43. 悪役令嬢、今は爪を隠すしかないのです
いつも通りに学園に到着したら、何やらいつもと違う雰囲気が漂っていた。
誰が話をしているわけでも無いのに騒ついているような変な感じがする。主に大人達が難しい顔をしていて何やら作業をしている。たまに高学年の生徒が大人達を手伝っているように見えたのだけど、不思議に思いながらも、そのまま教室に向かった。
「ごきげんよう、皆様」
互いに朝の挨拶をし合い、始業時間までまだ余裕があるので今朝のことを話していた。やはりみんな教師達の異様に張り詰めた空気を感じたらしい。一体何があったのだろう。
「そう言えば、昨日の朝に収穫祭を行う旨聞きましたけど、何か不備でもあったのかしらね」
「マリ、それがどうもティーパーティーは延期か中止になりそうよ」
「ええっ!?ディナ、楽しみにしてたのに残念ね」
「本当に!二年生とはテーブルが一部隣接しているから、少しはお近づきになれると思っていたのに。婚約が決まってからまだ一度も会っていませんのよ。学園内でたまにすれ違う時には、ご挨拶してくださるけど」
ヘルムルト何やってんのよ。まだヒロイン来るまで一年半近くあるんだから自分の婚約者を大事にして、今のうちに仲を深めておきなさいよ。婚約破棄イベントなんて起こそうものなら私が容赦しないんだから!私はヒロインと殿下に勝つつもりですから!私にとっての勝利とはすなわち『自由』、婚約破棄後も家には普通に残れそうだけど、帝国にはまだ二人も皇子が居る。純血主義はんたーい!ヘンターイ!
思考が飛びかけたところで担当教諭が入って来た。今日の座学は帝国周辺の国についてだ。うん、最近調べたから知ってるよ、お妃教育でも歴史と地理を学んだのだけどね。帝国ってすごく豊かで恵まれているんだなぁって、改めて思ったわ。
それにしてもアルト王国って、帝国の1/3しかない面積の内、砂漠や荒野に覆われている土地が多いのよね。せめて自分たちの手で砂漠化した土地を蘇らせようって発想はないのかしら。帝国内は同じ緯度の土地に砂漠なんて無いわよ。主戦場になった土地は未だに荒野でやせ地のままだけど、近いうちに私が緑あふれる畑地帯に変身させてあげるわ。ふふっ!
終戦後の戦時賠償金もちんたら返済して来るらしいし、そもそも仕掛けて来たのもアルト国側よ。反省の色が見えないって、お父様はまだアルト国に睨みを利かしているのよね。だって、向こうが戦争仕掛けて来た理由がまだ解消されていないんだもの。結局敗戦したから向こうは切羽詰まっている状態のままだってこと。
帝国から陸続きの国は4カ国。その内2つは険しい山脈に阻まれて直接行き来することの叶わない国。まぁ飛んじゃえばいいんだけどね!でも右も左も分からない国にいきなり飛ぶのは危険なのでしないわよ。でもそれとは別に他国の文化にも触れてみたいとは思う。前世のように気軽に海外旅行なんて出来ないのが悩ましいわね。
サントラス王国は大河を挟んだ隣国で、帝国とは友好国である。うちは穀物を中心に輸出し、向こうは砂鉄を輸出する。関税は互いに撤廃しているため、民間レベルの経済交流も活発だと聞いている。今クロスディーン公子と皇弟が留学していることからも、一応良好な関係が築けているのだと分かる。
しかしまぁ!何処の国も建国史は神話のようで実体感が無いわね。スウィテ・セレナ帝国は王族(建国からしばらくは帝国では無く王国だった)の始祖は帝国の英雄で『勇者』の祝福を得た人物。妃は同じく『聖女』の祝福を得て勇者を支え続けた女性だとされている。他のパーティーメンバーも伝説の中の人物になっている。勇者と背を合わせて共闘したという『剣聖』。あらゆる魔道に精通した後方支援を一手に任された『大賢者』
伝説のパーティーが4人だったので、冒険者ギルドのダンジョン格付けの基準が4人パーティーになったんだって。
当時は今とは比べ物にならないほど強い魔物が上空を飛び交い、地上を闊歩していたらしいんだよね。
その内、ダンジョンの反作用の一つである'飽和'と呼ばれる現象のせいで魔物が溢れていたことが分かり、ダンジョンを閉鎖に追い込み潰して回ってくれたおかげで、今の平和な帝国がある。ということになっている。
普通に考えたら、帝国の危機を4人に任せっきりだったのかーいっ!てツッコミでも入れたくなるところだけど、講義を聞いてる生徒達は男女の別なくうっとりしてる。
うーん、国のトップの始祖をやたらと英雄、勇者、大賢者、聖女、はたまた女神、巫女にしたがる理由は分からなくも無いな。
