88. 悪役令嬢、我が領地までヒロインがやって来た!(逃亡済み)
「マリア~分かってたなら俺達にも教えてくれないとさぁ」
リンデーン兄様の悲痛な声だ。
「ごめんなさい! 確実ではなく、ただの悪夢のようでしたから言えませんでしたの」
リンデーン兄様に謝った。事前相談無しで単独行動、まさに家出状態でしかなかったから平に謝った。
それに、以前お祖母様に言われた事を思い出したのよね。
『特に特権を持って居る人には用心なさい』
これはまさしく大神官や殿下、皇帝の事だ。この人達の動向には細心の注意を払わなければならない、例え些細な内容の知らせであっても。リンデーン兄様からフィンネル兄様に替わった。
「ごめんなさいお兄様。 ただ、胸騒ぎがして、急に魔法の鍛錬をしたくなりましたの」
「マリアって予知能力は無かったよね? その胸騒ぎって誰かからの言葉がきっかけなんじゃない?」
「お祖母様よ」
私はフィンネル兄様に正直に話した。そう、お祖母様は時期には言及していない。でも大神官と皇太子が来るかもしれないと聞いていた事で、昨夜急に不安が擡げて来たと正直に言った。
▽▲▽▲▽
side.Boys
「ははっ、まんまと逃げられたなぁ! まぁ今の殿下には関係無いか」
たっぷりと誰かへの皮肉を込めて言ったのは通信用魔術道具を置いたフィンネルだ。そこにジルアーティーが興味深く覗き込みながら聞いた。
「これで遠地と通信出来るのか。 うちにも似た様なものは有るが、これは二点間では無いな、随分と複雑な術式だ。 それにしても、ご令嬢の勘とはどう言った物なんだ?」
「ああ、ただの皇宮アレルギーだから気にしなくて良い。 厳し過ぎたお妃教育の賜物だ。 アイツには幼少時の、五歳未満の楽しかったハズの記憶すら全く残っていない。 覚えているのはお妃教育の内容だけだ」
フィンネルは今度は何の感情も込めずに言う、彼の祖母である元皇女が預言者でもあった事は秘密だ。
だが聞かされた内容だけでも、その場にいたジルアーティー、エリン、ヘルムルトにはもちろん初耳で、十分衝撃的な内容だった。お妃教育は厳しいと聞いていたがそこまでとは……。
「パーティーでも学園でも、ご令嬢が殿下を徹底的に避けているのはそう言う事か」
エリンが言ったが、そんなことは学園に通っている者は誰でも簡単に気がつく事だ。婚約者同士であるのに声を掛け合うどころか目礼すらしないのだ。そこにリンデーンが言う。
「殿下側の方があからさまに避けていると思うがね。 で、聖女様と大神官様は母上を頼って聖女様の修行、殿下はその付添いで来た訳だが、お前らはどうする? 帰っても文句は言われないだろう。 言われそうなのはフィーくらいだ、大神官様の訪問目的の一人だからな」
「不本意だがその通りだ。 流石に僕と母上は逃げられないだろう。 ランディはいっその事、城塞に逃げれば? 剣術も魔法も学びたい放題だ」
「あー。でもあそこ俺じゃ入れないらしいんだよね。正門前に飛んで開けて貰うしか無いが、距離があるとまだ座標指定が不安定なんだ」
そう、リンデーンは城塞を城壁ごと囲む結界を超えることは出来ない。他の三人は二人の決定を見守って居るかのようだ。そのうちリンデーンは妙案が浮かんだとばかりにポンと手を付く。
「ここに居る四人で冒険旅行に行こう! ダンジョン巡りで良いんじゃない?」
その案に驚いたのはもちろん冒険者経験の無いエリンだ。
「おい、俺はどうなるんだ?」
「泊めて?」
リンデーンが唐突に妥協案を出した。
「お前のところのダンジョン近くに温泉宿街あるだろ? 良いかなぁって思ってたんだ」
