第二十四話 仲間
バロウとシルビアと約束した昼頃にカイルはギルドの酒場に来ていた。
先に着いたようで席に着き、周りを見ながら待っているとバロウとシルビアがギルドにやってきた。
「よお、待たせたちゃったか。悪い悪い!」
「いや、俺も少し前に来たとこだよ」
軽く謝りを入れながらシルビアとバロウが席につく。この世界に来て時計というものはまだ見ていない。正確な時間を掴むことが難しいので待ち合わせをするには少し不便だ。
だが、時計がない生活にも今では慣れてきてもいた。多少のずれなんかは全く気にもならない。
「さて、昨日の話の相談なんだけど。あ〜、あのだな。」
バロウが話を切り出し始めたが、なんだか少し言いにくそうにしている。
「何?気にせずなんでも言っていいよ。」
どんな話かはわからないがバロウが喋りやすいように少し後押しをすると、その言葉にバロウもホッとしたように続きを話始める。
「前に話した俺の夢覚えてるか?世界を巡って魔導武器を集めたいってやつ。あれにカイルも一緒に来て欲しいってのが俺の相談だ。ほら、この国だいぶやばいって話じゃん。
旅をするには危険も多いと思うんだ。
正直他の国のことはわかんねーし、実際に行けるのかどうかも想像つかねー。でも、俺はこの夢を諦めきれねーんだ!
カイルがいるとすごく心強いと思った。頼む!
考えてみてくれねーか」
バロウは両手を拝み込むように合わせ真剣な様子だ。シルビアは見守るように静かにこちらを見ている。
「話はわかった。じゃあ、今度は俺の相談を聞いてもらっていいかな。」
カイルは自分の相談を先に聞いてもらった方が良さそうだと考え確認をとった。
バロウもわかったと言うように座り直し話を聞く体勢をとってくれた。シルビアは、相変わらず何も言わず静かにやりとりを見守っている。
「俺の特殊なスキルはカードを集めると強くなる。これは昨日話したよね。実はそのカードが世界中に散らばっていることはわかっているんだ。だから、俺も元々世界を旅するつもりでいた。」
そこまで話をしたところで、バロウが前のめりになったので制止しながら続きを話す。
「だけど、バロウと俺では旅の目的が少し違う。俺は魔王軍と戦うつもりでいる。カードを集めるのは強くなるため、あくまで魔王軍と戦うための力を得るためだ。
実は俺の相談も二人に一緒に来て欲しいって内容なんだけど、一緒に俺と魔王軍と戦ってくれないか」
話終わり、二人の様子を見ると唖然としている様子だった。バロウは口が半開きになっており、シルビアは腕組みをしながら目を見開いている。
「なんだと?魔王軍と戦う?ーーー俺達がか?」
先に口を開いたのは、今まで静観していたシルビアだった。魔王軍と戦うなんて考えたこともなかったのだろう。
「この街はまだ最前線からは距離がある。二人はまだ危機感を持っていないようだけど、このまま何もしなくてもいつかは必ず魔王軍はここまでやってくるよ。」
その言葉にバロウとシルビアは考え込んでいる様子を見せる。
「この前、行商人に聞いたんだ。今の最前線はラシュタールの街だ。俺はその街に向かって、戦線を上げに戦いにいく。そこから、魔王軍と戦いながら世界を回るつもりでいる。」
「ドワーフの国にも行くつもりか?」
バロウが机に手をつき、立ち上がりながら聞いてきた。
「いつかはまだわからないけど行くつもりだよ。その国にもカードがあるからね。」
そう答えるとバロウは椅子にドカッと座り、また考え込む。
そのまましばらく沈黙が続いた。
(やっぱり厳しいそうかな。)
沈黙の中でカイルは断られるのを覚悟し始めていた。
「乗った。」
下を向きながら、バロウが呟いた。
「おいっ!本気か?!」
シルビアが慌てたようにバロウを問いただす。
「俺はカイルの話に乗る。旅をしてれば戦いに巻き込まれるかもってのは元々考えてた。戦争になってもカイルとシルビアがいれば俺はなんとかやれる気がする。