考えながら教室を出たら、令嬢方には珍しい乗馬のお時間だ。少し楽しみにしてた。
乗るのはポニーとサラブレッドの中間みたいな可愛らしいお馬さん。温厚な性質でご令嬢方の練習には持ってこい。稀に趣味として嗜むご令嬢も居るとか。
厩舎には沢山のお馬さんが居たのだけど、ちょうど目が合った、真っ白で綺麗な黒曜石のような瞳の子に一目惚れしちゃって、この子に決めた。んも~っ可愛い!乗らせてもらったら余計に可愛くてお持ち帰りしたくなっちゃった。
普通の乗馬に使う馬よりも、横坐りの女性用乗馬法で難なく乗りこなせた。けど半数以上のご令嬢は1人で乗ることすら出来なかった。まぁそれが標準的なのよ。
今朝は門に入った所から緊迫感に包まれ、森の付近には厳戒態勢が敷かれ物々しい雰囲気を隠そうともしていなかった。不快な気配は森の中に足を踏み入れた方が強そうだけど、一体何が起こるのだろう。首筋にチリ付くような悪寒を感じ、その先に後ろ髪引かれつつもその場を去った。
これは、確かにお茶会どころの話じゃないわね。収穫祭は元々、帝国中の農民達を中心とした秋の収穫を喜び合うお祭りだから、土を触りもしない貴族の子供達が便乗しなくてもいいのになぁ、と思ってたのよね。楽しみにしていたディナには悪いけど。
それに、私の勘違いなのかもしれないけど、ロサとリアったらお兄様方を狙ってる……?その内どっちかがお姉さんになる日はやって来るのかしら?
少なくとも成人するまでは婚約を考えていないらしいけど、あまりゆっくりしているとヒロインに懐かれてしまう。話相手の男性に婚約者が居ようがお構い無しの逆ハー乙女だったから心配になるなぁ。聖女ってだけでモテモテになるなら私だってモテモテよ!やっぱ女の子らしく可愛くないと男ウケしないのね。つい自虐的に在るべきものが無い場所を見つめてしまった。
一年生の女子で一番貧相な身体付きね。背だけがひょろりと高い。可愛さに拘ると無残なことになりそうだから、そろそろ自分でドレス選びをすることにしようかな。
心配事はあっても自分では何も出来ないので、せめて邪魔にならないように友人達と、森が近くに見える淑女向けの乗馬場を離れた。
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その変化は月のない夜。星明かりすら無く冷たい風が吹き抜ける中、突如として、まるで限界まで抑えられ凝縮したモノが爆ぜるように爆発して起こった。それに伴う地響きは皇都の民の安眠を妨害し、多くが眠れぬ夜を過ごすこととなった。
早朝、眠い目を擦らないように気を付けて、そのままシャワーに向かう。眠りが浅かったせいで大欠伸が出る。うわぁ、学園では気をつけなくちゃ。
昨夜異変を感じた時に確かめに行きたかったけど、宮廷魔導師と帝都騎士団が常に警戒網を張っていて近寄れないだろうから諦めたのよね。
学園までは馬車で45分、ふかふかのクッションを抱き抱えながらしばしの仮眠を取った。
馬車用の門から学園に入り、馬車留めで降りた所で、少しばかり寝ぼけた頭でも周辺が騒ついて肌がひりつく様な気配を感じ取った。周囲では「まさかこんな所にダンジョンが」「ダンジョンの入り口を封鎖しておかないと魔物が這い出て来るらしい」「怖い」「これが'飽和'か!?」皆口々に声を出さずには居られないようで、容易く情報収集出来た。
これはダンジョン消滅か弱体化の緊急クエスト依頼出すのかな?その前に調査?不謹慎だけどわくわくして、私も参加させて欲しいけど無理だろうなぁ~なんて思った。
それにしても、ゲームシナリオスタート前のイベントとはとても思えない出来事だ。それとも、この出来事に因って攻略対象者に何らかの変化が出るとか?でもシナリオ内で語られる内容にこんなの無かったような?私がプレイしてないルート用なのかなぁ。初期攻略対象者は1周はクリアしているはずなんだけど。
教室に入ってもこの話で持ちきりだった。そしてしばらくして始業のベルが鳴り担当教諭が教壇に立つと、緊急事態によりしばらく休校となることが告げられた。
心中穏やかじゃないけど仕方ない、ここで私に出来ることはないのだ。もっと状況を把握出来ていれば何か出来たかもしれないのに……。
本来ならヒロインが活躍するためのイベントですよね。まだ幼い所のある残念男子達は活躍出来るでしょうか?
ヒロインが居ないからやる気出ないかもですね( ̄∀ ̄)




