41. 悪役令嬢、お父様は規格外(チート)なのに控え目な件
マリノリアの週末の様子に戻ります。
男子に間違われた心の傷が癒えないまま、早朝に起床して持ち込んだ軽めの朝食を摂ってから、いよいよ自領に向けて出発した。あとは何事も無ければ4時間ほどで祖父母が住む別邸に到着する。
本当は森の中を突っ切った方が早く着くけど、馬車が通れないのよね。道が狭いの、整備されてないからね。まぁここの自然はなるべく保全して欲しいから瑣末なことは時間と手段で解決しましょう。ってことで森の外周を回り込むように敷かれている馬車道を通り、途中休憩を一度挟んでやっと別邸に着いたのはお昼近く。
お祖母様はいそいそと邸に入り、お祖父様とハグして5日振りの再会を喜び合ってた。うーん、良いなぁ私もこんならぶらぶお年寄り夫婦になりたい。その前にまともな婚約者すら居ないけど。殿下はマトモジャナイから除外よ除外。あーあ、なんであんな貧乏くじ引いちゃったんだろうなぁ。
久しぶりの馬車旅でお疲れのはずなのに早速、調理場に入ってランチの用意を始めるなんてまさに主婦の鑑。とても元皇女様とは思われないわね。
でもその気さくなお人柄がこの辺りの領民達に好かれているらしいので、結果的にこの辺りの治安向上にも効果を発揮しているとかなんとか。何やっても良い風が吹く人って居るのね、ヒロインのように。
やっぱ悪役令嬢って損な役回りだなぁ~。ヒロインが学園に来るまでは小康状態を保てそうだけど、ただそれだけ。
それにしても、この別邸も素敵。お祖母様と一緒に調理場に立っても良かったのだけど、お庭を散歩して森林浴でリフレッシュすることにした。それにちょっと確認したいこともあったし。
森林浴はとても良いリフレッシュになったのだけど、やっぱ私が学園に通うため4月から夏の長期休暇以外は領を離れていたせいなのか土に元気が無い気がした。うーん、でもなぁ、私が聖女だってバレないように隠蔽する様にはなったんだけど、ヒロインが居るし、そもそも私が聖女の加護の力を発揮し始めたのって何時からなの?生まれて直ぐ?前世の記憶を取り戻してから?だとしたら、時期がヒロインと被るんだよね。
ヒロインもう聖女の認定受けてるよね?どう言うことなの?それともヒロインの加護の有効範囲が狭くてうちの領まで届いてないのかしら?私の加護の及ぶ範囲だって分かってないんだし、とりあえずこの辺に加護。美味しいキノコが収穫出来ますように♪途中に良い感じの赤松が数本生えてて、慎重にふかふかの地面を押すと居ました松茸!いいねぇ、商業ベースに乗せられるほどの収穫は無いけど、地元民が楽しめる食材が豊富って素敵じゃない?何処かに竹林もあったら良いな、冒険者活動の範囲を広げて色々探してみようかしら?っと、思わず脱線。
こうなると別邸内にある泉の他も気になって来る、泉の水質低下なんて冗談じゃ済まないわ。いくつかの泉を見て回る、途中源泉掛け流しの小さな天然露天風呂も幾つも有る。うーん、やっぱ夏休み中の視察時と比べたら少し納得出来ないなぁ。
細かく『聖女の加護』を掛けて周るのも面倒なので、我が領全体と少し周辺地域も入れて強力な結界で包み込むように【球状結界】、続いて一気に【『聖女の福音・加護付与!』】
普通はアイテム等にする付与魔法を領地全体に掛けるって無謀だったかな?これで秋に続いて冬の収穫も豊作だと嬉しいな。結界は私の存在を隠蔽するための小細工。用が終わったのですぐに解いた。
付与にしたらどのくらいの期間、効き目が継続するのかな?そこんとこも検証しなくちゃ、普通の付与なら期限なんてないハズなんだけど、流石に土地はねぇ……。
そろそろお昼ご飯が出来上がっているかもしれないので、急いでお散歩から戻る。ちょうどテーブルに料理を並べているところだった。お待たせせずに済んで良かった!
