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悪役令嬢?ヒロインの選択肢次第の未来に毎日が不安です……  作者: みつあみ
~異世界転生で超健康になったので冒険がしたいです~
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106. 閑話 本人だけは図書館デートのつもりだった件

えーと、ただ長いだけのお話です。

悩める少年の恋心が延々と、しかもどんな頭脳明晰なイケメンでも「可愛い」しか言えなくなる乙女ゲームイケメンの残念さが詰まった内容になっておりますm(__)m

side.Jillartie


 冒険者と成りに冒険者ギルドを訪れたマリナと出会わなければ、美しい初恋の想い出にして終わらせていたかもしれない。いや、実際終わらせていた。その割には社交界デビューでの彼女を約八年ぶりに目にした時には視線も心ごとそっくり持って行かれてしまったのだが。



 二年生の夏休みに()()()と名乗る少女冒険者と出会った。本名かは分からない。俺も冒険者カードには『ジルアーティー』とファーストネームだけを入れてあるが、通常名乗る時は『アート』と冒険者名を名乗って居るからだ。実際そんな冒険者は少なくない。

 マリナは不思議な雰囲気の少女だった。職業を剣士にしていたが、近距離戦には持ち込まずに短剣の剣圧だけで試験のノルマを達していた。残念ながらその剣技を見ることは叶わなかったのだが。

 初心者用ダンジョンに冒険者試験を受けに来る冒険者希望者達が全て初心者である訳では無い。彼女も冒険者としては初心者と言うだけで、戦闘訓練を受けている者の動きをしていた。とても洗練された無駄のない動きだ。


 本来魔物が出ない階段でマリナがネズミに驚いて短い悲鳴を上げた時に、つい抱き締めるように支えてしまった。

 多分マリナと言う名前のせいだ。それと彼女の持つ独特の雰囲気が気になっていて気もそぞろだったに違いない。その違和感をヘルはおとぎ話の中にしか出て来ない種族名を挙げて『エルフ?』と聞いたが、俺も彼女は普通の平民では無いと思っていた。


 夏休み後に双子から聞いた話は、その時は衝撃でしか無かった。

 聖女顕現で神殿と教会の一部が皇太子殿下の婚約者を聖女にしてはどうかと言い出している派閥があると言うのだ。そしてランディは妹、つまりマリノリア嬢を婚約破棄してルナヴァイン家に戻して構わないと言い出したのだ!当事者達を置きざりに話が進んでいるようだった。俺にはこれをチャンスと考えて良いのか判断のしようが無い。少なくともご令嬢にとって皇太子殿下との婚約破棄など不名誉であるだけでなく重大な汚点にしかならない。俺はそんなことなど気にしないが、他にもそんな奴らが多いであろうことは分かっているが、ご令嬢はかなり精神的ショックを受けるだろう。ショックで修道院になど入られては手の出しようがなくなってしまう。

 剣術の模擬試合後の打ち上げ時の泥酔の黒歴史でも、当日、少なくとも翌日には謝意を伝えるべきだったのに出来ず終い。そういう所が俺のダメな所なのだと分かってはいるがこればかりはどうしようもなかった。



 その間にマリナとの距離は近くなった、と思っていたのは多分俺だけだったらしい。

 通称”学園ダンジョン”では実に息の合ったコンビネーションで最終フロアに至り、ダンジョン消滅ギミックまでが短すぎたほどだった。実際短かった。ダンジョン破りとも言われるそれは、すべてのフロア核を集めなければならず、一周で全ての核が集まることなど無い。断言してもいい。

 その後、異常な数のドロップアイテムや魔石の山分け場所として、学園内の俺の部屋に連れて行ったのだが、当の彼女は学園の男子寮に連れ込まれていると言う自覚も無く、目の前のお宝に目を輝かせているだけだった。何となく分かっては居たが、全く異性として意識されていない。多分”知り合い”から”仲間か友人”に昇格出来るかどうかの間柄でしかない。

