34. 悪役令嬢、応援するなら婚約者より身内でしょう
いよいよ剣術の模擬試合当日を迎えた。午前中は予選、午後はトーナメント戦。トーナメント戦には30人しか進めない。
二年生のトーナメント枠は僅か4つ。お兄様方が予選落ちでもしたら午前で帰ろうかしら?どうせジル様はトーナメントに進むわけないし。実力は有るんじゃないかと思うんだけどね。ゲームシナリオでもこの試合でイベントがあるのだけど、ジル様は武闘派じゃないの。確かイベントが有ったのはヘルムルト、殿下、お兄様方だったかしら?そうそう、リンデーンが優勝しちゃうのよ。ヘルムルトルートの時だけはヘルムルトが優勝したっけな。
二年生の成績までは描かれていなかったから分からなくて、逆に新鮮な気持ちで観戦出来るのは良いかもしれない。
試合前に声をかけに行くのはやめておいた。いやぁね、薄情なんじゃなくて、却って迷惑になるからよ。予選は男子生徒全員参加だもの。応援していることを殊更アピールしたがるご令嬢方がどれだけ押し寄せるか考えただけでゾッとするでしょう?
まぁ、皇太子殿下は個人控え室があるの知ってるけど、私が行っても喜ばないわよ。あー、でもお兄様方他もそこに避難しているかもしれないわね……。
父兄側の観戦席を見る。貴賓席には当然皇帝を始めとした皇家の方々、他公爵家の、って、あれ?うちの両親が居ない?お祖母様はいらっしゃるのにどう言うわけかしら。それらしき空いている席も無いわよ?
まさか……あっ見つけた!割と学生寄りの一般席に居るじゃないの。まぁ一般席って言っても 父兄や親戚、卒業生しか入る事出来ないから周囲は貴族だらけな訳だけど。ちょっ、まさかそこまでして皇帝を避けるのお母様?一応お兄さんでしょ。まぁシスコン過ぎる兄がウザいと聞いてはしょうがないかとも思うけど、結婚を猛反対された恨みがまだ消えないのも分かるけど!ものすごくあからさま過ぎると思うわ。
でもお母様のお隣の席はリード辺境伯家夫妻が座っているのね、夫人がご学友だと聞いているし良いのかしら?まぁ、お父様の周辺も戦友と聞いたことのある方々がいらっしゃるから、貴賓席を辞退した言い訳としては十分なのかもしれないわね。まぁ良いか。
「マリー、公爵様方はいらしてないの?貴賓席にいらっしゃらないわ」
「ロサ、わたくしの両親はご学友と戦友の皆様と観覧なさりたいようで、貴賓席を辞退したようですわ。ほら、あそこに居るわ」
「まぁ!本当に、あんなところにいらして周囲が大騒ぎにならないのかしら?」
「今のところは大丈夫そうに見えるわね、それに、周囲を交友のある方々が固めてらしたら心配ないのではございませんこと?」
「そうねぇ、リアは冷静ね。それにしてもお美しいわ……」
ディナ、ロサは両手を組んでうっとりしているけど、それより前見て!もう一年生と二年生の予選始まるわよ。
予選は2学年ずつ、3組で、計6組同時に進行する。一応場は区切られているけど場外ルールは無いので、別の組みとぶつかる可能性もなくは無いから、あまり大立ち回りすると迷惑になるってわけ。自滅の可能性もあるけど。勝負が付き次第、次の組みと入れ替えで次から次へと予選落ちが決定して行く。
あ、エリンめっちゃやる気ない。予選の初戦敗退って有り得なくない?二年生は3組あって、男子は計48人、まず半分の24人になったら、次は乱戦で最後まで残った4人がトーナメントに進めるってわけ。この乱戦を嫌ってエリンは早々に逃げたと見える……。殿下はやっぱカッコ良いわね、鑑賞しているだけなら良い男だと思うわ。公務や書類仕事で鍛錬不足と聞いてたけど危なげなく勝ち進んだ。ヘルムルト、お兄様方はここで敗退出来ないわよね。ほぼ最初の一手で決めてるわ、あの間怠っこしい練習は何だったのかしら、陽動作戦?その前にまともな鍛錬積んでなきゃ意味無いわよ。あーーージル様もやる気ない側だったか、負けるの早すぎじゃないですか?手を抜いてるのがここから見てても分かるんですけど……。もうちょっと見て居たかったのに、なんならオペラグラスも欲しいくらい。ああ残念過ぎる。
