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悪役令嬢?ヒロインの選択肢次第の未来に毎日が不安です……  作者: みつあみ
強制悪役令嬢!?ヒロインの選択次第の未来に毎日が不安です
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37. 悪役令嬢、想定の範囲を超えました

13歳酔っ払わせてすみませんm(__)m

 「ただいまぁ♡ ふふっ、話を聞いて私達もこっちで摂ることにしたわ。 貴方達はお祖母様と会うのも久しぶりでしょう?」

 「ご機嫌よう、お帰りなさいませ。 ええ。お祖母様、久しぶりの皇都は如何でしたか?」

 「まぁマリア。益々綺麗になったのではなくて? そうね、皇都はそれほど変わりないわね。人が多くなったと思ったくらいかしら、特に若い人が増えたわねぇ。 活気があって良いことだと思いますけど、年寄りには都会の喧騒より、あらいやぁね、ついつい年寄り臭くなってしまって。 皇都の別邸(ここは)変わらないと思いましたが、随分と斬新なお部屋になったのね。お祖父様にも見せたいわ」

 「気に入ってくださったようで嬉しいわ。 夜も素敵だけど、昼はまた別の美しさがありますのよ。 お時間が合えば朝食も一緒にいただきたいわ」


 はい予想の範囲内です。お母様が旅先や緊急時を除いて、外でまともな食事量を摂るワケが無いのです。

 うちに帰ってからがディナーの本番ってこと。周囲の人達はお母様が少食だと誤解していると思いますけどね。


 計算外だったのは酔っ払いの闖入者により私のディナーが大幅に遅れてしまったこと。予定ではもうとっくに食後のティータイムに入っているハズだったというのに……。まぁ予定は未定ってことよね。明日の朝食はジル様ともご一緒出来るかしら。多分無理ね。


 お祖母様の朝は早いのよね。洋風建築だけど温泉宿のような森の中の小さな別邸に滞在した時には、コケコッコーと同時に起きて、手ずから地熱で年中収穫出来る新鮮野菜や、領内では珍しい作物などを収穫して(ついでに新鮮卵まで)。手は込んでいないものの食事の用意までお祖母様がしていて驚いたのよ。家政婦も手伝ってはいたけど。お味はシンプルで美味しかったわ。素材の味を最大限に生かしているせいか、懐かしい感じがしたの。

 ちなみに近所の方々がその日獲れたての旬の川魚や処理済みの肉を持って来てくださっていた。交換に珍しい採れたて南国フルーツ等を渡していたけど、等価交換になっていたのかしら?今でも好かれる元領主夫婦、微笑ましいと思ったものだわ。


 お祖母様は領地内の温泉地にある森の中の小さな別邸で、お祖父様が当主の座を退いてからずっと療養生活をしている。

 お祖父様は先の戦争が始まって3年頃、戦線が激化した際に負傷して離脱せざるを得なくなったけど、当時お父様は若干十三歳、お祖父様は騎士を引退しても当主の座を降りる訳にはいかなかったとか。おまけに前線指揮から後衛に下がって代わりの指揮官が来るまでに日数を要した為に、お祖母様の聖属性治癒魔法最高の『究極治癒』を持ってしても左下半身に障害が残ってしまった。

 私は夏休み中に二人共とお会いしたけど、お祖父様は今回お留守番なのよね……。馬車の旅でも身体に堪えると言うからしょうがないのかな。


 「ちょうど良かったわ、明日は朝から鍛え直してあげるから覚悟なさい」

 「「はい……」」


 お母様を前には逆らえないわよね。正直2位のフィンネル兄様は少しくらい褒めても良いと思うのだけど、結局2人共同じ相手に負けたから同列に扱われているのかもしれないわ。


 「でもお母様、今日はお客様が滞在していますのよ。 朝の鍛錬は少し汗を流すくらいに留めておいた方がよろしいかと思いますわ、きっと酷い二日酔いに悩まされるでしょうから」

