63. 悪役令嬢、学園生活最後の冬休みを満喫しましたわ
若干、心を落ち着けてダンジョンの先に行こうと促すと、まだ不承不承と言う感じだったけど付いて来てくれた。うーん、別に一人でも良いんだけど、私が引き返さない限り引くつもり無いよね。すっかり一緒に行く事になってしまっているんだけど、大丈夫じゃ無さそう。
「あの、」
「1人で置いて行く気は無いから」
ピシャリと言われた。わお!もう大分読まれてるな。そうです、好奇心旺盛で守銭奴で聞き分けの無いお子様です。すみません。こうなったら気を取り直して先、進みましょう。ダンジョンデートだわぁーい……。
そして14階層に入り、その後は危な気なく進んで行った。しかしまぁ、ジル様ってこんなに過保護だったかしら?階段や通路が滑り易いからって私の足元にまで気を配ってくれたり、少々危なく体制を崩しかけただけで手を取ってくれたり、と設定では考えられない行動。ヒロインにでさえこんなことはしていなかった。思わずって感じもするから、あの大怪我の影響かな?間違いないな。なんだか申し訳ない。
こんなことで気を使わせて、好感度どんだけ落ちまくるんだろうなぁ……ジル様は面倒な女性は苦手いや、嫌いなんだよね。悪役令嬢の私でも流石に一推しに嫌われたくは無いなぁ。
そして24階層に入って少しのところで『キンッ』って聞こえた、いや、感じた!
咄嗟にジル様を押して私から距離を取らせてから【四方結界】を張った。上手く敵を結界内に閉じ込めることに成功した。私ごと。
ジル様が焦っているのが分かるけど、コレに気が付いたわけでは無いようだから、これで良かった事になる。
結界の隅には何も見えないけどそこに居る。これは聖女の勘ってヤツだ、だからいくらジル様でも感じ取れなかったのは仕方が無い。普通は一撃食らってからその存在に気が付くのね。その場合気が付いた時にはもう遅いのだけど。
余程感の鋭い人でも視界で捉える前にその存在を感じ取れはしても居場所までは中々特定出来ないだろう。
死神。何でこんな所にこんな奴が出て来るのか分からないけど、ダンジョンに出て来たからには魔物として討伐させてもらう。守森の剣は物理特化だけど、これに浄化魔法を纏わせて一息にソイツに突き刺した。
「【雷の乱舞】」
これって、同じ結界内に居る私も魔法攻撃の飛び火程度は食らっちゃう事になるんだけど、私は魔法攻撃耐性がステータスと衣装の魔法付与とアイテムで異常なことになっているから多少チクチクするくらいにしか感じない。我ながらむちゃくちゃだと思うけど、恩恵は有効活用しなければね。
程無くして剣をかざした辺りから魔石が落ちて来て慌てて両手で受けた。ついでに何かおまけも落ちて来たのでそれも受ける。むーん、この魔石はなんだろう?虹色?下手な加工は出来ないなぁ、まぁいいや。ドロップアイテムのチョーカーには呪いは付いてなかった。もう素手で受けてしまった後だけど。
結界を解除したら早速ジル様が駆け寄って来た。
「今の無茶な攻撃は何?」
「はは……」
いや、乾いた笑いしか出ないよね、どう説明したものかな。とりあえず、敵が死神だった事と、感じ取った居場所が分からなくなる前に素早く仕留めようと思ったら身体が動いたって答えておいた。別に嘘は言ってない、そのまんまなんだけど。ジル様には深ーい溜息をつかれた。
「君の感覚って、興味深いよね」
ええっ?それってかなりディスってませんか?乙女ゲームでは「キミって他の子とは違うよね」とかって、訳の分からない惚れられ方するものらしいけど、今のはそれとは違ったよ?しかも今の分だけじゃ無いよね、今までの行いも混じってませんでした?
