118. わたくしを育んでくれた皆に祝福返し出来ましたわ
城に帰ったら、1000人以上の護衛騎士達がずらっと並び、執事長から侍女下働きにまで及ぶ使用人達が数え切れないほど大勢出迎えてくれた。
「「「マリノリア姫様。成人の儀誠におめでとうございます!!」」」
「皆んな、忙しいのに……ありがとう。いつも感謝しているわ」
ツンと鼻の奥が痛んで涙が溢れ出そうだった。きっとルーラ教会での顛末を聞いて、手をあけられる者達が呼びかけあって、ここまで集まってくれたのだ。私は優しい人達に囲まれて生きて来た。この人達が私を守ってくれたから生きて来れたのだと、再確認した。
そして、私は天に向かって両手を掲げて。
「この城に勤める皆に祝福を【浄化】」
ここには城内で起こった事を外に言い触らす者など居ない。私は家族以外に隠して来た聖属性魔法の真髄と言われる”浄化”を城壁内の隅々にまで渡る様に祈りを込めて祝福返しをした。当の本人は教会での騒動で祝福どころでは無かったのだけど。
空からキラキラとした光が降り注ぐ。今日は陽気が良いのでまるで真昼のダイヤモンドダストの様だ。色がちょうど私の、ルナヴァインの銀色に輝いていたからだ。皆その稀なる光景にしばし歓喜して居た。
ややしばらくして城の中に入った。そのままプライベートリビングに四人で入った時、ひいお祖母様が私を抱きしめて額にキスをしてくれた。
「マリノリア・ルナヴァイン。愛しい貴女に祝福を」
そう言って、額に右手を掲げ、
「【祝福】を」
手ずから直接聖水を垂らしてくれたのだ。これは、大神官クラスでないと出来ない特殊な高位魔法だ。現にルーナ教会の司教は小瓶に入れた聖水を用意していた。
思いがけない出来事も有ったけど、身内に祝ってもらった成人の儀と祝福はこの上なく幸せだと思った。
「おやおや、母上もひ孫には甘いのですね。 それは本来皇族しか受けられない祝福でしょう?」
お祖父様が目を細めながら笑っている。その隣でお祖母様が笑いながら。
「あらあら、本来なら神殿で祝福を受けたはずだったのでしょう? あの大神官ならやりかねないわよ」
くすくすと笑い続けるお祖母様に、ひいお祖母様がちょっと拗ねた様に、でも胸を張って言い切った。
「ふん! あんな未熟者よりもわたくしの祝福の方がマリアに相応しいに決まっているでしょう!」
私も自然と笑みがこぼれた。あの大神官様を未熟者呼ばわり出来るのなんてひいお祖母様くらいだろう。一時期神殿に身を置いて居た時には、ひいお祖母様の方が地位が上だったとは聞いている。まだ大神官様がその地位に就く前の神官修行時代の事だけど。それはお祖母様もなのだけど、お祖母様の方は事情が特殊なので、普段はあまり神殿に居た事を言いたがらない。
もう本来のランチタイムはとうに過ぎているので、遅めの昼食を身体の自由が利かないお祖父様に合わせてそのままプライベートリビングのソファー席でゆっくり摂る事にした。
私の為に用意してくれたお祝い仕様の豪華な昼食だ。うーん!頑張りすぎだわ、こんなに食べられない。でもきっとそう言う事では無いのだろう。全部は食べ切れないだろうけど、全ての料理を堪能した。どれもこれも最高に美味しかった!
そしてティータイムに入った頃、この場に来れなかった家族への心配が話題に上がって来た。今までは私のお祝いを優先して、皆不安を心の奥に押し込めて居たのだ。
「わたくし達が呼ばれなかったのは、きっと歳の所為もあるでしょうね」
ひいお祖母様が言った。そう、ひいお祖母様もお祖母様も、まだ現役と言えるほど聖属性魔法のエキスパートである。現在名実共に第一人者はお母様だけど、現在神殿にいる大神官くらいしかこの二人に敵う者は居ないはずだ。そのくらいの力があるからこそ、ひいお祖母様はともかくーーー愛し合っては居たらしいが政略結婚であるーーーお祖母様は幼い頃からその高い能力を買われて神殿に幽閉されて来たのだ。お祖父様の元に降嫁出来たのもその高すぎる能力故だったらしいけど、詳しい事は分からない、そのうち話してくれるのかな?
