54. 悪役令嬢、そろそろ二年生になりますわ
あっという間に一月半の冬休みが終わると、後は1週間後の学力試験と3月半ば過ぎのプロムパーティーが終われば学園は春休みとなる。春休みだけは約1週間と短いのね。
プロムパーティーもシナリオイベントが発生し易いイベントだ。主役は卒業生なのだけど、好感度アップイベントにそんな周囲の事情は関係無いらしい。ちなみに断罪イベントがありがちな催しだけど、このゲームの世界では”断罪イベント&婚約破棄イベント”は食堂で起こる事になっている。いつ起こるか分かり辛いため却って心臓に悪いかもしれない。
友人達とのランチタイムの話題は冬休み中の話よりもプロムパーティーの話で盛り上がった。やっぱりパートナー問題。ディナはヘルムルトで決定だろうと思うけど……。
「それがねぇ、今年からパートナーは同学年という決まりに変わったのですって!酷いと思わない?わたくし楽しみにしてましたのに」
「まぁ、ディナの気持ちは分かるわ。 お互いのパートナーが気になるところよね」
「でしょう!?」
私含めた4人には決まったパートナーなど居ないので、皆ですっかりディナの話の聞き役に回っている。
「あら、と言うことは、一年生は令嬢が10人余るのでしたっけ?」
「マリー、そこは心配ないのよ。 プロムパーティーは必ずしもパートナーが居なくても良いの」
「まぁ!ではわたくし達は壁の花にも成りきって、卒業生の皆様方をお祝いする方に徹しましょう」
「仕方ありませんわ、他の殿方をパートナーに等したくありませんもの。 わたくしも壁の花になりきりますわ」
「でもデザートコーナーには行かれるのでしょう? 毎年沢山のデザートが並ぶのですって! 楽しみですわ」
「立食なのが残念ね。 ゆっくり紅茶を飲みながら頂きたいのに」
「その前に週末には学力試験ですわ」
この学園の学力試験は成績結果で進級に影響が出るわけではない。ただ今回は二年生の組み分けに関係するため皆必死だ。少なくとも二組には入っておきたい所だろう。まぁ私達は特に問題が無ければ二年生でも同じ組みになれると思うけど。
陽の光が暖かいので外に視線を向ける前にジル様と少しだけ目が合った。まぁそうは言っても向こうは相変わらずクールで何考えているか分からない表情なのだけど。やっぱり向こうの席でもプロムパーティーのパートナー問題を話してたりするのかしらね?
こっちはともかく、向こうの攻略対象者達は仮にでもパートナーを決めておかないと大変な事になりそう。完全に他人事だけどね。
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side.boys
「学力試験なんて殆ど意味の無いものやらなくて良いのにな。 無駄なだけだろう」
「ああ、それはこの学年の一部に限ってのことで、他では成績で次学年の組み分けが決まるとかで、かなり必死らしいですよ」
アーノルドに答えたのは側近兼侍従のジーンだ、護衛も兼ねてる。アーノルドの居るクラスは高位貴族で固められており、基本的にはクラス替えなど無い。つまり低位貴族が取り入る隙が無いと言う事でもある。他の二組は組み分けの変動がかなりあるらしい。
こっちは冬休み中の話題が中心になった。最初槍玉に挙げられたのはやはりフィンネルだ。
「フィンネルが冒険者? 随分と似合わない所に行ったな」
「母命令です。 鍛錬が足りないから実地で磨けと。 私共の領内には魔物が出ませんが、城塞付近はその限りでは無いので念の為魔物討伐にも慣れておけ、とのことでしてね」
アーノルドにはよりシンプルに答えていた。
「姫将軍の傍若無人振りは変わらない様だな」
「まぁ誰も止められませんから」
リンデーンも答える。『うちの母はそもそも元皇女様なんですが皇家の育て方は問題ないんですかね』と恐らく目で訴えているがアーノルド皇太子殿下には通じない。
「リンデーンはやらないの?」
「俺は領地経営で精一杯だ。 そもそもうちの領は細々とした小規模産業が多くてその把握と管理だけでも大変だ。 それに鉱山の埋蔵量問題、うちの領に限ったことじゃ無いだろ? ツヴァイクが大理石の年間産出量を制限しだしたらしいな。 うちも考え中だ。 代わる税収を確保するのが難しいよな、単に値上げするわけにもいかないし。 エリンの所は魔石だって?」
「ああ、まぁ今の所帝国内では価格も落ち着いているし、安定供給さえ出来れば良いんだろうが、どう冒険者達を繫ぎ止めるかだな。簡単なことでは無い。 今年は小麦の収穫量が若干良く無かったんだよなぁ~周辺の他領も同じ状況だと、お前んとこ以外な」
