第四話 初めての魔獣
「ハッ!ハッ!そりゃ!」
カイルは手に入れた木の棒を持ち、槍術の練習をしている。
スキル槍術1の効果だろう、身体の動きがイメージとして流れ込んできて扱い方が感覚でわかる。
その動きを実際に身体を動かして確認している。
主に使うのは、突き。
左足を一歩踏み出し、両手を前に出す要領で突く。
その後は出した左足を戻し次に備えるか、
後ろ足を追うように出し、更に左足を出し連突きを行う。
構えは、下段、中段、上段とある。メインは中段か下段だ。上段はあまり自分の性格とあっていない。
あとは振り回しだ。
袈裟斬り、薙ぎ払い、叩きつけ。
戦国時代では長い槍を足軽が持ち、主に叩きつけ合いながら戦っていたという話もある。
「ふぅ。さて、そろそろ日が落ちてきたからご飯をどうにかするか。最悪は水があるから一晩くらいはなんとかなるだろうけど。蘭丸にも何かあげなくちゃ。」
食料を求め、辺りを探索する事にした。
(木の実か、果実辺りがあればいいんだけど。)
そう思いながら、とりあえず目についた木に登り、木の実をもぎ取る。
クルミのようなもの。あとは食べられるかもわからない黒い実。食べられるかは後で考える事にして取ることを優先した。
木の実をゲットしながら歩いていると、角の生えたウサギと鉢合わせる。
記憶にあるウサギよりでかい。
1.5倍くらいある感じだ。
「一角ウサギってやつかな。」
一角ウサギもこちらに気づき明らかに戦闘態勢をとってきた。目は赤く、見るからに大人しそうなウサギでは無い。
「これが魔獣か。」
そう呟きながら、木の棒を構える。
蘭丸もいつの間にか警戒体勢に入っており、牙を剥いて唸っている。
少しの間睨み合いが続き、
一角ウサギが飛びかかってきた。
予想以上に動きが速い。
狙いは顔だった。
「くっ!!」
顔を横にズラし、ギリギリ躱す事ができた。
「いきなり顔か!」
そう言いながら振り返ると、既に二撃目の突進が目の前に迫っていた。
「やばっ!!」
咄嗟に一角ウサギの角の根本を木の棒の柄で受けた。
「痛ぇ!ーーーなぁ!」
腹部に僅かに角が突き刺さり、そのまま突進の勢いに負けそうになったため、仰け反りながら柄を上に押し上げ、突進の勢いを流した。
後方に少し斜め上方向に軌道を描きながら飛んでいく一角ウサギ。
腹がヒリヒリして、見ると少しだけ血が出ている。
「やばい。思った以上に速いぞ。」
「ハッ!ハッ!そりゃ!」
一角ウサギ目掛けて突きを繰り出していく。
こいつに突進をさせるのはまずい。
先手必勝だ。
しかし、突きはことごとくが躱されてしまう。
ステップをするように横っ飛びでピョンピョン飛び回る姿はやはりウサギなのだと思わせる。
しかし、記憶のウサギとは全ての動作に置いて速度が桁違いだ。
「ガウッ!ガウッ!」
蘭丸も一角ウサギを追いかけ、噛みつこうとしているが早すぎて捉えることができずにいる。
「これ、気を抜いたら死ぬぞ。こんな転生してすぐに死ぬなんて!絶対に嫌だ!」
「行くぞ!蘭丸っ!うああああああ!」
とにかく必死に攻撃をし続けた。
突進が来るという恐怖感がどうしても頭をよぎる。
だが、疲れてきたところをついて突進が迫り来る。
「ヒッ!」
身体を横に仰け反り避けたはいいがそのまま尻餅をついてしまった。
(やばい!死ぬっ!)
気づいたら一角ウサギが突進をしようと迫っていた。
「ガウッ!」
空中で蘭丸が噛みつこうとした。
咄嗟に一角ウサギに避けられたが、蘭丸のおかげで助かった。
立ち上がり、すぐに距離を取りながら一角ウサギを見つめる。
「はぁ、はぁ、考えろ。考えろ。何かないか。」
必死に打開策を探す。突進は直撃を喰らった時点で死ぬ気がしている。絶対に食らいたくない。
最初に出会った魔獣。一角ウサギに手間取っていてこれから生きていけるのか不安になる。
「あっ、、」
思い出す。持っていた。必殺技っぽいスキルを俺は持っていたじゃないか。
(ここで使わないでいつ使う!)