お祖父様が重たく口を開いた。その眉間には不安からか深いシワが刻まれている。
「現在この帝国内に大規模な浄化を必要とする様な土地など無い。ナティウス大森林は所により不安定に瘴気溜まりが出来ているそうだが敢えて自然のままにしているだけだそうだ。深部に住む魔物共がそこで大人しくしている限り手を出す必要はないと言うのが帝国の考えらしい。いざという時に冒険者が集まらないと困るから、ダンジョンも周囲に危険を及ぼさない程度のは残してあるし、辺境の地においても生態系に大きな影響がない限りは帝国としては放置して冒険者ギルドに一任しているのだ」
「ああ、いやぁね。この事態は帝国内の問題では無いってことなのね。時期的に色々考えられてしまうわ、どれも良いコトでは無いのだけど……」
森の別邸に引き籠もって療養生活をしているのに、やはり前当主夫妻。領内のみならず帝国全体、延いては隣国の情報収集にも事欠かないらしい。
「建国記念パーティーの来賓に厄介者が紛れ込んで居たと考えて良いでしょうね。それも”浄化”の大規模なモノを欲する国の使者が」
「”浄化”を必要とする国なんて、あまりにも多くて特定出来ませんわね。何ぶん情報が少な過ぎますわ」
そうなのよね。アルト王国がその経済立て直しの為に豊かだった森を切り崩してまで輸出し続けた黒いダイヤ”石炭”は使い過ぎると公害、特に大気汚染が問題になる。
でも北方三ヶ国にとって、冬季の暖を取ることは死活問題である。恐らく最初は森林伐採に歯止めをかけるための代替え燃料として諸手を挙げて歓迎しただろう。だが数年も経てば不完全燃焼等による公害の被害は木材とは比べ物にならない物だと気が付いただろう。だけど、その頃にはまだ我が帝国に前聖女が居たから、影響は気になるほどでは無かった。気にはなっても、冬の燃料確保が優先されたのだろう。そして今では黒い水”原油”が用いられている。果たして上手く精製出来ているのかさえも、この帝国では使用していない為分からない。
スウィテ・セレナ帝国でも北部は冬に凍りつくが、暖を取るには魔術道具や、薪や炭が用いられる。
まぁ燃焼で生じる二酸化炭素増加はもちろんのこと、一酸化炭素中毒被害は毎年数件起こっているけど、公害とするほどの影響は出ていない。森林が法律によって厳しく保全されているのだ。もちろん帝国の方針により各地の領主達が一定の森林保護対策を怠らない努力の賜物である。この帝国ではまだまだ魔法が当たり前の様に生活に馴染んでいるから難しい事では無い。
けど他国は如何なのだろう?ちゃんと魔法使いの育成・教育に力を入れているのだろうか?
魔法使いの確保、育成に策を労しているこの帝国ですら聖属性魔法、事に”浄化”まで行える『及第点』の聖属性魔導師は数少ない。おまけに聖女は当代で表向き一人だけだ。
前聖女は五十五歳という短い生涯を閉じた。ルナヴァイン家に嫁して来た女性達の間でも異例の寿命の短さだった。我が家の中では恐らく心労が祟ったのであろうと言われている。それはまぁ、今居る元皇女様三人を見れば自ずと分かる気がする。皆ルナヴァイン家だからこそ出来る自由を満喫している……。でも生涯にわたって”一人二役”を演じ続けた前聖女様は自由を満喫する事など出来なかっただろう。元々皇家より押し付けられる様に厄介者として降嫁し、社交の場にも出る事が叶わず。建国記念パーティーですら当主一人で参加するしか無かったらしい。愛する人と結ばれはしたが、代償は決して小さなものでは無かった。
