84. 悪役令嬢、ダンジョン破りの後片付けが楽しいですわ!
お父様が朝から憮然としている。まぁ折角の朝食が美味しく食べられなくなってしまいますわ。
私達はダンジョンの後始末を終えた後も森の別邸にて数日を過ごし、本邸に帰って来て居た。
お父様がいかにも重いように口を開いた。
「ダンジョン発生から消滅までの経緯、それによる被害状況の報告書の詳細を説明しに来いと、皇宮官僚から書状が来たが断った。あれだけ詳細に報告しているのに不備の指摘すらもなく相変わらず官僚って奴らは無能で傲慢だ。どうせ今回の被害があまりにも少ないから、得た利益について突っつきたいのだろう。ダンジョンと鉱山は違う。冒険者ギルドを通さずに処理したが、今回の件に関しては違反にも抵触しないと言うのに。 しばらく周囲の者がやっかんでくるか、興味本位で近寄ってくると思うが適当にあしらっておけ」
ほほほ、流石ですね。社交嫌いのお父様だけあります。ダンジョン発生から消滅までたったの二日で処理してしまいましたのに武勇譚にすらせずに淡々と報告のみで済まそうとする。奥ゆかしさって言うのかしらね、武士の鑑ですわ。元騎士で将軍だけど。
「本当にうるさいわぁ~」
と言って、お母様は封筒を何通かテーブルに放り投げた。
「ああ、中を見るのは食後で結構よ。 向こうの都合で急ぎだって言っても放っておけば良いわ」
お母様?どうなさったのかしら。一体誰から?
不思議に思いつつも朝食を済ませ、リビングに移りソファーに座って食後の優雅なティータイムに入った。本日はクレームブリュレ。うーん!美味しい……若干悦に入りながら味わっているとお兄様方の残念な騒がしい会話が耳に届いた。
「うわぁ、こんな所からケチが付くとは!」
「まぁ、想定出来なかった事じゃないよ。 理由はともかく、なんでこんな楽しそうな事誘ってくれないんだって、 向こうが情報を得たのが早ければ乗り込んで来てたはずだ」
フィンネル兄様にリンデーン兄様、いつもとは逆の立ち位置の様に思いますわ。えーと、リンデーン兄様は乱入者を予想して居たわけですね。そう言われるといくつか心当たりありそう……。
「あーあ、やっぱこいつもだよなぁ」
フィンネル兄様はちらっと私を見て言う。
「?どなたですの、気になってしまいますわ」
「ああ、そう言う気になるじゃ無いのが分かっているのが哀しいだろうな。ジルだ。こんな時くらい手助けさせろって事だ。まさか前回一日で終わるなんて思って居なかったんだろうなぁ。気の毒に」
「えーっ、マリナちゃんに会いたいだけなんじゃ無いの? 興味ありそうなんでしょ? 確かにあの魔法バカが興味持ちそうだよな。実際に全属性持ちだわ。MP一気に枯渇しかねない大技、オリジナル交えて涼しい顔で連発するんだから」
フィンネル兄様とリンデーン兄様の一部言葉のニュアンスは違って聞こえたのだけど、けどまぁジル様が新ダンジョン出現に興味を持ったり、関わりたがるのは良く分かりますわ。それにマリナに興味を持っているというのも。魔導師の塔に連れ帰って鑑定器にでもかけたそうな興味だというのが残念なところだけど。
「で、ヘルとジルから来るのは分かるが、なんでエリンまで寄越すんだよ」
本当に分からない、と言った風に僅かに眉間にしわを寄せるリンデーン兄様。ああそれは……。
「ただ料理を楽しみに来るだけの名目だと思いますわ」
「あーーっ! なるほどね! それでうちを避難所にしたわけか……そう言えば、たまに俺達のランチボックスを覗き込む事あるな。食堂は人が多くて踏み切れないんだろうが」
「なるほど。聖女はうちの料理に負けたってわけか」
えーーーっ?フィンネル兄様、魅了の効果ってそんなのもアリなの?でも度重なる質問タイムにも関わらずエリンの好感度が上がっている様子は無いらしい。そうなのね。まだ色気より食い気のお年頃だったのねぇ……。遠い目になったのは許していただきたいわ。
「そして、コレは皇家、と言うよりは大神官からよ。 バカンスに行きたいですって? 小娘の教育に手詰まりしていて、こっちを頼ろうって訳よ!忙しいから却下ね。くだらないこと」
うわぁ、それが一番嫌だわ!大神官の凝視よりもむしろヒロインがここまで乗り込んで来るって言うのが一番嫌!
