111. ついに普段からコスプレになってしまいましたの……
あら?刺繍をしているうちにいつの間にかうとうとしていたのね、気が付いてくれたらしいケイナが危ないから手元から離してくれたんだわ。
手に持ってたはずの刺繍枠がローテーブルに置かれていた。
この気だるさも前世以来ね。今回は髪の毛伸ばした所為で貧血が酷かったけど、あまり重たくもなさそうだし助かったわ、身体を冷やさないように気をつけるだけで良いはず。健康優良児って本当に良いわぁ!
それにしても、私が自由を満喫している間にヒロインがまたシナリオを動かそうとしていたなんてちょっと空恐ろしくなってしまったわ……何を狙っているのかしら?ハッピーエンドを迎えたはずなのに、しつこいと思うし、諦めが悪過ぎるわ。ああ、他人のコトばかりは言って居られないわね、諦めの悪さなら私も大概だったわ……。
あまりヒロインに関わってはいけないわ。せっかくシナリオが終わったってのに、どうしてこうも安心させてくれないのかしら?
まぁ、元悪役令嬢が図書館で攻略対象者……ってか、ジル様が学園の授業をサボってまで何しに来たのかしら?しかも二日連続よ、ちょっとどころじゃなくおかしいわ。内心ヒヤヒヤさせられて寿命が縮まる思いはしたけど、あんな超高級サロンにまで連れて行ってもらって、殆ど”ご褒美イベント”のようなものだったわよねぇ。ヒロインなら大喜びってとこだけど、私ではそう喜んでいられないのが残念なところね。
そう言えば帝立図書館の書物って、殆どの物は貸し出し可能だったわ。皇都にはあまり長居したくないから、数冊ずつ貸し出しで読み進めるって手もあるじゃないの。魔法書はちょっと制限が強かった気もするけど、殆どが貸し出し期間が短いくらいの制限だったわ。明日の学園終業時間前に図書館に寄って、皇都の別邸で読書でもしながらお兄様方の帰りを待つって手もあるわね。そうしましょ、ハズしたところで適当な時間になったら本邸に帰れば良いだけだもの。あら、そうなると私の名前で貸し出しカードを作ってもらわないとダメかしら?一人二役って中々難しいわ……でもこんな所で手を抜いてはいけないわね。
うーん……図書館にはマリナで行って、書物を借りたら直ぐに皇都の別邸の私の部屋に移動してドレスに着替えたら大丈夫かしら?うん、その方が人目に付かないわね。
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髪が長過ぎるってやっぱり不便だわ!
翌日、私は冒険者衣装に着替えて姿見を見ていた。ハーフケープでは髪の毛が裾からはみ出て見えるから変なのである、まるで尻尾でも見えている様に見える。
そもそもこのケープは、フードで顔と一緒に髪を隠すためのものだから髪が見えたら意味が無いのよ……。
しょうがないので、髪をウエストに巻きつけてケープの裾から見えないようにした。
帝立図書館前に座標移動した私は、入館証を見せて急いで五階まで上がると、借りたい本を選び始めたのだけど……えーと、三冊までって中々厳しいわね。ここの書物を読み終わるのは一体何時になるのかしら?でもまぁしょうがないわね、貸して貰えるだけ良しとしましょう!書物を借りたらさっさと移動する。
今度は皇都の別邸の私の部屋でドレスへの着替えだ。今日の私の髪型は侍女達の渾身の出来!いやぁ、こんな髪型自分じゃ出来ないって!どうなっているか分からないもの。
後頭部で綺麗に編み込まれ纏められているのだけど、垂らした髪は床に着かないスレスレになってる、髪の途中までをどう編み込んだらこんな綺麗に纏まるのやら、これもう職人技ね。こうまで手の込んだ髪型だと当然今までのドレスは似合わない物が多いわけで、何とか選んだドレスは、シェイクスピアの舞台のヒロインが来てそうな華やかなドレス。うん、殆どコスプレみたいなものね。オフィーリアにでもなった気分だわぁって!悲劇のヒロインじゃないのよ……ああ、例えが悪過ぎるわ、衣装は素敵なのだけどヒロインの結末が良く無いわ。でもこのドレス素敵!どうも私はウエスト切り替えのドレスよりも、胸の下で切り替えるエンパイアタイプのドレスの方が似合うっぽいのよね。
アクセサリーは抑えめにピアスだけにしようとしてたのだけど、侍女達が頭の上にティアラタイプの髪飾りを付けてくれた。もちろん普通の宝石よ、魔石じゃないわ。我が領の鉱山産のパパラチアサファイアが輝くめっちゃ綺麗可愛い髪飾り。その周りには宝石付きのピンが編み込みの間にいくつもつけられていて、これ何処のパーティーに行くのって格好なんだけど……これから毎日こんな感じの服装になって行くのかしら?何処のお姫様?