「アルト王国の砂漠化、その迷惑を被っているフローヌ王国、北部三ヶ国はニース・アニース帝国自慢のアビス湖の汚泥化の他にも問題はあるだろう。マイージャ皇国では大気汚染と土壌汚染に加えて、鉱物採掘による自然破壊、跡地を畑にしようとしても毒素が抜けなくて失敗しているらしい。寒地だから尚対策が難しいのだろう。サントラス王国も大気土壌に加えて地下水の汚染、今では海水から飲み水を確保しているらしい、水属性の魔導士達は大活躍と言った所だ。だが肝心の海も汚染されて来ている様だ、地下水が汚染されていれば当然川も、それが最終的に注ぎ込む海も汚染されて当然であろうがな」
「まぁ、フローヌ以外は自業自得としか言いようがないわね、目先の利益しか目に見えなくなるからこうなったのよ」
ひいお祖母様が辛辣に切り捨てる。でも表情は深刻そうに考え込んでいる。
まあぁねーこの北大陸でまともな国がこの帝国と、かろうじてフローヌ王国だけだなんて、悲惨な状態よねぇ。他の大陸は小国も入り乱れているのだけど、何故かこの北大陸は大国がひしめき合って、長きにわたって国家間のバランスを保って平和を保って来た。例外はアルト王国とこの帝国との七年戦争だけ。それ以前となると、もう伝説や建国神話の世界だ。
私の聖女の加護は生まれた時から私が学園に通い始めるまでは安定して効いていたらしい。っとはフィンネル兄様に聞いた。もう何処までバレバレなのよ!だからもう私は家族の前で隠蔽するのを諦めた。おかげさまで以前よりもずっと気分が楽になった。
ただ、私の加護の力は帝国のみに留まっていたようで、それはちょうどアルト王国との七年戦争が終わった翌々年から始まったので、聖女の顕現を考える者は居なかったらしい。これだけは運が良いことだったのね。でも、無意識に、自らが『聖女』として自覚してからは、その加護の重さ、範囲って言った方が良いのかしら?効力かな?まぁどれも全部よね、変わって来るらしいのだけど、私自身にその実感は無い。
そうだなぁ……本来受けるハズだった魔力判定ーーー隠蔽しまくりだったけどーーーをしなかった事だし、久しぶりに見てみようかしら?もちろん寝室に下がってからね。
結局、今の状況で心配ばかりしていても悩みが深くなるだけだと言うことで、皇都に居る家族から連絡が来るまでは、このまま本邸で待つことにして、皆それぞれ部屋に戻った。お祖父様の移動も、護衛騎士達のみならず魔術師団も沢山居る我が家ではスムーズな物である。そのうちエスカレーターとかエレベーターみたいな魔術道具でも作らせようかなぁ、なんてかなり大掛かりな事になるであろう事を考えてしまった。
さて、先ほどみんなでお茶をしたばかりなので、普段着に着替えてーーーこれまたコスプレ級のおドレスであるーーー人払いをした。
寝室の長椅子に座ってステータス画面を開く。見たく無かったものが見える前に目を閉じた、つもりだったけど、すぐに目を見開いた!何これ!!攻略対象者が増えて居るのである!
ああ、最悪の考えが当たってしまった!ヒロインは殿下とのハッピーエンドを迎えて、そのまま幸せになる事だけを考えるべきだったのに!他の攻略対象者達をどうしても諦められず、侍らせたくてハーレムエンドを強引に目指したが為に、開くはずのなかった扉が、隠しルートへの扉が開いてしまったのだ!この先は戦争が確実に起こる。ひょっとしたら内乱もありえる。なんて事をしてくれたヒロイン!
