46. 悪役令嬢、飽和で大変だけどダンジョンデートですよ
残酷描写ありです。
これが飽和効果か。皇都に居る間はなるべくする様にしている『聖女』のステータス隠蔽をしなくて良かった!
本来休憩所として機能している階段に向かって足早に入り込んだら居ましたよ、階段を埋め尽くすような三つ目うさぎ。もふもふで可愛いんだけど、やっぱ魔物なのね、天眼開いて臨戦態勢ど真ん中!殺る気に溢れてますね~しかも、体長が60cm前後、1匹1mのボスっぽいの居るんだけど、これってアレかな?レア進化個体かも。天眼の目の色も通常は赤いのにこの子は黒い。
よーっし!君に決めた!プチボスは絶対に私が仕留める!ドロップアイテム欲しい!まぁ必ずドロップするわけじゃないけど、どうも私には『幸運宝箱』というドロップ率上昇の『加護』が付いている。流石転生特典の聖女だ、加護のおまけも大盤振る舞いだね!これを活かさない手はない。
「足の踏み場もないから、一気に蹴散らすしかないか。 うさぎにしては巨体だから、一掃するにも火力必要だな」
「あ、大丈夫、今度は私に任せて! えーい!」
レアは私が貰った!気合い入れて剣に【斬鉄】【鋭利上昇】一気に付加し【風纏い】、刀身に風を纏わせる事で剣圧をより強化する狙いだ。やっぱ剣士らしい戦いを心がけないとね。斬鉄と鋭利化は元々剣に付与もしてあるんだけど。階段の傾斜に合わせて横薙ぎ一閃。
とりあえず階段スッキリ、魔石拾いが中々大変だったけど、有りましたよアイテムドロップ♪手鏡かな?装飾が銀とタンザナイトみたいでちょっと大人っぽい可愛さ。呪いはかかってない。
鏡って言うと、魔鏡かな?
「へぇ、レアアイテムのドロップか、ちょうどマリナに似合いそうだな」
「これ、私が貰って良い?」
一緒に行動している以上、こう言ったやり取りは必須。誰が仕留めたからって理論で行くと、後々乱戦になった時に揉めるんだよね。それで売ってしまってパーティーの運営資金に回してしまう決まりのパーティーも珍しくない。ジル様はレア魔石も私にくれた、仕留めたのは私だけどジル様から受け取っただけで私の中で魔石の価値が上昇。我ながら単純だね。でもルビーのようなとても綺麗な魔石。冒険者用の装備に使おう。20cmと大きさもあるから、数個に加工してもいいなぁ。
でもここは飽和真っ只中のダンジョン内、階段は休憩所ではないため次のフロアに入った。
うん、やっぱこの光景いい加減見慣れたよ。階段で大量の魔石拾いをしている間に階段前に押し寄せて居たであろう魔物が居ない。
「ここも索敵に依れば階層内に76匹とボス、なんだが……」
「まぁとにかく進もうよ、3階層までは一掃で行く?ギルド側の緊急クエストパーティーが何時来るか分からないし」
「それが良いかもしれないね、あとは状況で考えよう」
はいすみません、聖女なので基本魔物に避けられるんです。出現率も下がるので飽和も若干落ち着いているみたいですね、わはははっ(もうヤケクソ)
三つ目うさぎが大量だったけど、鹿と馬も居た。出会い頭二人で的確に一掃していく。私は剣圧で数頭一掃作戦だけど、ジル様は急所一撃で綺麗に無駄なく仕留めて行くスタイルなのね。
こうなると魔石拾いも結構な重労働、地味に疲れるね。それにしても綺麗な魔石が沢山あるなぁ、これアクセサリーショップに流したら潰れる店出て来るな。経済平和のためにもギルドに持ち込もう。状況に因っては大目玉食うだろうけど。
ここのフロアボスは愛くるしいお目々の栗鼠2匹。ただし巨体、3m。可愛くなーい、それにすばしっこい!ここはさっきと違って広さが十分あった。しかも周囲に蔦が蔓延っていて縦横無尽に逃げ回る。これは魔法で行った方が良さそうだな。
「【雷の矢雨】」
素早いので追尾も付けた、無駄撃ちは避けたい。まだ地下に何階層あるのか探ってないから省エネするに越した事はない。
ジル様の方を見たら土壁に閉じ込めて一刀の元討伐したみたい。MP温存作戦はまだ続く。巨体の割に魔物がそんなに強くないのかな。
魔石は2つ、でもぴったりと合わせられるような形になってた、くねっとした金の延べ棒みたい。これでペアアクセサリー、作るには大きすぎだね、重くてネックレスに出来ないよ。一つの太さと厚みが5cmで長さが18cm。はっきり言って置物にしかならない。フロア核が悉く大きい。
さて次の階段はどんなのが居るのかなぁ。来たーっ!階段だけじゃないよ、左右の壁と天井にも張り付く巨大イモリ2、30cm!うわぁ、別に爬虫類苦手じゃないけどここまで居たら別物でしょ?
