115. 初錬金術?してみましたの!
あらら。朝ごはんを食べた後に色々していたような気がするのだけど、まだランチタイム前だった。私は冒険者衣装ごと、先ず洗浄魔法で身綺麗にして、シャワーを浴びる事にした。冒険者衣装は洗浄済みなので脱いでハンガーに掛け、全身洗浄済みだけど作業中は汗が気になったので複雑に編み込まれた頭にもシャワーを流してしまったけど大丈夫よね?浴槽に浸かって、素肌を柔らかくするための入浴剤入りだけど、髪の毛も一緒に沈んで全身ぼかぼかに癒された。
髪は複雑に編まれてはいるけど、魔法で乾燥してしまうので型崩れの心配無く出来る。うん、今日も安定のサラサラ艶々だ。せっかく巻いた垂れた髪の部分がストレートになってしまっているので、コテのようなもので簡単に巻いておく。これくらいの手入れなら前世の知識でも十分に出来るのだ。まさにソコが侍女泣かせではあるらしいのだけど。手間のかからないご令嬢って世話しやすくて良いと思うんだけどなぁ……。
そして今日のドレスに着替える。見た目は華やかなドレスではあるが、コルセットで締め上げたりはしない、あくまでも普段着と言う事なのである。
寝室に戻り、クローゼットに掛けられた冒険者衣装たちを見て考えた。やはり屋根裏部屋設置場所はもっとゆっくり考える必要があるし、殊更優先することでは無いと思い直した。何しろ冒険者活動は一時やめるか、今回のような単発で行こうと思っている。
今一番安全な本邸の寝室になら多少置いても問題無いだろう。やはり癒しのゆりかごを亜空間収納に仕舞いっぱなしは、何やら心が痛む気がする。ふとマウラ支部の受付嬢マイさんの言葉を思い出した。そうか、あれは手負いで苦しんでいたジャングルキングからのささやか処では無い贈り物だったのか……。魔物は生まれ変わることが無く、魂を持たない生き物だと聞く。もちろん例外的存在もある。直近で出会ったのは吸血鬼か。彼らは灰の中から蘇るし、複数の命を同時所有出来るとも言われてもいる。後は不死と言われる、もう伝説の中に眠りに付いた存在で、本当に居たのかすら定かでは無い存在。
多少感傷に浸りながら、今日の成果物よりも先に”癒しのゆりかご”、ラブソファー一つ分もある大きな癒しグッズを月光が良く当たりそうな寝室の南東東に置いた。
昼間の日の光で退色しないように薄いシルクオーガンジーにシルクレースを重ねた贅沢な三タックのカーテンに、魔石を幾つか付けて紫外線予防の魔法付与をした。これでこのゆりかごをここ出して置いても劣化し辛くなるだろう。そして冒険者バッグと防具や武器などの装備品、冒険者衣装も被せた。ここだけ怪しげな占い師の館のような雰囲気を醸し出している。
ランチタイムにはまだ早い時間なのだけどちょっと喉が渇いたなぁ、と思っていたら、ケイナが紅茶を持って来てくれた。おやつは軽く薄焼きのクッキーをくるっと巻いた感じのさっくりした焼き菓子。ベッド脇のローテーブル前に置かれた椅子に座りゆっくりとティータイムを始める。っと、ケイナが興味深げに”癒しのゆりかご”を見ている。
「ケイナ、それがどうしたの?」
ケイナはぶんっ!って音が鳴りそうなほど勢いよく振り向き、力説し始めた。
「お嬢様、このクラスターは世にも珍しい、ホーリーセレスチャルで出来ています!」
ええ、そうね鑑定時に教えてもらったから知っているわ?レアだってことも。
「この”セレスチャル”という成分は”理の力”と言われ、大変大きな力を持っているとされていますが、大気中に僅かに含まれるとされているだけで、取り出し集める事はもちろん、呼吸によって人体に取り込まれる事も無いんです。 眉唾物ですが昔の物語などに出て来る”仙人”が食べて居たとされる”霞”がこれに当たると言われているくらいで、こんな結晶化したものを見たのは初めてです!それどかろか、結晶化出来ることすら知られて居ないのでは? しかも奇跡のホーリーだなんて! これをここに置くだけでもお嬢様の眠りが浅いのが解消されるかもしれませんよ!」
