31. 悪役令嬢、お兄様にハンカチを渡してみました
賄賂?
今日から学力試験である。夏休みは出された課題をこなすだけで精一杯だったから、週末も涙を飲んで勉強しましたよ。マリノリアのスペックは確かに高いけど、それだけに頼っちゃいけないよね。基本的には授業をサボらずに受けていれば問題無いと思うのだけど、やはり学年主席をキープするには最善を尽くすべし!
これで皇太子の好感度が勝手に下がってくれるのだ。
▽▲▽▲▽
「まぁ!やはりマリーは別格ですわね」
「ありがとう、ロサ。これでやっとぐっすり眠れますわ」
「ディナったら、刺繍放棄して頑張りましたのね。5位だなんて」
「嫌だわ。だってあまりにも出来が悪いと思われたく無かったのですもの。リアこそ次席なんて素晴らしいですわ」
「ロサが3位、わたくしが4位。上位を令嬢が占めてしまっているのも何か微妙ですわね」
「リリーったら、そんなこと気にしても詮無きことですわ。殿方は剣術大会の準備にかまけていらしたに違いないわ」
「そうかもしれませんわね、マリー」
何ということでしょう。別に自習までご一緒したわけでは無いのだけど、ランチを共にする友人達で5位までを独占してしまった。
この学年の男子はどうなっているの?アレか、皇太子の側近および側近候補やご学友が二年生に集中してしまっているから、やる気がないのか?まぁ座学の成績が全てじゃないけど、トップ10まで8人が女子ですよ。もっと頑張れー。
二年生の順位表を見てみると、主席はやはりエリン・スチュワート。次期宰相候補と言われるだけあるわね。次席は殿下か公務サボってないわよね。3位にジル様が入っているわ。設定では皇城敷地内の魔導師の塔に入り浸りで、座学は適当にこなして10位以内キープくらいなのに、何か心境の変化でもあったのかしら。
攻略対象者でトップ10に入ってないのがお兄様方だけっていうのが、残念ね……。それでも今回は11位と12位、悪くはない。剣術大会で挽回してくれると良いのだけど。
▽▲▽▲▽
頭使って疲れた後は身体を動かすのが一番!ってことで、帰宅して早速、護衛騎士達の鍛錬に入れてもらった。今日は模擬試合ですって。
気がつくと周辺は護衛騎士達の死屍累々。微かな唸り声が聞こえている。ちょっと~領地の護衛騎士達より腕が落ちるんじゃないの?それとも夏休み中のスパルタ鍛錬が効いているのかしら?
「お嬢様やってくれましたな。 邸の警備が薄くなることはありませんが、程々にしていただけませんか」
「タンドナ隊長!ごめんなさい。 思いっきり体を動かしたかったの、今後は善処するわ」
「はははっ!まぁこいつらにもいい刺激にはなったでしょう」
うーん、反省反省!鍛錬に付き合ってくれた騎士達にお礼を言って部屋に戻った。
夏休み中にしたくて出来なかったことをやりたいのだけど、その前にゆっくり入浴かな。今日は柑橘のスライスを浮かべてスッキリ、リラックス。はぁ~癒される。
刺繍は淑女の嗜みなれど、今私がしているのはお兄様用のハンカチではない。あー、でも先にお兄様用を用意しちゃった方がいいかな?あげないと言いつつも、何故か向こうから構って来ているのにあまり冷たくあしらい過ぎるのも良くないよね。余計な破滅フラグを立てる必要はないのだ。
上質の絹の無地ハンカチを用意し、鍋に藍の生葉をいれて煮詰めて薬液を作って粗熱を取ってからハンカチを浸して薄い水色に。濃い藍色にするのは時間と技術がいるけど、薄い色ならそれほど難しくないの。そして色止めは詳しくないので出来上がったら魔法付与で現状維持出来るようにしようかな。そう、洗濯要らずのハンカチ。便利だと思わない?
