32. 悪役令嬢、一財産作る(まだ計画)
まさかハンカチを渡す試練があれほどハードだとは思わなかった。体力的には問題ない、数時間立ちっぱなしなんてどうってこと無い素晴らしい足腰!単純に嬉しい。
こんな時間になってしまっては今日の鍛錬は参加出来ないなと残念に思いながらも、お兄様方に無事ハンカチを渡すことが出来て安堵した。ハンカチを渡す時に常に無いほどニッコリと笑いながら「怪我しないように頑張ってくださいね」なんて言いながら渡したけど、歯を見せない程度に抑えられたかまでは確かじゃ無いわ。ちょっと淑女らしくなかったかもしれない。
でも過ぎたことを悩んだところでしょうがないわ。たぶん「やっと帰れるー!」って気持ちも入ってしまったのよ。
闘技場を練習場として解放してくれれば観覧席があるから座っていられるし、押しつ押されつの状態で見学しなくて済むのに。でもそうすると益々見学者が増えてしまうかもしれないわね。
全ては家に帰って来ないお兄様方が悪いのよ。そのおかげでジル様にお声がけして貰えたから少しは許して差し上げますけど!
今日は葡萄酒を入れたワイン風呂。ちょっと大人向けだけど、数時間同じ場所で立ちっぱなしだった足に溜まった体液を循環させるのには良いかなと思って試してみました。ふくらはぎに手を当てて細かい気泡を発生させてみる。バブル美容器を参考に考えてみたんだけど、足の裏に当てても気持ち良い~♪
こう、イメージだけで魔法を使うのは、研究ではどうしようもない部類で、魔力とセンス、努力、完全に個人の資質頼り。まぁイメージ強化のために適当な魔法技を声に出すことはあるけどね。
お父様が戦時中に使ったのもこの部類で、あまりに荒唐無稽な荒技連発かつ高威力だったために『雷帝』『雷神』等々恐れ多い異名を叫ばれたらしい。主に敵側兵士に。やっぱ私のこのデタラメな所はお父様似なんだと思うわ。
うちは特別魔法特化の家系として名が通っている訳では無いけど、代々、魔法使い、魔導師、魔術師、一人で多数の分類に属した魔法を操る者が多いから、外で魔法の教えを請う必要がほとんど無い。
学園では有難く魔法の一般常識を学ばせてもらえますけど、ああ、でも私はそこまで学園に居ないのだったわ。三年生で追放されるまでの間、どれだけ学べるかよね。独学でしか学べないけど。
やっぱりせっかく城塞に通う許可を貰ったんだもの。こうなったら護衛騎士の鍛錬だけじゃなく、国境警備騎士団の魔導師にも鍛錬をお願いしよう。攻撃系に偏るのはしょうがないわね、城塞内の使用人なら生活系の便利魔術を知ってないかしら?
心身共にスッキリして美味しいディナーを頂いた後、先日から集中してやってるお裁縫に勤しむ。これは趣味というより完全にお小遣い稼ぎ。サンプルをいくつか作って、領内の高級ファブリック商会に売り込むの。
経営チートは時間的制約で出来ないけど、アイディア商品を作って卸す、製造ブランド店なら出来るんじゃないかと思ったのよね。足元見られて安い卸値で買い叩かれたら困っちゃうけど、領主からの取引ならそう無下には出来まい。その分、家名に傷が付くような商品は出せないけど。
やっぱり魔石が足りないな、小さな5mm~1cmのドロップ型ビーズを沢山テーブルクロスの縁に付けたいのだけど、良い色の魔石が足りないの。ダンジョン行かなくちゃ、何処が良いかなぁ。週末はしばらくダンジョン巡りしたい、でも魔法鍛錬もしたい。忙しいなぁ、時間が足りない。
剣術の模擬試合まであと10日に迫った日、両親がやっと皇都の邸に出て来た。
護衛騎士、使用人、私と総出で出迎える。
「お父様お母様、おかえりなさいませ。お疲れでしょう、先ずはお茶の用意をさせてありますからどうぞ」
荷物は使用人達に預け、プライベートリビングから続くテラスに案内する。ここは温室かのように冬でも色とりどりの草花が楽しめる総ガラス張りの贅沢な空間だ。元は野外で吹きっさらしのテラスを勝手に改装させて貰った。高品質のガラスは超高級品だけど、そんなの作れば良いのよ。ちゃんと厚みもあって、思いつく限りの防御付与したからそう簡単に暗殺されたりしないわよ!ええっ、刑事物の見過ぎ?
