45. 悪役令嬢、好奇心に負けたお仲間が出来ましたよー
朝も早よから学園ダンジョン攻略。その前手順として侵入すべく、学園の敷地を覆う結界の中で、森の木の上から機を伺っていた。
結界の外からの転移魔法が難しい事は経験上分かっているので、姿を消す魔法を付与したマントですっぽりと身体を隠して、堂々と?正門から入らせてもらったのだ。
まるで忍者のようだなぁと、呑気に木の枝に乗り幹に寄りかかりながら考えていたら、ちょうどダンジョン出入口の見張りの交代になっていた。だけど交代時もダンジョンの出入り口から離れてくれない。出入口には重そうな鉄板の蓋が乗せてある。鎖がしっかりと掛けてあり、鍵がついている。ただ、鉄板には何も魔法付与されていないので、ちょっと気を外らせた隙に転移魔法でダンジョン内に入る事は可能そうだ。
(入った途端に魔物とエンカウントもあり得るから構えておかなきゃな。 聖女の加護はあるけど何と言っても飽和だもん)
見張りは3人。ただ転移で入り込む際に何も気がついてくれなければそれで良いんだけどなぁ。冒険者ギルドへの緊急クエストは出していると聞いていたが、まだそれらしい人達も来て居なかった。来て居れば外に冒険者ギルドの仮司令部みたいなのが設営されていると思うのよね。
ただここで待ち続けていても時間の無駄。よし鉄板の先の形状は既に探知で把握済みだ、普通の階段があって、たまに魔物が上がってくるだけ。
オーソドックスに石ころを音がするよう反対側に投げる。気が逸れた瞬間に【座標移動】もちろんこっそり、口の中でつぶやくように唱えた。
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「えーっと、以前お会いしましたよね、なんでここに付いて来ちゃったんですか?」
転移したらオマケが付いて来ていた。周囲に気を配っていたつもりだったのに!
私より大きめの手で口を塞がれ、肩に手を回されて出入り口から離される。ここで暴れたら外の見張りにバレてしまうので大人しく従った。床の角度はちゃんと平行だった。
「すまない」と言いながら手を離して解放された。
「冒険者Aランクでも単独は無茶ですよ、何考えているんですか」
声を低く、気持ちも抑えながら、目の前にいるジル様を問い詰める。確かまだBですよね、私はもっと低いEだけど!
「学園内の巡回を交代して帰ろうとしたら、その……木の上に潜む君を見かけたんだ」
ジル様、そんな眉尻を下げて本当に済まなそうにぼそぼそイケボで話されても、こっちはどうして良いか分かりません。
あああもうどうしてこうなった!見知っただけの女子を見かけて付いて来ちゃうのってどうなの?それはストーカーというやつでは?だって学園内に怪しい冒険者が潜入しているのを発見したら、普通は通報しなきゃいけないんですよぉ、それがジル様に与えられた任務のはずですからね。徹夜明けで判断力無くなってるのかな?いつもクールなジル様が?
「だから、付いて来たと?」
「1人で行かせるのは心配だったし……」
どうにも歯切れが悪くジル様らしくない。本当はやっちゃいけないことだと分かっているんだな。でもなぁ、これってどうしたら良いんだろう?
「止めるという選択肢を敢えて選ばなかった、ということですね。分かりました。
じゃあ共犯ですね!よろしく」
にこりと笑みを作りながら右手を出した。
潔癖のジル様はあまり握手を求められることを好まないはずだけど、ここに居る冒険者の女の子はそんなこと知らないはずだから。
「分かった、こちらこそよろしく」
ほよっ?ちゃんと握手しちゃうの?明らかにほっとしながら、笑顔を向けてくれる。
やっぱこの頃はまだ潔癖じゃないのかな?だとしたら何がきっかけでなったんだろう?
近寄って来るご令嬢をそれはそれは毛虫でも見るみたいな目で一瞥して去る超クールなジル様にも痺れたけど、好奇心に負けて目を輝かせる少年のジル様も可愛い。萌え死にそう!
ああ!そうだ、筆頭公爵家のご子息なのに時間を作っては冒険者活動をするくらいダンジョン巡りと魔法研究が大好きなんだから、今はこれで合ってるのかもしれない。
結局、利害の一致ということにして、一緒にダンジョン攻略をすることにした。ただし、ここで緊急信号なんて出そうものなら本来立ち入ってはいけない場所に立ち入った罪に問われることになるので、お互い無理はしないこと、っと言うことだけは約束した。私が転移魔法使えることはバレてるし!そうだ、ここ入った時の状況からしてジル様も使えるんだね。どの程度なのかまでは聞いてないけど後で聞いておこう、私も聞かれるだろうけど。
ジル様も存外諦めが悪かったのね。余程このダンジョンに入りたくてしょうがなかったんだわ。明らかな不審者を目にしてもチャンスだと思ってしまう程、入りたかったんですね分かります。
でも1人で大暴れする予定が狂ってしまった。だってどう考えても魔法使うでしょ、しかも今この時点でエンカウント率が怪しい。ダンジョン内に移動した瞬間、階段には小鼠1匹すら居なかった。話が違う。このフロアは魔物で溢れているはずなのに見当たらない。いえ、同じフロア内には居ます、目に付かないだけです。分かってます。
つまり、今このフロア内に居るのは雑魚敵だけだってことですね、ダッシュして切り捨てて良いですか?
