97. 悪役令嬢、実家に帰らせていただきますわ
「また心配をかけてしまってごめんなさい……」
私はここがどこかを確認する前に、意識が浮上して目を薄く開けた時に見えたお兄様方に謝った。
フィンネル兄様があまり聞きなれない言葉を言った、まだ意識が朦朧としている。
「いや、マリアが悪い訳じゃない。 ジルがあの蜂は何者かと契約した形跡があると言ってる」
「つまり、またマリアの命が狙われたって事だ。俺達は殿下との婚約が解消されるまでは狙われ続けると結論付けて居る。だがまさか学園の結界内でまでとは」
私の命が狙われているのは分かっていた事だ。理由も。そう、それは流石に私でも分かっている。リンデーン兄様の表情が苦しそうに顰められている。
「おいおい。皇宮の結界ですら役立たずなんだから想定内だろう。 とりあえず、あの処置にはビックリしたがあの状況では間違ってはいなかったってことだ。 ジルに感謝だな」
フィンネル兄様、ジル様が助けてくれたの?でも蜂をやっつけてくれたのはお兄様よね……。あ、治癒魔法だ、誰かの冷たい指先が痛い所を優しく撫でてくれた後、痛く無くなったんだわ。あの冷たい指先はジル様のだったのね……後でお礼を言わなくちゃ。
「契約術師とは厄介だな。 こりゃ本格的に殺りに来たか。 もう殿下が動くのを待って居られる状態では無くなったんじゃないか?」
「そうだな。 だがどうしてもマリアを婚約者の座から引き摺り下ろしたい奴が多過ぎて特定出来ていない。 黒幕候補が複数だ」
「問題は聖女だろ。 あの女、いつまで問題を先延ばしにすれば気が済むんだ。 一番良い機会を保留して、狙いが分からないのが不気味だ」
私はお兄様方の話の内容をお兄様方以上に解ってる。私は、殿下が”婚約破棄”してくれるまで命を狙われ続けるの。ここまではお兄様方も分かっている事。でもヒロインは殿下だけでは物足りないみたいなのよ。ヒロインは、殿下のハーレムエンド以上を狙っている。もう無理なのに諦められない。私のこの状態は、気の多いヒロインがハーレムエンドを諦められない限り三月のプロムパーティー前日まで続くの。
逆に言えば、ヒロインがどんな選択をしようが、隠しルートの攻略対象者達まで狙っていようが、プロムパーティー前日には確実に”婚約破棄イベント”が行われるから私は『自由』になれる。それまで生きていられたらだけど……。
そこでまた、意識が深く沈み込んで眠りに入ってしまった。
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side.Heroine
「気分はどうだ? 苦しかったり痛いところは?」
アル様だ、何時でもかっこいいなぁ。私を心配してくれている。でも私、どうしてここにいるんだろう?ここはどこ?
「アル様、私どうしたの?」
不安気に聞くと直ぐに答えが返って来た。
「ああ、蜂に刺されて倒れた令嬢を見て、モクレンも気絶してしまったのだ。 きっとショックだったのだろう。だが大丈夫だ。蜂に刺された令嬢も問題無い」
「アル様が私をここまで?」
「ああ、ここは医務室だから、まだゆっくり身体を休めると良い」
「ありがとうございます」
ああ、やっぱりアル様は優しいなぁ。そうか、ここまで運んでくれたのってお姫様抱っこかな?気絶して覚えてないなんて勿体無い!そう思ったところで、気絶前の記憶を思い出した!ああっ!あの悪役令嬢マリノリアが私の邪魔をしているんだわ!でもまだダメなの、アル様に言えば直ぐにでも婚約破棄してくれて、マリノリアは居なくなるけど、それを今使ったら学園を卒業しちゃうと他の攻略対象者達とも会えなくなってしまう。そんなのは嫌!
