第二話 プロローグⅡ
紅茶を飲みながら、スキルを何にするか考える。
海人は何かを集中して考えるとき、紅茶やコーヒーを飲みながらというのが集中力が増し、一番頭が働く状態となる。
(さて、どうしたものか。まずは知ってるスキルを整理するか。アイテムボックス、魔導の極み、スキルコピー、剣技、あとは鑑定とかか。どれも欲しいけどなんかありきたりだなぁ。)
「うん、確かになんだかありきたりかもねぇ」
クラムが突然会話に入るように口を開く。
「えっ?俺、声に出てた?」
「いや、君の思考を読んでただけ。暇なんだもん。」
クラムが悪びれもなく笑いながら言う。
「悪趣味な能力の使い方だなぁ。やめてくれよ。」
「ごめん、ちょっとした遊び心だよ。紅茶のおかわりをあげるからさ。さぁ、続けて」
いつの間にか空になったカップにクラムが紅茶を注いでくれた。
(ん?遊び心か。)
クラムの遊び心という言葉に反応した。
子供の頃からの夢、それは発明家だ。
何か発明品を考える時に自分が何気に大事にしていたもの。それは遊び心だった。
メインの機能に加え、必ず何か一つは遊び心と言える物を合わせて考える。それはワンポイントの飾りだったり、ちょっとした便利機能だったり様々だ。
想像は自由だ。それが海人の口癖だった。
(クラムはスキルの希望を聞いてくれた。
だったら、強さの中にも遊び心を入れたいな。)
「ふふふ、想像は自由か。やっぱり君は僕と似た部分があるね。君に僕が惹かれた理由はこれかもね」
なんだか感心したように頷きながらクラムが満足そうな顔をしている。
「だから、思考を読むなっての!」
クラムの言葉に恥ずかしくなり、思わずツッコミを入れる。
「考えることがどうせ読まれちゃうならもうしゃべることにするよ。今考えているのは戦国時代だ。思考が読めるんだから俺の描く戦国時代を読み取ってくれよな。」
「ああ、君の世界の戦争が盛んだった時代のことだね。うん、イメージは伝わってきてるよ。」
戦国武将、鎧、槍、弓、鉄砲、合戦。
戦国時代に関係するあれこれを想像しながら話を続ける。
「これをうまくスキルにできないかな?俺は戦国時代が好きなんだ。特に可児才蔵という武将が好きだ。この武将は超重要だからな、しっかり読み取ってくれよな?」
「ふむふむ、それで」
クラムは目を閉じ、海人の思考を読み取りながら話を聞いている。
「例えば、そうだなぁ。戦国武将にはそれぞれ色んな逸話があって、特徴があるんだ。武将毎に能力を得るみたいなそんな成長型のスキルがあったら俺はきっと楽しい人生を歩めそうなんだが、どうだろうか?」
自分でもいいながら、結構な無茶振りだと思っている。完全に一から構築するオリジナルスキルだからだ。
「むぅ。もうちょっと情報が欲しいな。色々思い浮かべて見てよ!なんだか、楽しくなってきたね!」
目を瞑りながらもクラムは笑っている。
創造の虫が騒いできたらしい。
海人は思いつく限りの戦国武将、逸話などを思い浮かべていく。何気にこうして欲しい、この武将がいいなど希望を織り交ぜることも忘れない。
何も無い真っ白な空間で、机に紅茶、腕を組みながら目を閉じ、ひたすらにイメージを膨らましていく二人。
しばらくこの不思議な光景が続く。
「うん、できた。君のオリジナルスキルだ。結構自信作だよ。」
どうやらスキルが完成したらしい。
クラムはなんだか満足そうな顔をしている。
一仕事終えたって感じだ。
「ほんとか?!」
オリジナルスキルという言葉に思わず海人もワクワクしてしまう。俺だけのスキル。
俺の大好きが詰まったスキルだ!
「あぁ、ちょっと遊び心も混ぜておいたけど、君がうまく扱ってくれると嬉しいな。あとは君次第だ。」
なんだか思わせぶりな発言だが、作り手というのは案外こういう所があるものだと深く突っ込まない。
「面白い、絶対にそのスキルを活かしきってみせるさ!」
「ふふふ、細かな説明は敢えてしないよ。その方が面白いだろ?自分で見つけていってね。スキルオープンって言えば色々みれるから」
「あぁ、あれこれ考えるのは好きだ。なんだか楽しみだな。」
二人はニヤッと笑い合いとても楽しそうだ。
「じゃあ、そろそろ出発するかい?」
「あぁ、最後に。簡単でいいから世界のこと教えてくれないか?地図とか。」
今から自分が行く世界だ。なんとなくどんなところかぐらいは知りたい。何も知らないまま放り出されるのはごめんだ。
「あぁ、まあ確かにそうだね。じゃあ、簡単にね。教えすぎると面白くないから。」
そう言いながらクラムは空中を指差し、そこに地図を作り出す。
「この世界の最北端には、魔大陸と呼ばれる場所があって、そこが魔王がいる場所ね。
大昔に人類が、魔大陸に備えて人種毎に世界を縦に分割してそれぞれ統治することにしたんだ。これは僕は介入してないよ。自分達で考えてそう決めたみたい。主には賢者の案だったみたいだけどね。
東から順に
獣人族が統治するガムル王国
ドワーフ族が統治するトールキン王国
人族が統治するアウゼフ王国
エルフ族が統治するアルフヘイム王国
竜人族が統治するバルバロッサ王国
君が行くのはアウゼフ王国だよ!はい、以上!」
「ア、アウ?なんだっけ?説明が早えよ!」
聞き慣れない横文字に海人はアタフタしてしまった。
「もう一回だけだよ。
東から順に
獣人族が統治するガムル王国
ドワーフ族が統治するトールキン王国
人族が統治するアウゼフ王国
エルフ族が統治するアルフヘイム王国
竜人族が統治するバルバロッサ王国」
全然理解がついていかなかった事が海人の思考を通してわかったみたいで、今度は少しゆっくり説明してくれた。
「わかった。アウゼフ王国な!獣人、ドワーフ、人、エルフ、竜人か。竜人族って強そうだなぁ。」
「まぁ、そこら辺は行ってからのお楽しみってことで。」
「わかったよ。じゃあ、そろそろ出発しようかな」
「もうきっと会うことはないと思うけど君の活躍を見守ってるよ。」
クラムは相変わらずニコニコしていた。
「あぁ、ありがとう。おまけの人生楽しんでくるよ。」
海人がそういうと周りに円形の空間が出現し、だんだん縮んでいく。
「あぁ、最後に!強くなりたいと思ったらカードを集める事だ。君は集めるだけ強くなれるよ。」
「えっ?カード?カードってなんだ?」
振り返ると、クラムが手を振っているのが見えた。
そのまま空間が一気に閉じていき、そこで意識を失った。