第二十五話 旅立ち
ギルドから出てカイルも旅の準備を始める事にした。
食料や衣服、あとは調味料などとりあえず店を周って買い集めようと考えている。
あともう一つはイザベルとの約束だ。
出発前に必ず声をかけろと言われていた。
しかし、肝心のイザベルがどこにいるのかを把握していない。カイルはどうしたものかと考え込むが、とりあえずは店を周りながら店の人にイザベルの場所を聞けばいつかはたどり着けるかもしれないと考える。行商人同士交流がありそうだ。
最初に訪れたのは洋服屋だった。
店の中を見て回り、いくつかポーチと変えの洋服を購入する。
「ありがとうございました〜」
全部まとめて銀貨数枚で買うことができた。案外リーズナブルだ。あっ、と思い出しカウンターに戻り店主にイザベルの事を聞くとあっさり居場所が判明した。どうやら街の反対側の宿屋にいるらしい。
店を出て、行き順を考える。
「とりあえずは店を周りながら宿を目指すか。」
イザベルの宿に向かうのは買い物を済ませてからにすることにした。
その後、食料や調味料を調達し目的の宿屋に到着する。
「イザベル、ここにいるのかな。」
カイルは宿屋の前に立ち、二階の方を眺めていた。窓にイザベルっぽい人影がないかなんとなく眺めている。
「あら?カイルくんじゃない。カイルく〜ん!」
少し離れたところから誰かに名前を呼ばれている。イザベルの声だ。
振り返るとイザベルが手を振りながらこっちに向かってきている。ちょうど宿に帰ってきたところだったみたいだ。笑顔でイザベルに向かって手をふり返す。
「あら、お姉さんのことが寂しくなって会いにきたのかな?」
少し意地悪そうな顔をしてイザベルが冗談を言う。
「はは、相変わらずだね。」
それを笑顔で受け流すのはもはやお決まりの流れみたいになっている。2人で笑い合いながら再会を喜んだ。イザベルとこんなやりとりをするのも悪い気分はしていない。
「実は明日出発することにしたんだ。それで約束通り出発前に会いに来たってわけ。」
「そっか、行っちゃうのね」
カイルが出発を告げると、イザベルは少し寂しそうな顔をした。今まで冗談みたいに受け流されてきたが、本当に戦いに向かう事がわかっているようだ。
「ねぇ、晩御飯食べに行こうよ!ちょっと準備してくるから待っててね!」
パッと明るい表情に切り替わり、返事も聞かずに走り出してしまった。
「えっ、ちょっと!」
戸惑っている間にイザベルは宿屋に入って行ってしまった。言われるがままにしばらく待っているとイザベルが出てきた。
「はいっ、これあげる。」
イザベルから手渡されたのは何かのメモだった。
何のメモかも検討もつかない。
「これは?」
そう呟きながら紙を開くと地図が書いてあり、マーキングがされている場所がある。
「街に来る途中で話してた賢者の子孫の滞在場所よ。ちゃんと調べてあげたんだから。」
「えぇ?!ほんと!嬉しいよ、ありがとう!」
この数日間の間に情報を集めてくれていたらしい。何気ない会話のつもりだったが、イザベルの優しさが心に染みるようだった。
「喜んでくれたみたいで私も嬉しいわ。でも、なんか妙な話も聞いたのよね。」
「妙な話?」
イザベルも不思議そうな顔をしており、どんな話なのか気になって仕方ない。
「なんかみんなから能無しって裏で呼ばれているみたいなの。だって、賢者の子孫なんでしょ?なのに、能無しって呼ぶのひどくない?!」
イザベルは少し怒り気味に話をしている。
元々誰かを馬鹿にするような発言は好きではない性格だった。
「能無しねぇ〜」
(肩書きに似つかないあだ名だ。一体どんな人なんだろうか。)
周りの評価というのは時に当てにならないものだとカイルは思っている。中々に謎の多そうな人物だと逆に興味が湧いてきた。
「ありがとう!とりあえず、会いに行ってみるね。今日はお礼に僕がご馳走してあげるよ!好きなもの食べに行こう!」
いらぬ心配をかけないようにポーチから金貨を一枚取り出し、お金はある事をアピールしながら言う。
「ほんとに?!やったぁ〜!何食べようかな〜。あっ、ねぇ!お酒も飲んでいい?」
そんな心配は無用だったのかのようにイザベルはすんなり奢りを受け入れていた。
「うん、いいけど。ほどほどにしてよ」
お酒という言葉に恐怖を感じるカイルとは裏腹にイザベルはルンルンな様子だ。
その後、2人はイザベルの選んだ店で楽しく談笑をしながら食事を楽しんだ。
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「今日はありがとう!明日の朝出発するから。
イザベル、元気でね!」
イザベルを宿まで送り届けるころには辺りはすっかり暗くなっていた。
「今日は私も楽しかったわ。カイルくん、戦いにいくんでしょ?ーーー死なないでね。必ずまた一緒にご飯を食べにいきましょ。」
さっきまで楽しそうにしていたのとは打って変わり真剣な顔つきだった。カイルの手を握り本気で心配してくれているのが伝わってくる。
「うん、約束するよ。せっかくなら今度は王都でご飯を食べよう!」
イザベルの手を握り返し笑顔で応える。死ぬ気など毛頭無い。王都を取り戻すという話も本気で果たすつもりでいる。
「ふふ、そうだったわね。カイルくんがもう少し大きくなったら男性として見てあげるわ。たくましい男性に成長するのよ!」
「はは、せいぜい頑張るとするよ!」
笑いながらまた会う事を誓い合い2人は離れた。
そのままお互いが見えなくなるまで何度も振り返り手を振りながら宿をあとにする。
イザベルと別れたあとカイルは真剣な顔つきで歩いていた。
(絶対に俺がこの国の危機を救ってみせるんだ!)