「それくらいなら俺も冒険者資格取ってやる! 宿だけ提供して留守番なんてつまらん」
そのエリンの言い様に、勉強時間が削れるんじゃ無いかと皆思ったが、とにかく聖女様から逃げたいだけの皆は賢明にも口を閉ざした。
そして、まだ目的地こそ決定していないものの、城主夫妻に長の滞在でお世話になったことの礼と、リンデーンも含めて修行旅行に行く旨を伝えた所、城主夫妻は快く送り出してくれた。
▽▲▽▲▽
side.Boys 2
「さて、ここからどうする? 行きたいダンジョンから決めようか?」
「その前に初心者向けダンジョンで冒険者登録試験受けなきゃならないだろう?どこがオススメ?」
「エリン、安心しろ! 俺もまだEランクだ! 初心者同士、この二人を頼ってレベル上げしよう!」
「ランディって本当に前向きだよな」
低レベル同士の結束を結んで居る所に、少々呆れたヘルムルトが声をかける。だいたい、リンデーンがEランクな訳ないだろう、期間的に昇格していないだけで実力は違う。そう思い、ジルアーティーは聞きたかった事を聞いた。
「ランディは座標移動、どこまで出来る?」
「ん?距離?精度?とりあえず座標指定は多少ズレるけどここからアルトとの国境地点までなら出来なくもないな。 ただ、ここから城塞は遠いから単独になるかな。 この人数でも帝都の関門くらいまでなら確実に行ける」
「……すごいな、俺は座標移動は出来ない。 精度は高いが、目視か視認出来る程度の近距離しか飛べない」
ジルアーティーが答える、これがルナヴァインか。魔力判定はフィンネルの方が目立ち過ぎてリンデーンが霞んでしまっているが、座標移動はとても難しい魔法の一つだ。それを既にほとんど会得出来ていると言う。そう言えばマリナは制限を感じなかったな。当然令嬢もだ、早朝馬車で領都を出発し、昼に城塞に着くなど不可能だ。隠す気があるのか心配になってくる。きっとそれよりも優先するほどの不安があったのだろうとしか思えない、ジルアーティーの胸が痛んだ。そうなると皇子が七歳時の初顔合わせの真相も違って来る。
これは中々複雑な問題の様だ。
ヘルムルトが言う。
「冒険者活動するなら拠点を決めるか、流しでやるかのどちらかだが、どうする?」
「うーん、拠点決めるって言っても、その辺りの依頼かダンジョン攻略に偏るのが欠点だが、流しは難しいな。 そんなこと出来るのは精度の高い座標移動ありきか、のんびり馬車旅する余裕のある高ランク冒険者パーティーくらいだ」
リンデーンは経験こそ浅いが、よく調べてはいる様だ。中々詳しい。
「ちなみにうちはマリナちゃん頼みでね、俺のはまだ実戦レベルじゃ無いから他人様に使うのやめとけって言われている」
「なるほどねぇ、一旦解散してダンジョンに集まるにしても難しいってことか」
「あー、やっぱエリン帰りたくなったんじゃない? それなら帰った方がいいと思う。 俺エリンの家の前までくらいなら送れるから」
そこにジルアーティーも言う
「急に聖女様と大神官様が現れて混乱したが、それぞれ家に帰った方が良さそうではあるな」
「うーん。 やっぱりそうなるよなぁ。 もう少しルナヴァイン邸にお邪魔させて貰うつもりだったのに計画が崩れたな」
ヘルムルトは軽い感じで言ったが、この中で一番残念がっているのはエリンだった。彼は完全にルナヴァイン家の料理に魅了されてしまっていたのである。心なしか勉強も進む気がするほどだ。
色々検討はされたものの、結局皆各々の家に帰ることとなった。
最後に一人残されたリンデーンは考える。城塞に行くか、その前に祖父母の住む森の別荘に行くかである。
▽▲▽▲▽