 だが、マリナへの想いと興味は深くなるばかりで、令嬢への想いの再燃と共に罪悪感すら抱く程になっていた。


 冬休みに入る前にも、今度は双子揃って、殿下の前で、殿下と婚約者である妹との相性が悪過ぎるからいっそ別れてしまえば?とでも言いたげな事を言っていた。今更婚約破棄などされてもルナヴァイン家もご令嬢も困るだろうに……。冗談にしてはキツ過ぎる、一体何を考えているのやら。


 冬休み中にフィーがマリナの肩を抱いているのを見かけた時には、何かブチ切れそうになった。自分でも声に不機嫌さを出してしまったのが分かっていた。マリナは俺の所為か、ヘルのしつこい揶揄いに辟易してなのか、いきなり年相応に子供っぽくなり、フィーを促してその場を逃げるように帰ってしまった!自分でも失敗したのを感じた。



 三年生の時、建国記念パーティーで令嬢が猛毒に倒れた。その時に起こった事はもう思い出したくも無い悪夢だ。その後の回復には想像以上の期間がかかっていた。二ヶ月後に見るも痛々しい程にやせ細った身体で侍女に付き添われながら復学し、夏休みを終えても外見上は変わったように見えなかった、が、付き添いの侍女が必要無くなった程度には回復してはいるようだった。だがあまりにも頼りなげなその姿に何度手を差し伸べたくなったことか。


 一方でマリナは冒険者ランクCに上がったらしいと聞いた。週末や夏休み中に冒険者活動をしていても俺は一度も会えなかったんだが。

 フィーは彼女の居場所を知っている分有利だよな、等と思ってしまった。あぁ、これが嫉妬ってものなのか、あまり持って良い感情では無いな。

 初恋の時は嫉妬などする前に打ち砕かれてしまったからこんな感情が俺にもある事を知らなかった。

 俺の心はますます乱れた、令嬢とマリナの間で。だがマリナとフィーは親密過ぎないか?俺には女兄弟も乳兄妹も居ないから分からない……。


 そして季節は巡り冬休み中に、領内の冒険者ギルドから父への報告で、ユトドラス洞窟ダンジョンの異変調査に向かった時にマリナに会った。実に一年振りに会えたのだが、彼女は流血こそしていなかったものの明らかに負傷していて、床に座り込んで動けない様子だった。だが診断すると負傷部位が右脇腹を中心に広範囲で……少々所でなく厄介だった。治癒中に理性を保てる自信が無い。それでも余りにも酷い状態で放って置けないと判断した俺は治癒魔法を申し出たのだが、敢え無く撃沈しかけるところだった。


 『~()()()()()()()()()()()()()?ちょっとどころじゃなく恥ずかしいって言うか、ちょっと先にポーション飲んでいい?聖水もあるし!』


 大慌てで、とはいえ相当痛むのだろう。動作はおぼつかないと言った様子では有ったが、俺が手伝うまでもなく瓶の蓋を自分で開けてポーションと聖水を二本立て続けに一気飲みした!そして更には、もう少し休むから俺は戻って良いと言うのだ。正直俺は今まで女の子にこんな扱いを受けた事は無かった……。


 年頃の女の子だし、治癒で肌に直接触れられるのを恥ずかしがるのも分かるが、そこまで必死に拒否されると傷つくと言うか……そこまで考えた所でやっと気がついた。そうだ、普通治癒魔法と言えば聖属性魔法だ、患部に手を触れる事は無い。

 彼女はどうして俺の治癒魔法が聖属性では無いことを知っているのだろう?マリナと居る時のアイテムドロップ率の異常さにばかり気を取られていたが、偏ってはいるが彼女の魔法の知識量と実力は興味に値する程のものだ。だが今聞いた所で、ルナヴァイン家で教えて貰ったと誤魔化されるのがオチだろう。


 俺はどうしても彼女をこんな危険な場所に置いて行く気にはなれなかったから一緒に居たのだが、まだ顔色が悪く汗をかいていた。何処か治癒が遅い箇所があって体に負担が掛かっている。そう思って改めて良く診たら、右脇腹はほぼ潰れた状態だったし、まだ内部出血している、肋骨も何本か折れていた、相当痛むはずだ。これを我慢してまでポーションと聖水で治るのを待つなんてどうかしてる!