 「ん?聞いているわよ。酔ったお友達を連れて来たのよね。 ワザと予選落ちした2人ですって?」

 「バレてんじゃん……」


 いや、リンデーン兄様。私でもあの2人がさっさと予選落ちしたの分かったから。

 この流れ、お母様ったら予選一抜け組も鍛錬に引きずり出すつもりかもしれない。あー、もう私は知らなーいっと。

 私は先にお祖母様と朝食を楽しむことにするわ。


 「あら、月下美人が咲いているわ。 温室の様な蒸し暑さは無くて室内の様なのに真夏の花が咲くのね」


 お祖母様はティーカップを片手にテラス内の植栽を楽しみ始めた。こんなに喜んで頂けるなんて、かなり頑張った甲斐があったわ。男共の反応がイマイチだけど。




*帝都=皇都、古い呼び方が皇都で、入り混じっていますがどっちも間違えでは無い設定です。帝都住まいが長い人は帝都と呼ぶ傾向にある、のかな。

▽▲▽▲▽


side.Boys(視点が色々変わります。)


 うちの最高権力者は母上様だ。領地経営の実権は父上にあるが、それ以外のことに関しては母上様の好きにさせている。最近そこに妹も入ったようだ。


 久しぶりに、と言ってもほんの半年と少しのことだと言うのに、帝都の別邸(タウンハウス)は外観の見た目こそ変わらず、今も白亜の外壁をつる薔薇が覆い尽くし、色とりどりの草花が寵を競っているかのように咲き乱れる。うちの庭師は常に最善を尽くして見る者の目を楽しませてくれる。社交嫌いの家人のせいで披露する場が無いのが気の毒なほどだ。


 うちは引き籠っても公爵家の一角を担う家の一つである。

 事実として他の公爵家の別邸(タウンハウス)に比べれば有効面積が比較的狭く、邸宅も小規模だとは思うが(多少敷地が狭いのは皇城と隣接している為、間の私道が何故かうちの敷地になっている所為なんだが)、周囲の外壁からはもちろん外門から、邸を始めとする正面玄関と前庭が見えるほどには狭く無い。


 敷地全体を囲う塀は多くの邸宅で採用される高く厚い石壁ではなく、5、60cm程の高さの厚い石壁の上に強化鉄の2m柵上部に飾り槍、12cm間隔の強化鉄柵(実は生体感知の電撃柵だから要注意だ)の内側に沿って目隠しにコニファー類が生垣として植えられている他、せっかくの庭師の腕を披露すべく、外門は常に薔薇と華やかなつる性植物で覆われている。

 周辺を植物で覆った我が邸宅は、都会のオアシスのようなものだ。帝都内にも皇城と学園の間にある森や、広い敷地の邸宅には多少の森や林を保っている所もあるが、高い城壁で囲まれいかんせん目に見える緑が足りない。

 その所為で我が邸宅の周辺は散歩コースにされているのだが、仕方あるまい。


 本当に外観の美しさは変わらない。変わったのは主に家族のみが過ごすプライベートスペースだ。客間であるサロンも整えられていたような気がするが、酔いが酷くてしっかりと認識出来なかった。リンデーンの策に乗って潰すつもりが、自分もかなり潰れてしまった。今後の反省点だ。もう酒に潰れるなんて失態は繰り返さない。

 しかしプライベートリビングは変わり過ぎだ。思わず目が覚めた。

 特にあのガラス張りテラスはなんだ?単なる温室に留まらない拡張されたゆとりのスペース。リビングとの区切りも以前のはめ込みと掃き出しのガラス製格子扉ではなく、横開きの鉄柵の間にガラスをはめ込んだ雨戸(シャッター)の様な作りで、カーテンの様に開閉出来る。一体何処に施工注文させたんだ、妹の無茶振りに苦しめられた業者には気の毒なことだが、実にいい仕事をしていると褒めてやりたい。ただの『斬新』の一言では語りつくせない。


