50. 悪役令嬢、実益を兼ねてお兄様を鍛えますわ
悪役令嬢によるシナリオ破壊が進んでいく^^;
「この寒い中強行軍で行くとは思わなかった……」
リンデーンお兄様が温かい紅茶を口にしながら呟く。
「馬車旅に飽きちゃったのよ、騎馬でスカッとするのも、たまには良いでしょう」
「まぁ、途中仮眠を入れても丸1日で着きましたからね」
呆れながらもフィンネルお兄様は意外と肯定的だ。
相変わらずお母様の無茶ぶりは健在。何もこの寒空の下、祖父母の住む別邸まで騎馬で強行軍しなくても良いのに。でも馬車でゆっくり旅しても結局は疲れるんだよね。同じか?うーん、何か違う気がする!
リンデーンお兄様は自分だけでなく護衛騎士達含めて風魔法で結界を維持し続けていたから、フィンネルお兄様よりもお疲れ気味だ。見た目には分からないけど。
おかげさまで私達はそれほど寒くなかったから、思っていたより疲れも酷くない。お兄様やる時はやるのね。
「んー、でもちょっと疲れたから、ランチ前だけど温泉浸かってきて良いかしら?」
ここに来たからにはやっぱ温泉!何故かお母様も一緒なんだけど。
「やっぱり良いわよねぇ、本邸の方も掘ったら温泉湧き出て来ないかしら? 場所的には行けなくも無いと思うのよねぇ」
「大浴場は既に温泉掛け流しでは? そうしたら、お祖父様の療養も本邸で良くなるのではないかしら?」
「まぁマリ、ここはここで良いのよ。 だって景色も良いし空気も山の幸も何もかもいいでしょう」
まぁ、確かにここはここで、休みに来たって感じがして凄く落ち着くし、癒されるのよね。
それにしても、皇都の別邸以外は自領内にしか別荘が無いってのも公爵家ではうちだけかも。郷土愛ってやつかしら。
ああ城塞は別として。あそこは住む場所ってよりはあくまでも防衛基地だからね。一応先の戦争で戦果を挙げた褒賞の体でもらい受けたものだけど、貰い受けたのは敷地だけで建設したのはうち、なんか良いように使われている気しかしないわよね。アルト王国の食料不足は相変わらずで、鉱石やらの採掘で食いつないでいる状態らしいけど、それっていつまで続くのかしら。戦時賠償金の支払いは負けられないけど、民間レベルでの生活支援事業(目下は砂漠の緑化)とか出来れば良いんだけど、国交が無いの。終戦時に停戦条約だけで平和条約を結んでいないからまだ敵国なのよ。
ははは、何だろうね私の状況もあるけど、うちの事情的にもつい色んなことを考えがち。でも私まだ一二歳なんだよ。少なくともヒロインが入学する日、シナリオがスタートするまでは平和な日々であるはずなのに、何でこう一々ネガティブになっちゃうんだろう。不安でしょうがないの。
むにっっとほっぺを突っつかれた、ここには私の他にお母様しかいないから犯人はすぐに分かるのだけど。
「お母様ったら何してますの?」
「だってぇー、マリが全然癒されてないんだもの。 まだ若いから、色々考えるのも良いと思うわ。 でもね、考えすぎたって楽しい事は向こうからやって来ないのよ? 動きなさい、何ならフィンネルでもお供にこき使って良いわよ!」
「ええ~っ、お兄様に何をさせたらいいの?」
吃驚よ。ヒロインの攻略対象者でもあるお兄様方とはどこか距離を置いていたのだけど、それが難しくなって来た。こんなコトは想定外だ。
「リンデーンお兄様はお父様がしっかり領地教育を施すことになっているのに、フィンネルお兄様も付いていなくて良いのかしら? 将来は補佐的な立場になるのでしょう?」
「フィンネルはそれだけに収めるつもりはないのよ、色々経験して欲しいの♪ そうそう!工房の件も一杯噛ませるわよ。 あの子聖属性持ちだし、貴女ほどではないけど【浄化】も使えるの。 でも内緒よ、バレたら皇家と神殿に狙われるから」
ふへーっ!って私のこともどれだけバレてるのかしら? お兄様情報初耳だよ。 それゲームのキャラ設定にも出て来てない情報ですよ!だって……。
「お、お兄様って帝位継承権第六位で、その上浄化魔法使いなんて知れたら、まず間違いなく次代の大神官に推されますわよね?」
ゴクリと喉が鳴る。うわぁ、私以外にもこんな所に皇帝に狙われそうな人居たー!うちってどうなってるの?ああ、そうか、これが純血主義がリスクを承知でも一向に無くならない理由か。皇子達のステータスはどうなってるの?機会があれば鑑定して確かめたい。それに、加護の浄化が弱いヒロインよりも、任意で【浄化】の魔法が使える方が聖水の生成も出来るしどうなの?まぁ聖女は様々な加護があるから一概に比べるべくものでは無いのだけど。特に『豊穣』の加護は聖女だけの付加価値だ。
「そうねぇ。 でもそんなことよりも、領地のために何が出来るかを考えたら、そっちの方がよほど楽しそうでないこと?」
これはお断りできない流れだ。お母様お得意の強権発動の流れ。お兄様方とは距離は置いておいた方がいいと思っているのだけど、仲は悪くなる訳にはいかないのよ。そんなの自ら断罪フラグを立てるよなものだもの。だったらいっそ仲良し兄妹になってしまった方が断罪フラグを少しでも遠ざけられるのでは?こうなったら私も腹をくくるしかない。
フィンネルお兄様用のコスプレ衣装作っちゃる!お兄様なら金髪青灰眼でそう珍しい組み合わせじゃ無いから、ちょっと髪型変えたりすれば兄妹パーティーの出来上がりよ!最下層まで連れて行きまくって強制鍛錬させれば強くなって私に対する苦手意識が低くなるかもしれないし、ついでに商会で使う魔石集めにも役に立ってもらうわ!元手タダで荒稼ぎ!商品の原価は低ければ低いほど旨味が出る!おおっと、うちはそんなにお金に困っている訳ではありませんよ?