 それに、顔をほとんど隠していたが、間近で見た彼女の肌と口元、フードの奥で影になってはいるが良く整えられた銀髪に、僅かに心拍数が上がった。だが同時に混乱もした。俺は少々強引に治癒する為彼女のケープを外して内心驚愕した、こんなにも美しい銀髪がそうそう有ってたまるか!令嬢との違いはウェーブしているかどうかだけだった。しかも続けて治癒に取り掛かって確信を深めた。


 その時初めて彼女の身体に直接触れて、見た目よりもあまりにも細過ぎる事が分かった。臓器がどう収まっているものなのか不思議なほどだ。

 猛毒を受けてから一向に体型が戻らなかった令嬢以上の細さーーー恐らく令嬢の時はコルセットを付けているから多少体型が補正されているのだろうがーーーウエストでさえ俺の力で容易く折れてしまいそうだ。

 冒険者登録試験で付き添いした時のマリナはここまで痩せ細っては無かった。この時、二人の違いを探す事の方が難しかったコトにやっと気が付いた。声を多少低くして、口調を庶民風の年相応に可愛らしくしただけで、分からなくなるなんて俺も失格だな。だから距離が縮まらないんだ、そう思った。


 だが、ダンジョンの報告をギルドにした後、マリナから思ってもいなかった物を受け取った。季節外れの刺繍入りの絹のハンカチだ。

 正体がバレないように考えたのか?生地を切って縁かがりからされている手の込んだ手作りで、刺繍は丸いスタンダードな魔法陣。だが癒しの魔法陣がここまで正確に刺繍されていると、もうこれだけで効き目がありそうだと思うほど見事な物だった。

 これ、勝手に本命だと思ってて良いか?彼女の言うように義理にしろ、これまでのように予選落ちする気は無くなっていた。


 その冬休みも終わる頃に、噂に聞いてた聖女との顔合わせが有った。

 全く良い気がしなかった。何故なら明らかに殿下に色目を使いながら他の、俺を含めた他の三人にも秋波らしきモノを送って来たからだ。

 所作もおよそ貴族令嬢として伯爵家で三年近くかけて教育されたものとは思えない。この程度なら普通の平民でも皇宮や高位貴族達の邸に出入りしている商店の使用人の方がマシな挨拶をする。

 聖女なんて神殿で保護して教育係でも送り込めばわざわざ学園に通わせる必要などないだろう。聖女の庇護者であるデボワール伯爵の思惑がそのまま透けて見える様でヘドが出そうだった。

 前の聖女はどうだった?少なくとも学園には通って無かったはずだ。そうだ、幼い頃から神殿に幽閉され社交界デビューすらしていない。


 その後、気晴らしに助っ人参加した依頼で盛られた。またサキュバスか?と思って、入手して置いた貴重な万能薬を飲んだが、ダンジョンを踏破し、ギルドで分前まで処理し終わった後になっても効いて来ない。とりあえず治癒師(ヒーラー)のいる薬局か、教会に行かなければと思うのだが、身体が思うように動かない上、助っ人で入ったパーティーの女性二人が行く手を邪魔しているような……これはマズいと思っていたところに天使が現れた。比喩などでは無くその時のマリナは壁にもたれ姿勢を崩した俺の顔を覗き込むように頭を傾げていて、殆ど視界も狭くなり良く無い状態にあるにもかかわらず思わず可愛いと思ってしまった。そしてその場から飛んで”安全な場所”まで送って助けてくれた上、聖水を飲む手伝いをしてくれた。

 後で思えば、俺にとっては安全だが彼女にとっては危険極まりない場所だったと思う。俺の理性も限界だったが、何事も無くて良かった……と思う傍ら、あんな状態でもしっかりと()()()距離を取る彼女に哀しくなった。だが、その数日後。フィー経由でマリナが魔石を加工して作ってくれたという媚薬系の状態異常の予防になると言うアイテムを受け取って、哀しさは一旦消えた。俺もかなりちょろい奴だ、でも誰にもって訳じゃ無い。