刺繍糸は少しだけ色の濃い水色。『無傷』の加護の意味があるという文様を縁にぐるりと刺繍して、仕上げに右下にルナヴァイン家の家紋を同じ糸で刺繍。シンプルだけど手が込んで見える、かな?仕上げに【浄化・現状復帰】の付与をする。これで色落ちほつれ無し、洗濯不要になるはず。身体強化系付与はルール違反になったら困るから掛けなかったわよ。
さて、後は魔石をビーズ加工しようかな。まず魔石の色分けしてみたけど、結構あると思っていたのに色分けするとそうでもなかった。うーん、使いたい色の量が溜まるまでは加工しないでおこう。その方が変更が利くもの。
それにしても、お兄様方には何処でハンカチ渡そうかしら?そもそも剣の鍛錬は何処でやっているの?もう模擬試合当日でいいかな。
▽▲▽▲▽
とある日の放課後。来てしまった、学園の男子寮入り口の受付。兄妹だもの、呼び出しくらい問題行動にはならないハズ。でも緊張するわ、ここに来るまでにすれ違う男子達からはずいぶんと注目を集めてしまった。
受付の寮監に声をかける。
「失礼します。ルナヴァイン家のリンデーンとフィンネルは戻っておりますでしょうか?呼び出して頂きたいのです。妹の……」学園生徒手帳を開いて見せながら頼んでいると、後ろから声をかけられた。思いがけないことで心拍数が上がる。ちらっとでも会えたら良いなとは思っていたけど。
「二人なら戻っていない。今なら剣の練習場に居るから行ってみると良い」
「ありがとうございます。クロスディーン卿」
振り返って応えてから、淑女の礼をする。ああ、あまりじっと見つめていられなかったけど、ほんの少しだけ表情が柔らかく感じたわ。嬉しくてスキップしてしまいそう、もちろん抑えましたよ。
ジル様はそのまま寮の中に入って行ってしまった。
私は声をかけ途中になってしまった寮監に会釈をして、その場を去る。
よりにもよって鍛錬場かぁ。でも当日の方が人は多いんだから同じことだよね。むしろ皇太子は確実に居ないから、渡すタイミングとしては良いんじゃない?
予想通り、ご令嬢方の黄色い声援がうるさい。
しかもお兄様方は奥の方にいるから、今声をかけるとしたら大きな声で呼ばないといけない。うーん、ただハンカチを渡すだけなのに、中々難易度高いわね。ふと、見学して居る令嬢の中にロサとディナが居たので近寄って声をかけた。
ディナはロサに誘われて来たとのことだが、なんとヘルムルトも居てディナはちょっとどころでなく嬉しそうだ。あー、もしかして惚れちゃった?ヘルムルトの相手をしていたのはオランド伯爵子息、皇太子の乳姉妹で側近だ。殿下に付いてなくて良いのか?
ロサの目的はイマイチ分からないけど、剣を振るう男子を見るのが好きらしい。ちなみに通常の制服ではなく動きやすい練習着に着替えているが、ジャージの体操服と違ってこれも制服補正がかかるだろう意匠だ。
二人としばらく見学しながら話していると、やはりと言うか、プレゼントを渡す場合は練習が終わるまで待って、鍛錬場を出て来た所で渡すのがマナーらしい。呼び出さなくて良かった……。
でもここでしばらく待つのか、なんだかアイドルの追っかけにでもなったみたいな気分。
練習をしばらく見ていたのだけど、いくらなんでもかったるい。お兄様方が組んで鍛錬しているけど、あれで鍛錬になっているのか疑問になった。軽いスポーツ感覚の汗は流しているみたいだけど、まさか本番で予選落ちなんてやらかさないでしょうね。
あくまでも練習であって本気ではないと思いたい。そう思ってじとっと見ていたら上のお兄様と目が合った。あらまぁ、剣を打ち合っているというのに余裕ありますね。下のお兄様にも伝えたようで、こちらに手を振った。途端悲鳴がすごい。
なるほど、お兄様方はご令嬢方にかなり人気があるらしい。これは今のうちに寮側の出入り口に近い場所に移動しておいた方がいいかもしれない。ロサとディナに声をかけてから一人で移動した。いつまでこんな間怠っこしい練習するのかしら。
結局、学園の門が閉まるギリギリまで練習して出て来たお兄様方にハンカチを渡して帰宅した。あー疲れた。
読んでくださってありがとうございます。
ブックマーク、評価、感謝です♪( ´θ`)ノ