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次に私が目を覚ましたのは皇都の別邸の自室のベッドだった。いつもの天蓋が見える。ちょうど侍女頭のマーサが枕元の白湯を交換しに入って来た所だった。
「マーサ、わたくしどのくらい寝ていたのかしら?」
「3日でございます。 とにかく白湯でも口にしてくださいませ」
マーサはそう言って、私の背中に腕を入れて抱え起こし、クッションや枕で座った状態にしてくれた。私はコップを受け取り白湯を飲んだ。身体に染み込んで行くようだ。急にお腹が空いて来た。
「マーサ、何か食べたいわ」
「直ぐに食べやすい物からお持ちします」
そうして、ドアの前で一礼して下がって行った。
なんとまぁ!私は蜂に刺されたくらいで三日も寝てたらしい。なんて脆弱な身体なんだろう!?でも、普通の蜂じゃないって言ってたかな。そうだ、私には『状態異常高耐性』の加護が付いているから魔物、動物や植物等の自然界の毒にはこの加護が良く効くんだよね。という事は、やはり普通の蜂毒では無かったという事だ。昨年猛毒でボロボロになったのはこの加護を聖女の祝福ごと隠蔽していたからだった。
身体の調子は悪くない。既に完治はしている状態だと分かる。ただ眠り続けたからお腹が空いているだけ。
事件当日私を助けてくれたジル様にはお父様からお礼状を既に出してあって、私のする事は無かった。
来週からでも学園に通った方が良いのだろうか?どうしても殿下から”婚約破棄”の言葉を言わせなくてはいけないの。
私はただ今度こそ健康に、長生きしたいだけなのに、どうしてこんなに大変なんだろう。
私は自分で好きだった日本風の花火を魔法道具で作って、収穫祭の最後にうちの城から上げて貰う手はずを整えてあったのだけど、昨夜打ち上げで、シアンメインで桜色を少し入れた可愛らしくシンプルな色合いだけど連発で夜空に上がった大きなスターマインは領民達に喜ばれていたらしいとマーサが領地の収穫祭の様子を教えてくれた。私も見たかったなぁ。
翌日はちょうど休日だった。月曜日から学園に通えるかどうかは学園側との話し合いが必要だと言う事だった。学園内にまで刺客が来るとなれば、周囲にも迷惑がかかる可能性があるからだ。昨年の建国記念パーティーで瀕死の大怪我をしたリード辺境伯嫡男の様に。
結局学園側と協議の上、私は二学期を休学する事になり、冬休み前に領地に帰った。
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またしても屋根の上、季節はもう冬になろうとしているけど、昼間は陽が当たって暖かい。
「結局逃げちゃったなぁ。 まだ逃げ切れて無いけど」
学園側は今、聖女様の安全最優先だから、私の様によく命を狙われる令嬢は邪魔でしか無いのだと、話し合いの事を聞いて分かった。三学期は警備態勢を整えて私の受け入れを検討すると言っているけど、本当に警備態勢に穴が無いのかなんて分かったモノでは無い。このままではせっかく”目”を付けさせた意味が無くなってしまうけど、”婚約破棄イベント”当日までは絶対に必要だから、まだ契約を解く訳には行かない。
「学園で一番私が狙われるってどうなの? ヒロインは存在そのもの、私は命だから別問題かな」
違うのか、私が断罪を全力で避ける行動と工作をしているから、シナリオの強制力が私という存在を排除しようとしている可能性もあるのかなぁ!そうなればヒロインは自動的にハッピーエンド!……少しネガ妄想が過ぎたかな?
仮に、三学期から学園に通う事が出来る様になったら、かなりの重装備で行かなちゃなぁ。冒険者以上の装備ってどうなんだろう。
制服に魔法付与しまくって装甲化する?でも今回は首を狙われたから、身体強化の方が良いのかな?学園にいる間中なんてやってたら流石に翌日動けなくなる?普通に過ごしていれば問題無い?中々悩ましいなぁ!
「殿下がさっさと婚約破棄してくれれば良いだけなのに、とっくにヒロインが好きなくせに、告白までしたくせに何やってるのよ。 待つ必要ある? 先ずは身奇麗にしてから告白するのが筋でしょう? だからダメなんだよね。 俺様のくせにヘタレなんだよ」
私はあらん限りの俺様殿下への愚痴を空に向かって呟いた。