 だが四年生になる年の建国記念パーティーに於いて令嬢はとんでも無いことをしてくれた。

 究極治癒(エクスヒール)など初めて目にした者の方が多いだろう。一生お目にかかれない可能性の方が高い超高位魔法。術者が殆ど居ないのだ。

 これでは、たとえ殿下との婚約が破棄されたところで俺が彼女の心に入り込める隙などあるのだろうか?婚約解消と共に釣書が届きまくるのではないか?その時のドレス姿や光景を目に焼き付けた奴らが『月の女神(アルテミナス)の化身』だと呼び始めた。当然のことながら俺は焦るしか無い。


 こんな所で恋愛経験値の低さが痛手になるとは。正直この日のデビュタントは殿下には悪いが覚えていない。適当に挨拶を済ませた後はエリンと共に隣家に避難した。その前に双子に置いてきぼりにされた護衛も付いていない聖女様を見かけた。帝国の最重要警護対象を放ったらかしとは驚いたが、俺にしてもこんな日まで世話などしたくなかったので敢えて見なかったことにした。ここは皇宮内だ。安全が確保されない人物などこれまでにマリノリア嬢しか居ない。本来なら帝国一安全な場所のはずなのだ。


 プライベートスペースで寛ぐ妖精としか例えようのないドレス姿のご令嬢は実に目の毒だった。表面上は取り繕えていただろうか?許されるのであれば何時間でも見つめて居たい。

 彼女はやはりラビット毛皮を余程気に入っているのか、扇子にも羽の代わりに使っていた。他の素材は最高級品、ミスリルとシルクオーガンジーだ。だがその真っ白なラビット毛皮が令嬢の清らかな可愛さをより引き立てているようだ。

 彼女を前にすると語彙が崩壊しているな……『可愛い』しか出て来なくなる。可愛いものは可愛いのだから仕方がないだろう。


 パーティーで踊れなかったからと、リンデーンが一緒に踊った後に、俺に練習と称してエスコートを代わってくれたのには感謝しかない。しかしここでも俺の方がいっぱいいっぱいだった。可憐な淑女の笑みを浮かべた彼女は美しいターンを決めた。ここまで意識されていないって、いっそ清々しく思えてくるものだな。


 そして夏休み前に最大のやらかしをしてしまった。ユトドラス洞窟ダンジョン消滅クエストの為、フロア核集めに行った時のことだ。令嬢は元よりマリナに会えたのも久しぶりのことだと言うのに、フィーと自然に仲良さげに並ぶ彼女を見て気分が急降下し、無駄に怯えさせてしまった。ヘルにも指摘されたが、恐らくアレで友人にランクアップ出来そうな所からただの知り合いに降格しただろう。いや、それ以下の可能性もある。令嬢の時の彼女の前では己を自制し取り繕えるのにマリナの前では出来ない事が情けない。


 夏休みに入ってヘルやエリンと共にルナヴァイン領地の城に押しかけたり、ヘルと”城塞”に鍛錬を積む為に滞在させて貰った時でさえ、ご令嬢との距離感を縮めるには至らなかった。それは分かっていた事だったのだが、情けなく感じた。


 夏休みが終わってヘルの婚約者への後押し協力のついでだろうとは思われたが、()()の手の込んだ刺繍入りの絹のハンカチに、シンプルだが甘く口どけの柔かいケーキを貰った。添えられたカードによるとカステラという菓子らしい。普段差し入れなど受け取らないか手を出しもしないのだが、有り難く受け取って、職場で疲れた時の糖分補給にしっかり残すことなく食べた。これは料理人に作らせたものか、それとも令嬢が作ったものなのか、後者だと思って食べると研究もより進む気がした。

 剣の模擬試合では、マリナと令嬢からのWハンカチ効果か4強に残る事が出来た。自分としては快挙だ。

 もちろんこれで距離が縮むわけではない。ただ一人で盛り上がってただけに過ぎない。


 その数日後には収穫祭で令嬢が暗殺されかかった。すぐさま蜂に刺された首元から毒を吸い出し、治癒魔法をかけたが、殿下がその場に居る事は分かっていながらも、かなり際どい行為であった。幸いにして令嬢はほとんど覚えていないらしいのだが、むしろ覚えていてくれた方が少しは異性として意識して貰えたのではないかとも思えた。考えても無駄なことではあったが。