「人を珍獣みたいに言うのは止めといて」
思わず呟いてしまいましたとも。
先に歩いて行った私の後ろで、ジル様が笑いを堪えているのは分かった。いやぁレアだけど振り返られない、私って意外と小心者だわ。
フロア内にはシーパンサーも出て来たけど、立ち姿で体長2m以下の普通種。ジル様と私も雷撃で難なく潜り抜けて最終フロアの魔物も二人でやっつけて、見事にダンジョン踏破した。
思えば肩こりをスッキリさせるために来たのに随分と精神力を削られた気がする。選んだ場所が悪かったけど、ジル様に会えたから良いかぁ。精神力が削られた原因はまさにそれなんだけどね。好感度は、まぁしょうがないよね、ヒロインじゃなきゃ上げようが無いんだから。
お宝は14階層以降のを山分け。ただ死神の分は別計算で私にと、ジル様が譲らないのでそういうことにした。
ダンジョンの異常も無事収まったみたいだし、これにて一件落着。ってことにして、マーナ支部に向かう事にした。
ジル様が若干挙動不審なのはそこが自分の家の領内だからだろう。ギルド職員も顔見知りでジル様のことを知っているのかもね、だからこのダンジョンに調査に来たのがジル様一人だったんだと、私は察せるけど、もしかしてジル様は自分が貴族だって私にバレてないと思っているのかな?まさかねぇ。だってお兄様と軽口叩き合ってる時点でバレバレじゃん。
でもそれ以上に気になっている事があったのだと気が付いたのは、現場に着いてから。
マーナ支部は海沿いの小さな別荘を思い起こさせるような真っ白な壁で青い三角お屋根のカントリーハウス風の建物。ここも所在地はマーナ町の端の方だったけど、何故か釣り客みたいな人も併設の飲食店で食べていた。なんだか長閑だ。っとギルド内を見ていたら、受付のお姉さんが声をかけて来た。
「いらっしゃいませ!受付のクララです、初めての方ですね」
慌てて、私も挨拶した。
「初めまして、私はマリナです、ダンジョン行って来たので鑑定お願いします」
「はい、こちらにどうぞ」
クララさんは日焼けした健康的な小麦色の肌で、長い金髪を下の方にシニヨンにして纏めていた。その紫の目が胡乱気に細められて私の斜め後ろに注がれている。
ははは、こりゃ誤解されてるかも。領主様のご子息が平民の女の子を引っ掛けて来たとか思われてるんだな。ヘルムルトじゃあるまいし、ジル様がそんな遊び人な訳ないじゃないの。でもここで変にフォローを入れても泥沼にハマるだけなのは目に見えているので、敢えて察しない振りで鑑定してもらった魔石とドロップアイテムの内、不要のだけ引き取りをお願いする。ここでもやっぱりフロア核を買い取りたがってたけど、フロア核って綺麗なのよねぇ、ちょっとここでは売れない。申し訳ないけどお断りした。冒険者カードに記録を付けてもらって私の分は終了。クララさんにお礼を言って下がった。
続いてジル様が鑑定を受けている間に依頼を見ていると、クララさんとの会話が聞こえて来た。
ユトドラス洞窟ダンジョンの状況報告。報告で聞いていた通りだった、と聞こえたから、やっぱりここからの報告が領主まで行って、ジル様が調査に来たってところね。通常なら帝都本部で依頼が張り出されて調査が来るはずだもの。あとは慌てた様子で誤解を解いてた。偶然会っただけ、たまたま顔見知りだった、うん、どれも事実ですが、中々分かって貰えないのよねぇ、こういった誤解って。でも真っ先にお仕事の報告から入るところは真面目なジル様らしいわ。
ふーん、ここの依頼もなかなかディープなモノがあるのね。クラーケンかぁ……大ダコだな。足の端っこだけ切り取れたら良いや、ふむふむ。やはり色気の無い事を考えていたら、鑑定が終わったらしいジル様がやって来た。
「何か受けたい依頼でも見つけた?」
「まだ依頼は早いかなぁって思ってたところ」
そう言って、顔を上げた。そのまま自然な流れで受付に会釈して、一緒に冒険者ギルドを出た。
いや、ここで一緒に出て来ちゃったら誤解解けないままなんじゃぁ?ああ、私が先に出てれば良かったのか。いやそれもなんだろう、一緒にダンジョン踏破して、自分の鑑定が先に終わったらさっさと帰る、って人としてどう?うーん、難しいわね。
あっ!っとここで思い出した、ハンカチの存在。もう季節外れどころじゃ無いんだけど、マリナとしてもう会えないかもしれないし、今渡しておこう。
「はいこれ、あげる」
ジル様は何の事だか分かっていないようだ、うん説明しなきゃ分からねえよ、しっかりしろ自分。
「あの、学園の行事で応援する相手にハンカチを渡すっていうのがあるって聞いて、作ったからあげる。だいぶ遅くなったけど学園ダンジョンの時のお礼だから」
「え、ああ……ありがとう」
ジル様はハンカチを受け取ってくれた、良かったぁって、思っていたら。
私の手を取って手の甲の指の付け根にほんの少し、触れるか触れないかのキスを落とすのって、それ平民女子にはダメなやつですよ、誤解されちゃいますよ?現に私が既にゆでダコ状態ですから!
