44. 悪役令嬢、好奇心に負けました
まさかのとんぼ返りである。ついでに何故か兄達も同乗してる。
「しばらく休校になるからって、まさか寮を追い出されるとは思わなかったな」
「全くだ、俺らみたいに帝都の別邸持ちや、宮廷貴族のように帝都に家を構えていればいいが、中には社交シーズンだけ別宅を借りて済ませている貴族もいるから、今が秋の社交シーズン中でまだ助かっただろうな」
「そうですわね。 同意したいところですけれども、秋の社交シーズンはご領地で暮らす遠方領地の方が多いですから、困っている方々も多いと思いますわ。 幾ら何でも街の宿に世間知らずのご子息ご令嬢を、学園に連れて来た少数の侍女や護衛だけで泊まらせるのは問題があると思いますし、慌てて長期滞在させて貰えそうなツテを探しているのではないかしら」
「困ったら皇宮を頼る奥の手が有るだろー、あまり褒められたものじゃないが。奇跡的に皇族とお近づきになれるかもしれないぜ?」
困ったちゃんなのはリンデーンお兄様の方よ。宮廷貴族でも、上級官僚でも無ければ下位貴族は皇城内に部屋持ってないし、呼ばれた訳でもないのに、そう簡単に泊まらせてもらえないのよ。お妃教育バッチリなんだからそこんとこは間違いないはずよ。
ちなみに、同じく寮を追い出されたしまったジル様を、双子が途中にある邸まで送ろうか誘った所、魔法使いの塔に泊まり込むから問題無いと断られていた。
助かったー!こんな狭い密室空間でご一緒するなんて緊張してしまうわ。私の想いを誰にも知られるわけにはいかない。それに、ここは乙女ゲームの世界。狭い馬車内も危険イベントの宝庫だ。所謂『ラッキースケベイベント』というのは、思わぬトラブル系の好感度を一気に上げるためのイベントである。
いつもは無いはずの大きな石が馬車道に転がってて大揺れ、隣でも向かい合わせに座っていようとも関係なく抱擁やキスと言った、ハプニング系のドキドキなイベントが発生する。まぁ全て本来ならヒロイン向けだけど、どうやら私にもおこぼれが発生する事があるようなんで一応気をつけるに越したことはない。
「新ダンジョンの調査ってどのくらい掛かるものなのかしら? 強い魔物も溢れ出て来る状況らしいもの、魔物の発生が落ち着くまでは、調査などしている場合では無さそうですわね」
「なんでも帝国中の冒険者ギルドに緊急討伐クエスト発令したってよ。 ジルとヘルの奴らが悔しがってた。 今はAランク以上じゃないと参加資格無いんだってさ」
そっか、友人同士で冒険者活動中の話をすることもあるのね。うちのお兄様方は何も聞いてくれないヒロインよりも優秀だわ!
シナリオ開始時のジル様はAランクだけど、まだそこまで行っていないらしい。年齢的に考えたらBランクでもかなりのものだと思うのだけど。一度魔物と戦うところ見たいなぁ。カッコ良いだろうな。
そう言えば私なんてEランクだから到底無理だわ。新素材や珍しい色の魔石を集めるチャンスなのに、残念だなぁ。24時間体制で出入り口を見張られているから入れないけど、入口直前に【簡易移動】してすぐに入ってしまえばおひとりさまダンジョン巡り出来ないかな?うっかり捕まって見張りまで一緒に入ってしまったら面倒なことこの上ないわね。主に足手まとい的な意味で。
考えに耽っていたら、いつの間にか帰宅していた。制服を着替え、鍛錬場に向かう。まだ午前の鍛錬に十分間に合ったので一汗流す。あーヤバい。新ダンジョンのこと考えていたら皆んないつの間にか地面に転がっている。ごめん、加減出来なかったわ。
皆んなにお礼を言いながら果実水配って午前の鍛錬を終えた。
シャワーを浴び、入浴しながらも、ついつい考えてしまう。あー、もうっ!せっかく手応えありそうな未踏のダンジョンが近くにあるのに入れないなんて残念過ぎる。やっぱここは痩せ我慢しちゃいけない。冒険者用のコスプレして今夜出かけよう。別に昼でも良いかな?でも装備類も城塞の屋根裏に置いてるから、持って来なきゃいけないなぁ。
