117. 閑話 静かな波乱の建国記念パーティー
side.Boys
「今年は若干人数少なくなったなぁ」
「あーあ、本当に白々しいよ。 フィーが全力で頑張ったから吹っ飛んだ貴族が大勢いたんだろうに」
リンデーンは軽く肩をすくめて言った。
「ランディもお互い様ー。 まぁ、まだまだ減るけどねぇ。 蟄居だけで済んだ奴は数年後に復帰出来るかもしれないんじゃないの?」
「ああ、皇族のお祝い事に伴う恩赦ってやつだねー、聖女様から候補が取れる奇跡が起きたらの話でしょ」
「うわぁ!双子の毒が強くなってる!誰か”癒しの女神”様呼んで来て!」
エリンが訳の分からない事を言い出したが、この場合双子にとっての”癒しの女神様”とは妹のことであろう。双子の妹はもう公の場には出て来られなくなってしまったからだ。
「エリンは大げさだなぁ! 今年は多少人が少ないだけで、何の事件も無いし平和なパーティーだと思わない? 何だか他国からの来賓に物騒そうなのが来て居るがね」
フィンネルは視線だけでとある国からの賓客達がいる方向を示した。
「ああ、ニース・アニース帝国が一体何しに来たんだろうな。 こっちから招待した訳で無く向こうからの打診だってな」
「エリンは知ってた? あの国では今浄化使いの魔導師を集めまくっているって」
「フィーって何処からそんな情報引っ張ってくるの? それって自国では足りなくて他国からも集めてるっって、事なんだろうなぁ……」
「うん、俺もアビス湖の汚染問題は下級生の座学で知ってたけどさ、実際に酷いらしいんだよね。 でもどの国も断っている状態らしい。 何でか分かる?」
「対価が見合わないから?」
「うーん、それだけじゃ無いなぁ。」
そう言って、フィンネルは周囲に警戒したあと言葉を続けた。
「前聖女様がいらした頃の様に、無償で浄化のおこぼれが欲しい。つまり継続して浄化の加護に変わるモノが欲しいんだよ。国内の浄化魔導師が足りないから、向こうに貸したが最後、なんだかんだと理由をつけて返さないつもりだろうと言われている」
これには流石のエリンもシャンパンを気管に詰まらせそうになった。
「ぐふっ……それって、もう戦争しかないんじゃ無いの?」
「そりゃーそうでしょ。だから何処の国も出さないんだよ、戦争回避にはそれしか無いでしょ! でも、それで終わりじゃ無いと思うよ」
リンデーンが殊更声を潜め、さりげなく顎に手を当てる様に口元を隠した。
「一番手っ取り早いのが聖女様の誘拐だな。 何しろ今は聖女様の立場的に国に呼び寄せる理由が無い。 正式な婚約者であれば殿下のパートナーとして国に招待することも可能になるが。 今日からはお遊び程度の護衛は止めだ。聖女様には皇族に準ずる警備体制が敷かれることになる。学園には相変わらず残るらしいが、学園内の警備体制も厳重になる。つまり、俺達の護衛ごっこは終了ってコトだ」
「聖女様のために学園の大規模結界を重ね掛けした。 聖女様が学園内から出ようと結界に近づくだけで第一級の警報が鳴って出入り口の全てが封鎖される」
ジルアーティーまで話に入って来た。どうやらその大規模結界ってやつに駆り出されたらしい。
「へぇ!そいつは凄いな! 正門からの出入りすら出来なくなるって訳か。 コレってさ、不謹慎だが俺達にはラッキーってヤツなの? 先週春休みなのにディナとのデートが無くなっちまってさぁ。とても残念だったから、埋め合わせに今日三曲踊って、四曲目も踊ろうとしたら、流石に喉が渇いたって言われてしまって、飲み物取りに行ったらランディの婚約者がいてさ……二人でご令嬢方の話を始めてしまって、居心地が悪くなってこっちに来たって訳」
「えっ?聖女様って春休みは聖女修行だかお妃修行だかで神殿に行ってるんじゃなかった?」
エリンは新情報に耳を寄せる。春休みまで聖女様のお守りなど聞いてない。