一年生も中々頑張っている人がいた、デボワール?あらやだ、ヒロインの義弟ね、そうか、確か三男が同じ学年だった。リード辺境伯嫡男も辺境伯家だけあって鍛錬積んでるのね。親同士は友人でも子供同士は交流無いのよあっちは令息だもの尚更ね。三年生と四年生の間はちょっとおやつタイムにしちゃったわ、ごめんなさいませ。座ってずっと観戦しているのも疲れるの、ああ、どこかに隠れて柔軟したい。伸びすら出来ないの辛い、お花摘みの時間だけじゃ何も出来ないのよ。だって後ろに並んでるもの。イベント会場で女子トイレが混み合うのって時代関係ないのね。
五年生、六年生は中々見所があった気がするわ。あの優勝候補のベンジャミン・ツバァイク辺境伯卿って昨年五年生で優勝したんですって。でも現役の騎士ってずるいわね。まぁ学園通いながら正騎士ってよほどの実力が無ければ成れないでしょうけど。
見てて思ったけど、やっぱり乙女ゲームの世界だけあってイケメン率高いのよね、ご令嬢方大喜びで観戦してたわ。そうね、これから婚約者探し、って人にはより楽しめて良いわよね。私だってフリーだったらジル様にハンカチ贈れたのに。
そう思うとなんだかつまらなくなって来たわ。
乱戦は通常の鍛錬しか積んでない方には難しいわね。(その時だけ)意気投合して数に頼んで強敵1人を蹴落とすも良しだけど、お兄様方は後ろに目があるのかしら。まぁこんな所で脱落されても困るけど。お父様よりお母様がどんな無茶振りをしだすか分からなくてよ。
双子で共闘もありだと思ったら個人プレーだった。ヘルムルトはやっぱ冒険者だけあって乱戦はお手の物って感じ。殿下は乱戦ダメね、お上品過ぎて。それでも粘っていたけどヘルムルトに剣を弾かれて終わったわ。遠慮無しね、良い心がけだと思いますわ。あとはノブレスィージ卿が殿下の護衛の意地で勝ち残ってトーナメント進出組4人がお兄様方、ヘルムルト、ノブレスィージ卿に決定した。
お昼休みに入ったのだけど、私達はそのまま観覧席でランチボックスを広げて食べることにしていた。食堂まで行くのに通常より道が混み合って時間が掛かるのが予測出来てしまうし、空きスペース探しも中々面倒そう。来客のことも考えて休憩時間は2時間も取られているのだけど、それだけに行き場所がないのよね。
トーナメント戦は闘技場のフィールドを二面に分けて行われる。二試合同時って、見るの大変だわ。
抽選の結果、トーナメントAにはフィンネルお兄様、トーナメントBにはリンデーンお兄様とヘルムルト。あらら、Bには優勝候補が居るじゃない、リンデーンお兄様御愁傷様……せめてヘルムルトには勝てることを願っているわ。
先ずは第一回戦。Bの一組目にリンデーンお兄様、一年生が相手だけど、あれは例のヒロインの義弟だわ。北方領地は剣豪が多いと言われているけど一撃で終わってる弱っ、頑張れ三男、婿にも騎士団にも貰い手無くなるぞ、かと言って文官も難しいのよ、学力試験下の中だったし。ああ、それで余計にヒロインに一家の期待が掛かるって設定になるのね。実際目の当たりにして理解したわ。ちなみにデボワール家の嫡男と次男も在学中だけど予選敗退組でしたー。
Aの二組目にフィンネルお兄様、相手は一年生で私の同級生。ベルロ侯爵卿、イケメンとまではいかないけど、そこそこのモブ顔で学力試験は6位、つまり一年生の男子では1位。でもまぁ、今回は相手が悪いわね。フィンネルお兄様も観客を楽しませる気は全く無しの一撃で相手の剣を弾き飛ばしちゃったわ。呆気なさ過ぎていっそ清々しい。
ヘルムルト、ノブレスィージ卿も危なげなく二回戦進出。まぁ一回戦は一年生と二年生が対戦組まされてるから二年生が有利よね。
二回戦もお兄様方は四年生相手にも一撃で剣を弾き飛ばし終了。後半戦に体力残したいのは分かるけど、学生の模擬試験なのに相手が気の毒だわ。ヘルムルトも余裕ね、相手は三年生で他の領地騎士見習いをしているリリーのお兄様。リリーがとても残念そうにしていたから、ディナも手放しで喜べないよう。結局リリーが気を取り直してディナと一緒にヘルムルトの勝利を称えていたけど、ヘルムルトの次の対戦相手はリンデーンお兄様だわ……今言うことでは無いわね。
あらら、殿下護衛騎士のノブレスィージ卿は二回戦であっけなく脱落、相手が六年生で残念だったわね。上位32強って言って良いのかしら?
