114. 他冒険者とバッティングトラブルですわ!
本宅の寝室に帰って冒険者バッグを置く。まだ屋根裏部屋を何処に設置するかは決められていないから自室に置くしか無いのよね。まぁここまで入って来られるのはケイナとお母様くらいで、先日の緊急時にお父様が私を運び込むために入ったくらい。掃除はケイナが風を通しながら風魔法と水魔法で毎日ピカピカにしてくれているので、物を隠すなら寝室が一番安全って事になるのよね。ただあまり多くの装備品、特に”癒しのゆりかご”は二人掛けソファーくらいの大きさだからここには置けない。やっぱり早急に屋根裏部屋を何処かに設置しないといけないわ。しばらく冒険者はお休みだけど。
我が本邸は城内の片付けすらまだまだ忙しい。敷地内の整備は優先して終わらせて、従業員の生活と福利厚生を先ず確保出来たけど、仕事の配置などはまだ熟考の余地があって、まだまだ終わらないって感じなのよね。何しろ今までアルト王国との国境の監視を二十四時間体制で行っていた”城塞”の従業員をほぼ全員、本邸に異動させた状態だもの。仕事を与えるだけでも大変なのよ。
先日は、私構想の薬草畑を温室と畑で実現させてしまったわ。これには魔導師団が率先して乗ってくれて、近くにあった塔の内部を整理して、薬学研究室にして、彼らの職場を少し確保出来た感じになったのよね。我が家はこれから薬屋の卸業務も行っていくのかしら?薬草畑は趣味の範囲で提案しただけなのだけど、結局仕事をさせるからには結果を出すことになり、またウチの収入が増える結果になりつつある。
何しろ今までの”城塞”は運営・管理全てが我が家の負担でしかなかったのである。それをうちは単独で維持して来た。いわゆるノブレス・オブリージュ、権力や地位に伴う義務ってやつでね。だから引き上げてウチの仕事をさせる様になって、少しでも収入に繋がればそれだけで儲けもんになるってわけ。
私は思い出して、冒険者バッグから以前の薬草採取依頼の時に採取しておいた万能薬を作る時に必要な、鮮度が重要な貴重な薬草を研究所に持ち込んだ。その時に採取した洞窟周囲の土だか砂や礫が混ざった栽培環境の手がかりになる用土も一緒に。
「ターロット、これをお願いしたいのだけど」
彼はポール・ターロット、オレンジっぽい茶髪に榛色の瞳、痩せ型でちょっと不健康に見えがちだけど実はイケメン。流石乙女ゲームの世界、ほとんどイケメンで構成されているような気がする。ちなみに二十五歳新婚。”城塞”から本邸に引っ越し作業していた時に出会った侍女と結婚したばかり、超スピード婚!
「おおーっ、お嬢様。 これはマリンローズ! 大変貴重な薬草をお持ちになられましたな。 腕が鳴ります!」
「万能薬が少しでも安定して作れるようになったら良いかと思って採取しておきましたの。 お願いして良いかしら」
「もちろんでございます! 他にも必要な薬草類を揃えるように手配しましょう。 先ずは希少薬草の栽培が軌道に乗ってからですな」
とりあえずは、その用土を土魔法が得意な魔導師が増殖して増やし、鉢植えで管理することにした。同時に土に含まれる成分分析も並行して行う。生育環境は高地で乾燥地だったけど、洞窟付近は湿った風が吹き、用土も湿っていたことから温室で一定温度・湿度で管理出来る特別スペースを設けて人口栽培可能か研究して行く事になった。
見ると温室内も畑もいつの間にか薬草の種類が増えている……おまけに料理人まで出入りし、スパイスの種を植えて収穫出来るまでに育てさせている。これは胡椒だわ、しかも白、黒、赤……様々な種類が植えられている。いつの間に……。香辛料だけでなくハーブ類もだ。これって畑と温室スペース足りるの?ちょっと!みんな仕事と趣味の境目が無くなって来ているわよ!ブラック化しないように管理者に注意しておかなければ手遅れになるわよこれ。
▽▲▽▲▽
予告無しの客は招かざる客が多い。もう皇都の別邸だけで無く領地の本邸にまで来るようになったのは昨年の夏休みからだ。
今回はなんと!大神官様単独である。まぁ護衛付きだから本当の意味での単独と言うわけでは無い……対応はお母様がしているのだけど、一体何しに来たの?学園はもう今週末がプロムパーティーだ、わたしの誕生日まではまだ二週間ほどあるので、私の魔力判定が目的では無いだろう。大神官様は大変忙しく、しかも行動範囲を制限されている人だ、そうそう神殿を離れる事は許可されない。それに比べたら聖女様のなんと自由な事!