どうせ余裕あるし、新しく作る?夏用の一張羅じゃ寂しいもんね。よし、今はちょっと寒くなって来ているから沢山買っちゃったラビット毛皮をアクセントにデザインを考えて作ろう。どうせ顔隠すし、可愛い冒険者衣装にしようかなぁ~。
っと、その前に久しぶりのステータスチェック。先ず出て来る〈攻略状況〉の好感度パラメーターはまだ全滅。分かっているけど哀しく感じるよね。次にステータス。
HP:18650 MP:∞
SP:120 PP:110000
攻撃力:物理 19800/魔法 320000
防御力:物理 200/魔法 200000
素早さ:370 回避率:7777or ∞
水属性:SS 風属性:S 火属性:S 土属性:A
聖属性:SS 闇属性:SS
称号:剣聖
祝福:大魔法使い、聖女*転生者特典/加護:*リンク先参照
スキル:*リンク先参照
※豆知識:SPはPPで強化出来るよ。
なんじゃこりゃー、あれ?称号に『賢者』なかったっけ?代わりに祝福に聞き慣れない『大魔法使い』がある。どっちも魔道士系の称号だと思うけど、どっちが上なの?書物で調べられそうなら調べてみよう。
「そう言えば最近特に、思い付きで魔法使ってて、やってることが賢者らしくない? つまり魔法脳、脳筋……」
恐れ多くも『剣聖』ってどうよ、誰かに問い詰めたい。お父様とお母様はここどうなってるの?ああ、お母様が大剣聖だというのは割と有名な話だったわね。あとは自分が隠蔽している手前聞けないし!親子で秘密なんて持つものじゃ無いわね。ぐっすん。
このリンク先参照って何?いやぁ、色々やらかしてる自覚はあるけど、まさかの別ページとは。とっさの時にどんな魔法使えるようになってるのか確認し辛いじゃないの。加護はそもそもが曖昧だし、範囲広くて詳細省きたいの分かるけどヒドいね!
「……うわー、物理防御力やっぱ低い。 身体強化と武具や衣類の防御付与に助けられてるんだね。 あとは素早さと回避率でカバー出来てる? 一応こんなところだけは女子なんだな、って分かるけど有難くもないんだね。 精神力の平均値は100だから、ちょっとは鍛えられてるってことで良いのかな?この豆知識って何よ、霊力って使い過ぎると死ぬやつじゃないの?くわばらくわばら」
物理防御力は常に強化しておかないと死ぬな。回避率頼みは博打だ。早さもそこそこ高いんだけど微妙なのかな?
ちなみに闇属性魔法はステータス隠蔽で散々お世話になっている。とても便利だ。光属性同様に癒しの魔法も強力なものが使える模様なんだけど、まだ試していない。資料本がレアでなかなか見つからないのよね。帝国中の図書館と、本屋巡りでもしようかな。
「魔物のレベル表示は個体の成長度の違いってことで分かるんだけど、人間のステータスには出て来ないの何でかな。 全体的にはどう評価されるのか知りたいんだけど、能力に高低差ありすぎて判定不可とか?」
「痛っ!」
考えながら針仕事してたら親指に針刺しちゃった。すぐ治せるけど刺した痛みは変わらない。
今回は可愛く、と思っていたけど、色味はモノトーンで地味にしてしまった。どうしても目立たないようにって意識が働いちゃう。でも灰色のローブだけどフードや裾にフリルと魔石で重みを付けて翻り防止とフードの魔石には軽く認識障害が起きるように隠蔽付与、目は相変わらずマスクで隠さないといけないけど、似た機能を重ねることにより、よりバレなくするのね。
まぁ、最近はむしろバレたら殿下の婚約者辞められるんじゃないかとも思ってるんだけど、確証が無いから危ない橋は渡らない!
はっ!もうすぐ夕食の時間だった。そういえばティータイムも忘れて没頭してたわ!気がついたら急にお腹が減って来た気がする。裁縫道具を片付けてたら時間通りにディナーの用意が出来たと知らせがあった。服に糸くずが付いてたから風魔法で手のひらに集めてぽいっ!これで大丈夫。
▽▲▽▲▽
まだ準備万端では無いけど早速偵察だけ……。うーん、門扉周辺は見張りが居るな。しょうがないから壁越しに索敵?この場合は探知の方がいいかな。
「【探知】」
ううっ夜勤なのに結構居るなぁ。しかもうろちょろ動いてる。これ巡回コース決まってるのかな?