▽▲▽▲▽


 俺と令嬢との距離は遠過ぎる。

 皇太子殿下との婚約が無くなった今でさえ、むしろ物理的距離は遠くなった。令嬢は領地の本邸から全く出る必要性が無くなった為、先ず帝都に出て来る事は無いと双子から聞いた。


 令嬢との心の距離など論外だ、近くなった事など一瞬も無い。




▽▲▽▲▽


 初めて会った時の彼女は普通の可愛らしいご令嬢で、、いやその時既に普通では無かった。俺の中でも一目で好意を覚えた……だが直ぐに諦める事になった。父に彼女のことを伝えた時、最初は父も乗り気だった、だが俺が彼女の特徴を伝えて行くうちに表情が暗くなって行き『ジル、すまないが、我が家でもしてやれない事がある。 ”お姫様”は無理だから諦めろ』そう言われた。

 彼女は最初”マリナ”と名乗ったが、それはまだ二歳の彼女が舌足らずで上手く発音出来なかっただけだったのだ。

 『この邸の当主のご令嬢で、マリノリア・ルナヴァイン公爵令嬢。第一皇子のご婚約者様だ』その一言で俺の初恋は静かに終わった。


 次に会ったのは令嬢のデビュタント。十五歳の直前に社交界デビューするハズだと聞いていたが急遽予定を変更して来た。

 十一歳の彼女は幼さを残しては居ても光り輝くように美しく成長していて、俺とは学園に入る前から友人関係にある彼女の兄ランディにエスコートされる令嬢の気品溢れる淑女(レディー)の微笑みに、周囲からのため息とヒソヒソと賛辞が聞こえた、曰く『水の精霊(ウンディーネ)』『月の女神(アルテミナス)』『白薔薇の妖精ホワイトローズフェアリー』挙げればキリが無い賛辞の嵐だった。そんな彼女を扱き下ろしたのは殿下くらいだろう。色々と言っていたが、一番訳が分からなかったのは『人形の様な女だ』そう言った事だった。


 しかもそのパーティーで、婚約者である皇太子殿下がダンスに一度も誘わないという思わぬ事態が発生した為、近しい身内以外に彼女をダンスに誘える者は居なかった。筆頭公爵家次男の俺でもそのような状況で誘う勇気は無い。他公爵家嫡男二人でも一緒だった。


 更に彼女は美しいだけでは無かった。帝国全土から貴族の子女が集まる帝立学園を主席入学し、新入生の代表挨拶を努めて居た。学園始まって以来の天才と褒め称えられ、果たして一年生から入学する必要性があったのか疑問になるほど優秀だった。

 一方で殿下は出来過ぎた婚約者を毛嫌いしていた。

 おかしなのは令嬢もだった。挨拶には序列が関係するが、令嬢は殿下と会う事が有っても自分からは絶対に挨拶しなかった。すれ違う時は淑女の最高礼でもって殿下が通り過ぎるまでその姿勢を保つ、まるで臣下のようなのだ。まぁこの場合声を掛けない殿下も悪いと思うが、皇帝陛下も認める婚約者同士である。殿下が相手であろうと令嬢から挨拶や話しかけても問題にはならないはずなのに、笑顔さえ向ける事は無かった。

 だからと言ってもちろん俺との接点など無いままだ。


 だが、模擬パーティーの件が発表される前日。母に護衛兼荷物持ちとして付き合わされた大型手芸洋品店で、他には有り得ない月の輝きを帯びる銀髪が流れるのを見かけた。生地を良く見せる為に点けられた強めの電球の明るい光を反射して、より輝いている。手に持った白いふわふわの毛皮はラビットか?令嬢が使うには少々安っぽくはあるが、その柔らかい毛の感触を楽しむ令嬢の姿は兎に角可愛過ぎた。母の荷物持ちなど憂鬱でしか無かったが良いモノを見られた気がした。

 だが向こうは明らかにお忍びで来ているようで、視界の隅で俺の存在に気がついた途端、白いふわふわの毛皮を大量に腕に抱えて顔を隠すように、そそくさと連れの侍女や護衛と支払いを済まし店を出て行ってしまった。


 えっ?ココ避けられる場面なのか?しかも今、連れの侍女が直接支払ってなかったか?手形を発行する間も無く急いで店を出たよな?