ああ、大神官様とのバッタリ対策のために専用に組んだステータス隠蔽セット発動させとこう。もう一々考えるの面倒だからセットを組んで発動キーを隠蔽に付けるだけで良いようにしたのね。これはもちろん成人の儀の後の教会での魔力判定でも使えるやつである。まぁ当日大神官様も大司教様も来る事は無くなったけど、同じにしておかないと何処で違和感を覚えられるか分からないものね。そう、殿下との婚約破棄を受けて私の成人の儀は普通のご令嬢が受けるものと変わらない規模に収まる事になったの、これは良いことだわ。
招かざる客は何も凸撃隊だけでは無い、書状で来る事もある。
なんと、学園からだ。内容的には、『四年生から復学しないか』って事である。考える必要も無く却下した。全く、何を考えているのかしら?私の心労がMAX越えしちゃうわよ!私はやっぱり心臓に毛が生える程強くはなれてないの。やっぱり元の性格って大きいわよね、私は自分が目立つことや注目を浴びたいタイプでは無いし、面倒ごとは事前回避するようにアンテナが立っている。隅っこと平穏を愛する凡人なのよ。それは意外な事に元のマリノリアも同じだったらしいの。彼女は私以上に大人しく、自分の意見を言えないまま悪役令嬢としてシナリオから退場したことからも明らかだ。規格外なのは能力だけ。学年主席を取り続けたのはマリノリアの地頭によるものとーーーまぁお妃教育を乗り越えたのは私も同じだけどーーー、皇太子殿下の好感度下げに必要だったからである。殿下に座学トップは無理なの分かっているもの、エリンがそれ以上に頑張るからね!
▽▲▽▲▽
「断られましたな」
ここは帝立学園の学園長室。教頭の言葉は淡々と事実を述べただけで何を考えているのかは分からない。学園長としては、優秀な生徒は周囲に良い影響をもたらす、特にルナヴァイン令嬢の居た学年は全体的に学力が上なのだ。だが、令嬢が中退し居なくなった事で、次の学力試験ではどんな影響が出るのかを懸念して居た。影響は座学だけにとどまらない、既に多少の影響が出始めていると現場からの報告がいくつも上がっていた。基本的に学生の成績は個人の責任である、だが全体的な影響が出るとなれば学園側としても対処しなければ対外的に良い印象を受けられないだろう。
「優秀な学生を失うことは非常に残念なことだ。 こんな事なら、退学届を受理するのでは無かったな」
学園長は鼻の付け根辺りを指でつまんで目を閉じた。
▽▲▽▲▽
今日のディナーは荒れている。大神官様はお泊まり無しでとんぼ返りしたのでもう居ない。
「お母様。 それで、大神官様は何をしにいらしたの?」
お母様のコメカミには青筋が立っている。うわぁっ!なんて不機嫌を露わにしているのかしら、お父様も居ますのよ!でもお父様は気にせず黙々と食事を進めている。流石だ。
「聖水の生成が間に合わないからタスケテーですって。今まで生成に携わっていた神官が87歳でお亡くなりになったそうなの。今回はとりあえず50ℓ持たせたわ」
はぁ、あの護衛の多さは大神官様の為でもあるけど、聖水を守るためなのね、納得だわ。それにしてもこんな強行軍で聖水を求めて来るなんて、沢山使う事態でも予測されているのかしら?
