92. 悪役令嬢、新たなるシナリオクラッシャーが現れた♪
内容がちょうど良い所で切れたので短めです。m(__)m
七月二十日はヘルムルトの誕生日。もう明後日に迫っている、っと言う事で、私が直接『座標移動』でパドウェイ領の領都まで送って行くことになった。リンデーン兄様では帝国の西端”城塞”から北東部の端に位置する海の防衛線、辺境伯地でもあるパドウェイの領都シーアスまで送るには三回は座標移動を繰り返さなければならない。しかも一人では無い。負担が掛かり過ぎて途中で倒れてしまうかもしれないと言う事で、不本意ながらそうなった。誰かに見られた時の対策にリンデーン兄様も一緒の三人旅だ。一瞬で終わってしまうものを旅と言って良いのかは分からないのだけれど……。
「行きますわよ、心の準備はよろしくて? 【座標移動】」
お手手繋いで移動した先はなんとドンピシャ!パドウェイ本邸の屋根の上だった。近くには三角の屋根が付いた突き出し窓がある。恐らくいや、位置的に間違いなく屋根裏部屋だろう。窓を解錠して中に入る……。
うわぁ!埃っぽい!!なんだか昔の鎧やら今ではガラクタに過ぎない素材(古い鎧は溶かせば素材になるのよ!)が乱雑に置かれている。
「すまないなぁ! そっちの屋根裏とは天地の差だが、他家もこんなもんだろう」
「まぁ、そうだろうね。 貴族屋敷で屋根裏部屋を作ろうって発想自体が先ず無い」
ヘルムルトは単に事実を述べているに過ぎないが、リンデーン兄様は多少風変わりな妹をディスってはいませんか?
別に私は構いませんけどね!私が寝室に使っている部屋にはロフトだってあって、夜空を鑑賞しながら眠りに着く事が出来る最高の隠れ家なんだからね♪
「じゃぁ、成人の儀と諸々の儀式を無事に乗り越えろよ。 まぁ心配はしてないがな!」
「そりゃぁ、どうも。 お前にそう言って貰えるなんて期待しちまうなぁ! 二属性は確実なんだが、魔力も良い結果が欲しい所だ。 武家とは言っても、いざ戦闘になれば必要不可欠だからな」
そして、一旦解散して私たちは速やかに”城塞”に帰った。
「お帰り、随分と短い長旅だったね」
貴重な、っと言っても私はマリナの時を含めて何度か目にしているのだけど、ジル様の柔らかい笑みが私たちを迎えてくれた。
「だってさ、初めて行った街なのに観光も無しで帰って来たんだぜ? 見学出来たのはパドウェイ家の屋根裏部屋だけだ。 思わず掃除したくなってしまったよ、あれは酷過ぎる」
お兄様が笑いながら答えた。うん、あの埃だらけは良くなかった。およそ書物等は保管出来ない。食器類だって微妙な汚部屋だったわ。
そう言えば、ゲームシナリオでは皇太子以外は皆んな寮に居たから、ヘルムルトの誕生日をヒロインが数日早めに祝って好感度を上げるイベントが有ったのよねぇ……どうやらシナリオクラッシャーなのはヘルムルトも同類らしい。彼はディナを愛しているのだわ。単に政略結婚の相手としてでは無く、両思いになっているからヒロインの魅了が効かないほどの好感度になっているのね。
おめでとうディナ!ヘルムルトのディナへの好感度はもうMAX越えしているわよ!私は二人の結婚式に参加させて貰えるかすら分からない立場になってしまうけど、こっそり覗きに行くわ!
もうこの時点で、ヒロインがハーレムルート及び誰かのハーレムエンドを選択することは叶わないのだと言う事に、友人の幸せに喜び浮かれた私は気が付いて居なかった。
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side.Heroine
ああ、今日も今日とて初級魔法の鍛錬である。
私はやっと回復魔法のヒールの次の段階、中級魔法に進む事が出来るようになった。呪文は同じ、ただ威力が段違いだと言うだけらしい。
それに、まだ治癒魔法のヒールは初級すらクリア出来て居ない。やっとかすり傷を治す事が出来る程度、しかも実験台はフィー様!
わざわざ鋸の歯に綺麗な手の甲を滑らせて傷付けて私の目の前に差し出された手は血がぷくりと出て来ていて、あまりにも痛々しかった。
私は懸命に治そうとしたのよ!でも結果は端の方にある僅かな血も出て居ない擦り傷を直しただけに終わった。その後は平身低頭しながら大神官があっという間に傷跡一つ残さず治してしまった。
あまりにも違い過ぎる。相手は大神官で、神殿のトップだからこれくらい出来て当たり前なのかもしれない。それを私にも求められているのがひしひしと感じられる。
その理由は分かっている。大神官は私の魔力を『巫女以下だ』と、バカにしたけど、この城だけでもフィー様のお母様とひいお祖母様が居るのだ。その上悪役令嬢マリノリアとここには住んで居ないらしいけどお祖母様も『究極治癒』の使い手だと言う。ここは環境が悪過ぎる。飛びっきり優秀な人達とどうしても比べられてしまうのだ。
それにこの城はそれだけでは無かった。『衛生部』という使用人達の通常業務とは別枠の回復・治癒魔法部門があるのだと言う。私はその人達にも劣るらしい。更には平民出身者も居ると聞いて余計に落ち込んだ。
それに、フィー様は聖属性魔法を目覚めさせる為に居るのだけど、その他の魔法を既に3属性も持っていて、いずれも高ランクだから、今更鍛錬などする必要性を感じ無い、それくらいなら新しい魔法を覚えたい、それが本音らしいのよ。私の鍛錬に付き合うのは詰まらなくてしょうがないらしいの。そこでもあれ?って思った、双子は2属性ではなかったかしら?
しかも、思いがけなくアル様と一緒に、フィー様のご実家のお城に来るなんてゲームシナリオには無かった超レアなイベントになっているのだけど、その所為でヘルムルト様との好感度アップイベントを逃してしまったの!大チャンスだったのに!このまま此処に居れば8月7日のアル様のお誕生日を祝う事は出来る。このイベントは本来無かったはずのイベントだけど、そりゃあアル様が一番大好きだもの嬉しいわよ、でももう告白されて好感度はMAXになっているから、よほどの事がない限り下がりはしないのよ。アル様は特にヒロインに物凄く弱いの。
ああっ!双子の誕生日はとっくに終わっているし、あとはジル様ね。学園が始まってからだからタイミング的にもハンカチと手作りケーキを渡しながら、夏休み中の鍛錬の話でも聞こうかしら?それでとびっきりの笑顔で『お怪我の無いように、応援しています』って言えば完璧なのよね、これで落ち込んだ好感度がかなり上がるはずだわ!
よーっし!何だかやる気出て来た!午後も頑張るわよ!!