殿下に土下座しながら泣き暮れるのが目に見えるようだわ。土下座って文化自体は無いけど何故かするのよね。だって日本のゲームですもの。
二回戦からはシード選手が2人参戦だったけど、優勝候補の方は中々強そうだった。基本は力技だけど小手先も器用なタイプかなー?試合時間が短くてあまり良く分からなかった。
三回戦、やっと注目度の高い組み合わせが出て来たって感じで、観客席も注目している。
リンデーン・ルナヴァイン公子vsヘルムルト・パドウェイ公子なんて対戦カードそうそう見れたものでは無いわよね。だってお兄様は卒業後、領地経営引き籠りの我が家の伝家宝刀引抜き待った無しだもの。
最初は互角っぽく見えたのだけど、先に仕掛けたのはリンデーンお兄様だった。剣戟ラッシュで攻めヘルムルトが防戦一方で体勢を整えようと後方に引いたところで、身を翻しながら目にも留まらぬ早技で懐に入り込み左胸部のプロテクターに剣先を当てて終了。はい、実戦ならヘルムルトご臨終ですね。
皆溜息を漏らすばかりで、しばらくして主に招待席側から大歓声がしてたけど、リンデーンお兄様の次の対戦相手は優勝候補だから、喜んでいられるのは今の内だけかしら?勝てなくもない相手だと思うのだけど。
フィンネルお兄様は六年生相手でも楽勝だった。剣より弓派で接近戦はあまり得意ではないとしながらも、そこらの騎士志望者に負けるわけには行かないって感じ。相手は今年の冬に帝都騎士団の入団試験予定で、腕に自信があったようでガックリ膝をついてた。まぁ相手が兄様ならノーカウントだと思うから頑張って!
4回戦の注目のカードはリンデーンお兄様と優勝候補のツバァイク辺境伯卿。
まぁ、結果としては惜しかった、けどお兄様が途中で頬に切り傷を負った時に観客席の四方から悲鳴が上がったのには正直吃驚した。だってホンのかすり傷よ?お兄様が胸の内ポケットに私が贈ったハンカチを忍ばせていたのにも驚いたわ。他にも大量に受け取っていたのは知ってるもの。傷口の血を拭っただけのつもりだろうけど、それで傷も治っていると思うわ。
お兄様は力負けした感じね、鍛錬サボるからこんなことになるのよ。お母様の反応が怖い。今週末、いいえ、今日にでも捕まりかねない。たまには筋肉痛で動けなくなると良いわ!
最終戦はフィンネルお兄様とツバァイク辺境伯卿、フィンネルお兄様は対戦相手に恵まれたと思うの。
これは、お兄様も勝てると思うのだけど、素早さで圧倒出来るかしら?中々決着が付かず、相手の粘り勝ちで勝敗が決した。観客的には見所があった試合だと思うのだけど、身内から見ると腹立たしい結果。依りにもよって体力負けですか?もう今すぐ家に連れ帰って扱いて良いですかね?
今日はそれぞれ観戦に来た家族と帰宅する方々が多かったけど、私は早々に帰宅の途についた。お兄様方は昨年も反省会と言う名の飲み会をしたらしいわ。ハッキリ行って逃げたとしか思えないのだけど。
観戦疲れと、エコノミー症候群寸前の固まった体を鍛錬中の護衛騎士達に混ざって解す。今日は汗を流すことを主眼において鍛錬したのだけど、護衛騎士が3人ほど動けなくなってしまった。入浴剤分けてあげるから勘弁してね。
お父様とお母様は旧友達とゆっくりディナーを楽しむとの知らせがあった。お祖母様は久し振りに皇城にてお茶会なんだとか。そう言えばお祖母様だけ貴賓席にいらしたものね。
なので私は一人ゆっくり過ごすことに決めた。
最推しはやる気ない組で、お兄ちゃん達を応援するしかないですね( ̄▽ ̄)