そんで、ドワーフの国に絶対俺は行く!」
「はぁ?お前っ!」
バロウの言葉に対してシルビアが何かを言おうとしたが、バロウの目を見て動きが止まる。
「はぁ〜、わかった。わかったよ。俺も行く。」
やれやれと言った様子でため息をついた。
真剣な眼差しを見て、何を言っても無駄だと諦めたらしい。どうやらバロウは言い出したら聞かない性格のようだ。
「シルビアは何か言いたそうだったけど大丈夫なの?ちゃんと聞いておきたいんだけど。」
カイルの言葉にバロウもそうだそうだと頷いている。
「いや、俺は覚悟が出来てなかっただけだ。特に異論は無い。どうしてもリスクを考えてしまう性分なんだよ。普通こんな話じっくり考えたり、二人で相談したりするもんだろ?即決しちまうコイツがおかしいんだよ。コイツが」
アゴでバロウの方を指しながら嫌味を言っているが一緒にきてくれるようなので安心した。
当のバロウはニシシと悪びれもなく笑っている。
「じゃあ二人とも来てくるって事で、俺からこれをプレゼントするよ!」
カイルが机に置いたのは腰につけるポーチが二つ。
「ん?そんなポーチ普通にもってるけど。まぁ、くれるって言うんなら。」
バロウは不思議そうにしている。
「ただのポーチじゃないよ。ほら、シルビアなら分かるでしょ?」
ニコッと笑いながらシルビアの方を見ると、ジーッとポーチを見つめながら考えている様子だった。
「まさか、これ。アイテムボックスか?」
こちらを伺いながらシルビアが答えた。
「ピンポーン!大正解ー!」
「まじかよっ!!」
カイルの答えにバロウが思わずガタッと勢いよく立ち上がる。
「い、いいのか?こんなのもらっちまって。」
信じられないと言う様子でバロウが見つめてきている。アイテムボックスは貴重なものだった。
それを三つも保有しているカイルにも驚きだが、あっさりと二人にくれると言うのだ。
「俺はもう持ってるからね。旅にこれは便利でしょ?二人は仲間なんだからあげるのは当然のことだよ。」
カイルは午前中に洋服屋を見つけ出し、ポーチを買っていた。すぐに大谷吉継のスキルアイテムボックス小付与でアイテムボックス化していたのだ。もちろん、二人にあげるつもりで準備したものだった。
(こんなやりとりをそう言えば前にもやったな。)
ふと野盗集団のジェイクに渡した時の事を思い出す。
「いやったぁ!!嬉しいよ!これがあれば魔導武器全部持ち歩けるじゃねーか!」
「俺もこの弓を収納できるのはありがたいし、矢をいくらでも持てるのはかなりでかいな。」
カイルがジェイクの事を考えている間にも、二人は嬉しそうにアイテムボックスを手に取り見つめていた。
「そんなに容量は大きくないかもだから気をつけてね。荷馬車分ぐらいは入ると思うけど。」
少し苦笑いしながら一応釘を刺しておく、付与されているのはアイテムボックス小だったからだ。
「荷馬車なら十分すぎるぞ。」
バロウがニッと笑いながら答えた。
とりあえずは満足そうなのでカイルはよかったとホッとする。仲間を増やすという目的はなんとか達成できた。だが、まだまだ足りない。
もっと仲間を増やす必要があると気合を入れ直す。
その後は出発日を確認されたので、明日には出たいと答えた。正直、もうこのエリアには用事はなかった。
すると、準備をしてくるらしく明日の朝に集合という事で今日のところはお開きとなった。
ギルドの前で2人に手を振り別れる。
「さて、俺も出発の準備をするか」
と、言いながら足を踏み出したところで何か忘れているような気がした。
(あれ?なんだっけ??)
少し考えて、ようやく思い出す。
「あっ、ロックバードの報酬だ!」
(あの様子じゃあ、2人も多分忘れてたな)
少し笑いながら、カイルはギルドに戻りしっかりと報酬を受け取った。




