第三十一話 アウゼフ王国の王
キャンプでの打ち合わせから三日後
カイル隊は街の西側に位置する領主館前に集合していた。
将軍カイルにジェイク、ルーカス含めた配下兵100人。
将軍シルビアに大弓を持った配下兵30人。
将軍バロウに魔導武器メイスを持った配下兵24人。
総勢157人がカイル隊として参戦する。
すでに領主館前には多くの人が集まっていた。
冒険者、武骨そうな男、格闘家っぽい女性もいる。
「結構集まってるね〜」
辺りを見渡すと大体2000人ぐらいはいるように見えた。
「あれ、俺らと同じ年くらいの女の子がいるぞ。あんな子も参加するんだなぁ。」
腕を頭の後ろで組みながらバロウが見ている先には金髪ストレートの女の子がいた。
「本当だ。あの歳で参加するってことは何かのスキル持ちかもしれないね。」
話をしながら待っていると定刻となり、領主館から護衛を引き連れて鎧を着た青年が現れた。
集まった人は皆一斉に跪き平伏する。
カイル達も慌てて同じように平伏した。
金髪で整った顔立ちの青年だ。立ち振る舞いから高貴さが滲み出ている。
(あれが国王かな)
カイルは平伏しながらも様子を窺っている。
国王は領主館前の中央に立ち、少し間を開けたのちに話し始める。
「皆のもの。頭をあげよ。
今日は我が召集に応え、集まってくれ感謝する。
私がアウゼフ王国の王 レオパルド・アウゼフである。
皆も知っての通り、我々は魔王軍との先の戦いに敗れ、戦線の後退を余儀なくされた。
ここには戦に巻き込まれ悲痛な思いをしたものも少なくないであろう。
国王として皆にそのような思いをさせてしまったこと申し訳なく思う。
だが、私はまだ諦めてなどいないっ!
戦線を巻き返し、必ずや王都を奪還する!
我が兵と共に皆の力も借りたい!
我々は魔獣共に決して屈しはしないっ!
国を、大地を、故郷を、我らの手で必ず取り戻すっ!」
レオパルドはそう言い剣を掲げた。
領主館前に集まったもの達はそれに呼応するように一斉に立ち上がり、こぶしを突き上げ鬨の声をあげる。中には泣いているものまでいた。
レオパルドは怒号が収まりつつあるのを確認し、
「戦いは1ヶ月後だ!皆、よろしく頼む。」
そこまでを言い終えると、バッと振り返り領主館に引き下がっていった。
そうしてこの場は王国の事務官があとを引き継いだ。
今から義勇軍への参加登録を行うと言う。
順番に列をなして登録を行っていく。
結局、この日は事務官より説明があって解散となった。明日から街の北側で毎日午前中に訓練を行うらしい。
「今日は結局登録だけか。それにしても1ヶ月後って結構悠長な話だね。すぐにでも戦いに出たいんだけどな。」
キャンプへ戻る道中でカイルがぼやいた。
「まぁ、そう言うな。色々準備があるんだろう。実際、一般兵を訓練するなら1ヶ月でも少ないぐらいだからな。」
「ふ〜ん。そんなもんか」
ルーカスの言葉にカイルはまだ腑に落ちないと言った様子だ。滅亡間際のこの状況で敵がじっと待っててくれるのかと心配になっているのだ。
「まず狙いに行くのはどこだと思う?」
「十中八九要塞ゴルドだろう。ルプゼナハ山脈の山頂付近に位置する主要な要塞だ。正直ここを抑えるかどうかは今後の鍵になる。」
カイルの問いにすぐにルーカスが答えた。
ラシュタールの街から北に位置しているルプゼナハ山脈はアウゼフ王国を横断するように高い山々が連なっている区域だ。ここは山の険しさから通れる道が絞られており、要塞ゴルドはその道を塞ぐように建てられているという。
「ということは、要塞ゴルドを奪還しちゃえばラシュタール側に大軍を送りづらくなるってことか。」
「そういうことだな。」
ルーカスの説明からも要塞ゴルドの重要度の高さが測られる。逆を言えばこのゴルドを落とされてしまっているこの現状はやはりかなり劣勢をしいられているのだろう。
明日からは午前中に軍の訓練、午後はカイル隊単独で訓練をすることに決まり、訓練漬けの毎日が始まることになった。
