第六話 ダンジョン 1階層
一角ウサギを倒し、カイルと蘭丸は先を目指す。
そこから更に進んだところでまた分岐が現れたので、右に行く。まずは右に右にだ。
歩いていると魔獣が現れた。
口元に牙のあるイノシシ。
(恐らくリトルボアだろう。)
前世で色々と見ていた異世界系の知識から勝手に名前を決めつける。合っているかどうかなどどうでもよかった。
リトルボアがこちらに気付き威嚇体勢に入ろうとした瞬間だった。
「ガウッ!!」
いきなりリトルボアに噛み付いたのは蘭丸だった。蘭丸が首を振りながら激しく噛みつき、それによりリトルボアが悶え、そして消えていった。
消えていくリトルボアを見ながら蘭丸が不思議そうにしていた。
「やるじゃないか!」
カイルの褒め言葉を聞いていないのか蘭丸はリトルボアがいた場所をクンクンと臭い続けている。
「なんだ、お前。もしかしてご飯だと思って噛み付いたのか?」
どうやら当たりだったのか、リトルボアがいなくなったと気づきテンションが下がっている。
「はは!もうちょっと探索したら一回外に出ようか」
蘭丸の頭をガシガシ撫でて落ち込んでいる蘭丸を宥めた。
通路を先に進むと行き止まりになっていた。
一旦戻り、今度は分岐を左に進む。
すると突き当たりに何かが見える。
「宝箱だ!」
初めての宝箱に思わずテンションがあがり走り寄る。宝箱をワクワクしながら開けると短剣が入っていた。
「ほぉ、中々良さそうなものだ」
短剣を手に取り、色々な角度から眺める。
武器と呼べるものを手にしたのも初めてだ。
握り部分は黒。剣身は短いが切れ味は良さそうに見える。
「うん、これがあれば色々できる」
スッと立ち上がり、短剣を腰に刺す。
「蘭丸。一旦出るぞ!」
蘭丸にそう話しかけ、ダンジョンの入り口に向かった。
ダンジョンから出て、拠点に帰るか迷ったが毎回行ったり来たりするのも面倒だ。
「いいか。川だ。近くに川はないか。」
そう言い聞かせ、背中に乗ると蘭丸は走り出した。
「いいぞ!やっぱり、お前は賢いやつだ!」
背中から走っている蘭丸の頭を撫で、しばらく身を任せる。
5分ぐらい走っただろうか。お目当ての川に到着し、蘭丸から降りた。
まずは食料の確保だなと、付近を探索するとリトルボアを見つけた。
ダンジョン同様にすぐさま蘭丸が噛みつき、そのままリトルボアは息絶える。
やはりダンジョンとは違い、消えずにちゃんと残っている。
「よし!今夜はイノシシ肉だ!ごちそうだぞ!」
すぐに短剣で血抜きをして、第二の拠点に戻り火を起こす。
リトルボアの肉は、一角ウサギの肉とはまた違い。脂がのっており、食べ応えのある味だ。
蘭丸も焼いたリトルボアをガツガツと食べている。満足そうだ。
「ふー、しかし肉だけってのもなんとかならないもんかなぁ。」
腹は満たされたが栄養に偏りがありすぎる。
そう思ったが、よく考えたら身体は10代。
育ち盛りだから少々肉だらけでも大丈夫かと考えを改める。サバイバルをしているのだから、食べ物があるだけでも全然マシだ。
「さて、腹も満たされたし仕事にかかろう」
そう言いながら短剣と木の棒を取り出し、木の棒を手に取り眺める。
まず折れてまばらになっている部分を切り落とし真っ直ぐにする。
同様に先端部分もある程度の長さで切り落とし真っ直ぐに。
柄の部分を少しずつ削っていき、凹凸感を無くしていく。ある程度まっすぐになって来たら表面を石の刃で擦る様に研いでいく。この研磨作業は石の刃ぐらいがちょうどいい。
最後に先端を尖らせるように短剣で削る。
ここは細くしすぎると折れやすくなるので注意が必要だ。
3時間ぐらいかけ一連の工程を経て、木の棒は木の槍に進化した。
柄を手に持ち、スリスリして感触を確かめる。
「うん、いい感じだ。」
出来栄えに満足し、立ち上がって構える。
「ハッ!ハァッ!ーーーハッ!」
突き、薙ぎ払い、叩きつけを行い使い勝手を確かめた。
それからしばらく槍術の稽古を満足いくまで行い、ランニングと筋トレをこなし、
川で身体を洗ってから蘭丸を枕に仰向けになる。
「明日もダンジョンだ!蘭丸。おやすみ。」
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朝目覚め、「んー!」と伸びをして、川で顔を洗う。
今日は一日ダンジョンに潜る予定だ。
そのための準備から始めることにする。
蘭丸に近づき、顔の前で言い聞かせる様に話しかける。
「蘭丸、いいか。ご飯だ。ご飯。昨日のご飯を狩って戻ってこい。わかるな。」
ゆっくりと説明し、目をじっと見つめこちらの意図を伝える。
「よし、いけ!」
そう言いながら立ち上がると蘭丸が走り出した。
どうやらちゃんと伝わったみたいだ。たぶん。
「さて、こっちも準備にかかるか」
そう言いながらあたりを散策し始める。
大きめの葉っぱをいくつか短剣で切り取り、木に絡み付いているツルを見つけ、ほどきながら取っていく。ツルは引っ張って強度も確認する。
葉っぱを川で洗っていると蘭丸が戻ってきた。
口にリトルボアを咥えている。
「よし!いい子だ!蘭丸!」
しっかりと褒めながら頭を撫でまわし、リトルボアを川で洗いながら解体し、肉を焼く。
いくつかを蘭丸に朝ごはんとしてあげ、自分も少し食べたら、残った焼いた肉を葉っぱを重ねてから上に置く。
葉っぱを折りたたみ、包み込んでからツルで四方から縛り付け、最後に肩にかけれるように紐部分をつけた。
「完成だ!これでご飯の心配はないぞ!」
お手製のお弁当とお弁当袋が出来上がった。
「さて、ダンジョンに出発だ!」
身体作りも兼ねて蘭丸の背中には乗らず走ることにしダンジョンに向かった。
ダンジョンに入り、昨日の続きから探索を行っていく。途中魔獣に出会ったが、少しずつ戦いにも慣れてきたこともあり、難なく撃破できた。
木の槍もいい感じだ。
順調に歩を進めていくと、通路の先に大きな扉が現れた。
「これは、ボス部屋だよな。たぶん。」
扉を触りながら、どうしようか考える。
ボスという存在は初めてだ。
下手したら死ぬ可能性もある。
だが、選択肢は他にない。
やばそうなら逃げればいいと腹を決めた。
「蘭丸、危ないからお前はここにいろ。いいな。」
蘭丸の頭を撫で、意を決して扉を開けた。