 リンデーンは既に思考を放棄したのか、目の前の料理と帰宅した両親とお祖母様に意識を向けるのに精一杯の様だ。単純な奴は何時でも平和で羨ましい。

 だがこの変わり種のリゾットは栗の甘みとチーズの塩気が絶妙に合って食が進む。このリゾットに使われている穀物は小麦ではなさそうだ。より柔らかく噛まずに飲んでしまいそうだが、よく噛むと甘みが出てこれだけでも美味しい。マリアに聞けば分かるのか?冷製スープも喉越しが良く美味しく、酷く弱った胃に優しく沁みていくようだ。相変わらず頭が機能せず黙々と食べるしか出来ていないが、帰ってきて良かった。


*


 「マリアー、この謎の食材で作られてるリゾット美味しいか?」


 うちの料理人の作る料理に間違いはないと思うが、初めて見る食材で作られたリゾットに甘い栗とチーズと云う珍妙な組み合わせに一応確認してみた。


 「リンデーンお兄様、この細かい粒は米と言いまして、そのまま炊いて食べても美味しく、長期保存も可能な穀物ですのよ。 それからこの栗は、デザートに使われる甘い栗と違って少し甘みが抑えめで、若干の渋みが熱を加えることで旨味に変わってチーズとの相性もとても良いの。 栗は裏の森で採れたものだけど、他は全てうちの領で採れた食材なの。安心して召し上がって?」


 くぅ、説明が長すぎて頭の中を素通りして行きやがった!マリアが美味いって保証してくれたことだけは分かった、よし食べよう。


 「美味い」


 それしか言葉が出て来なかったんだから仕方ないだろう、美味いものは美味いで良いじゃないか、俺は食通(グルメ)ぶって~の香りが口の中に広がって~だとか、料理を食べながらうんちくをたれるのは苦手だ。聞いているだけでお腹いっぱいになる。正直今は空腹のまま頭が一杯になっているだけに過ぎないが。

 明日の朝は酷い二日酔いに悩まされるだろう。マリアに処置してもらった泥酔2人の方が朝爽快に起床出来そうな気がするのは気のせいか。しかしまぁ、俺たちがこれだけ腹が空いているということは、奴らも空腹を抱えながら寝ているのではないだろうか?今から叩き起こしてでも何か食わせておいた方がいいか?まだ夜食の時間には早そうだから、この珍しい一家団欒が終わってからでも2人の様子を見に行くとしよう。その前にシャワーだけでも浴びておこう、湯に浸かったらそのまま眠ってしまいそうだ。

 家族は何も言わないでくれているが、やはり酒臭い。


*


 うぅ……何やら吐き気を覚える。昨夜は確か剣術の模擬試合のトーナメント負け組のやけ酒に付き合わされて思いの外深酒をしてしまって、店を出た記憶すら無い。

 初めに誘ったのは俺だったはずだ。

 婚約者殿にうっとおしく泣かれて多少の憂さ晴らしをするだけのつもりが如何してこうなった。ここは何処だ。手触りの良い絹のシーツ、ふかふかに包まれて雲の中に居るような……まだ夢の中に居るようだ。腕に力を入れ身体を少し起こす。頭がはっきりしないが喉が渇いているだけのようだ、吐き気はするが、喉までせり上がって来るほどでは無く胃が不快を訴えているだけのようだ。

 枕元近くのローテーブルに水差しとコップが用意されていた。見ただけで高級品だと分かるガラス製品だ。多分クリスタルガラスだろう。うまく回らない頭でもここが尋常じゃない賓客向けの寝室であることは分かる。水を飲みたいがベッドが広くて手が届かない。おいおい、この水が用意されている意味が無いだろう。