「まぁ!ケイナは難しい事を知っていますのね!」
「お褒めいただけて大変恐縮ですが、何分研究の進んで居ない分野ですから、個別授業で学んだ程度なんですよ。後は兄がいわゆる鉱物オタクで……」
クールな美女の照れ顔は何やら貴重だわ!騎士爵家出身のケイナだから帝立学園で学んでいるのね。個別授業を受けられるくらい優秀って、宮廷魔導師にって声はかからなかったのかったのかしら、だってケイナは2属性持ちなのよ。あー、でも宮廷魔導師も官僚みたいなものだったわね、とにかく女性への門戸が狭い。”理の力”って聞くとそら恐ろしくなるけど、”セレスチャル”だとお手軽に聞こえるのは前世のせいね。
むむ?空気中に微量に漂うのを集めるのは不可能と言ったけど、既に結晶化されているコレがあったらどうなのかしら?この端っこの小さな結晶を丁寧に抜いて指輪に加工してみるとか……まぁ身に付けたらそれだけで癒し効果を常に得られるようにはなるかもしれないからやってみる価値はあるわね。小さなピンキーリングでも作ってみようかしら?ちょっと簡単に取れそうなお手ごろサイズの小さめな結晶を狙って指でつまんで左右に動かしてみる。うーん、この隅っこの小さいのだったら穴が開かなくて良い感じなのに、と思いながらちょっと引いてみると、スポンっ!とばかりに外れた!土台になっている部分に付いていた所は曇りがある感じだけど、ほとんどが透明感ある勿忘草色。大き目の結晶はブルースターに似て少し藤色を帯びて居たりする。魔力判定では聖属性は金色の光が出るけど、全てに共通するものでも無いのね。土台は何にしようかしら?強度的にホワイトゴールドが良いかなぁ?でもこのホワイトゴールドをピンクゴールドみたいに抑えめのグリーン系にって出来ないのかしら?よーし!大気中に含まれている元素ーーーエレメンティゥムーーーとか自然の緑を取り込むイメージ膨らませてやってみよう!
「【錬金術】」
おおっ?イメージ通りの色になったんだけど!金属アレルギーとか出ない成分なのかしら?ちょっと分析かけてみよう。
「【解析】」
うーん。鉛も含まれてないし、他に特に人体に悪影響を及ぼしそうな物質は含まれてなさそう……このグレンクロムって何かしら?クロムって言えば黄色色素の化合物やメッキに使われた化合物に毒性や発がん性物質が含まれて居たけど、ステンレスの材料だし、人体にも必要な栄養素でもあったわ。うん、大丈夫!この金属自体に毒性は無いみたいだから、加工しよう。デザインどうしようかなぁ~。その前にこの石をどうルースカットしたら綺麗に仕上がるかよね。ピンキーリングだし、星型とか良いなぁ!
石のカットが珍しいのでリング自体のデザインは抑えめにした。でも折角のグリーンゴールドだから、色が分かるように葉っぱにして付けたわよ。うーん、可愛い仕上がり!自作のヒーリンググッズだ。
ピンキーリングだから普段使いにして良いわよね?早速着ける。
これは良いわ!ルースカットは職人さんに任せても良かったけど、たまには自分でやらないと、細かいイメージトレーニングの訓練が出来ないのよね。やっぱり心臓に毛が生えるまでにはならなくても、精神力は常に鍛えて置かなくちゃ。
ああ、メンタルと言えば……もうずっとステータス画面見てないないわ。だって開くと先ず<攻略状況>の好感度メーターが出て来るんだもの。あの画面スキップ出来ないのかしら?だって出て来たら一瞬で見れちゃうこの目の良さが恨めしいのよ。あれかな、目を瞑って開けて、右隅の三角だけ見るようにしてタップしちゃうとか?新しく使えるようになった魔法とかも見たいんだよねー使った事が無いのが有ったら早速試してみたいじゃない?
