第五十一話 ルプゼナハ城防衛戦
〜beast side〜
その魔獣は、大軍と共に人族と戦を行なっていた。指揮官からはただ殲滅することだけを命じられ目の前の人族を殺すことに執着させられている。その命令に反くことなどできない。言わば、本能に働きかけられ強制的に動かされているという感覚だ。
目の前にいた魔獣達が壁からいきなり飛び出してきた棘で串刺しになってしまった。その棘を剥ぎとりながら前へ前へと突き進む。
すると以前はあったはずの山へと続く街道がいつの間にか無くなっており、代わりにあるのは奥が曲がり角になっており、先がよく見えない細道だ。
振り返ると自分が先頭であることに気づく。嫌な感じを本能的に感じ取っているが後退することは許されない。後ろからの圧も加わり、細道へ足を踏み出した。左右を高い壁で覆われたこの細道を進み、角を曲がる。
すると眼前に正方形状の壁に覆われた広い部屋が現れる。対角の一番奥に先へ進むための入口が見えた。つまりはこの部屋を通り過ぎるしか道はない。だが、この部屋はまずい。そう本能が必死にアラームを出している。
そんなことは関係無い様子で後続から次々に魔獣が押し寄せ、ついには押されるように部屋へと足を踏み入れる。
しかし、何も起きない。よかったと安堵し、そのまま数歩先へ進んだ。
「ピットフォール!」
そう声が聞こえた刹那、ドゴーン!と言う音と共に足元の床が抜け落ちた。落下しながら上を見上げると後続からも次々落ちてきている。
助からない。
瞬間、その魔獣はそう悟った。
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カイルが作った最初の防衛拠点は正方形状に壁で囲んだエリアだ。これは枡形虎口と呼ばれるもので、侵入者を包囲殲滅するための構造になっている。
壁の上には既にシルビア隊、ユシア隊、ハープ隊が待機をしており、しゃがむことで姿を見えなくすることができる。
魔王軍が侵入するのを静かに待ち構え、ある程度部屋に入ってきたところでハープ隊がピットフォールを発動させた。これが開戦の合図になる。
一斉にシルビア隊、ユシア隊、弓兵が立ち上がり、攻撃を開始した。
壁の上からは四方から大量の矢や魔法攻撃が飛んできて侵入してくる魔獣を次々に葬り去る。
「「ファイヤーボール」」
ユシア隊が落とし穴に向かって火球を飛ばした。
落とし穴の中で炎が燃え上がる。落とし穴を避けていった先でまたもやハープ隊がピットフォールを発動させた。もはや、このエリアには穴に落ちる以外の道は残されていない。
枡形虎口の中はまさに地獄絵図と化していた。
□××▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲×
□××▲□□□□□□□□□□□▲×
□□□□□□□□□□□□□□▲× ×山脈
×××▲□□□□□□□□□□□▲× ▲高台
×××▲□□□□□□□□□□□▲× □道
×××▲□□□□□□□□□□□▲×
×××▲□□□□□□□□□□□▲×
×××▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲□□▲×
×××××××××××××××××▲⇧⇧▲×
─────枡形虎口─────
魔王軍側はまだ圧倒的な兵力を有している。作戦というものは無いが、その代わりただただ物量に任せて押し攻めていく。
少しずつ進んでは次の落とし穴が出現し、その穴もすぐに業火に包まれる。ひたすらに物量で押し進め続け、この枡形虎口で多くの兵を失いながらも、じわりじわりと虎口に侵入する数を増やしていく。そしてついには全ての罠を潜り抜け、枡形虎口を突破するものが現れ出した。
枡形虎口を突破したその先は登り坂になっていた。魔獣達はそこを一気駆け上がっていく。
すると、上空から何かが一斉に落ちてくる。高い場所から落とされたブロックが魔獣達の頭上に降りかかる。このエリアには募集兵と何人かのカイル隊が配置されていた。
「どんどん落とせー!」
募集兵達があらかじめ大量にクリエイトブロックで精製されたブロックを次々に落としていく。カイル隊が更に追加で次々に作っていく。このエリアに通じる道はもちろん用意されているが、魔獣達が登っている道からは急勾配になっており、どうやってもいくことができない。
ただのブロックとはいえ、高所から勢いのついたブロックを頭部に食らうと流石にただではすまなかった。
魔王軍はブロックが飛来するエリアで更に数を減らしながらも虎口と同様にただただ物量で潜り抜け更に進んでいく。
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坂道を進んでいくと目の前に10mはありそうな丘が現れた。その丘は急な傾斜となっており、更には丘の根元には堀が張り巡らされている。これでは登ることができないため、右か左に伸びている道を選択せざるを得ない。
一瞬躊躇った魔獣の顔面にブロックが飛来し、突き刺さる。丘の上からカイル隊による遠距離攻撃が始まった。丘の上には同じく大量のブロックが積まれており、それを剛力でぶっ飛ばしていっている。
魔獣達は焦り、右と左に別れてどんどん突き進む。左に進んだ魔獣は相変わらず丘の上からの側面攻撃をくらい続けている。それでもただただ突き進む。
しかし、その行き着く先に待ち受けていたのは急勾配の深い堀だった。言わば行き止まりになっていたのだ。
魔獣達は愕然とした。この行き止まりは曲がり角をうまく利用されており、先まで行かないと塞がれている事が分からない構造になっている。振り返れば最初の分岐点から次々に後続が押し寄せてきている。もはや後ろに引き返すこともできない。
必死に押し返そうとする者も現れるが、無常にも側面からのカイル隊の攻撃により次々に倒され、最後は堀に落ちていった。