「飽和だと聞いてた割に魔物が居ないようですが、索敵ではこの階層だけで45匹、他にフロアボスが居ます。 全部倒すか、なるべく温存してフロアボスを中心に倒していくか、どっちにします?」
「そうだな、本来ならダンジョン消滅を優先しなければならないから、なるべく温存して最終フロアまで到着しなければ意味がないのだが。 ただ出入り口付近の飽和を抑えることも考えてしばらくは殲滅しておきたい」
「そうですね、フロアボスの傾向の手がかりになるかもしれませんし」
私は頷きながら、ではあちらに居るので行きましょう!っと言って走り出した。
精神力、温存するならやっぱこれでしょ!ジル様のMPも温存出来るし良いよね。
「体力温存は考えないんだね」
なんて若干呆れたような声が聞こえたけど気にしない!
ダッシュして強制エンカウントと同時に剣を抜く、うーん、短剣でも良かったかな。見た目は凶悪そうなクマさんと二足歩行の牛さんだ。私が剣で2匹同時にやっつける。う~ん、首を吹っ飛ばすのは慣れないなぁ、なるべく素早くやっつけるには良いんだけどね、体が固そうだし。片やジル様も剣を抜いて急所である心臓を一突き。
「最初からブラックキングベアとミノタウロスか、先が思いやられるな」
息を吐きながら剣に付いた血を振るって落とすと、次の魔物に向かっていく。はっ!見惚れてる場合じゃないわ、サクサク行くわよ~。
ここのフロアボスはバカでかい猪だった、なんて言ったっけな。
「ベビーピグか、ヘビーの間違いじゃないのか?」
「大きすぎてこの部屋が小さく見える……」
2人揃って唖然とするしかない。これが飽和の所為なのか、通常なのか分からないけど冗談だと思いたい。フロアボス動き取れてないじゃん。でも急所を突くには体の下に入り込まないといけないけど潰されそう。やっぱ首かな?とても太いし硬そうだけどなんとかするしかないかなぁ。
「下がって」
ほやや、守ってくれるってことなの?
「【|火の槍《ファイアーランス】」
うわぁ、中々エグい一撃だわ。中級魔法だけどコントロールが素晴らしいこと、背中から心臓部を貫いて床まで焦げてますよ。この部屋で丸焼きにしたら、もれなく私達も同じ事になるものねぇ……。
「すごい!ありがとう。 あ、この魔石がこのフロアの核ですね」
そう言いながら拾って渡す、正直重い。巨体の割に早く魔石化してくれたのは有り難かったけど。
ジル様だしアイテムバッグは持っているだろうって思っての事だったけど、やっぱり持ってましたね。まぁ助っ人やってると荷物持ちなんかもさせられることが多いらしいから持ってないとキツいよね。
その核は失ってしまうには惜しいくらい綺麗な淡ピンクの魔石、しかも25cm!初っ端からこれか。あー、うん、冒険者ギルドの判断間違ってないね。応募状況とか作戦が分からないけど、こっちは秘密の別行動なのでフロア核を全部回収して行かなければならない。中々大変そうだ。
そう、お互い無理しないと言うことで話がまとまっているけど、ダンジョン破りする気満々で来てますから!レアアイテムドロップ狙ってますから!
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最初見かけた時は止めようと思った。帝国で約200年振りの新ダンジョン。しかも飽和現象など300年以上も前の伝説の話だ。不謹慎と言われようが、冒険者の中でもダンジョン好きには1度は目にしておきたいところだろう。
だが緊急クエストが発令されて、応募権利はAランク以上の冒険者にしか与えられていない。しかもパーティーランクがAでも個人ランクもAでなければダメだと言う事だ。さらに応募して選考に残り、仮パーティーを組めなければ行けない。恐らくソロ活動を好む彼女にはランクの問題以上に難しいだろう。
しかし、ただの見学にしては真剣に入り口周辺を探っている。探知でダンジョン内にも探りを入れているようだった。補助魔法も使えるとは、何故試験の時には使わなかった?
つい見つからないように気配を潜めてしまった。もしかしたら……その考えは当たってしまった。これは見に来ただけでは無い!本気で攻略するつもりだ。
正直無謀だと思う。まだ新人冒険者でEランク。期間的にまだ昇格出来てないだろう。
だが、冒険者登録試験での様子や、翌日にはダンジョン踏破したことからも実力はEランクではない。
ナナバ回廊ダンジョンは初心者向けとなっているが、それは5層まで。その下の階層に入り最終フロアまで踏破するにはパーティーランクC以上が推奨されている。そのダンジョンを彼女はソロで踏破した。少なくともBランクの剣士、ヘルムルトと同等以上の実力があるのでは?近距離とはいえ厚い鉄板を抜けなければダンジョン内に入れない。転移を使うしかないだろう。石で見張りの気を逸らした所で鍵を開け、鎖を外し、重い鉄板を動かすことなど出来やしないからだ。
そして彼女の手から石が放り投げられたのを見た瞬間に心は決まった。
彼女、マリナは気持ちの切り替えが早いらしい。にこりと笑って(口元しか見えないが全体の雰囲気から)「じゃあ共犯ですね!よろしく」と手を出された時に自覚した。
ヘルムルトに揶揄われた時は否定したが、どうやら本気で彼女が気になっているらしいと。
流石、攻略対象者一の超微糖ルート。
でも中の人には気が付いてないので彼が「気になっている」のは、あくまでも「マリナ」なのが惜しいですね