ケイナが自室にティータイムの支度をしてくれたらしく声がかかった。
「お嬢様、お茶の準備が整いましたよ」
「まぁ!直ぐに行くわ」
今日のスウィーツは何かしら?そうだ!ケイナに早速これ見せてみよう。
「ケイナ。 さっきの石でピンキーリングを作って見たのだけどどうかしら?」
「まぁ!素敵ですねぇ。 お嬢様のほっそりした美しい指にとても似合います。 グリーンの金属も珍しいですね」
「グリーンゴールドを作ってみたのよ。 成分的には問題無いし、ちゃんと18Kで強度と質も及第点よ。 まぁ商品化するまでは考えていないけどね。 ちょっと地味な感じがするもの」
「お嬢様だけのオリジナルアクセサリーって特別感があって素敵だと思います!」
「ふふっ、ありがとう。 金属調合なんて初挑戦だったけど、やって見てよかったわ」
▽▲▽▲▽
「はぁーーーーーーーっ、もう老体に鞭を打つような真似は勘弁してもらいたいのう」
やっと神殿に着いて、大神官は深いため息をついた。目の前には50ℓもの聖水が入ったガラスタンクがある。
大体優秀な聖属性魔法使いの悉くがルナヴァイン公爵家に降嫁すると言うのは如何なものか?かの家には皇女達を惹きつける何かがあるのか?だが、皇女達の降嫁は決して無駄なものでは無かった。他の公爵家にも降嫁しているハズなのだが、なかなか聖属性を発現させる子供には恵まれない。唯一前聖女が生んだ双子の兄妹の兄がそうであったが、よりにもよって嫡男で跡取りだったため神殿への婿入りをさせる事が出来なかった。それに表向き平民の娘として公爵夫人に収まったために、妹姫の方を皇家に嫁がせる事も出来なかった。真実を知らぬ者達により平民の血を高貴な皇家に入れることを忌避されたからだ。件のルナヴァイン家においては数代に渡って嫁を探すことに困難を要したと云う。それが為、前聖女の類稀な力を持つ血脈を受け継ぐのは未だにルナヴァイン公爵家だけなのだ。
ああ、リリアーナ夫人は二週間後には帝都に来るな。その際にもたっぷり生成していただかなくては。いっそその時は聖女を呼んで、その様子を見学させるか。少しは努力する気にもなるかもしれん。聖女としての加護は問題無さそうだが、それでも前聖女の半分以下と考えると随分低いのだ、帝国の半分も網羅されていない。
元々帝国はここ十数年豊作続きで食糧危機に見舞われた事が無く、友好国との貿易で輸出している程なのだ。それが一年だけ多少の生産量低下が見られた年があった。よりにもよって聖女顕現の年だ。あの聖女の能力はとにかく低い。聖水の生成すら出来ないのであれば神殿には要らない。
さっさと皇太子妃に。ああ、その前に正式な婚約者にならねばいかんな、お妃教育はどうなっているのだ?学園の寮に居たって放課後から就寝まで叩き込む事は出来るであろう。そうだ、今直ぐにでも皇帝に進言しよう。一番厳しい教育係を付けさせて、せめて殿下の隣に並ぶに相応しい立派な淑女になっていただき、その聖女の血を皇族に取り込んでいただかなくては。
本音を言うなら神殿にフィンネル様が欲しいところだが、本当に聖属性に目覚めていないのか?ただ他の属性が強いからまた判定を頼んだところで断られるだろう。定期的に魔力判定させたいところなのじゃがなぁ!
そう言えば、その前におかしな問題があったな。もちろん断った。
我が帝国とて浄化を安定して行える術者は限られているのだ。他国に派遣などしている場合では無い!
それに、派遣したとて返すのか?他国を安易に頼るなど国家間では考えられない。例え友好国であっても、取引というものが発生するのだ。それを普段国交の薄いニース・アニース帝国が無償でとは……正確には『ただの派遣要請』に過ぎないが、条件が明記されていない所を見ると、ボランティアで救済して欲しいと言うのが本音であろう。
国家間でそれはあり得ない。混沌の時代であれば国境など関係なく大陸各地の依頼に応えるべくパーティーを組んで活動していたらしいが、今現在浄化魔法は大変稀有でタダではないのだ。
そして、奴らはたった一度の浄化では満足しまい。派遣した浄化の術者がそのまま返されない場合も十分に考えられる。あの、帝都よりも大きい湖を浄化するなど、相当な術者を派遣せねばなるまい、とても考えられん!
これは、他にも何か裏があると見て良いかも知れん。いや、かもしれんでは無い、絶対に裏がある!
仕方ない、私の立場では皇帝に進言するより他にない。
ああ、そう言えば。成人前ではあるが、皇子達の魔力判定を秘密裏に神殿で行わせて欲しいとも依頼せねばな。私の後継者問題にも繋がる問題だ。これは承諾されるであろう、いや、是非ともしていただかなくてはならん!