歩きながらカイルは改めて心の中でそう誓っていた。
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朝になり、ギルドの中に入るとシルビアとバロウが椅子に座っているのが見えた。先に着いて待っていたようだ。
2人は昨日渡したポーチを腰につけており、武器も収納済みで手ぶらの状態になっている。
バロウがなんだか興奮した様子でこちらに寄ってくる。
「これマジですげーな!荷物が全部入っちまったよ!」
どうやらアイテムボックスの感動を伝えたくてしょうがなかったみたいだ。ポーチを指差しながら今も興奮冷めやらぬという具合だ。
「防具なんかもさ、着ているイメージで出すと既に装備した状態で出てくるよ。」
アイテムボックス使いについてはカイルの方が熟知している。イメージと連動させるのはカイルが見つけた使い方だった。ただそれだけのことだが便利さが格段とあがるのだ。
「まじかよ!ーーーーってことは。」
何かを思い立ったようにパッとバロウメイスを出し、そしてすぐに閉まった。
次にパッと現れたのは見たことの無い魔導武器だ。腕に装備された状態で現れている。
「おぉ!確かに切り替えがスムーズだ。」
この使い方は魔導武器を多く扱いたいバロウにとって目から鱗だった。アイテムボックスを手に入れた事で複数の魔導武器を持ち歩けるようになっただけでなく、状況に合わせて素早く切り替えれるようになったのだ。嬉しそうに武器の出し入れを繰り返している。
「それが噂のバロウバンカーだっけ?」
バロウバンカーと呼ばれるその武器は腕に装着するタイプの装備で爪がついており、その更に外側に杭が取り付けてある。杭は太く、尖っている。
「あぁ、そうだ。こうやって、魔力を流すと...」
ガシューン!!という音と共に予想していたよりも速く、そして力強く杭が飛び出てきた。見るからに重量があり、反動もあるため使いこなすにはパワーがいりそうな武器だ。
「俺のコレクションはあともうちょっとあるんだけどそれはまた今度な!」
「えぇ〜、お預けかぁ!」
カイルが残念そうな顔をしているとバロウはニシシと笑っている。
「お披露目会はそれぐらいでいいか?そろそろ出発しようぜ!」
シルビアが痺れを切らして出発を促してくる。バロウと魔導武器の話をし出したら延々とやってしまいそうだと少し反省した。
「ごめんごめん、出発しようか!」
「あぁ、そうだな!出発だ!」
町を出て、3人は北上を開始する。
アイテムボックスのおかげで荷物の問題も無く足取りは軽い。2人とも体力はあるようで特に休憩を取ることもなくどんどん進んでいる。
歩きながらカイルはマップのスキルで地図を見ていた。イザベルが教えてくれた場所を確認しているのだ。メモによると、賢者の子孫はラシュタールに向かう途中の村にいるみたいだ。
「ちょっと、途中で会いに行きたい人がいるんだけどいいかな?」
地図を見終わって2人に改めて確認を取ることにした。シルビアとバロウにも目的地などの情報は共有すべきだと考えたのだ。
「あぁ、別に構わないが仲間集めか?」
「うん、賢者の子孫って呼ばれてる人に会ってみたいんだ。あわよくば一緒に来て欲しいって言うつもりだよ。」
「へぇ、賢者の子孫か。どんなやつだろうな。」
シルビアも賢者の子孫についてはよく知らない様子だ。
「やっぱ魔法とかバンバン使うんじゃねーか?だって、賢者なんだろ?」
バロウは賢者というイメージだけで決めつけている感がある。でも、肩書きからくる一般的なイメージはやはりそんな感じなのだろう。
3人は賢者の子孫がいるという村に向かって進むことにした。




