第十一話 隠遁のシェイド
モンスターハウスの入口には召喚型のトラップが設置されている。
これは二度と踏みたくは無い。
「さて、どうするかな。」
ジャンプで罠を飛び越えた先にトラップがないとも限らない。部屋の中で大量のグールが発生したら生きては帰れないだろう。
あれこれ考え、答えにたどり着いた。
(そうか。最初から方法は用意されていたんだ。謎解きみたいなもんか)
「蘭丸。ここで待ってろよ。」
おもむろに槍を構え、軌道をイメージをする。
「白光一閃突き」
光を帯び、飛び出した。
カイルは大きな弧を描きながら一気に宝箱まで部屋ごと飛び越えていく。
「よっ!っと。」
宝箱の目の前に着地し、小さくフィニッシュ突きをした。移動手段として使ったが一応突きの技なのだ。
「さてさて〜、中身はなんでしょか」
宝箱を開けると小さめの腰につけるポーチが入っていた。
「うそだろ。まさか。。」
恐る恐るポーチに腕を突っ込んでいく。腕は突っ込めば突っ込むほどポーチに吸い込まれていく。
「アイテムボックスだ。念願のアイテムボックスじゃないか!」
ポーチを高々と持ち上げ歓喜した。
これで荷物問題は解決された。やはり異世界と言えばアイテムボックスだ。これのありがたみを手にして初めて実感する。
服のポケットなどは常にパンパンで動きづらくてしょうがなかった。
「蘭丸!これ、、、」
嬉しすぎて蘭丸にも見せようと、振り返り一歩踏み出した瞬間だった。
感覚でわかった。
足元に魔法陣が出現している。
それと同時に目の前いっぱいにグールが出現した。
「やばいやばいやばい!ーーーは、白光一閃突き!!」
瞬時の判断で、すぐさま槍を構え白光一閃突きで飛び出した。
入口付近のグールを突きで吹き飛ばし、なんとか入口まで到達する。
「蘭丸!逃げるぞ!さっきと同じだ!」
蘭丸に声をかけ走り出し、結局さっきの状況のおかわりがスタートした。
ーーーーーーーーーーーー
「はぁ、はぁ、はぁ。流石にしんどい!」
カイルと蘭丸は火柱の罠でグールの群れを一掃した。罠があるとはいえ、完全に足止めできる訳では無い。思いがけない連戦で疲労が溜まっていた。
水を入れた瓶を取り出し、喉を潤す。
蘭丸にも水を渡し、そうだ!と気づき荷物を全てポーチに入れた。
魔石を回収し、先程まとめておいた魔石の束もポーチに入れる。
かなり荷物がすっきりした。
アイテムボックス様々だ。
「蘭丸、ボスだけ挑んで今日は終わりにしよう」
疲れてはいたがボスの確認はしたかった。ダメそうなら逃げればいい。その上で対策も立てられるってものだ。
ダンジョンを進み、ボス部屋の扉に到着した。
念のためポーションを飲み、全快にしておく。
気のせいかもしれないが少しだけ疲れも取れた気がした。
「よし、まずは俺が行くから蘭丸はやばそうだったら助けてくれ。」
オーク戦のこともあり、もう待っていろとは言わない。蘭丸の判断に完全に任せることにした。カイルはそれほど蘭丸のことを信頼してきている。
扉をあけると、中央にボスはいた。
人型っぽい何かがいる。
「こいつは絶対つよい。。」
顔は兜で隠れているが両手に斧を持ち、鎧のところどころに骸骨があしらってある。
恐らく中身はスケルトンだ。スケルトンの上位版みたいな存在だろう。こういう魔獣を何かでみたことがある。
「シェイドだったかな。」
槍を構え、カイルは最初から片をつけるつもりでいた。
「白光一閃突き!」
白い光を帯び、飛び出した先は天井だ。
ガッガッガッガッガガガガガ
オーク戦の最後にやったイメージで部屋中を飛び回る。
シェイドの背後に来たところで一気に詰め寄りフィニッシュ突きを繰り出す。
するとブワッと黒い霧になったかのようにシェイドが消え去り、真後ろに再度姿を現した。
「うそだろ!」
振り下ろす斧を咄嗟に柄で受け、そのまま槍を振り、石突きで攻撃を仕掛けた。
ブワッとまたもや消え去り、少し離れたところに現れた。
(これ、、勝てるのか?)
正直今のところ勝つビジョンが全く見えていない。攻撃が当たる気配すらないのだ。
考えているうちにもシェイドは目の前から姿を消し、今度は頭上に現れた。
「くそっ!」
そのまま斧を打ち下ろしてくるのをバックステップで避ける。
シェイドは着地と同時にまたもブワッと姿を消し、目の前に現れ連撃を仕掛けてきた。
「くっ!」
柄で受け、2撃目を仰け反って避け、バックステップで距離を取る。
「今度はこっちの番だ!」
シェイドとの距離を詰め、突きを繰り出す。
案の定、ブワッと消え去ったので当てずっぽうに振り返りながら槍を振る。
すると後ろに来たときにシェイドが現れており、槍が当たる直前にまたもや消え去り、少し離れたところに現れた。
(ん?なんだ?)