 まるで此方の苛立ちを感じ取ったかのようなタイミングで「失礼します」と上質なお仕着せを着た女の使用人が入って来て、ローテーブル上のコップを立て、空中から氷を入れ、水差しから水を注ぐと「どうぞ」と、トレーごと俺に差し出した。ありがたく手に取り喉を潤しながら……おい待て、今普通に氷がコップに降り注いだよな?多少混乱しながらも冷えた水が胃の中にも染み渡ると胃の不快感も消えて行った。


 「当家の者がご迷惑をおかけし、大変申し訳ございません。 浴室はあちらにございます。お着替えを用意しておりますので、今お召しの室内着は浴室内のカゴにお入れください。お召しになられていたお洋服は朝までに洗濯してお届けにあがります。 お夜食をご入用でしたらお申し付けください。 他に外出着も用立てますので、ごゆるりとお寛ぎくださいませ」


 お仕着せを着た女は優雅に頭を下げて寝室を出て行った。


 俺はここ何処だろうと思いながらも、とりあえずこの酒臭さをどうにかしたくて、ありがたく浴室を借りることにした。ここが何処であろうと、危険なことは無さそうだ。とは言っても、使用人が着用していたお仕着せに覚えが無い。皇城とヘルムルトの所で無いことだけは分かるんだが……。ああ、俺の頭脳が全く仕事しないなんて何時振りだろう。物心ついて初かもしれない。


 浴室に入って戸惑った。浴室中央のやや窓寄りにある浴槽には湯がたっぷりと満たされている。ドアを開けてすぐに見える奥にはシャワー室があって中に質の良いアメニティーが用意されている。ドアの横には大きな洗面があり、その横は高さの揃った台があり、タオル類と風呂上がりの用のバスローブ、室内着、寝間着と用意されていた。


 此処は何処の高級宿泊施設だ。高級リゾート地でもこうは行かない。気を取り直して先ずはシャワーだ、蛇口をひねると温かい湯がほぼ適温で出て来る。普通じゃない、最初は冷水が出て来るものだ。

 俺もジルほどでは無いが魔法の素質があると言われている。まだ判定はしていないが、目の前のシャワーが尋常では無い魔術道具であることは分かる。湯圧が我が家のシャワーより強い、良いなこれ。備え付けの石鹸と柄付きのブラシでこすると身体が生き返ったようだ。シャンプーの泡立ちも素晴らしい。だが製造所も取り扱い商会名の記載も無い。怪しさ満点だが使い心地は癖になりそうだ。このトリートメントと書かれたものの用途が分からないが、ここに使用人を呼ぶのは憚られるので、洗顔後シャワーを心ゆくまで浴びてシャワー室を出た。

 浴槽の湯はまだ温かそうだ、手を入れてみると適温のように感じられる。まさかと思うが温度を一定に保つ魔術道具も使用されているのか?湯を入れていない場合はどうなるんだろう?考えても無駄だな、魔術道具のことは専門家に聞かなくては分からないだろう。入りたいとは思ったが、その前に夜食がもらえるなら胃の中に何か入れたい。そう思い、タオルで身体を拭きバスローブを着た。


 夜食を頼むなら室内着に着替えた方がいいのか?もうこのまま食べたい気分なんだがどうしたら良いんだ。せめてここが何処なのか聞いておけば対処出来たのに。


 結局丁度いい所で寝室をノックした使用人に夜食を頼んだ。その際浴室に髪を乾かす魔術道具があることを説明された。俺はバスローブ姿なのだが、全く顔色を変えない女の子って新鮮だな、かなりの教育が行き届いているのだろう。もう1人、俺と同様の状況に置かれた客人がいて夜食を注文しているから一緒に食べるか確認されたが、もちろん了承した。今この状況の混乱を共有出来る奴がいたとは助かった。


 そういえば、夜食ってことは気を失ってから日付を跨いでいなかったということなんだな。今頃気がついた。やはり俺の頭脳は機能停止している。とりあえず急いで髪を乾かし、部屋着に着替えて室内にあったカーディガンを羽織った。