「まぁ、それはお母様でもお疲れになったことでしょう」
「ええ、主に精神面がね!」
「……」
やはりお母様はお強いわ。
▽▲▽▲▽
今週末はプロムパーティー、つまりまだ春休み前の平日!私はちょっとだけ身体を動かしに行く事にした。依頼では無くダンジョンの方である。既に私の髪の毛はものすごい事になっている。両側にクマ耳でも出来たようなお団子で両側に垂らした髪は膝くらいまである。セーラームーンか!でもお団子だけでは長い髪をここまでに出来なかったらしく編み込みカチューシャやら、やはりこれは職人技としか言えない技法が駆使されている。
そこで私は、今までは確実性が無いから使っていなかった魔法での変身、っと言っても本当に変わるわけでは無く、カモフラージュする事にした。
「【偽装】」
これで私がフードを外しても、髪の毛はショートボブに見えるのである!マリナの髪型は今はショートボブ!もうこれしか無いでしょう……別にジル様対策では無い、今回は会わないハズだもの。
屋根裏部屋を亜空間収納に丸ごと仕舞っているから、一旦本邸の何も置いてない屋根裏に出した。入り口の板の間が三畳+ワンルームが十二畳+結構お広めな2LDKだから、出せるスペースって中々無いよね。うちが屋根裏使ってなくて良かったわ。中から冒険者衣装や装備品を冒険者バッグに仕舞って行く。その傍ら冒険者衣装にお着替えして、ちょっと考えて鍋なんかの生活用品も仕舞った。そして再び屋根裏部屋を亜空間収納に仕舞った。
いいや、今日はもうこのまま何処かダンジョンに行こう。寝室に戻って装備品出したりしてたら時間が無くなっちゃう!でも何処が良いかな~。冬休み前にBランクに上がってから休んでるからなぁ……うん、新境地開拓はやめて20階層のナナバが肩慣らしにはちょうど良いかなぁ、ああドナ・リサも15階層で良いかも。
結局来たのはドナ・リサ遺跡ダンジョン。まぁ移動距離も短いし一番お手軽だよね。そしていつもの浄化の加護だけ隠蔽して突入~!今日は魔法は補助的に使うだけにして、剣の鍛錬よ。体力作り!お父様やお母様みたいに剣で無双出来るくらいになるためにも頑張ろう!令嬢と言えどもルナヴァインに生まれたからには、有事に役に立たなければ、そこらのご令嬢と同じになってしまう。まぁウチにはお兄様方が居るから、私が役に立たなくてもルナヴァン公爵家としての面目は立つんだけどね。
今回も濁った魔石が数個ある。まだ5階層目なんだけどなぁ!ああっ!しかもこれってレア進化魔物の魔石だよ、折角の本来美しい赤紫色が濁ってるしクラックがちょっと酷い。そう言えばドロップアイテムも一緒に落ちてたなぁ、数匹纏めてやっつけたからどの魔物からのドロップアイテムなのかは鑑定でもしないと分からない。このドロップアイテムは呪い無し、うん、かんざしみたいな髪飾りだなぁ、無駄にヒヒイロカネ、って、えっ?これって武器なの?必殺仕事人に出て来るアレ?暗器ってことかしらね。興味がそそられてしまうわ。
「【鑑定】」
性能はやはり物騒だった〔斬貫通5倍、鋭利上昇5倍、魅惑上昇〕!うわぁ~!花魁姿の仕事人が色仕掛けで悪代官をブスリとしちゃうシーンが鮮明に思い浮かんだよ!!これそのものはデザインとか可愛いのに、今日の髪型にだって似合うのに!この魅惑上昇ってやつの威力が分からないんだけど、元々魅惑の力が無い私には上昇もへったくれも無いわよね?そうであって欲しいわ!
気持ちを仕切り直して突き進むこと最終フロアの15階層。この子には私の今使っている超お宝の剣と癒しのゆりかごを貰っている。どうも倒した時の条件次第でドロップアイテムが変わるらしいけど、ドロップ率は他のボスに比べて低めなんだよね。あららぁ……何だか今日も好戦的だわ、一応【探知】したけど、Lv.55で通常のようね、でも手負いで左上腕部から血が流れているわね、私の前に入った冒険者が倒しきれなくて逃げたってところかしら?空間魔法で冒険者同士は会わないのに、前の冒険者の影響がボスに残っているって不思議な感じがするわ。つい治癒してあげたくなってしまうけどすぐ倒す相手なのよね、せめて安らかにって意味合いでもこれは魔法で見送ってあげましょうか。
【浄化】
充満していた重く悪しき空気が浄化されて行く。そして……
【聖なる炎】