「へー、そうだったんだ? まぁうちの小麦生産量は元々多くは無いから変動が目立たなかっただけだろう」
それがマリノリアの加護の所為だと知っている者は居ない。今の聖女の加護はデボワール領からスチュワート領の端位にしか届かないようなのだ。むしろ北方3国の方に加護の恩恵が効果を上げていた、とは誰も知らないことだ。昨年までふんだんにマリノリアの加護を受けていた土地の豊穣効果がほぼ無くなって生産量が落ちるのは当然のことであったが、まだ問題になるほどの生産量低下では無かった。
「ああ、だから学園で急に収穫祭なんて言い出したのか?」
「ヘイムは単純で良いなぁ。 そんなわけないだろー」
「何もう、フィーはその訳知り顔ムカつくんだけど。 何か知ってるわけ?」
「教会がらみ」
「むしろ神殿がらみじゃないのか? 穀物の生産量や天候に至るまで一番気を使っているのはあそこだろう?」
「わたしも殿下のおっしゃる通りだと思いますね」
殿下の金魚の糞パトリックは常に通常営業イエスマンだった。
「今年の冬休みは皆真面目に家の勉強だったのか。 つまらないなぁ」
と、自身も勉強漬けで面白くもない休みを過ごしたエリンが愚痴った。
「一人だけなんか楽しそうな奴いたけどな? ジルもそう思わない?」
「はぁ、本当にヘイムは良い加減にしないとパーティークラッシャーしかねないから気をつけろ?」
「それジルに言われたくなーい。 また助っ人で入ったパーティーの女の子に口説かれてたでしょ。 それよりフィーの話聞きたいんだけど、ダンジョン巡りはどのくらいしたわけ?」
フィンネルは眉を顰める。実際のところ、ダンジョンへは試験合わせても3回しか行ってないのだ。
「僕もそれなりに忙しかったからね、まともに入ったのは2回だよ」
「それであの買取額って、そういえばランク聞いてないんだけど、今度3人で行かない?」
「えーっ、ヤダよ。 お前ら高ランクの中に低ランクの僕が入っても足引っ張るだけだから!」
やいのやいのと突き合う3人に興味引かれたのかアーノルドが話の水を向ける。
「冒険者って楽しい?」
「殿下、冒険者は楽しくてやるものでは無いと思うのですよね。 生活掛かっている者が多いんです。 僕の場合は実戦経験を積めとの命令です」
「そうだよな、魔物と戦って楽しいわけがないな」
フィンネルは何時マリナの話題が出るか内心ヒヤヒヤしていたのだが、アーノルド殿下も居たことで難を逃れることが出来た。
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学力試験、一年生は特に変わり映えなかった。下位は変動が激しかった様だけど上位の入れ替えは無し。ランチ友達5人は揃って同じ一組にて二年生に進級出来る事になった。
「不安はありませんでしたけれど、良かったですわ」
「ふふ、二年生もよろしくお願いしますね」
なんて、もう気分は二年生だが、一年生の期間はあと一月半ほど残っているのだ。しかしプロムパーティーと言っても、ドレスを着用するのは卒業生のみで、他の学年は制服着用のため特に用意するものもない。すっかり日常に戻って日々を過ごして行くうちにあっという間にプロムパーティーになってしまった。
宣言通り、5人の令嬢達は壁の花に徹して居た。シャンパン替わりのジンジャーエールや炭酸水で乾杯をし、歓談を楽しむ。輪になってしまうと他の者達は声が掛けづらい状態になってしまう。更にデザートが出てくると、皿に思い思いのデザートを盛り、テラスのテーブル席にいち早く座り込み話に花を咲かせた。約1週間後の建国記念パーティーの話になると、ドレスの話やパートナーの話でより盛り上がる。
ディナはやっと念願叶ってヘルムルトと公式の場でエスコートして貰えることを喜んでいた。
私のパートナーは相変わらずリンデーン兄様だ。殿下のパートナーなど知った事では無い。
私の目下の楽しみは当日着るドレスだ。水色を基調にして、雪うさぎの桜貝色の魔石を桜の花弁の様に職人にルースカットして貰い、ドレスのそこかしこに付けるのだ。魔法付与はしない。念の為私は聖女のステータス隠蔽を行うため、守りを考えて付与した方が良いかとも思ったけど、あまり物々しい装いでも目立ってしまう。昨年は油断したが、今年は1人にならない様にと、家族とも打ち合わせ済みだ。
他の3人は無難に親戚にパートナーを頼んだらしい。やはり成人まで決めたくないとのこと。そうよね、まだ十二歳だもの、ゆっくり考えたいわよ、私だって。
シナリオ開始前にまだ大きなイベントが待ち構えているなんて、この時は考えても居なかった。




