110. 伸び過ぎた髪の毛が重いのですわ
朝起きてもまだ信じられない、ああ……折角スッキリした髪の毛が、まるで銀の海のように掛け布団の上で自由にうねってますわよ。だってこんな引きずってるのに、髪の毛切るの禁止にされちゃったのよ。モノには限度ってものがあると思うのよ。こんなに長過ぎる髪の毛に意味は無いわ!平安時代じゃあるまいし、引きずって歩くなんて有り得ないわ、平安時代は着物も引きずってたから、髪を床に直に引きずってた訳じゃ無いのよ。この長さじゃポニーテールしたぐらいじゃまだ引きずるから、根元に巻いたりアレンジしなくちゃいけないわ。もちろんそれをしなきゃいけないのは侍女達な訳で、私はまた深窓のご令嬢暮らしに戻ったような感じだわ。
昨夜、超高位魔法術式四つ編み込んで同時発動した際に無理があったみたいで、三日は休めと言われたから一応休んでいるけど、本当はお兄様方に伸びた髪を見せに行きたいところなのよね。一応お母様からは連絡したらしいのだけど、見ないと完全には安心出来ないんですって。そのくらいショックだったらしいのだけど、まだ私にはイマイチ分かってないのよねぇ。だっていくらレアな色だって言っても髪の毛よ?
で、この髪どうしようかなー。とりあえずシャワー浴びながら考えましょう。ドレスと一緒に髪の毛持ち上げて歩くなんて変わってるわね。やっぱり何とか考えたいわ、上の方編み込んでぐるぐる巻くとか、ああ、一部編み込みで全体を三つ編みにして……結局抱えて歩くことになるじゃ無いの。
でも髪を乾かしている時に閃いた!そうよ、風魔法を使って髪に地面や床で引きずらないように魔法付与すれば良いのよ!そうしたら何処引きずって歩いて見えても、実際には浮いてるから大丈夫!
でも姿見を見て思った。見た目がヤバすぎるわ、神話とか古代壁画の女性みたいになってるわよ。やっぱりハーフアップで上の方の髪を纏めて貰うしか無いわね。ただ下の方の髪の毛への魔法付与はしないと、あちこち引っ掛けて歩くことになるわ。
こんな不便な髪の毛になってしまったけど、もちろん鍛錬場には通って汗は流すつもりだし、魔術師団の所にも通って勉強するわよ。忙し過ぎて後回しになってたけど、せっかく作った屋根裏部屋は何処に置こうかしら?
あら!良い場所があったわ、ルゥナ工房の屋根裏か、祖父母が住む森の別邸の屋根裏のどっちかが良いんじゃ無いかしら?やっぱ普段住んで無い所の方が良いわね、森の別邸には私専用の部屋っていうのは無いし、ルゥナ工房の小売専門の2号店を出そうと思っているけど、それも領内にしようと思っているから、森の別邸側っていうのは良いかもしれないわ。
店自体は森の外が良いわね。お店なら馬車道通りの方が良いに決まっているもの。うーん、そうね、やっぱ屋根裏部屋は冒険者衣装とか、”癒しのゆりかご”で装備品の癒しをしているから、完全にマリナのお家にしようかなぁ~。”城塞”の屋根裏の時に、一度ジル様とヘルムルト招待しちゃってるけど、今後は誰も招待する予定ないから、隠れ家としては良いわよね。今日は身体動かせない分色々考えましょ!食事も部屋に持って来てくれるって言うし、すっかりぐうたら生活ね……。良いと思うわ♪
ずっと寝室にいるのも何だかなぁと思って、自室の揺り椅子で刺繍をしてゆったり過ごしていたら、ちょうど学園が終わる頃の時間だって気が付いた。うーん、今日はお兄様方が聖女様の送り係じゃ無いと良いのだけど、最近二人一緒にされている事が多いらしいのよね。お兄様方が私の護衛の必要が無くなったから、殿下が送り迎えとお出かけのシフトローテーションを作りやすいようにしているらしいわ。そうね、先に通信用魔術道具で連絡してからの方が良いわね。まだちょっと貧血気味なの、殆どはこの髪の毛の所為よ!元々痩せすぎで体重も軽いんだから血液量ってモノが少ないのにこの髪の長さ!これって私が生まれてから切らずにいた場合の長さなんじゃないかって思うのよね、ここまで長くしてくれなくても良かったのに、全く現状復帰になってないわよ!呪文とイメージが重なってないのね、ぐすん。まだまだ鍛えなきゃダメだって事だわ。
本邸の中から皇都の別邸のプライベートリビングへの座標移動だから、部屋着のままでも良いとは思うのだけど、一応普段着のドレスに着替えておこうかしら?しかしまぁ、ここまで長いとまた普段着のドレスが似合わない事……ちょっと大きめのクロッシェレースのショールを巻くとちょっと華やか過ぎるかしら?うーん、髪結って無いからちょっと不思議ちゃんに見えなくも無いわね。やっぱりシンプルなエンパイアドレスの方がこう言う不思議ちゃんな髪でも何とか良く見えるのよねぇ。私の痩せ過ぎ体型も隠してくれるし、これにショールを巻いて行けば良いか。
よし、通常ならもう馬車が邸に戻っている頃だわ。連絡すると、出たのは執事のイーリャ。
「イーリャ、お兄様方は戻っているかしら?」
「今日はまだお戻りになっておりません、恐らく遅くなるかと」
なぬ?今日って平日だし週末じゃ無いわよ?