やっぱ見えちゃったモノは仕方無いよね。
殿下はまだ0になってなかった!ええっ~?婚約破棄したよね?なのにどうして前回同様に20%も残っているの?いや、この程度じゃ好意を持っていると言える状態では無いけどさ。
エリンは80%で変わらず、うちの料理効果抜群だ!これはきっとうちに通い易く仲良くなりたいって所だろう。友人にはなれそうだわ。
ヘルムルトは、60%だ、前回より上がっているのは婚約者のディナ効果かもしれないわね。先日手紙が来てたわ、殿下のなさり様がショックでしばらく学業に身が入らなかったとのこと。他のみんなもかなり気落ちして、そんな状態だったらしい。私は今とても元気だから心配しないで欲しいと、返事を出したけど。
ジル様、うーん、微妙だなぁ……90%って何だろう?興味は持たれているのは分かる。でもMAXじゃ無いところがキモよね、非常に興味の対象である、まぁ魔法研究者的にって所かなぁ~。
双子の兄達は安定の150%って増えてるよ!あーあ、だからシスコンなんて言われるのよ。でも家族の好感度が高いって良いわね、いつでも味方でいてくれて感謝しているわ。
そして、ここからが隠しルートの追加キャラだ。
ノエルヤード第二皇子、一度は皇帝に挨拶する時に居たかなって程度の間柄だ。70%、よく知りもしない令嬢に、しかも自分の兄に捨てられた女にこの好感度は同情なのか、何か裏でもあるのか。まぁ皇太子殿下とは両親ともに同じで仲の良い兄弟だし内乱にもならない、比較的マシなルートキャラだ。その分派閥の側近がヤバいけど。
フリーディア第三皇子、30%、まぁこっちもついでに挨拶した程度の間柄だから、むしろこれくらいが通常だろう。しかし、多少マイナス感情も持ち合わせているって数字よね?シナリオ通りであれば聖女であるヒロインを狙っているハズだ。そして内乱ルートまっしぐら、この場合、ヒロインの言動が大きなカギになる。フリーディア第三皇子は非常に神秘的な美形だ。ヒロインの心が移り気であれば相手に気を持たせてしまうことにも繋がって、より内乱への道筋に近くなって行く事になる。
皇弟アレンディス、今はサントラス王国に留学中で18歳。帝国とは教育制度に違いがあり、今年の9月に卒業して帰って来るハズだけど。今の情勢では、予定を早めて帰って来る可能性があるわ。皇太后と手を組み皇子達の内乱の裏で暗躍して皇太子の座に収まる、一番血が流れるルートだとwikiに書いて有ったなぁ……。皇子達の末路がね、当然の事ながら暗殺されるか処刑されるかになるのよね。
マリオン・ハイランダー、テス・テラ王国第一皇子、北大陸の南東に位置する、東大陸にある国。冬はあるけど雪は極寒期に稀に降る程度の、温帯から亜熱帯地方である。この国は一夫多妻制だ。昨年の建国記念パーティーで私たち兄妹に声を掛けて来た来賓、ハイドラ・マイナード公爵はこの国の国王名代として来ていた。何が目的で話しかけて来たのかは分からないけど、女性を見たら持ち上げて褒め称えずには居られない女たらしが多い国だって、お妃教育で習ったわ。ヒロインなら舞い上がっちゃうでしょうね。このルートはヒロインの選択によっては戦争を回避出来るけど、殿下との愛を育んでいるハズのヒロインには選択肢は無いも同然、当然戦争まっしぐらね、まさに傾国の美女ってやつだわ。
追加キャラもどいつもこいつもイケメン揃いで嫌になって来るほどだわ。戦争や内乱に巻き込まれる方としては、どんなに美形だろうと迷惑な存在でしか無くなる。観賞用なら気楽なモノだけどね。
さて、隠しルートの追加キャラ以外にも見覚えのない名前が追加されているって事は、高森 茉莉奈の死後に、新キャラが追加されたってことかしら?スマホゲームにはありがちなテコ入れなのよね。
このシリーズの続編は既存キャラとのハッピーエンド後のほんの少し波乱のエピソードが本編シナリオより短いシナリオで追加される程度なのだけど、この新キャラ達はどういった追加のされ方をしたのかしら?考えても分からない。誰も会った事のない他国の皇子や王だわ。一人だけ国内貴族が混ざっているけど面識は無い。完全に新キャラね。私はお妃教育の一環で顔と名前は一致するけどその程度でしか知らないわ。
一番考えられるのは、ハーレムルートのハッピーエンドに当たるハーレムエンドとか、攻略対象者の一番を決めずに終わるハーレムルートのお友達エンドの続きって所ね。どっちも逆ハーレムなんだけど、テイストが違うのよ。”モテモテ奪い合いされる”か”和気藹々みんなで仲良し”の違いかなぁ~。
それにしても、皇太子殿下ルートのハッピーエンドからたったの一ヶ月と三週間って所よね?本来ならハッピーエンド後は続編に突入しているハズなのよ。隠しルートフラグが立つハズが無いし、ヒロインが素直に続編に入らずハーレムエンドに執着して行動しているからシナリオが変わった、にしては早過ぎない?
隠しルートだけでなく、知らないルートまで追加されているだなんて!それともまだ準備期間で……いや、これは<攻略状況>なんだから、もう始まっているのよ。現実逃避しちゃいけないわ!
全く迷惑なヒロインですねぇ^^;




