第二十話 シルビアとバロウ
昨日早く眠りについてしまったせいか目覚めたのは早朝だった。
「あー、あのまま寝ちゃったか。」
あまりのベッドの気持ちよさにご飯も食べずに寝てしまったみたいだ。
「どうしようかな。」
やることがないので筋トレで時間を潰すことにする。
筋トレと軽く部屋で訓練を行っていると時間があっという間に過ぎちょうどいい時間になっていた。
カウンターでもう一泊分を支払い、宿屋を出る。向かう先はギルドだ。
「しまった。文字が分からないんだった。」
宿を出た所で文字問題に気付く。
昨日同様に道ゆく人にギルドの場所を尋ねるとどうやら町の中央にあるらしい。
中央向かい歩いて行くとギルドの建物らしきものを見つけ中にはいる。
「うわぁ〜。」
感嘆の声をあげながらギルドの入り口で辺りを見渡した。右手側には掲示板があり、奥にはカウンター。左側には酒場のように机と椅子がたくさん並んでいる。
とりあえず右手側の掲示板を眺めてみる。
文字とともに魔獣の絵がついている紙がたくさん貼ってある。
(何の依頼なのかどうかも何もわからない。ーーー文字問題は案外深刻だなぁ)
掲示板の前で依頼用紙を見ながら困っていると誰かが後ろに来た気配がした。
「シルビア、何か最近北西の山に強い魔獣が出たらしいぞ。」
「あぁ、討伐依頼が出てるみたいだな。」
自分の背後で二人が会話をし始めた。
(ん?北西の山だって?)
それはカイルが行こうとしているマーキングポイントだ。会話の内容に思わず意識が背後に集中する。
「面白そうだな!行ってみるか?」
「やばそうだったらすぐに逃げるって条件ならな。」
そこまで聞いて、意を決して振り返る。
そこに居たのは、14歳ぐらいの二人組だった。
「あの!北西の山にいくの?」
「え?あぁ。そうだけど。」
若干困惑しながらも質問に答えてくれたのは額にゴーグルをつけた少年だ。青年というにはまだ若干幼さが残っている。
「俺もあそこに行きたいんだけど、行くなら一緒にどうかな?」
カイルの申し出に、二人は驚いたのか一瞬顔を見合わせたが、またすぐにこちらを見る。
「あー、誘いは嬉しいんだがお前戦闘経験あるのか?」
そう聞いてきたのはもう一人の黒髪の少年だった。同様に幼さが残っているが雰囲気は大人びていた。
「あぁ、魔獣とは戦ってるよ。スキルも持ってる。足手まといにはならないように自分の身は自分で守るから大丈夫!」
「そうか。なら、別に俺はいいぞ!シルビアもいいか?」
「あぁ、自己責任でいいなら俺もかまわない」
二人は同行を了承してくれた。
カイルにとって初めて一緒に戦う仲間ができた。
「俺はカイル!よろしくね。」
そう言いながら手を差し出す。
「俺はバロウ。よろしく!」
バロウが名乗りながら手を握り返す。
「シルビアだ。よろしく頼む。」
シルビアも同様に握り返してくれた。
この挨拶は異世界でも同じみたいだ。
「もう今からすぐ向かうけどいいか?」
「うん。俺もそうしたかったからありがたいよ。」
バロウの確認に対して即答で了承すると、ニカッと笑い満足そうな顔をしている。
「そうか。じゃあ、行こうぜ!」
二人が先に歩き出し、後をすぐ追うようにギルドを出る。そのまま町を出て北西の山に向かって3人で進んでいく。
何気なく二人の武器を見るとバロウは棒状の武器を手に持ち、シルビアは大弓を肩にかけるように持ち歩いている。
「シルビアが弓なのはわかるけど、バロウのその武器はメイスなの?」
バロウが持っている武器は先端部分が太くなっておりメイスのように思えた。だが、普通のメイスでもないように見える。
「ん?あぁ、これか?これは魔導武器だよ。」
「魔導武器?どんなものなの?」
聞き慣れない単語だが、なんだかかっこいい響きだ。
「これはドワーフが作った武器でな。基本はメイスとしてこの先端でこう殴って戦うんだけど、これに魔力を流すと、ーーーーこうなるんだ。」
バロウがメイスに魔力を流すと一瞬メイスが淡い光を出し、先端部分に刃が出る。
まるで青い炎でできた刃みたいだ。
「おぉ〜!かっこいいね〜!!」
中々に男心をくすぐる武器だった。
「ふふ〜ん。だろう?これは魔力の刃だ。まぁ、魔力消費するからバカバカ使ってたら魔力切れ起こすけどな。」
「ちょっと見せて貰ってもいい?」
「あぁ、いいぞ!」
バロウから魔導武器を受け取り、先端部分をマジマジと見る。
恐らくこの先端に特殊なカラクリが施されているんだろう。
(魔力を動力源としたカラクリ武器みたいなものか。システムを記憶させる何かがあるんじゃないかな。ーーーあれか。魔石かもな。
面白い。俺も作ってみたい!)
