過ぎ、別の商談がある後輩と別れた。
次の打ち合わせまでは時間がある。近場の喫茶店へと向かった。
少々レトロな喫茶店で、若いアルバイトの女と老人が運営していた。
レトロ調なソファーに座りアイスコーヒーを頼んだ。
「おい、久しぶりだな」
誰だと思って振り返った。
「俺だよ、広瀬だよ。いやー何年振りか。卒業以来だよな。お前今何してるの」
サイドバックの髪をグリースで寝かしつけ、ストライプ柄・サイドベンツ・ダークブルーのスーツを着た細いメガネの瘦せぎすな男が話しかけてきた。
記憶を辿る。いまいち思い出せない。
「田口知ってるか?あいつ最近結婚したらしいが、嫁さんとうまくいってないらしいぜ」
田口は高校の同級生だ。思い出した。
当時は派手な金髪だったせいか、まったく思い出せなかったが、この男は高3のころ同じクラスにいた。
大学付属校だったが、そのまま進学せずミュージシャンの夢を追ってどこかの専門学校に行った。
俺は大学へそのまま進学した。それきりである。
当時そこまで親しくはなかったが、たまに話す程度の仲だった。
広瀬は前のソファーに座り、カフェオレを注文しパーラメントに火をつけた。
ざっくりとした近況を話した。仕事のこと、同級生のことなどたわいのない話だ。
広瀬はコンサルティングで儲けているみたいだ。
オンラインでノウハウを共有したり、起業者向けのセミナーを行っているらしい。
今日もその仕事でここまで来たとのこと。
「こうしてあったのは何かの縁に違いない。連絡先を交換しよう」
広瀬は手慣れた手付きでスマートフォンの画面を出すと、通話アプリのID表示し交換した。
そうこうしているうちに、打ち合わせの時間が迫ってきたので広瀬と別れ打ち合わせの場所へと向かった。