「しかも皇太子を同行させるって、何考えているのかしら? これは皇帝からね。もちろん却下よ!!うちを何だと思っているのかしら?」
ああ、お母様のこめかみに青筋が……大神官と皇帝タッグに完全に頭に血が上っておりますわね。まぁ、どちらもお断りしたのなら良いわ。夏休みくらい心穏やかに過ごさせて欲しいの。
「全くもう!うちの子達は弟子入り不要で及第点突破しているのに。 まぁ元々の適性ってあるわね。 特に理由が無ければ魔力を増やす努力をしていないから、成人近くなってから教育し始めても伸び悩むのは当然よ。 極稀に遅咲きなんて人も居るけど、あの子はそもそも魔力量が足りて無いわ。 まさに血の滲むような努力でもしないと及第点なんて貰えないわよ」
お母様は冷静かつ辛辣だった。でも実はフィンネル兄様は私に弟子入りしておりますのよ。リンデーン兄様も。だって城塞の魔導師団に教えを請うた私がお兄様方に伝授するってやり方で様々な魔法を習得しているのだもの。
「馬車の旅なんぞ楽しむ暇があったらその分精進する事に時間をかければ良いだけのことだ」
あら、お父様も苦言を呈するなんて。まぁ事あるごとにお母様をこき使おうとする大神官に内心はお怒りってとこかしらね?
今回のビルディングダンジョンで得た成果物の一部、魔石はルゥナ工房の素材庫に納められた。私は嬉々としてランク分けと色分けをした。金属素材の一部も回って来た。まぁ!贅沢な建物だったらしい。金銀プラチナと銅まで、ピンクゴールドも作れるわね!
他にリンデーン兄様の剣に使えそうな素材は無かったのか気になったけど、お店の倉庫整理に数日かかってしまったのよ。魔石だけでもそれくらい大量の収穫があったの。まぁコレだけのものを独り占めしたらやっかまれますわね。報告省いて良かったって所でしょう。
一方、お兄様方はドロップアイテムの仕分けに草臥れて居ましたわ。結構使えそうなお宝もあったとのこと。素材に回しても良いものと仕分けして武器庫と宝物庫は一杯になった。蔵が必要そうな勢いだったけど、宝物庫は城の中で抑えた。でもそのうち整理する必要がありそうね。雫もかなり貯まって来たけど分類したままになっている。今現在12種類もあるのよ。これは用途に迷うわよね。1種フィンネル兄様の弓矢の強化に使える雫があったので使ってみた。雫にはアイテムによって使用上限があるようなので、使用は慎重に考えた方が良さそう。リンデーン兄様の剣も鉄剣からミスリル製に昇格!なんて素敵!
確かにダンジョンバブリーな状態の我が領に余計な人は招待したく無いわよね。面倒ごとは出来るだけ避けましょう!