収穫した松茸を調理場の食材置き場に置いて、食卓に着く。ああ、美味しい。大自然の味って本当に贅沢品よね。食後のスウィーツにはマンゴーのゼリー寄せが出て来た。ええっ?ゼリーってゼラチン何処かに売ってるの?それとも寒天?でもこの辺りは海から遠いわよね、それに食材を扱う商店での取り扱いも無いから、帝国には無いのかと思ってた。少し透明度は無いけど食感はゼリーに近い。何で固めたのか聞いてみたら片栗粉だった。そう言えば、出来なくも無いわね、湯を入れて混ぜるタイミングとか加減とか難しいけど固められたわ。
そうだ、ジャガイモって痩せた土地でも育つのよね?(おぼろげ)なら城塞の裏に畑作っちゃおう!上手く行ったら城塞の城壁内以外の周辺は皇室直轄地だけど、アルト王国との国境付近までジャガイモ畑にしちゃおうかな!どうせ国境警備施設しか無い荒野なんだから、無いかもしれない飢饉に備えても良いんじゃない?
皇家から文句言われたらいっそ嫌がらせを兼ねて葛を植えてやりましょ。葛湯も美味しいし喉の痛みにも効くわよ。
芋が余ったらアルト王国に売りつけちゃおうかな、でもまだ七年戦争時の賠償金の支払いがかなり残っているから資金不足かもってか国交自体無かったわ。それより北のサントラス王国、マイージャ皇国、ニース・アニース帝国に売りつける?その前に支援品として送ることになるかもしれないけど。
聖女の加護の力が、特に、多分浄化の加護が弱いらしい事が分かったから、数年後ヒロインが学園に通うようになったら北方3国が急激に飢饉に陥ることは無いにしても、食糧不足対策を模索し始めるだろう。浄化が弱いとせっかくの豊穣の加護が間接的に目減りするの、水源の汚染や魔物の被害が増えたりしてね。
広範囲捜索魔法を使って居場所を確かめたら、まだデボワール領に居たのよ。ピンポイントで聖女の存在を確認するなんて普通は不可能なんだけど、私も一応聖女だから同類の気配を探るような難易度で出来ちゃったのね。向こうも同じ事が出来たら大変なんだけど。
今は無自覚に帝国北部と北部3国に加護を与えることになってる状況。これヒロインが隠しルート選択したら戦争が勃発するってやつじゃない?それとも内乱かな。先の事を考えるだけで胃が痛い。だって初期の攻略対象者を選択したとしても、くっついた後のことは分からないのよ。
結局日曜日の午後まで滞在することになった。やっぱりお父様はお祖母様に弱いのだ。
本邸に向かう護衛騎士達は昼食の後に少し休んで出発するとのことだった。あと約半日、馬車が無いからゆっくり休憩を取りながらでも到着するハズ。長期移動お疲れさまとしか言いようが無い。
でも、きっと今頃帝都の別邸ではお兄様方と、気の毒に巻き込まれた2人がお母様の鬼のブートキャンプもどきと剣の鍛錬を受けている所だから、それに比べたら楽しい旅行の様なものだと思う。お母様の鍛錬相手に快感を覚えてしまった騎士達は除いてね。
私達は森の恵みをお祖父様とお祖母様、お父様と共に楽しみ、時にここの護衛騎士達の鍛錬に混ざって汗を流したり、素敵なティータイムを過ごしたり、充実した週末だった。そう言えば、お父様は私相手の時だけ明らかに手を抜いてる訳じゃ無いんだけど甘いってことに気が付いた。女の子だからケガさせないように気をつけているのかな、でもお母様との鍛錬はマジモノだった。実力が違うから何とも言えないけど。
帰りは、ってもあっちも別邸なんだけど。お父様の片腕に乗るように抱えられて、まるで小さな子供を抱えるみたいな感じだけど、私は161cmと、年齢の割に身長高いからちょっとアンバランス。でも横抱き、所謂お姫様抱っこはお母様用に取って置かないとね。
そんでもって皇都の別邸まで一瞬でひとっ飛び。はーっ、すごく楽ちん。
到着後に気分が悪く無いか心配してくれたけど、超快適だったよ。私も、もっと魔力の流れを安定させて、このレベルを目指そうって思ったくらい!
……夕食時に顔を合わせたお兄様方はぐってり草臥れ果てて居た。気分溌剌としたお母様とは対象的だ。これは明日も動くのキツいだろうな。御愁傷様。
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