「まぁ、お兄様方は最近外食が多くなったのね」
「左様でございます。大変お疲れのご様子で、寮に入った方が良いのでは無いかと言われているそうです」
「あら、それはありがとう。 今日はいいわ、わたくしから連絡があった事だけ伝えてくださる? また明日改めますから、折り返しは結構よ」
「畏まりました、お嬢様」
ふう、なんとまぁ!これってヒロインはまだハーレムエンドに変更しようとしているってことかしら?わざと忙しくさせて、通学から寮に切り替えさせようとしているのが透けて見えた気がしたけど、多分間違いないわ。まぁ元々お兄様方は寮に入って居たわけだし、切り替えも抵抗無いかもしれないわね。ヘルムルトとエリンはどうなっているのかしら?お兄様方だけ負担の比重が重くなる訳が無いわ。ジル様は……やぁね、諦めが悪過ぎるわ。私が気にしたってそれこそどうにも成らないわよ。
でも嫌だわ、ディナとリリーが心配になってしまうじゃ無いの!あの二人は賢いからヒロインの狙いには嵌らないでくれると思うけど、でもリンデーン兄様が寮暮らしになればリリーは不安に思うかもしれないわ、それだけ聖女様のお世話時間が長いって事になるもの。殿下は何故こんな我儘を許して置けるの?ゲームシナリオでも甘過ぎたけど、本当に実際にも甘過ぎるわ。
でも、ここに居る私にどうにか出来る問題では無いわ。お兄様の様子は度々チェックしておくようにした方が良さそうね。本人達には負担にならない程度に気を付けなければいけないわ。
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side.Lindane
「ちっ、またこんな遅くなっちまったな」
「ランディ、最近言葉が乱れ過ぎ」
何だよ、聖女様のワガママに困って居るのはお前だって一緒だろうが!なんで婚約者のリリーよりも殿下の婚約者候補の聖女様と一緒にいる時間の方が長いんだよ!手紙を書く時間や、プレゼントを選びに行く時間を入れても全然足りてねぇよ!先日なんて聖女様のワガママさえ無ければ、マリアが髪を切る前に止められたんだ!切ってスッキリしたと微笑んでいたのに、結局母上に怒られて、強制的に髪を伸ばす魔法を組んで倒れたらしい。総合的な結果は良かったらしいとの事だが、あくまでも母上視点だ。
俺だって、あの綺麗な髪を切って欲しくなかったから髪が戻ったのは嬉しい、でも複雑なんだ。元はと言えば全部聖女様のワガママの所為だ。
「殿下がいっそ寮に戻れって、戻れって何だよな! 俺たちの家は寮じゃ無いだろ?」
「あー、それねぇ。何でもエリンも言われたらしい。 今まで寮に入ってないだろ?多分ヘイム辺りも言われているんじゃないか?」
はぁ~~っ?何だそれ!なんで殿下の婚約者候補のお守りの為に俺達が生活変えなきゃならないんだ?俺は最近殿下の負担が一番少ない事にもイラついている。仕方無い事は分かる。皇族の予定は当日や前日のワガママに対応出来ないんだ。あの女はそれを分かっていてやっているとしか思えない。完全に俺達への嫌がらせだ!自分がまだ婚約者候補でしかない事の意味も分からずに、殿下の気を引こうとしているんだろう。俺達は当て馬ってヤツに使われようしているんだ。でも聖女様のワガママに何も言えない殿下も殿下だ!
「あれ?ランディ、外門でイーリャが待っているなんて珍しいな」
本当だ、いつもは邸の外までなんて出て来ないのに、何かあったのか?
「フィー、何だか聖女様がワガママ言う度に何か起こっている気がしないか?」
「そうだなぁ、ワガママの頻度が高過ぎてもう何が何だか分からないけどねぇ!おーっ今日も宮廷官僚達がこんなに遅くまで働いてるぞ、今までサボってた分大いに働いて貰いたいモノだねぇ!」
「フィー、お前も俺のこと言えねぇ……」
門扉が開き馬車を入れて再び門扉を閉じた後、俺は馬車の扉を開けてイーリャに声をかけた。
「何かあったか?」
「おかえりなさいませ、リンデーン様。 お嬢様からご連絡がありましたとだけお伝えさせていただきます。 お嬢様は明日改めてご連絡なさるとのことです」
馬車から一歩下がり、腰を折って一礼した後邸の方へ下がって行った。
「あー、俺達が心配していると思ってマリアが連絡くれたらしい、こんな時間だしもう明日だな」
「そうかー、残念だな。 夜食でも食べながら顔見られたらよかったのに」
そう言うフィーの顔はくたびれている。聖女様のお出かけに付き合うのは本当に疲れるんだよなぁ、それは俺も同じだから分かる。
「フィー、それは幾ら何でも無理だろ。 昨夜倒れたばかりだから、流石のマリアでも長距離の座標移動はキツいだろう」
「うん、ただの願望……さっさと夜食食ってシャワーでも浴びて寝るかなぁ!最近読みたい本が溜まっていくんだが、ストレスはその倍以上溜まってく、どうしたら良いと思う?」
そんなの俺の方が知りたいよ……。