「ああ、聖女修行なんてとっくに諦められてるよ。 先日母上が帝都に来て早々に神殿に呼び出されて聖水の生成をさせられたんだが。 聖女様がその様子を見て、絶対に無理だと断言したらしいよ。 まぁ聖女様の浄化魔法って何も見えないからねぇ……目の前でキラキラ金の光が光って一瞬で10ℓが聖水に変わったら自信も何も吹き飛ぶって! コップ1杯の水を聖水にするのに3日掛かるんじゃさすがに無理でしょ。 大神官様が匙を投げたってさ。 明日からお妃教育係と護衛を付けて学園でも、四六時中マナーの叩き込みだって!」
フィンネルはもう聖女様へのお小言に関しては遠慮が無い。
「やっとか」
ため息を吐きながら短く同意したのはジルアーティーだ。でも続いて言った言葉は不穏だ。
「俺は元々寮暮らしだが、ヘルまで寮を勧められて居ただろう? あれって結局どうなった」
「あーっ、あったなそんなこと! 忘れてたよ」
「ヘルらしくて清々しいね!俺だって断固として断った。 そもそも、その案出したのって聖女様だってさ、殿下からフィーが聞き出したんだよ」
「うわぁ!殿下ってマジで聖女様に弱いって言うか言いなりなの?」
頭抱えてそう言ったのはエリンだ、そりゃそうだ、未来の宰相候補様には頭の痛い問題だろう。バカな女ほど政治に口を出したがるし大抵は愚策なのだ。誰ともなしに言い出した。
「「「お妃教育、上手く行くのか?」」」
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side.Fennel
「何なの!」
母上は非常にご立腹だ。帝都の邸に帰宅して早々に長手袋を脱ぎ、プライペートリビングのソファーに叩きつける!
「明後日はマリの成人の儀なのよ? なのに領地に帰るなって如何言うことよ! 哀れっぽく頼み込むニース・アニースの使者なんて蹴り飛ばして追い出せば良いのよ! 確かに私は神殿からの要請で聖水の生成を無償で行っているわ! それは降嫁したと言っても元皇女としてのお役目だと割り切ってやって居ますのよ。 ニース・アニースの汚水湖の事など知らないわよ!関係ないじゃないの!」
「そう興奮するな、絶対に派遣などさせない。ただ、今回はニース・アニースだけの問題では無い。ニース・アニースの”要請”はきっかけに過ぎない。北方三カ国が多少の差はあれど同様の状態だ」
無表情でそう語る父上の考えは読めない。
「北方三国の内、サントラスは友好国ですが……」
「何、西のアルトが絡めばサントラスも動く。 先ずは援軍を求めてくるだろう。 皇国から攻められては友好国としては援軍を出さざるを得なくなる、そこをサントラスご自慢の海軍投入で我が帝国を落とす、四ヶ国で上手く役割を分担できるのかは見ものだが、手の内が読めている。帝国は負けてやるつもりはない」
僕には父上に何処まで見えているのかは分からなかったが、近い内に戦争に巻き込まれることになる、それだけは確実なんだろうと思った。奇しくも、それは俺も想定して居た。ただ、そこまで大掛かりなものになるとは思って居なかったが。
あーあ、マリアの成人の儀は如何するんだろう。俺達だけでも駆け付けてやりたい。でも、今そんな事を言える雰囲気では無かった。
「サントラスに留学中の皇弟とクロスディーン公子を早急に呼び戻せ。 現在帝国にもサントラスの公爵子息が留学中だが、だからと言って安心は出来ない。 理由など最終学年だけでも国内で学ばせるとでも言えば良いことだ」
父上は侍従を宰相に使いに出した。用心のために護衛もつけるとは、相当物騒な事態になっているらしいな。こんなに急激に事態が動くなんて、一体なにがあったのだろう?いや、今まで見えていなかっただけなのかもしれない。
手遅れにならない様、僕も考えうる限りの対策を練らねばなるまい。