 俺にとっては少なからぬショックだった。少なくとも今まで避けられるような行いをした覚えは無い。食堂でも俺は殿下と居るから挨拶どころか近寄ったことさえないというのに。ああ、だからか。きっと俺が殿下のご学友と言うだけで避けられただけなのだ、そう思っても心の傷は癒せなかった。


 殿下の婚約者のままの令嬢と距離を縮めるのは到底出来たことでは無かった。

 二年生の時、思いがけず双子から護衛を任されたついでに、調子に乗って三曲もダンスを踊った時でさえ、無難な会話しか出来なかった、思えば共通の話題が無かったのだ。まさか三歳の時の出会いの話をする訳にもいかないだろう、当時のご令嬢は二歳で、しかも泣いていたのだから。

 だがデザートを実に上品な所作で美味しそうに食べる彼女は兎に角可愛かった。幸せそうに食べる姿にもっと何かしてやりたくて飲み物を取りに行った。



 当然と言えば当然だ。彼女は常に皇太子殿下の婚約者として、身内以外の男性との適切な距離感をそつ無く保ち続けていた。まさに淑女(レディー)の鑑。だが、それが培われて来た経緯はおよそ受け入れがたいモノであった。お妃教育が非常に厳しいものである事は聞き及んでいたし、双子からも聞いた事はあったが、それはまだ序の口だったのだ。




▽▲▽▲▽


 収穫祭で暗殺されかかった令嬢が復学したのは二月の学力試験当日だった。それにもかかわらず、翌日の順位発表は彼女は安定の首席でしかも満点。対して殿下は総合点は普段と変わり無いものの3位と順位を下げていて、明らかに不機嫌だった。

 その気分のまま勢いで実行したのか、ほんの数日後、殿下はランチタイムで一番混み合う食堂に令嬢を呼び出し、衆目を集める中で”令嬢との婚約破棄”を声を張り上げ宣言したのだ!


 こんな見せしめのような行為を殿下がするなど、考えられなかった。

 彼女にどんな非があったと云うのか!俺はこの場から直ぐにでも彼女を連れ出そうと動いたが、他ならぬフィーに止められた!小声で『邪魔するな』とも言われた。妹が晒し者になっていると云うのに一体何を考えている?


 周囲に動揺が走ったのが分かった。当然だ。だが令嬢を見ると微笑んでいる。彼女の心は殿下に無くとも、皇太子殿下との婚約破棄となれば大事だ。なのにこんな仕打ちをされて居ると云うのに、益々笑みを深め、透き通る麗しい声が、静かに成り行きを見守る観衆達の居る食堂内に響き渡った。


 『殿下。やっと、その言葉をおっしゃってくださいましたわね。 中々仰らないので、待ち草臥れてしまっておりましたのよ? 何か仕掛けて来るやもと思っておりましたが、正直に真っ直ぐおっしゃって来られたのは評価に値しますわね』


 と、正直かなりの上から目線で淡々と殿下のこの酷い仕打ちのついての評価を下した。

 これ以上の仕打ちも考えに入れていただと?つまり、令嬢は殿下に気持ちが無いだけではなく、信用すらしていなかったのだ!