「ここは俺に任せて」
「【火の玉】」
おおーっ初級魔法なのにこの高火力は反則レベル!しかも10個以上火球が飛んだよね、やっぱ魔力高いんだろうな。
イモリの丸焼き大量!これ薬屋に持ち込んだら喜ばれるかな?ダンジョンだから急いで素材切り取らないとすぐに魔石化しちゃうけど。ここも魔石拾いが大変だった。オブシディアン(黒曜石)に似てる、それぞれ緑がかっていたり青みや赤み、色々あって綺麗だった。
いよいよ地上部最終フロア、階段から考えると爬虫類わんさか出て来るのかな?少し湿った空気が流れて来ている。フロアに入り込んだ。全体は湿った洞窟のよう、所々に池のようなものがある、あ~なんとなく分かったよ。
そこらに落ちてた拳大の石を池に投げ込むと、ピンポイントで鼻の頭にぶつけられたワニが出て来た。今度は巨体なだけじゃなく背中にびっしりと堅い刺の様なものが生えている。
「【雷の槍】」
正面から口の中に入った槍は体内を貫き串刺し状態で絶命。雷が良く効きそうだね。
ここも索敵しながら一掃し、フロアボスはバジリスク。ええええ~っ。こんな所でもう出て来ちゃうの?しかも一気に目が赤く光って口を開けましたよ、とても好戦的だよ。
「【氷の盾】」
ジル様が盾で毒液を防ぐのと、私が前に出て今回のお宝の鏡をかざすのは同時だった。はい、バジリスクの石像一丁上がり!
ドロップアイテムが早速役に立つなんて気分良いね!魔石は血色珊瑚のような不透明の30cm玉、綺麗な真球で固そうだからこのまま国宝にして良いんじゃ無い?大規模な魔法の核にも使えそう。あ、だめだ、勿体ないけどダンジョン破りの仕掛けに使っちゃうんだった。思わずなでなでしてしまった自分が恥ずかしいわ。しかもドロップアイテムはティアラみたいな意匠の腕輪?濃いピンクの珊瑚が沢山付いてて、メインの石は血赤珊瑚を思わせる核と同じ石だ!とても可愛らしい。呪いは付いてないんだけど、ジル様私の頭の上に乗せて何してるの?フードの上から乗せても意味無いと思うの。
と、地上部3階層を制覇したので、ここで作戦会議とは名ばかりの休憩を取ることにした。流石にフロアボスの部屋までは他の魔物入って来ないよね?
ジル様もしっかり食料を冒険者バッグに入れていたので、お互い黙々と食事する。冒険者たるもの常に準備を怠らないのね。
まだ3階層しか降りて無いのに、数が多いからちょっと疲れたよ、主に魔石拾いでね。
食事を終えて、飲み物を飲みながら今後の対策を考えることにした。探知によると地下部分は30層と中々の深さ。それでこれからはエンカウントをなるべく避け、フロアボスに集中することになった。まぁ、エンカウント率なら向こうが避けてくれるから大丈夫だよ……。そろそろどうしようもない強制エンカウントの魔物とか出て来るかもしれないけど。だって一応飽和現象中だからね、もっと魔物だらけのはずなんだよ。
私は甘~いスウィーツも頂き、心と頭に十分な栄養と癒しを補給出来て準備万端。それにしても、ジル様と私って割と良いパーティーなんじゃない?お互いに干渉しないところが良いのかな?まぁ私もシナリオ開始前に地雷踏みたくないからね。
それからはフロアは慎重にゆっくり、階段に入る時もしばらく待ってから、でもフロアボスは速やかに倒す、と言うのを繰り返していた。ジル様も多分このエンカウント率に疑問持ってると思うんだよね、普通じゃないもん。流石に強い魔物との遭遇もたまに有ったけど、それにしたって何処が飽和だよって言いたくなる遭遇率。まぁ、それで聖女だとバレることはないんだよね、そもそも聖女によって受けられる加護の力はまだ未知の領域が多いの。大体貴重な聖女を魔物退治やダンジョンに連れて行くなんて無いからね。むしろ率先して入るべきだと思うんだけどなぁ。
それに多少なら聖属性魔法を使ってもバレない。治癒師は聖属性魔法を使える人が多い、聖女との違いは豊穣、浄化とかの加護。浄化魔法も必須だけど、他に神官、巫女なんかも使える、じゃなきゃ聖水存在しないよね。
まぁ、使わずに済めばこれに越したことはないけど。
そして地下12階層を抜けて階段に入った時、ジル様が荒く息を吐いて壁に寄りかかった。正直色っぽいけどそれ処じゃ無さそう!えっ?どうしたの?毒にでもやられたかな?