残されたのは欠けも曇りも無いペリドット色のフロア核、成仏って魔物でもするのかしら?ドロップアイテムは宝箱だ、このタイプで出たのは初めて!ちょっとワクワクしながら開けてみる、おおっと?これは金貨じゃなくてオリハルコンメダル?一体何に使えというのかしら?銭投げ?そんな勿体無いわ、鍛冶屋か自分の魔法で何かに加工するのが良いわね。付与も自前ってことね。他に入ってないか見ると雫も入ってる!これは全部出して見ないと全容分からないわ。蓋を閉めて冒険者バッグに仕舞った時に声をかけられてビックリ!飛び上がりそうになった。
「おい!今仕舞ったもんを出せ!それは俺のだ!」
「何よ? ここのボスを倒したのは私で、あなたはここのボスを手負いにして逃げた冒険者でしょ? そうなったらあとで仕留める方はより強敵になった相手と戦う事になるの知らないの? あなたには、ここのボスを倒した報酬の権利はわずかでも発生しない!」
だいたい今まで何処に隠れてたのよ?おおよそ受けた傷や減った体力をポーションで癒していたんでしょうけど、図々しいにもほどがあるわ!私は構わず出口の転移魔法陣を踏んで出た、そして直ぐに冒険者ギルド・マウラ支部に座標移動した。
今日の受付にはマイさんが座っている。良かった、彼女なら面倒な冒険者同士のトラブル処理にも対応出来そうだ。
「こんにちはマイさん、ダンジョンに行って来たので鑑定お願いします」
そして本日の成果物をカウンターに出しながら、先ほどの最終フロアでの出来事を話した。
「ああ、何だか最近たまにあるんですよね。 最終フロアに限らず、倒しきれずに一旦退却してフロアを離れ過ぎて休憩して立て直している間に別の冒険者が倒したのか、ボスが居なくなっていたり、別のパーティーが戦っている途中だったりするらしいんです。 もちろん揉めますけど、魔石には誰がトドメを刺したかはっきり記録が残ってるはずですから、問題ありませんよ。 で、これが問題の最終フロアのですね、ああ核ですね、これは欲しがるでしょう、でもとても綺麗ですね。 ドロップアイテムも凄いですね、でもこれはマリナさんへのプレゼントみたいですよ。 前のゆりかごもそうでしたね」
「その、誰が留めを刺したかって、魔石にはどのくらいの期間残っているものなんですか?」
「そうですね、加工してしまうと消えてしまいます。 でもそのままの状態なら数年残っていますよ、ケースバイケースですが、100年前の記録が読み取れる事もあったそうです」
ふえぇっ!私は登録名もマリナだけから問題無いけど、通称使っている人なんかはめっちゃ揉めそうだね!そのうちさっきの冒険者が戻って来た。
「あっ!あいつが俺たちの獲物を横取りしたやつだ!」
ほ~~う、なんとお一人様では無くパーティーだったらしい。
なんと事務所の扉が開いて、凄みのあるオジサマが出て来た。
「俺はマウラ支部のギルド長ランダースだ、話は聞いたが、ボスフロアを一旦退却し、別の階に逃げ込んだ時点でお前らのものじゃ無くなる。 倒したこの嬢ちゃんの獲物だ。 今度から立て直しはボスフロア直前の階段まで退避で抑えるんだな。 それじゃ追いかけてくる事もあるから怖かったんだろうが、お前らのやったことは冒険者として褒められた事じゃねぇ。 横取りしようとしたのは状況からも魔石やドロップアイテムに残った記録からも、お前らの方だ。 今回はペナルティー付けずにいてやるが、次は無いと思えよ」
彼らはまだ恨みがましく私を見ている。私は鑑定を終えて、冒険者カードに記録して貰い、濁った魔石など数点を買取査定してもらった。中にはレア魔石と最終フロア以外のフロア核も含まれていたので、多少質が悪くても中々の高価買取だった。宝箱やかんざしも初ドロップだったようで情報料が付いた。金貨160枚!うん、しばらく働かないぐうたら生活出来ちゃうね!彼らのパーティーはこれから査定なので、そのうちに失礼させてもらう。
「マイさん、ギルド長ランダースさん、ありがとうございました」
「まぁ良いってことよ!これからもここをご贔屓によろしくな!」
ぺこりと頭を下げて、立ち去った。
さてさて、ダンジョン入り口付近のナティウス大森林を少しはお散歩でもしたいところだったのに、すっかり計画が狂ってしまった。今度はここでしばらく薬草採取とかの依頼を受けてみようかな?そんなことを考えながら座標移動でうちに帰った。もう冒険者ランクBになった最近は、多少人が居ようとも気にせずに移動しちゃうのだ、気楽で良い。
さーて、今回の報酬や冒険者バッグに詰め込んだままの装備品等を整理しようかな!