まぁお兄様とパーティー組むのに不都合があるとすれば、アートとルーンの偽名二人組に会った時ね。お兄様のコスプレは流石にバレるわよ。いっそ女装、うん、絶対に嫌がられるね。
若干楽しそうな計画が持ち上がって、山の幸を贅沢に使った夕食を堪能して、良い気分でぐっすり眠った。
▽▲▽▲▽
「この衣装は何?」
うん、傑作じゃないの。こう見るとお兄様ったらハイエルフみたいね、弓持たせたのが余計に効いてるかしら?
フィンネルお兄様は衣装の試着に付き合ってくれていた。案外ノリが良いのかも。アースカラーのフード付きマント、全体的に色味は抑えめにしたのに目立つわぁ。某大作ファンタジー小説の美形エルフを意識して作ったのは内緒だ。
「うん、良い感じよお兄様! これで冒険者登録して一緒にダンジョンで魔石集めするのよ!」
「ああ、なるほどね……部屋に籠ったフリして、こっそりダンジョンなんて危険な場所に行ってたのか。 何となく予想はしてたけど」
お兄様は呆れながら思いっきり肩を落としている。
「護衛も連れずにお出かけしてごめんなさい。 でも私だってバレてないのよ?」
「そういう問題じゃ無いって、魔物がいる所に率先して出かけるなんて酔狂だって言ってるの! まぁ僕で護衛になるかは置いといて、もう一人で危険な所に行かないようにね」
「考えておくわ」
無理無理!だってお兄様の予定に合わせてたら、益々ダンジョン巡りに行けなくなるじゃないの。
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祖父母の住む小さな別邸には一週間滞在する。その間にフィンネルお兄様の冒険者登録をしに行くことにした。場所はどこにしたかというと……。
「この寒い冬にまさかの氷原って何考えてるの! 帝国最北の地、ツンドラ大森林が覆う大山脈の天頂は永久凍土、たとえ麓といえどもこの酷寒の中で地下ダンジョンなんて無しでしょ」
「だって、その方が冒険者活動している二人に出会さないかなって思って」
「ああ!ジルとヘイムね! 確かに今ならローザナスとか、彼奴らなら大森林周辺の高難度ダンジョンだろうな。 でもここのダンジョンも結構エグいんじゃなかったか?」
「低階層は可愛いらしいわよ」
「そう……」
文句を言いながらも付いて来てくれました。まぁこの地にやって来たのは私の転移魔法だから強制だけど。
さて、ここはルキタニス北の辺境伯領のお隣でナロ伯爵領。
「ここのギルドは領都に無いんだよね、まさに街全体が冒険者の街だな」
北限の街にしては活気がある。ここ実は炎属性の人には相性が良いダンジョンで密かな人気がある。ただしダンジョン踏破クラスは高くAともSとも言われている。最終フロアボスが氷雪ドラゴンで、火属性でも相当の高レベル魔法を使えないとダメらしいのと、火属性魔法抵抗を持ち合わせているらしい。私はお兄様が冒険者登録試験を受けている間、このダンジョンの踏破をしながら待つ計画なの。ただ待ってちゃつまらないもの。
ここの冒険者ギルドは街の真ん中に有った。中々珍しいけど冒険者の街ならではなのかも。
レンガ作りの温かみのある建物には煙突があり、煙がもうもうと吐き出されている。建物の脇で薪割りをしている人が居た。暖炉全開で暖めてるのだろう。暖房の魔術道具とか使ってないのかな?