 落ち着いて見ると、二間続きの客室に設えられた調度品はいずれもブラックサイプレスの手の込んだ装飾が成された高級品で、まるで真珠のような淡い光沢が出るよう磨かれている。


 俺と同類の奴もさぞかし混乱しているだろう。そうでなきゃ俺が情けな過ぎて柱に頭を打ち付けてしまいそうだ。


*


 俺は酒には弱く無い。むしろ強い方だ。冒険者活動は固定のパーティーを組むスケジュール的余裕が無いため、単独か助っ人登録をして臨時パーティーで依頼に臨むのだが、仕事を終え、分け前を受け取った後は速やかに次の依頼か、打ち合わせに行きたいのだが、大抵食事に付き合わされる羽目になる。冒険者は酒好きが多い為、俺も巻き添えを食らう内に酒に強くなった。

 しかしながら今回は違った。酒に呑まれて気を失うなんてあってはならないことだ。冒険者的にもだが、己の社会的立場からもだ。


 目が覚めた時先ず感じたのは、気を失うほど飲んだというのに酒精がほとんど残っていないということだ。もちろん常にないほど飲んだのは感じる。気を失う前の記憶はほとんどおぼろげだ。だが吐き気もしないし、頭も痛くない。二日酔いの兆候も見受けられない。

 だがここは何処だろう?飲んでいた場所は宿泊施設など併設していなかったはずだ。とすれば、一緒に飲んで居た面子の邸だということになる。まさか適当な宿泊施設に放り込んで行くような真似はしまい。それくらいは信頼出来る奴らだと思っている。


 半身を起こし考えを巡らす時の癖で左手をこめかみに当てると、少し髪をかきあげる形になった。身体を支える手のひらに感じるリネンの手触りは上質の絹だ、まぁこのくらいで驚きはしない。服は楽な室内着に着替えさせられていた。大失態だ。ここまでされて目が覚めないとは……。

 ノックが聞こえたので返事をした。失礼します、と声をかけて入って来たのは、上品なお仕着せを着た使用人だった。先ず頭を下げ、


 「当家の者がご迷惑をおかけし、大変申し訳ございません。 浴室はあちらにございます、お着替えを用意しておりますので、今お召しの室内着は浴室内のカゴにお入れください。 お召しになられていたお洋服は朝までに洗濯してお届けにあがります。 お夜食をご入用でしたらお申し付けください。 他に外出着も用立てますので、ごゆるりとお寛ぎくださいませ」


 そう言って、枕元に近寄り、ローテーブルにあったコップをひっくり返し、氷を入れ、そばに置いてある水差しから水を注いだ。ここの使用人は普通に水属性の上位魔法である氷魔法を使うのか、しかも今全くの無詠唱だったな。コップをトレーに乗せ「良かったら此方をどうぞ」と、差し出して来たので、ありがたく受け取ると、一礼してすぐに下がって行った。


 ここは何処だ。お仕着せのデザインは似通っているようで、それぞれの家で違っている。少なくとも今までに訪問したことのない邸だ。つっても皇城以外のは殆ど知らない。本邸と別邸で変えている家もあるからだ。となると誰が最後まで意識を保っていたか、と言うことになるのだが、残念なことに記憶が曖昧で、少なくともエリンが一番最初に潰れたことしか覚えていない。こう考えると、公爵家同士の付き合いってほとんど無いんだなと思う。少なくとも茶会や夜会で互いの屋敷に行き来があればお仕着せくらい覚えているだろう。


 筆頭公爵家として客室の調度品類には気を使っている方だと思っていたが、この邸の調度品もかなりのものだな、あまり値踏みするのも不躾だと思うが、かなりのこだわりが感じられる。何れも特注品で調度品全てが同じ材質、工房で揃えられている。華美では無いが上品で質が良い。リネンに使用されている絹は輸入品か?そんなくだらないことを考えてもしょうがないな、先にこの酒臭さをどうにかした方が建設的だ。