「ちょっと見させてもらっていい?」
頭を縦に頷く動作をし「頼む」と掠れた声で言った、不謹慎だけど色っぽくてクラクラしそうだよ。まぁ13歳でこの色気!邪念を振り払い見てみると、上腕部に怪我をしていた。傷自体はそう深いものではないのだけど、ジル様の額からは汗が流れているし、熱っぽい。一言失礼、と声をかけて傷口をよく視るため手をかざす。
これ、ヤバいやつだ。流石乙女ゲーム!ここで投入して来るか『ラッキースケベイベント!』
「あの、これサキュバスの毒です」
「……聖水持っていれば良かったな」
いや、聖水って教会で買えるものはかなり眉唾ものだよ、元のは良いんだけど薄めてる所多いからね!しかも下手な薄め方すると効果ほとんど無くなる、それでも金貨30枚だけどね!
治癒するとして、解毒?解呪?でもサキュバスの毒って特殊な催淫効果があって、やっぱ聖水しかないんだよね。ああ、万能薬でもイケた。金貨10枚だから、聖水ギャンブルするよりは確実だけど、とにかく売ってないの。材料の一部が希少生薬なんですって。
聖水なら私持ってるけどね。聖女ご謹製の特別品ですよ、効き目ばっちり非売品♪こんな小娘が聖水なんて高価な物持ち歩いているのってちょっと何処ろじゃなく怪しいかもしれないけど緊急事態よ、ジル様の身が危ないわ!
「ちょっと我慢してくださいね」
とりあえず傷口を聖水かけて洗い流す。んで飲む分の聖水を渡して飲んでもらう。
他人から受け取った怪しい瓶の飲み物を何の疑いもせずに飲んでくれるって、信用されているのか、それだけ切羽詰まっているのか。まぁ後者だろうな。
だってサキュバスの毒を鎮めるために、よく知りもしない女抱きたくないよね。仮にそんなことになったら責任取るとか言いそう。ジル様はクールで潔癖だけど紳士なのよ。遊び人じゃないから割り切れないの、娼館なんて論外だろうし。潔癖なだけじゃないのよね。
「これ、初めて飲むが聖水だね? 教会で入手出来るものと違うような。 とにかく助かった、ありがとう」
「あー、まぁちょっとしたコネで手に入れたやつだから気にしないで」
うーん、誤魔化せたか?聖水の瓶は教会の地区によって違うんだけど、まさかジル様は全部覚えてたりするのかな?私が使った瓶はミッドナイトブルーのオリジナル遮光瓶でちょっと珍しかったかもしれない。次は対策しておかなくちゃ。
傷口は聖水で洗ったことで治ってた。早いな、早すぎじゃね?魔法より時間がかかるはずなのにヤバいんじゃないのかな。でもまぁ、今まで聖水使ったことないって言ってたからここは冷静に流そう。
ここでしばらく休憩を取ることにした。毒の所為で体力の消耗が激しかったのもあるし、12階層一気だから流石に休憩入れようってことで。仮眠も取った方が良いんじゃないかと思ったけど。
「アートって学園内の巡回明けじゃなかった?夜間勤務明けならそろそろ仮眠取ったら?」
まぁ人が居る所で眠れないのは知ってますけどね、目を閉じて休むだけでも違うと思う。
「すまない、そうさせて貰って良いか?」
「うん、ゆっくり休んで」
もちろん!寝顔堪能させていただきまーす。ジル様はバッグからポーションを取り出し飲み干してから階段に座り込んで目を閉じた。私もエクスポーション飲んでおこう。このままじゃ精神力が崩壊する。
時間が出来たのでドロップした鏡を見てみる。視る魔法を強化する作用があるみたい。まぁ、白雪姫の継母が持ってた鏡のミニサイズって感じかな。あくまで補助アイテムだから魔法が使えない人にはただの手鏡だけど。でも普通に使っても可愛い、マリナの時にしか使えないのが惜しいわ!
他にもフロアボスからドロップしたアイテムがいくつか有ったけど、とりあえず全部ジル様に持って貰ってるから後で一気に鑑定して必要か、売るか話し合おう。
それにしても、よく眠ってるなぁ……かなり疲れてたのかな?まぁお兄様方にお酒で潰された時もよく眠ってたよね。