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訓練初日
ラシュタール北部の平野にて軍の訓練が開始された。訓練官より説明があり、まずは部隊分けから始めるという。
義勇軍は軍兵と募集兵の組み合わせで編成されるようだ。5人1組の伍と呼ばれる編成を基本に、伍が10組でそれぞれに部隊長がつく。
そして部隊長は50人を束ねることになる。
更には部隊が10組で500人隊となり、500人隊にそれぞれ隊長がつく。募集兵は約2000人なので4隊に分けられた。
まず基本となる伍の組分けが始まった。
それぞれに紙を渡され、そこに配置と名前が記載されている。自分の名前がある場所に移動するよう指示がある。
「どうやら登録順に配置されてるだけのようだね。」
紙を見ながらカイルが苦笑いをしている。
伍のメンバーはカイル、シルビア、バロウ、ルーカス、ジェイクになっていた。更にはカイル隊の面々が近くに固まって配置されている。
こんな単純な決め方で大丈夫か?と不安になってくる。
「まぁ、これはこれでいいじゃねーか。」
バロウが笑いながらカイルに言う。
確かに下手に知らない人と組まされてペースを乱されるよりはいいかと良い方に考えるようにした。
配置が完了したところで、訓練官より今から基本戦術を見せると説明がある。
前衛として軍の大盾兵が1000人。その後ろに騎士兵が1000人並ぶ。その更に後ろが俺達募集兵2000人だ。軍の弓兵が500人ずつ騎士兵の両翼に配置し、総勢5000人となっている。
仮想の敵を想定した戦術披露が始まった。
大盾兵が「オォ!」と息のあった掛け声と共に一斉に大盾を地面に突き刺した。この盾によりまず敵を食い止め、騎士兵が盾と連携を取りながら攻撃をするようだ。両翼の弓兵は中央に向かって弓を曲射している。この一連の流れが基本戦術となるようだ。募集兵は乱戦に突入してからが出番だと説明がある。
募集兵達はこの様子を見ているのだが、あくびをしているものや、空を見上げてボケっとしていたり、居眠りをしているものが散見していた。
「これが基本戦術だと?この期に及んでまだこんなことをしているのか。」
腕を組みながらジッと軍兵の動きを見ていたルーカスが苛立った様子で呟く。
「なんか息が合ってて凄そうだけどダメなのか?」
バロウがそんなルーカスの言葉に思ったことをそのまま口にした。バロウの目にはどこがダメなのか全く分からなかった。
「それは練度の話だ。練度は申し分無いよ。問題は陣形だ。これは言ってみれば自分達より少ない敵を効率よく狩るための陣形なんだ。それを基本戦術に持ってくるなんてデタラメにも程がある。」
「そう言われると確かに両翼の弓兵は大軍に囲まれたらすぐに壊滅しそうだな。」
シルビアはやはり弓の位置を気にして見ていたようでこの戦術の弱点に気づく。
「あ〜なるほどな。そんで弓を突破した敵が盾兵の背後に迫ってきて壊滅ってことか。」
バロウが納得した様子で言う。
「弓兵を騎士兵の後ろに持ってきて両翼を募集兵で固めれば良さそうだね。」
「まだそっちの方が安定しそうだな。」
カイルが改善案を提示し、それにジェイクが賛同する。ルーカスの愚痴をきっかけに4人はこの陣形の良し悪しを把握するに至る。
次はこの改善案を軍に提示するかどうかだ。
「流石に参加初日で陣形が悪いなんて言えないよね。何様だって怒られそうだ。」
カイルが苦笑いをしながら言う。
「まず聞く耳を持たないだろう。だから、こんな劣勢になったって事が未だに分かっていないんだからな。」
ルーカスはまだ苛立ちを感じているようだ。
(この様子は過去に何か軍とトラブルがあったのかもしれないな。)
「ルーカス。しょうがないから、いざ劣勢になったときに俺たちがどう動けばリカバーできるかを考えてくれないかな。」
ただの募集兵である現状ではそれができることの精一杯だと考え、カイルがルーカスに指示を出す。
「あぁ。了解した。」
ルーカスは不満そうな顔をしながらも、それしか無いかと言った様子でカイルの指示を承諾した。




