55. 悪役令嬢、建国記念パーティーは鬼門です?
今年の社交シーズンの始まりを告げる建国記念パーティーの日になった。昨年、私は社交界デビューを兼ねて白を基調としたドレスだったけど、今年は自由だ。水色を基調とし、パールホワイトとパールブルーのシルクオーガンジーを重ねたふんわりしたドレスに雪うさぎの魔石を桜の花びらの様にカットしたルースを散りばめた美しくも可愛いドレス。化粧もそれに合わせて、いつもよりも柔らかい印象に見えるように詐欺気味のメイク技術を駆使した。
どうしてもこのドレスを着たかったのよ。
ディナは今年が社交界デビューでエスコートがヘルムルト・パドウェイ公爵嫡男の為、デビュタント入場では一番最初に入場となるはずだ。エリン・スチュワート公爵嫡男の婚約者は同年齢のはずだが、来年十五歳でのデビューにするらしい。来年と言えばヒロインと同じね、入場順で揉めそうだわぁなんて考えていたら、デビュタントの入場が始まった。
ディナ綺麗だなぁ、やっぱ恋する女の子って違うわよね。どうかヒロインがヘルムルトとハーレムルートを選ぶことがありませんように!なんて祈ってしまう。思えば、皇太子ルートが一番犠牲が少ないんだなぁ、だって私だけだもん。他の婚約者達はヤキモキはさせられるけど、ヒロインをいじめさえしなければ何も起こらない、ハズなのよね。私が虐めた事になることもあるけど。ファーストダンスが始まった。今年デビューの25人+パートナー15人の20組が初々しいダンスを披露した。
私はエスコート役のリンデーン兄様とダンスを踊った。目論見通り(魔石としてのランクは低いけど)上品質の魔石はカットの妙技も加わって注目度抜群だった。挨拶を交わしながらもドレスに興味津々で色々聞かれる。ここぞとばかりに我が領内の新事業ルゥナ(古語で月の意味)工房を宣伝した。お母様もパール光彩の入ったブルーの魔石を裾にいくつも下げたショールを掛けていて、挨拶の度に長い事捕まっていた。皆んな綺麗な光り物に目がない。
ダンスも踊ったし、挨拶もひと段落し、大分疲れたのでリンデーン兄様に断ってスウィーツを取りに行こうとしたら、リンデーン兄様も付いて来てくれた。今日は私に付きっきりだ、なんだか申し訳ないけど、頑として離れない。
とろけたチョコレートをコーティングしたベリー類で飾ったケーキを一つだけ皿に取って、人の邪魔にならない場所に移動して食べ始める。うーん!美味しい!このチョコレートとっても上質な奴だ。うちのチョコレートも製造技術向上に努めようと新たに決意した。
「一つでいいの?」なんて、お兄様に揶揄われたけど気にしないもん!私だって一応場の雰囲気は読むわよ。でももう一つくらいなら良いかなぁ?とお兄様と目を合わせた時、誰かと少し肩がぶつかった。振り返って確かめたけど急いでいたのか見当たらなかった。「危ない奴だなぁ、パーティー会場で走るなよ」リンデーン兄様の声でああ、今ぶつかったの男の人だったなと思った。そこで、思考がふんわりとして来た。
「マリア?」
お兄様の腕に乗せてた手から、全身から力が抜けてその場で沈み込むように意識を失った。
聖女であることを隠蔽していたために加護の武装まで無い状態であったことが完全に裏目に出てしまった。
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side.Lindane
くそっ!なんてことだ!付きっ切りで一緒に居たのにこれでは意味が無い。いや、まだ間に合う。間に合わせなければ。妹のドレスの隠しポケットにはこんな時の為の聖水が入っていたハズだ。見た目には怪しいがドレスの隠しポケットを探すとすぐに見つかり瓶を取り出した。その瓶は領内の教会で使用している聖水の瓶をあらかじめ入手しておいた物だが、中身は当たり外れ無しの高品質の聖水だ。非公開だが、教会に配布されている聖水の内30%程は母上が生成したものだ。口移しでは効果が薄くなるのは承知だが意識が戻らなくてはなんともしようがない。人目も気になるが手遅れになったら御終いだ。ひとまず一口飲ませる。ほどなく薄っすらと目を開き微かな声で「肩…に…」と呟いた、周囲の喧騒で気が付いていなかったが、すぐ近くに来ていたフィンネルが妹の肩から1.5cm程の小さな針を抜いてポケットチーフの上に乗せた。
「毒針だ」
手が震え始める。フィンネルが俺の手元から聖水の瓶を奪い、妹の上半身を起こして瓶から直接飲ませようとするが、中々飲み込んではくれない。少しずつ喉には入っているようだから根気良く飲ませている。
両親が駆けつけて来た。母上が【解毒】と【回復】をかける。そうだ、フィンネルは事前に妹の魔法で聖属性持ちであることを隠蔽して貰っているし、ここで使う訳にはいかないが、母上は聖属性持ちであることを皇帝にも知られているから癒しなら問題なく使える。
「解毒が全く効いてないわ。 今動かすのは毒の周りが早くなって危険だけど、聖水が効く前にこの子の体力が持たないかもしれないわ、部屋を先に整えに行って!」
俺は急いで皇宮内に与えられている部屋に向かい、室内を整えた。