例のダンジョンは森側だよね。あらやだ、魔導師の塔に近いじゃん。しかも学園の結界跨いでる。これ一度解いてダンジョン抜いて掛け直した方が良いんじゃ?大規模結界だから簡単な掛け直し利かないのかな?核使ってるから難しいのか、また同じレベルの核用意するの大変だもんね。それにしても結界かダンジョン、どっちか潰れそうなものだけどそこんとこどうなってるの?
皇宮の結界に掠ってないのは幸いだった。あの結界厄介だから引っかかりたくないもん。最悪聖女なのバレるよ。皇宮はちゃんと正門から入るに限る。これ常識。
ダンジョンの出入り口が学園の結界内なのかぁ、直接飛ぶのは危険かな、侵入者感知でちょっと騒ぎになるかも。
でも門扉以外からの侵入はどの道感知されるからなー……結界外の森の中も警備がうろついてるけど、数人組んでの巡回、ここが一番手薄なのは分かった、うん、ダンジョン入りの機会を狙うなら森からだな。ああ、でも結界は厄介だな、出来れば避けたい。
それにしてもこのダンジョンタイプは初めて見たなぁ、地上部3階層、しかも斜めに偏ってる、ピサの斜塔より酷い角度。
塔の外壁に沿って手すりの無い螺旋階段、入口はドーム型屋根付き屋上の床にある扉。この傾きで螺旋階段使えないね。
建物の地下部分は、もっと近寄らないと階層数すら分からない。はははっ、これどんな欠陥住宅なのかな、床滑り台に成ってない?そこはダンジョンの不思議な力で平行になるのかな?飛翔系だらけで床の角度なんて関係ねーって状態だったら困るなぁ、浮遊が無意識に魔力だけで使える領域に達していれば問題ないんだけど、発動時以降も若干の集中を要する。
今夜の偵察はここまでにして、帰ったら装備の仕上げと、補助用の魔術道具やポーション作りでもしよう。ポーションは回復用でSPも回復することが分かったから、自己回復でMP削って回復するのとどっちが効率的なのか分からないけど、早いのは魔法なんだよね。聖属性だから人の居る環境では使いたくないなぁ、何処から察知されるか分からないもん。
寝室に戻ってしばらくした頃、私室の扉がノックされた。時間的にはハイティーにはもう遅い、ベッドに入って良い時間だ。余程の急用なのかと返事をしたら、フィンネル兄様だった。とりあえずソファーに案内するが一言付け加えた
「いくら兄妹だからって、こんな時間にいらっしゃるのは感心しませんわ。 どういったご用件ですの?」
「さっきまで何処に出かけていたのかな? 深窓のご令嬢が散歩を楽しむ時間ではないよ」
片方の口角を上げて言うお兄様の目は笑っていなかった。ああ、こいつがうちで一番厄介なヤツだった。両親にもバレていそうだけど何故か黙認されているのね。
「わたくしにだって、たまには眠れなくなることがありますのよ? 護衛を付けなかったことは……お兄様でしたらお分かりでしょうに」
そう、下の兄は私の方が護衛騎士達より腕が立つことを確実に知っている。恐らく自身より私の方が強いことも。隠し事は真実の中に隠す。だって、あのダンジョンには1人で行きたいんだもん。
お兄様は完全に納得した訳では無さそうだったけど、出したお茶を飲んだ後引き下がって行った。
▽▲▽▲▽
数日平和に過ぎ去った。
さて、お兄様の動向は気になりつつも、今夜はついに、学園ダンジョン突入だ!
用心したこともあるけど、衣装にこだわったせいもあったりする。着用して姿見の前でくるりと一回りしてみる。大満足の出来だ。こんな可愛い衣装なら、むしろ前世の方が詐欺メイクで似合うように仕上げられたかもしれない。マリノリアは可愛らしいヒロインを引き立てるために、少しキツめの美人系にキャラデザされているので可愛い衣装が絶望的に似合わない。
「まぁ、目元を隠せばオッケー!」
冒険者活動必需品の目元マスクも若干可愛い感じにしてみた。今日は何階層まで行けるかな?
ご令嬢手ずから作って配った果実水は大変好評だったそうです。