最高級ダージリンのオータムナルに似た紅茶を淹れる。これは実を言うと自領特産の希少品で、夏休み中のハードな視察で見つかった物。紅茶への加工は魔導を使って時短しているけど、品質は上々だと思う。スウィーツスタンドにはパティシエが心を込めて作った新作菓子が美しく並ぶ。その中には私が前世の記憶から持ち込んだガトーショコラも入っている。これも視察中に大量に見つかったカカオをどう売り込むかの試作品。
だってチョコレートやココアは既に市場に出回っていて、うちの小さな領が普通に新規参入したところでどうなるのか?ってところが課題だったのね。
あとは、テーブルや椅子、ソファーなどに使われているファブリック類。特に目に付き易いのはテーブルクロス、真っ白な上品な光沢のある最高品質シルクに、テーブル面は中央に草花のリース刺繍をわずかに入れただけのシンプル仕様で、周囲を同品質の華麗なシルクレースを繊細な刺繍でつなぎ合わせ、四隅にはテーブルクロスのズレ防止で、ドロップ型の透き通った蓮橙桃色のテーブルクロス・ウェイトが止められている。
「まぁ!これはマリーが準備してくれたの?」
「邸の使用人達と協力して、楽しんでいただけるように用意しましたのよ? 気に入って頂けたら嬉しいわ」
「気に入ったに決まっているわ。 これはどの商会が扱っているクロスなのかしら? これほど大きく美しい魔石を揃えるなんてそう出来ることでは無いし、浄化と形状維持の魔法付与が込められているわね。 それだけでも素敵なのだけど、このテラスの大掛かりな改装は大胆ね! お友達に自慢したくなってしまうわ、たまにはお茶会でも開こうかしら?」
お母様は至極ご満悦だ。その隣のお父様は多分数字で頭がいっぱいだと思うわ。ちょっ、情緒が無いわよ!せっかく愛娘(?)が一生懸命おもてなしプランを考えたのだから、労いの言葉一つぐらいくれても良いんじゃない?
なんて思っていたら、口から心臓が飛び出るかと思ったわ。
お父様が背中に手を回して寄せて、頭を撫でながら「よくやったな」なんて褒めてくれたのよ。ハグ!頭なでなで!どっちも初なんじゃない?なんだ、子供にもちゃんと愛情表現出来るんじゃないの。涙出そう。実際うるっとしたんだけど、馬車に乗りっぱなしで疲れた二人を席に着かせて、二人の愛の視察旅行の様子を少しばかり聞かせて貰った。
このタイミングで両親が帰って来たのは私の策略。
どうにもスポーツ感覚でしか剣術を興じている風にしか見受けられないお兄様方に発破をかける為、学園の剣術の模擬試合に参加することをお手紙したの。もちろん、全ての状況を書いたわけでは無い。お兄様の実力をしかと見学させて頂きますわ。熱い応援していたご令嬢方の期待にも応えて頂かなくてはルナヴァイン家の名折れですもの。
あら、ちょっと悪役令嬢っぽいかしら?
どのみち私が放って置いたって、ゲームシナリオが始まる頃には『天才剣士』、『天才軍師』なんて枕詞のようなものが付いているのだろうけど、あんなかったるい鍛錬の様子を見せられたんじゃ、少々不安にもなるじゃない?
後日、私の作った布製品含めた試作品は商品として我が領発で売り出して行こうということになった。まぁ、実際のところ私が商売しようとしても、現状ではどうしたって保護者の協力が必要なのよね。本格始動は冬からという事になったけど、お小遣い(にしては多いけど)ゲットだぜ、ですわよ!