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side.Fennel
再び意識を失った妹に母上が再度回復魔法をかける、それだけ体力の低下が著しく息が細い、かなり少量で致死量になる即効性のある猛毒を使用されたらしい。飲ませた分の聖水で足りたのかも心配だ。早く部屋に運び人目を気にせずに治療出来る環境に持っていかなければと、持ち上げようとしたが、父上が持ち上げた。体勢が変わったせいなのか唇の端から血が垂れているのが見えた。仰向けでは窒息する可能性がある為横に、顔を父の胸の方に向けて抱え直し、長い廊下を急ぐ。
ようやく部屋に入り、応接間から続く居間から更に寝室へ、素早くベッドに寝かすが体勢は横のままだ。父上の服はここまで来る途中で吐き出された血で汚れていた。洗面容器に口の中に残る血を吐かせる。
「血に毒が含まれているわ、【浄化】」
浄化魔法の方が聖水よりも即効性はあるだろう。そう人前では使い辛いのが難点だが。浄化魔法使いのほとんどが神殿に保護されているため希少なのだ。母上が使用出来ることは皇帝は知っているが広くは知られていない。
「どう?」
「分からないわ。息はあるし、脈もある。このまま様子を見るしかないわね」
母が苦しげに眉をひそめる、それだけ予断のならない状態だということだ。廊下をバタバタと騒がしく駆ける音がする。この部屋は既に内鍵で閉ざされている為何人たりとも無作法に入り込むことは出来ない。
「おい、どうなってる開けろ」
それでなくとも妹に関係する好感度無しの殿下がノックとも言えないほど扉を叩きながら命令する声がする。
普段あんなに嫌っていて無視してて、今日みたいなパーティーでさえも一曲も相手しないくせに、心配だけはするのか?それとも死を確認しにでも来たのかと、自分でも黒いな、と思う思考が過ぎった。
殿下だけでは無いのだろう。殿下を諌める声が聞こえなくも無い。それでも今扉を開ける気にはならないが。
父が寝室の内鍵をしとけと言い置いて、寝室から出ていった。早速鍵を閉める。妹の顔は何時もより念入りに化粧していたハズなのに真っ青で血の気が無い。口の周りの血を濡らしたタオルで拭いてやる。母上は化粧を丁寧に拭って落とし始めた。顔色は益々青く見えるが、剥がれかけた化粧姿を見られるよりは良いかもしれない。と言ってもまだ誰も寝室に通す気は無いが。
僕はやけに冷静になっていた。僕よりも強くて、頭も良く完璧で苦手だと思っていた妹が、実際はこんなに弱かったとは思っていなかった。向こうの部屋からは父の声と殿下の声がする。声の感じから応接間で押し止めたのだろう。
「まだ予断を許さない状態です、会わせることは出来ません」
父は断言した。
「見て見なければ分からない」
殿下が食い下がった。
「では殿下なら、聖水でなんとか保っている状態を、どうにか出来るとでもおっしゃいますかな?」
「……出直してくる」
やれやれ、ようやく素直に引き下がったようだ。本当に妹が心配なら大神官でも宮廷魔導師長でも連れて来いってんだ。まぁ今更だが。どうせ今夜の犯人だって分からずじまいだろう。
妹は翌早朝、ようやく目を覚ましたが、猛毒によって身体の内部がボロボロでしばらく安静が必要ということになった。母の浄化で毒を完全に消し去り、帝国最高と言われる回復魔法と治癒魔法を以ってしても到底回復したと言える状態にはならなかった。その前に母がMP切れを起こしてしまったからだった。
僕らは今日から学園に行くことになるが、はっきり言って今日くらいは休みたい。妹は自分がボロボロのくせに僕にかけた隠蔽を解いてくれた。このくらい負担にはならないと儚く笑っていたが、どんなものだか。
二人で学園に行ったが、誰も昨夜のパーティーのことを聞いてくる者は居なかった。そりゃそうだろう。まだ皇宮から動かすことさえ出来ない。特別措置でうちの護衛が監視に付き、身の回りを見る侍女もうちから呼び寄せた。
今状況を聞かれたって、僕らでも答えられる状態では無い。まぁ生きてはいるって程度だ。
皇太子妃ってそんなになりたいモノなのかねぇ、妹に直接言ってくれれば喜んで譲ってくれると思うがな。
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ゲームシナリオ関係のイベントでは無いのに、やはりこのパーティーは最初から私にとって鬼門だと思う。来年はヒロインとの初顔合わせイベントがあるけど欠席したいなぁと思いながら、皇宮内ではあるけど全ての隠蔽を解いた。
この状態の淑女の部屋に皇帝ともあろう方が入ってくる訳が無いだろう。まぁたとえ来た所で両親が通さないよね。
毒はどうやら消えたみたいだけど、自己回復で内臓一気に治癒しちゃったら流石にマズいかなぁと思って、かなり苦しいけど大人しく安静にしておくことにした。う~ん、学園何日くらい休むことになるんだろう?それより早く別邸に帰りたい。洗浄で身体は綺麗にしたけど、やっぱお湯に浸かりたいよ。何より皇宮じゃ気が休まらない。