「白光一閃突き!」
スキルの発動の仕方は分からないが、とりあえずスキルを叫んだ。
同時に身体に動きのイメージが流れ込んできて、身体がオーラのように光を帯びる。
そして動きのイメージの通りに後ろ足を蹴って踏み出した。
「うおおおおおお!」
それはまさに神速。自分が経験したことのない速度で相手に向かって一直線に飛ぶように進んでいる。
勢いそのままに一角ウサギに突きを食らわせる。
突きを食らわした点を中心に空気が波紋のように広がり、一角ウサギの後方に向かって衝撃波が発生した。雑草が大きく揺れている。
見た目からしてすごい威力だと分かる。
一角ウサギは目立った外傷はないものの完全に息絶えていた。
「は、ははは、こりゃ、とんでもない威力だ。」
とりあえずなんとか一角ウサギを討伐した。
今日の夜ご飯はウサギに決まりだ。
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倒した一角ウサギを背負い、拠点に帰ってくる。
ドサッと地面に下ろし、とりあえず川で洗いながら気づいた。
「火がないじゃないか。」
今まで当たり前のように生活の中で使っていた火。ここにはコンロもなければライターもマッチもない。
「流石に、生は、、なぁ。」
チラッと一角ウサギを見ながら、ため息が出た。
蘭丸を見るとなんだか嬉しそうにハッハッハッハッと息づかいをしている。
(お前は生でも関係なさそうだな)
そう考えながらとってきた木の実を出し、ボリボリと食べてみる。
「うぇ~。。苦くて食べれたもんじゃない。」
こうなってくると意地でも火が欲しくなる。
まず考えたのは魔法だ。
俺が魔法を使えないとは決まっていない。
何事もやってみなければわからない。
両手を前に突き出し、目を閉じて集中する。
(魔力だ。魔力を感じろ。体内に流れる魔力を手の平に集めるイメージだ。いける。いける。ーーーーきたきたきたぁ!)
「ファイヤーボール!」
しかし、手の平からは何も出ない。
改めて魔力の流れをイメージし、
「ファイヤ!」
「フレイム!」
「我が深淵なる魔力を捧げ、この地に灯火を呼び出したまえ。火よ、いでよ!ファイヤーボール!」
言葉を変えてみるがやはり出ない。いけると思った感覚は気のせいだったみたいだ。
「はぁー。やっぱり魔法は使えないのか。。いつか使いたいもんだな。」
魔法は使えなかった。スキルを持っていないことから予想はしていたが、どこか期待していた部分もあった。ガッカリ感は否めない。
「じゃあ、しょうがない。原始的な方で行くか。」
もう一つ思いついていたのは、摩擦だ。テレビで見た事があった。木を擦り続けると火がつくらしい。
辺りを見渡し、倒れている木とちょうど良さそうな枝を見つける。そして枝を構えた。
(摩擦をイメージする。木に向かって擦るイメージだ。フィニッシュは最小限に。イメージだ。イメージ。)
目を閉じ、自分のやりたい軌道を思い描く。
そして、目を見開いてスキルを発動させる。
「白光一閃突き!!」
身体が光を帯びて、イメージ通りに身体が動き出す。すごいスピードで手に持った枝を木に擦り当てて進んでいく。
ガガガガガガガガガ
倒れ木の終わり付近で突きを繰り出しフィニッシュをした。
先端を見ると枝の先端に火がついている。
「やった!成功だっ!!ーーーやばっ、落ち葉落ち葉。」
消えそうになった火を慌てて追加の落ち葉や枝に燃え移らせ、なんとか焚き火の状態に持っていく事ができた。
「ふー、あとはウサギを解体して食べようかな!」
川で洗いながら、石の刃でなんとか内臓を取り出し、肉だけの状態にした。
半分は待ちくたびれている様子の蘭丸にあげ、
もう半分の肉を木の枝に刺し、焼いて食べる。
「うんー!うん?うんー。まぁ食べれるな。」
初めての狩り、初めて肉はちょっと血生臭かった。
(あー、血抜きか。)
血抜きの存在を食べながら気づく。
蘭丸はそんなことも関係無い様子で嬉しそうに肉を貪っていた。