冒険者衣装と書物は冒険者バッグに入れる。でも一冊は読むように手に持った、所で気がつく。うん、ダメだわ。折角マリナの扮装で借りたのに、私が持ってるのを見られちゃ意味が無い。ここは皇都の別邸、お兄様方だけが居るとは限らない場所なのよねぇ。
なんでそうなったのか分からないのだけど、攻略対象者達が凸撃して来ては、お兄様方がプライベートリビングの方へ案内しちゃうようになったのよ。普通にお客様を案内する方のサロンへ通してくれれば鉢合わせする事なんて無いのに!
特に厄介なのがウチの料理に魅せられてしまったエリン。行動が急なのよね、思いつきで動くタイプだったなんて知らなかったわよ!ヤンデレ&腹黒の設定はどこへ行ったの?ああ、ヒロインに惹かれていないから出て来ないのかもしれないわ。何だか少年の心を持ったままの自由人になっちゃってるのよねぇ……学園内でもあんな感じなのかしら?
それに何故かジル様まで付いてくるから余計に混乱するのよね。ヘルムルトならまだ分かるのよ、結構付き合いが良いからノリで行動するのも頷ける。でもジル様ってクールだから、一方でマイペースな所があって、自分の予定を優先するタイプ、付き合いが良い方では無いのよ。なのにエリンに付いて来る。一推しだからって会えて喜べる立場じゃないから困っちゃうのよね。
まぁ令嬢モード貫いていれば問題無いんだけど。だからこそ、マリナで出入りしている帝立図書館の書物を私が持ってちゃ変なのよ。うーん、折角シナリオ終わったのに行動が制限されるってどうなのかしらね?そのうちマリナが私だってバレても問題無くなる日は来るのかしら?
気を取り直して、プライベートリビングへ向かう。念のため心の安寧を保つ為の扇子装備。事前に私が行くことを伝えてあるからガラス張りのテラスにはどれも美味しそうなスウィーツが乗ったアフタヌーン ティースタンド!
三段に程よく上品に、かつ様々な種類の珠玉のスウィーツが並べられていて、もう見るだけで幸せになっちゃう!これなら読書しながら食べるなんて却って勿体無いわ。ゆっくりティータイムを楽しむことに集中しよう。今日の紅茶はアールグレイ風のリード領の高地で生産されているお茶、生産量と品質にバラツキがあって、中々入荷しないのだけど、先日やっと我が家の料理長のお眼鏡に適うものが手に入ったのですって!ホットミルクティーで味わうこの懐かしさ!アールグレイと言えばアイスティーって感じだけど、私はホットの方が好きなの。特に今日は身体冷やしたくないものね。三月と言えどもまだ寒いの。室温は適温に保たれているのだけど、今日の私はちょっと寒い。血が足りないとやっぱり寒いのだわ。
お兄様方が連日で聖女様の女子寮への帰りに付き添うのはシフト的にオカシイから、今日は通常通りに帰ってくるかしら?あと三十分くらいかな?考えながらフルーツコンポートの乗った生クリームたっぷりのケーキを口に運ぶ。うわぁ!とろける生クリームの甘さが絶妙で美味しいわ!イチジクも白桃も美味しい!両方ともうちの庭で採れるお手軽フルーツだ。イチジクは傷みやすく流通面で問題があるから生産地のお店に出回るくらいで、この辺りでは出回らない。食べたかったらご近所さんに譲って貰うか、自家製を取るかってところなのよね。だから無駄に広い庭には庭園に見せかけて果樹が至る所に植えられている。散歩中にベリーのつまみ食いも楽しめるうちのお庭は大好きなの。
私が幸せに浸っていたらどうやらお兄様方が帰ってきた様だった。ここに来るのは制服を着替えてからかな?こんな着飾っててびっくりされちゃうかも!想像したらおかしくなった。
遂に侍女達の逆襲が?
今まで世話させてもらえなかった分爆裂ですね。