side.Game scenario
「うわぁ! 素敵!」
聖女は、馬車からルナヴァイン本邸の敷地に向かう緩めの坂道を登りながら感嘆の声を上げた。
大きな門扉が見えて来て木々や草花が彩り良くお客様を迎える。門番に声をかけられた。大神官が顔を覗かせると門扉が開けらた。この本邸に訪問したのは一度きりだが門番に覚えられていたのか、断りの返事を出してはいても訪問の準備をしていたのかと思い大神官は内心ほくそ笑んだ。
流石元皇女であり社交界の白百合である。隅々にまで教育が行き渡っていると見える。
それに比べると聖女の教養の無さには残念としか言いようが無い。デボワール伯爵家に教育を任せるのでは無かったと後悔して居た。いや、そもそもデボワール伯爵家からの知らせが遅かったのだから手の打ちようが無かったのではあったが、教会は口止めされたのであろう、おおよその予想はつく事だ。皇太子殿下は別の馬車に乗っている。いくら相手が聖女とあっても、ここのご令嬢は殿下のご婚約者だ、しかも畑違いと言えどもあれほどの大掛かりな究極治癒を使えるほどの癒しの使い手、万が一でも失礼があってはならない。
急な訪問であったため、先ず応接間に通された。間も無くルナヴァイン公爵と夫人、フィンネル令息に、先先代皇帝の妹御で元皇女が入って来た。大神官にとっては叔母にあたる上、神殿に身を置いていた当時の立場は大神官よりも上であったのだ。その為大神官の方が却って深く頭を下げることとなった。
「叔母様におかれましては御健勝のご様子、まことに喜ばしいことでございます」
聖女は軽く目を見開く、皇太子アーノルドが小声で簡単に説明した。目の前には降嫁したとはいえ元皇女が二人も居たのである。しかも1人は聖属性魔法使いの第一人者で『聖水』生成を嫁して尚特別依頼にて納品していると言う。結婚し三児をもうけて尚、社交界の白百合と呼ばれる淑女の鑑。そして厳しい表情の厳しそうなおばあさんも元皇女で聖属性使い、浄化は今なお及第点以上に出来ると言う。そしてフィンネルはまだ聖属性魔法を使えないけれど、魔力が計り知れないほど高いため、特訓にて新たな属性、聖属性を目覚めさせるための修行中だと言う。聖女なのに未熟と言われている自分とはあまりにも別次元にいる彼らの前で少し恥ずかしくなってしまった。
魔法が貴族のステータスである事を殊更感じさせられた聖女は萎縮してしまっていた。気遣った夫人は、今日は客間に案内するのでゆっくり休んで欲しいと促し、旅の疲れを癒すために各々案内された部屋に入った。
聖女が案内された部屋も清潔感あふれるお姫様の部屋の様であった。学園と違って寝室とその前の応接室だけだが、部屋には満足していた。リンデーンが急に出かけたらしいのは残念だったけれど、フィンネルとの距離を縮めるチャンスかもしれないと前向きに思った。他にも三人が遊びに来て居たらしいが、『聖女様の修行の邪魔をしてしまうから』という理由で帰ったらしい。最後に挨拶くらいしてくれてもいいのにツレないなぁ……。と、聖女は思った。ここに来てもまだ一部には嫌われているのだと分かっていないようである。
アーノルドは自分が来たと言うのに挨拶にすら出て来ないマリノリアに不信感を抱いた。同行しているディリスナに使用人にそれとなく聞いて来いと命じた。ディリスナはその姿だけでも垣間見る事が出来ないかと、期待を込めて使用人にご令嬢の事を聞いたが、用事で早朝から城を空けているとの返事が返って来た。残念な思いを抱えながらアーノルドに報告した。
「そうか」
対したアーノルドの返事からは何の感情も読み取れなかった。