「ありがとう!すごく興味深いよ!」
お礼を言いながらメイスをバロウに渡す。
魔導武器には男の浪漫が詰まっていた。
「俺はドワーフの魔導武器が好きでさ。世界を回って色々集めたいと思ってるんだ。
他の魔導武器コレクションもまだあるぜ。」
「へぇー!魔導武器は他にどんなのがあるの?」
「他にはなぁ、こう、腕に装着する武器で。杭みたいのがついててさ。魔力を流すとその杭がガシューン!って飛び出すんだ。」
「おぉ〜!!」
(パイルバンカーだな!絶対そうだ!)
ドワーフの魔導武器にもはやカイルも虜になっている。
「魔導武器ってさ。種類は色々あるんだけど個別に名前がついてる訳じゃないんだ。だから俺が勝手に名前をつけてんだ。」
「じゃあ、このメイスはどんな名前なの?」
「これか?バロウメイスだ!」
「まんまじゃないか!」
思わずつっこんだらシルビアが笑っていた。
「なんだよー!別にいいだろー!」
バロウは少し不機嫌そうにしている。
「じゃあ、杭が出るやつは?」
「あれか?あれは、バロウバンカーだ。」
そこまで聞いて、穏やかな顔でバロウを見つめながら肩をぽんぽんと叩いた。
(わかる。わかるぞ。ネーミング壊滅的仲間だ)
「お、おう。」
バロウは訳も分からない様子で返事をし、シルビアは何かを察したように笑いを堪えている。
「そういうカイルは何の武器使うんだよ。何にも持ってないように見えるけど。格闘タイプか?」
今度はバロウが質問をしてきた。
「俺はアイテムボックスに入れてるんだ。この槍とか。短剣とか。ちょっと変わったナイフもあるよ。あと防具もちゃんとあるしね。」
カイルは質問に答えながら、ポーチからパッと槍を出したり、短剣を出したりする。
最後にパッと一瞬で具足を着用してみせた。
「まじかよ。アイテムボックスなんて初めてみたぜ。」
「あぁ、これは便利だな。あんな長い武器まで。」
ある程度予想していたが武器よりもアイテムボックスに注目が集まる。カイルとしては正直具足にもっと興味を持って欲しかった。
「シルビアのその弓は初めからその大きさを選んだの?すごい大きいよね。」
自分のことはもういいかなと思い、シルビアに話題を振る。
「いや、初めは普通の弓だった。使ってるうちに威力と飛距離に物足りなくなってな。だんだん大きくしていったらここまでになっただけだ。」
「こいつ、初めはこの弓引けなかったんだぜ。絶対使うって聞かなくてさ。ひたすら鍛えまくってやっと使えるようになったんだ。昔から言い出したら止まらねーんだ。」
バロウが話に入ってきた。
「お前に言われたくねーよ!」
シルビアは食い気味にバロウに言い返す。
「ははっ、仲がいいんだね!」
「ただの腐れ縁だ!」
カイルの言葉にシルビアが照れ隠しなのか少しつっけんどんな態度をとる。
その後もそんな他愛のない話をしながら歩いていると目的の山が見えてきた。
「さて、そろそろ真面目にいくか!」
バロウの言葉にカイルとシルビアは頷き、表情を引き締めた。