カイルの中でいまの動きに何かが引っかかった。
あたかも瞬間移動のように見えているこの動きになんだか繋がりがあるようにも見える。
(今のは絶対あいつはバックステップで避けた感じだった。)
カイルが思い描くシェイドのバックステップのイメージの軌道と消えてから現れた場所とタイミングが一致している。
(そうか。移動の起点と終点だけ姿を現しているのかもしれない。連撃の時もそうだ。一気に距離を詰めてきたが現れたのは正面だった。なぜいきなり裏に来ない。)
ほんの数回の攻防だが、カイルはシェイドの謎にたどり着いていた。カイルの観察眼と戦いのセンスがこの世界にきて開花し始めていたのだ。
「そうと分かれば!ーーーー分かったところでだな。」
特段打開策はまだ何も思いつかない。だからどうしたと自分にツッコミをいれる。
だが、仕組みを知れば動きを読みやすくなるのだけは確かだ。
そうこうしている間にもシェイドはまたもや姿を消した。カイルはすぐにシェイドの動きをイメージする。
現れたのは右側面。既に斧を振ろうとしている。
想定の範囲内の動きだ。反射で動き、仰け反り避ける。
避け際に槍を振り反撃した。
ところが、再度霧になり避けられてしまう。
どうにか攻撃を当てる方法を見つけないといけない。
戦いはお互いクリーンヒットを与えるのには至らず拮抗しているように見えた。
しかし、シェイドがここで仕掛けてきた。
姿を消して左側面に姿を現し、斧を下段から振り上げてきた。なんとかガードしたがすぐにまた姿を消し、今度は右側に同様に現れ斧を振り上げてくる。右に左に姿を消しては現れ連撃を繰り出してくる。
「なんだってんだ!」
この連撃は流石にやばいと感じる。考える暇がない。
右、左、右ときて左に向けてガードを構えたところで失敗に気づいた。
左にシェイドの姿はない。順番に来ると刷り込まれていた。
シェイドは背後に現れカイルを背後から斬りつけた。
「ガハッ!」
背中を斬られ膝をつく。
咄嗟に蘭丸が駆け寄ってきておりシェイドに体当たりをしようとしたが姿を消し躱されてしまう。
その隙にポーチからポーションを取り出し飲んだ。危なかった。具足のおかげでなんとか致命傷は免れ、蘭丸が隙を作ってくれた。
「今まで手を抜いていたってことかよ」
何も喋らないがまるでそう言っているかのような佇まいに無性に腹が立ってくる。
「俺だってやろうと思えばそれぐらいできるんだよ!!」
「白光一閃突き!」
カイルが叫びながら一閃突きを発動した。
一気に距離を詰め、突きを繰り出したところでシェイドが姿を消した。
「白光一閃突き!」
姿を現したとほぼ同時に再度発動させる。
するとシェイドが斧で攻撃をガードしてきた。
どうやら姿を消すのが間に合わないと判断したらしい。カイルはニヤリと笑う。
「一閃突き!」
省略して唱えたがスキルは発動した。
高速で左側に移動し、突きをだす。
「一閃突き!一閃突き!一閃突き!」
ガードされてもお構い無しにスキルを連発する。
右に左に移動を繰り返し、まるでお返しだと言わんばかりに攻め立てる。姿を消す間など与えるつもりはない。
それを繰り返す中で、ドカッという音がし、シェイドが体勢を崩した。
蘭丸が背後から体当たりをしたのだ。
意識外からの攻撃に流石に避けることができなかったらしい。
「もらったぁぁぁ!!」
体勢が崩れた所を白光一閃突きが追い討ちをかける。しかし、ギリギリで霧となり逃げられてしまった。
(ちくしょう。今のは完全に決まったと思った。)
蘭丸との連携でも一歩及ばなかった。
しかし、希望はまだある。蘭丸の体当たりは当たっているのだ。打開策は既に思いついている。
「活路は後の先にあり。」
カイルが呟いた後の先とは言わばカウンターである。先に仕掛けさせ、それに合わせたカウンターで相手を倒すことを後の先と言う。
カイルはこの言い回しがやたらと気に入っていた。
「いや、更にここは先の後の先だ。」
もはやカイルにしか意味がわからないレベルになっている。おもむろに部屋の角に向かい壁を背にして槍を構えた。
「こいっ!」
シェイドを挑発し、攻撃を待つ。
すると狙い通りシェイドが姿を消し、目の前に現れて袈裟斬りを仕掛けてきた。
シェイドにとっては連撃のきっかけに過ぎない攻撃だったはずだ。しかし、カイルはこれを見逃さなかった。
「一閃突き!」
袈裟斬りを横に仰け反り気味に交わしながらスキルを発動し、一歩前に出ながら片手を伸ばし顔に突きを食らわせた。
追撃で衝撃波が発生し、シェイドの胸あたりから崩壊がはじまり、そのまま崩れ落ちていく。
強敵だったのは間違いない。
だが、カイルもまたギリギリの戦闘により急速に成長をしていっている。
「どうだ!俺の勝ちだ!」
槍を肩に乗せながら勝利の余韻とともに消滅していくシェイドを見守った。
シェイドは静かに消滅していった。
はじまりのダンジョン 三階層 攻略