翌日から元皇女、リリアーナ・ルナヴァイン公爵夫人からの指導が開始された。大神官とのW指導攻撃である。救いは皇太子殿下の存在なのだが、あまり情けない姿は見せたくないと思い、必死に頑張る。ここで気がつく、表情が違うので印象が違っていたが、ルナヴァイン夫人と言えば、双子と悪役令嬢マリノリアの母親だ!もしかしたらこの人も大神官以上に厳しいかもしれない!!という事に。そして、やはり言う事は大神官と変わらなかった。
「魔力量が足りないわ。 いっそのこと目に見えやすい回復から始めさせてステップアップさせたらどうなのかしら? 出来ない事を何時迄もやらせていても、目に見えない成果ではモチベーションも上がりませんでしょう? とにかく魔法自体に慣れる事、魔力の無駄を無くし、コントロールを覚える事ね。 今のままの特訓ではいつまで経っても変わりはしないわ。 要は素質とセンスも無いのよ。 相当の努力でカバーしないとダメね」
貴婦人の中の貴婦人と呼ばわれる女性にしては辛辣で毒舌。ああ、フィー様はこのお母様に似ているんだ!つまりは、お母様に認められたらフィー様の態度も軟化するすのでは?と、聖女は思った。
その日から、聖属性の低レベル魔法から順を追って習って行くことになった。でも……。
「【回復】はぁ、、」
魔法をやっている感じはするのよね、キラってするの、うんやれてるって感じがしてモチベアップ!
なのに。
「全然回復量が足りないわね。 全回復までは求めないけど、最も多いD~Cランク冒険者のHPを半分は回復させないと、治癒師にすら成れないわね。 浄化は夢のまた夢だわ。 ポーションは作れるのかしら? 魔法は気持ちも込めないと上手く行かないものだわ。 もっと聖女らしくある様に精進しなさい。 では、わたくしの授業はここまでよ、あとは自主練か大神官から学んでちょうだい、わたくし忙しいのよ」
(うわぁ! 朝の瞑想は無くなったし、食事も美味しいのが三食食べさせて貰える上、ティータイムも二回あるけど、大神官以上にスパルタだ!)
アーノルドが心配そうに見ている。アーノルドは何か言おうとしたが、夫人がひと睨みしたら何も言えなくなった。
(ええっ?殿下より強いの?)
後でお茶の時間にこっそり聞いたら、現皇帝の妹姫で叔母様だとの事。私達が生まれる前に終戦したアルト七年戦争終結の立役者で国の英雄の片翼だから逆らい辛いらしい。
(女性なのに英雄!? めっちゃ高スペックじゃないのよ! フィー様はこんな人を間近で見て育っているんだわ! 美しいだけの悪役令嬢だけがライバルじゃ無かったんだ!! うわぁ! これフィー様攻略難しいよ! でもハーレムエンドはアル様以外の五人も80%必要だし、どうしたら良いの?
そう言えば、私聖女が来たってのに、悪役令嬢は挨拶にすら出て来なかったわ。失礼だと思わないのかしら?)
「アル様、そう言えば、フィー様には妹さんが居たと思うのだけど、どうして姿を見せないのかしら?」
聖女はアーノルドにそれとなく聞いてみたが、シンプルに即答された。
「用が有って出かけているそうだ」
この帝国の偉い人達、皇太子殿下や大神官が来るのが事前に知らされて居たというのに外せない用って一体どんな用なんだろう?聖女はそう思いはしたものの、切り出していいものか悩んだ。でも興味の方が勝ってしまった。
「そんなにも大事な、優先する用ってあるの?だって皇太子殿下と大神官様のご訪問よ、出発を半日ずらすだけで良いハズなのに」
「仕方ない。 彼女は忙しい」
アーノルドは投げやりに答えた様に見えた。
嫁vs姑の様なお話ですね、殿下が板挟みになる婿殿に見えて仕方がありません^^;