 浴室の見た目はやはり客室同様に整えられ過ぎている。とりあえず水代を気にする家では無いらしい。これ帝国の上水道使ってないよな?魔術道具から直接湯が出る、湯圧も安定して強い、しかも一つで温度調節付きだと。どれだけ付与を重ねているんだ。浴槽もだ、いつでも快適温度で入浴可能って、何を付与してる?魔法に関してはうちが一番の名門だと思っていたが、意識を改めた方が良いかもしれない。この邸の一番のこだわりは風呂だな。間違いない。


 そう言えば、夜食の準備があると言ってたな、せっかくだから頂いておくとしよう。どうも酒を飲み過ぎて食が疎かになっていたようで、今更ながら空腹を訴えて来ていた。


*


 エリンは使用人の案内で広いサロンに通された。そこには既にジルアーティーが居た。足を組んでソファーで優雅にお茶を楽しんでいる。目の前にはスコーン、マカロン等軽くつまめそうなものがティースタンドに並べられている


 「お前も夜食?」


 先に居たジルアーティーから声を掛けた。

 対して、エリンはストレートに知りたいことを聞く。


 「ああ。全く記憶にないんだがここ誰の邸か分かるか?」

 「ヘルか双子だろうな」


 ジルアーティーは消去法で2家に絞って答えた。

 エリンはパドウェイ家の帝都の邸(タウンハウス)へは訪問した事があった。


 「そんなら双子だな」


 2人の間でやっと何処に居たのかが分かった。向かいのソファーにエリンが座る。

 そこで両開きのドアを使用人2人が開き、ワゴンを押しながらリンデーンが入って来た。


 「いやー、お前ら意識無くなって流石に慌てて連れて来ちゃったよ。俺じゃどうにも出来なくてさ、流石に寮に戻るわけにはいかないだろう?エリンも居たし」


 「確かに寮だけは勘弁して欲しいな」


 ジルアーティーがマカロンを口に放り込みながら言う。


 「いや、俺の今日の姿は家人に見せられたものではない」


 頭を抱えながらエリンが呟いた。まだ酔いが残っているようだ。


 「マリアには怒られたよ。まぁ良く考えたら分かるんだが、うちに連れて来るより、お前らの邸に送った方が近かったよなー。でもエリンは連れて来て良かったのか。しかしまぁ、2人とも顔色が随分良くなって良かった。連れて来た時は顔が青白かったからな」


 リンデーンは陽気な様子で、明らかにまだ絶賛酔っ払い中だった。


 「でさ、俺たちの介抱って誰がやったの?着替えは?」

 「あー、エリンでも気になる?着替えは流石にマリアじゃないよ?執事がパパッと魔法で服取り替えたから。まぁうちの侍女達はこれ見よがしに触ったりしないと思うけどね、そこんとこはちゃんとしてるから」


 リンデーンはワザとらしく疑問を残して答えた。

 実際はただ酔っているだけなのだが、あとの2人には気になる問題だった。

 酒に呑まれてぐでぐでの姿を年下のご令嬢に、しかも殿下の婚約者に見られたのみならず介抱させたとか、次に顔を合わせた時に何を言えば良いのやら、全く恥ずかしい限りである。


 この場に居る3人の中では一番酔いが醒めているジルアーティーは、この場に居ないフィンネルが気になった。


 「フィンネルはどうしたんだ?」

 「あ~、ゆっくり夜食食ってるところ。2人が目を覚ましたって聞いたから俺だけ抜けて来た。今あっち家族勢揃いでのんびり食事してるから」


 2人は出来るだけ早くルナヴァイン嬢に失礼を詫びたい所だったが、リンデーンに止められた。


 「今薄着だから止めといた方が良いよ、襲う気があるなら連れてくるけど?(本人は至って冗談のつもり)」


 と、平然と爆弾を落としたのである。

 2人が()()と聞いてどの程度のものを想像したのかは分からない。

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