夕暮れの海沿いで海岸も近くてロケーション抜群!ああ、かなり良い思い出になったわ……色々しんどかったけど。
家に帰ったら、何だか草臥れ果てた私に気がついたお母様が近寄って来て私のおでこに手を当てて考え込んだ。
「熱があるわけではなさそうねぇ、今日は早めに休みなさい」
「ええ、そうしますわ、お母様」
お茶でも飲もうかと思っていたのだけど、とりあえず先に自室に戻ってお風呂に入ることにした。屋根裏部屋での着替え前にシャワーを浴びただけでは足りなかったらしい。今日の夕食は部屋で摂る事をケイナに伝えてゆっくりと浴槽に沈んだ。
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夕食を自室のリビングで食べ終わった頃、扉をノックする音が聞こえた。ケイナが私に目線で確認してから扉をわずかに開ける、っと早速お兄様方の声がした。こちらを向いたケイナに頷いて暗に通して良い事を伝えると、お兄様方が部屋に入って来た。ケイナは食器を下げてそのまま部屋を出て行った。
「ディナーを部屋で摂ったと聞いて心配したけど大丈夫か?」
リンデーン兄様も随分と心配性になったなぁ、まゆが下がってますわ。
「ほんの少し疲れただけですの、心配かけてごめんなさい」
「分かるよ、久しぶりにダンジョンに行って疲れたんだろう?」
ぐっ!邸に居なかったのバレてるのね。私が帰るよりも早く視察から帰って来て居たんだわ。
「フィンネル兄様ったら、意地悪ですわ。分かっていらしたのね。ちょっとだけ、刺繍に集中し過ぎて肩が凝ってしまったから、動きたくなって、初めて行くダンジョンに行ったら、思いの外難しかったんですの」
ちょっと不本意な内容なので思わず少し口を尖らせて拗ねたようになってしまったけど正直に白状した。
「へぇ、あの飽和で大騒ぎの学園ダンジョンに突入しに行ったマリアが難しいって、何処?」
「……」
これは誘導か?確信か?あの時は一応誤魔化したつもりだったけど、邸に居なかったことはバレてたからなぁ。うん諦めよう、往生際悪く粘ってもしょうがないし相手はフィンネル兄様だ、事ある毎にチクチクされるに決まってる。殿下の好感度は下げまくって良いが、それ以外の好感度は下げてもなんの得もしない。むしろ危ない。
「ユトドラス洞窟ダンジョンですわ」
「それはまぁ、なんと言うか因果な場所に行ったものだね」
「あーっ!うちの所為で取り潰しの憂き目にあったあの領地のか」
フィンネル兄様は分かってるのよね、本当は婿を探していたのにうちに嫁入りしちゃったご令嬢のロマンス。なんだかうちって曰くアリのお嫁さん多いのよね……リンデーン兄様は言われて思い出したみたいな感じね。
「そうなの。割と近いから良いかなぁと思って行ってみましたの。でも普通のフロア内で死神が出てきましたわ」
「それは何とも言えない不気味さだね」
リンデーンお兄様に至っては黙って頭を抱えているわ。そうよね、縁起でもないわよ、春にはヒロインが学園にやって来るって言うのに、その前にどうにかなってしまいそうだわ。
「景気付けにフーゲンでも行こうかしら?」
あらら、フィンネル兄様まで頭を抱えだしたわ。しょうがないわねぇ、二人揃って心配性になってしまって……。
でも結局、数日後にフィンネル兄様が付き合ってくれて北限の氷の洞窟ダンジョンに行って来た。最終フロアの氷雪ドラゴンが魔石化する前に、偶然欠片が懐に入ったらそのまま残ってた。これって解けない氷だ、大事にバッグに仕舞った。そう言えば言い忘れてたと思って、ユトドラス洞窟ダンジョン内でジル様に会った事を報告しといた。学園で冒険の話にでもなった時にマリナの話が出たら困るからね、でもあまり話題にして欲しく無いな、大怪我したことは内緒にしておきたいもの。
お仕事をしたり、またダンジョンに行ったりと、充実した冬休みを過ごした。
そろそろ皇都に出なきゃなぁと思っていた頃、シナリオ開始の足音が急激に近づいていた事に、この時はまだ気が付いていなかった。