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領での私は多少羽を伸ばしすぎてしまう所がある。っといっても、流石に寝巻きでは自室と寝室を出ることは無い。自室の入り口の部屋、つまり応接間にすら行かないのね。
でも今は部屋着に当たる物だった。真っ白なシルクとシルクオーガンジーを使ったエンパイアドレス。この形は普段着にも夜会用のドレスにも用いない。まぁ私は痩せ過ぎてて妊婦さんには見えないからウエストチェーンでや飾り紐でウエストを強調することは無くゆったりさせたままけど、この形ってコルセットで無理に造成しなくても胸元がちょっとセクシーに見えるわよね。別にそれを狙って着ている訳じゃ無いのだけど。
それに、私はしびれを切らしてピアスホールを開けちゃいましたのよ。まぁマリナの時は耳ごと顔マスクで隠しているから大丈夫かなって思ったの。
耳にはアンティークローズを象ったミスリルの薔薇に、しゃらっとするこれまた同じくミスリルの極細チェーンが5本垂れ下がり、長さ違いのそれぞれの先には初めてゲットした最終フロア核、そう、空色の、ジル様の瞳の色と同じ色の魔石がマーキースカットにして下げられている。あまり小さくしたくなかったので2cm~2.5cmにはしてある、ミスリルが軽いから良いけど、こんなの普通に付けたら耳が垂れ下がって縦長になりそうだわ。まだ付与魔法は1個だけに『癒し』を付与しただけ。
アンサンブルのフリルとレースを施されたロングガウンを羽織って、そのままプライベートリビングへ、お夜食のハイティーをしに行った。
流石のわたくしも『ピキーン』っとばかりに凍り付いてしまった。表情も一緒だ。最大の癒し小道具扇子も装備はしているけど、もうそれの存在を思い出しすら出来ない状況がそこに広がっていた。
えーと、ここは皇都の別邸では無い。念の為。
なのに殿下以外の攻略対象者達がどうして、ガラス張りの自慢のテラスすら無いこの本邸のプライベートリビングに勢揃いしておりますの!?私はハッと気を取り直して、何とか急いで表面だけ取り繕い、挨拶をする。
「ごきげんよう。このような時間ですので楽な格好で失礼しましたわ。 クロスディーン卿、スチュワート公子、パドウェイ公子をこのような場にご案内す……」
その先は少々悲鳴をあげる寸前の悲壮なリンデーン兄様の声で遮られた。
「マリア!なんて目に毒な格好をしているんだ。 こんな奴らの目に晒していい姿では無いから、せめてこれを羽織って!」
そう言うとお兄様は、腰を折り過ぎるとともすれば貧相な板が見えてしまいそうな胸元をショールで襟巻きを巻くように隠した。
うーん、目に毒って、これ一応部屋着だけど、素材的にもデザイン的にも、夜会に着て出ても問題無いくらいのものなのに……。
「あれ?眠れないのかい?こんな時間にここまで出て来るなんて珍しいね。 そのドレスは似合うけど、だからあまり見せない方がいいと思うなぁ」
フィンネル兄様、おっしゃる意味が分かりかねます。
「どうしてまた、お客様をここに案内しておりますの?」
「えーっ、だってこいつらだし? 俺らはこっちの方が落ち着くから」
はいはいはーい!もうね、本当にうちの家人は自由な人が多くて困るわ!しかも今の私は完全にお家モードで、すっぴんな上に、髪がですね!そう、巻いてないの!マリナと同じストレートサラサラ状態で膝裏まで伸びてるのよ!普段はローブに完全に隠れているけど、ジル様には見られているの。はぁ……。
私は簡単に淑女の礼をしながら。
「わたくしはこれにて失礼しますわ」
そう言って身を翻し、近くに居た侍女に「わたくしの分は部屋まで」と言って立ち去ろうとした。
「失礼したのはこちらだ、ルナヴァイン嬢」
ジル様が声を掛けてくれた。でもねー、私がこの場に居てもしょうがないわよね。
「まぁ、わたくしにはお気遣いなく、ごゆるりとお過ごしになってくださいまし」
「あー、いや、本当に俺らには気を使わなくていいから」
エリンだ。まぁこの人はいつも図々しいものね。だってうちの料理に魅せられてしまったのだもの。
「マリア、コイツらもこう言っていることだし、ここでお茶していけばいいよ」
フィンネル兄様がそう言って、私の手を取って皆んな勢揃いした応接セットの一人掛けソファーに座らせる。まぁ、良いのかしら令嬢が居ては話し辛い話もあるのでは?
私は少し会釈をして。
「では、お邪魔させていただきますわ」
と、席に落ち着く事にした。ぐるぐる巻きにされたショールはもちろん掛け直して前で軽く結んで肩を覆い胸元を目立たなくした。それにしても席には着いたが気持ちは落ち着かない。ヒロインはよくこのメンバーに囲まれて昼食なんて食べられるわ。私は顔が引きつらないようにするだけで精一杯よ。