分厚い両扉の左側は固定されている。暖房効果を高めるためだろうけど出会し事故とか多そうだなぁと思いながら慎重にノックをしてから右側の扉を引いて開け、速やかに閉めた。
やっぱり注目を集める。怪しい目隠しと深くフードを被った私は慣れっこだけど、お兄様が思いの外目立ち過ぎる。お兄様もフードは被ってるのだけど顔隠れてないからかなぁ。やっぱ美形でキラキラ王子様だもん、分かるよ。明らかに年上のお姉様方もぽや~っとしてるわ。お兄様はそんなことも意に介せずに周囲を珍しげに一周眺めて、打ち合わせ通りに受付に向かった。
「すみません、冒険者登録をお願いします」
「い、いらっしゃいませ! 冒険者ギルド、フーゲン支部へようこそ! 私は受付のハイジ十五歳です、よろしくお願いします」
おう、自己紹介で年齢まで言っちゃった受付嬢のお姉さんは初だよ、めっちゃ緊張してる。
こげ茶の髪をおさげにした、大きな桃色の瞳が可愛らしい女の子。掲示板辺りから「ハイジちゃんも結局顔か」「あの冷たさはどこに」なんて聞こえた。うん?なるほど、いつもはキャラが違うらしい。
お兄様を受付に預けた後、私は『北限の氷の洞窟ダンジョン』に向かった。
入り口付近の小屋には既に3頭の馬と、2台の馬車が止まっていた。ほお、馬車は自前なのかな?中々活動資金に余裕のあるパーティーが入っているんだな。何組先に入っていようがダンジョンの中で出会う事は無いので、気にせずそのまま入った。
低階層はサクサクと、可愛い雪うさぎは仕留めるのに戸惑ったけど、小さくても桜貝色の可愛い魔石が取れるのが分かったのでばっさり行くことにした。あ~段々冒険者らしくなって来た?剣が冷えて霜が付着して切れ味が鈍るので、炎を纏わせた魔剣風にしてスピード攻略。魔石集めが目的なのでもちろん索敵で引っかかった魔物は一掃の方向でガンガン突き進む。
そして最終フロア67階層、ここでやっと休憩。うーん、お母様の鍛錬に比べたら疲れてないけど、私の腹時計によると時間は結構経ってる気がする。たぶんお昼は過ぎているはずだ。
お兄様は試験どこまで行ったかしら?もう終わっててもおかしく無い時間だけど、試験官から食事に誘われてゆっくりしているかもしれない。それでもお昼過ぎたら終わってるよね、心配してるかな?
鏡を通して【探知】うわぁ、Lv.60のドラゴンってどんな?まぁ良い、とにかくやろう。扉を開けて最後の勝負に臨んだ。
▽▲▽▲▽
冒険者ギルドに戻ったら案の定、お兄様の試験は終わっていた。喫茶ラウンジのカウンターで暖かい飲み物を飲んで待ってた。
「どうだった?」
冒険者の時はお兄様にも庶民風の態度を貫いている。
「受かったよ。 アドバイス通りに3階層だけで狩まくったらDランク取れた」
「は?」
おい受付嬢、いやここの職員全体か?普通はFかEスタートですよね?それがどうしたらDランクスタートに?実力は問題ないと思いますけど、決まりってどうなってるの?美形は万国共通で得するの?なんか悔しいんですけど!
「じゃあ後でお祝いだねー」と言いながら、今日の成果物を受付にどさり。
「はっ、えええっ、ダンジョン踏破ですか?えっと、おひとりで……?」
ええまぁ、最後の氷雪ドラゴンはカチ割りました、力技で行けちゃったんです。
驚き慄いてる受付嬢に変わって他の職員が次から次へと鑑定して、冒険者カードに討伐記録を付けてくれる。魔石は買い取ってもらわずに全部引き取った。いくつかドロップしたアイテムの内、興味無いものだけ買い取ってもらった。
「この調子でいけばそろそろCランクに上がれそうですよ、頑張ってくださいね」
明るく声をかけてくれたギルド職員のお姉さんにお礼を言って、お兄様のところに行った。私も暖かいココアを注文して飲みながら、お兄様の活躍の様子を聞かせてもらった。うーん、やっぱ弓にして良かった。剣も持たせたけど、ゲームの公式設定では『弓の方が得意』となっているのだ。
これで私が前衛、お兄様が後衛というバランスの取れたパーティーになるんじゃないかしら?だって補助魔法はお兄様も大抵使えるハズだから問題無いもの。
お兄様をパーティーに勧誘したそうな女性達の視線がチクチクするけど、とりあえずここでの目的を達成したのでギルドを後にして、適当な所で転移して帰った。