右へと進んだ魔獣達の目の前にも深い堀が現れた。だが、こちら側には僅かにコの字型に通れる細道が残されている。そこを通ろうとするが、モタモタしている間にもブロックが飛来し、時には火球も飛んでくる。
無理矢理にもそこを突破すると、丘の周りをぐるりと回るように更に曲がり角があり、なんとか奥へ奥へと進んでいくとやっと丘への入口が見えてきた。
魔獣はニヤリと笑い、一気に入口に向かって駆け上がる。しかし、そこに待ち受けていたのはアルノート隊だった。強固な壁が入口を完全に塞いでいた。
カイル隊とアルノート隊が布陣しているこの丘は三の丸とカイルは名付けている。三の丸を仮に突破されてもまだその奥には二の丸があり、そこを突破されて始めて要塞ゴルドへの道に続いている。
カイルはこの三の丸を一番強固に作っていた。
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魔獣達がアルノート隊に阻まれ攻めあぐねている状況をカイルはジェラルド、ティーガーと共に静かに見つめていた。三人の後方にはジェラルド隊とレオパルド隊、騎士兵1000人が控えている。
3人がいるのは三の丸入口より少し下手にある馬出しと言われるエリアだ。
馬出しは入口付近に兵を置く場所としてよく作られる拠点にあたる。魔獣達は丘方面に釘付けになっており、まだカイル達の存在に気づいていない。
「もう少し魔獣が集まったら一気に裏取りをして殲滅に行くよ。」
カイルが様子を見ながら二人に声をかける。
二人は頷き、そして改めてカイルをマジマジと見る。歳は10歳前後、顔もどちらかというと幼く、
改めてよく見るとこんな子に指示を出されていたのかと不思議な気持ちになってくる。しかし、指示を出されていることに腹が立つと言う気持ちは微塵も湧いてこない。
「カイルよ。私はお前に感謝しているのだ。私の力を自由に振える場を作ってくれた。この気持ち、必ずや戦働きで返してみせよう!」
「えっ、なんなの?いきなり。うん、期待しているよ?」
ジェラルドにそう声をかけられ、カイルは若干戸惑いながらも返事をした。
「ジェラルド、良いことを言うな。それは俺も同じだ!王のスキルを使えることは兵士にとって最上の誉れ。カイルよ、見ていてくれ。私が全ての魔獣を殲滅してみせる!」
ティーガーがジェラルドに続く。
「あ、ありがとう。二人とも頼もしいよ!」
少し困惑はしてしまったが笑顔で返した。
(なんだか戦国武将みたいな二人だな。)
二人の言い回しがふと戦国武将っぽいことに気付き、山城にいることもあってかニヤけてきてしまう。
(さしずめティーガーは忠義の武将本多忠勝。ジェラルドは……)
「カイル、そろそろ頃合いだぞ」
そんな事を考えていたらどうやら魔獣の数が増してきていたらしく、ティーガーに促される。
「よし、行こう!」
カイルが手を高く上げ、前に振り下ろした。突撃の合図だ。
「「ウオオオオー!!」」
ティーガー、ジェラルドを先頭にレオパルド隊とジェラルド隊が突撃を開始した。カイルも二人の真後ろに控えている。
「魔獣共よ!我が剣の前に平伏すがいい!ライトニングセイバー」
ジェラルドが配下兵を引き連れ、ライトニングセイバーで次々に斬り伏せながら魔獣の列に横槍を入れた。魔獣達は突然側面から現れたジェラルド隊に困惑し、恐慌状態に陥った。
「はっはっは!ジェラルド、やるな!レオパルド隊も続けぇー!」
ジェラルドに続くようにティーガーがレオパルド隊と騎士兵を引き連れ突っ込んでいく。
そのタイミングでアルノート隊が即座に三の丸への入口を開放した。すると一気に魔獣達は三の丸へなだれ込んでいく。しかし、その流れはジェラルド達が横槍を入れて列を分断させているためそれほど大軍にはなっていない。
三の丸の中はお決まりのように枡形虎口となっており、バロウ隊とサリア隊が待ち受けていた。
横槍を入れた地点を境に魔獣達が三の丸へ吸い込まれるように前へ進んでいく。
カイル、ジェラルド、ティーガー達は左側へ向けて魔獣を倒しながら突き進む。
(よし、途中のコの字道が地味に役割を果たしているな。あそこで魔獣の勢いが落ちている。)
カイルが道の途中に組み込んだコの字形の細道。そこを境に明らかに魔獣の数が減っていた。
これによりカイル達は格段に戦いやすくなっていた。
「よし、これで一旦馬出しに撤退だ!」
ある程度殲滅をしたところでカイルが掛け声をあげ馬出しに引き下がっていく。
三の丸もすでに掃討終わっており、改めてアルノート隊が入り口を閉じた。
カイルの作り上げた山城は見事にその機能を果たしていた。
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■▲○▲□□□□□□□□●□枡形虎口▲○▲■
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■▲○▲□□□□□□□□●□□□□□▲○▲■
■▲○▲□□□□□□□□●●●□●●▲○▲■
■▲○▲□□□□□□三の丸□□□□□▲○▲■
■▲○▲□□□□□□□□□□□□□□▲○▲■
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■■■■■■○■□投石■■■■■○■■■■■
■■■■■■○■□□□■■■■■○馬出○■■
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■■■■■■○■■■□□□□□□○○○○■■
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■:山脈 ▲:堀 □:丘 ○:道 ●:高台
ルプゼナハ山城イメージ図
少し戦国愛が強めに出てしまいました!
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