 それも当然か、令嬢は夏休み前に殿下が聖女様に愛を告白したことなどとっくに把握済みだったのに違いない。その前から不自然に避けていたが、殿下が自分をどう周囲に言っているのかすら把握済みだった可能性も高いと思った。だからなのだろう、婚約破棄の理由すら聞かずに、右手を突き出し正式書類に使用される二枚の羊皮紙が重なった白紙の公式の契約書とポーチを亜空間から取り出した。冒険者バッグも既製品では無かったが、そのまま亜空間収納が使えるとは多才としか言いようが無い。殿下が劣等感を覚えるのも納得出来る。

 亜空間収納は初級から上級にランク分けされている魔法とは別に区分けされた属性無しの高位魔法で、一般的には付与魔法として使用されることが多い。


 ポーチはどうも化粧ポーチらしかったが、中からは帝国で使用される専用の契約用インクと、ガラスケースに収められた羽ペンが取り出された。このポーチも冒険者バッグと同様か……見ている内に冷静にもなって来た。


 殿下はあまりの用意の良さに眉を顰めている。聖女はあまり状況が分かって居ないのか、ただ瞳をウルウルとさせているだけだ。見方によっては婚約破棄を涙を流すほど喜んでいるとも取れるな、そんな意地の悪いことを考えたが、残念ながらほとんど事実だろう。

 令嬢はそんな聖女の様子を見て笑みを浮かべているように見えて睥睨しているようだった。


 そして令嬢は羊皮紙の下半分に、あくまでも皇太子殿下のご命令により婚約破棄を受け入れるのだと、この決定に異議の申し立てはしない、と、婚約破棄を無条件で受け入れる旨の文書を書き、殿下に寄越した。婚約破棄の契約書類が出来上がると、令嬢はこれまでと雰囲気を一変させた!その美しい瞳には怒りも哀しみも浮かんでいない、あらゆる感情の抜け落ちた、以前殿下が言っていた『人形のような女(マリオネット)』が立って居た。これこそが厳しいお妃教育の真髄、如何なる時にも私を滅し、その時々に合わせて最適な表情を浮かべ、優美な所作で人々を惹きつける。帝国と未来の皇帝の為に育て上げられた究極の淑女(レディー)。その徹底的なお妃教育と彼女の失われたままの五年間に戦慄した。


 そして歌うかのように殿下にこれまでの自らの生活の一部を話して聞かせた。


 『わたくしは、殿下の婚約者になってから数え切れないほど命を狙われて続けておりましたわ。 領地の本邸で生まれてから十二歳の数日前までずっと、邸の敷地から出ることなく育ちましたの。 皇帝陛下から送られて来る教育係は厳しかったけれど、とても平和に過ごしましたわ。

 でも、五歳の時に陛下がその身分を保障して送り込んだ教育係がわたくしを殺そうとしたのです。 我が家の中で安全で無かったのはそれ一度きりですわ。 その時のわたくしの気持ちなど、殿下にはお分かりにならないでしょう? 帝立学園に入学するために帝都に来ても邸を出る事はありませんでしたわ。

 そして社交界デビューの為に皇城に初めて登城した日、バルコニーから庭に降りる長い階段上部から突き落とされましたの。 翌年の建国記念パーティーでは猛毒の針を刺されましたわ。 その次の年は刺客が入り込んで来ましたわね。

 いずれも犯人と首謀者はまだ野放し状態ですわ。 皇城の警備は一体どうなっているのかしら? これでは内部に首謀者が居ると揶揄されても否定し切れないのではありませんか?』


 彼女は皇太子殿下どころか皇帝陛下でさえ信用してはいなかったのだ。恐らく皇族自体に不信感を抱いている。皇城の中に内部犯が潜んで居るなどこんな場所で公にするのはリスクが伴うハズだ。殆ど確信を得ていての発言なのだろう。それにしても華々しい皇太子の婚約者という立場にありながら想像を絶する辛い幼少期だったようだ。彼女は自分を皇家の人形に育て上げ、あまつさえ切り捨てようとする殿下を最初から嫌っていたのだ。だが彼女には予言能力は無いと聞いたが、どうして”この日が”やって来る事を分かっていたのだろう。あまりにも準備が整い過ぎている。それは逆に、とても辛かったのでは無いか?彼女の記憶が五歳まで無い原因はここにあったのではないか。


 彼女は深いため息をつき、美しい社交用の笑みを張り付け殿下への最終通告を述べた。


 『わたくし正直に申し上げて、わたくしを守ろうともしてくださらない殿下の妃になるくらいなら、()()()()()()()()()なりたいとさえ思っていましたわ。 さて、もう書き終わりまして?』


 表情こそ作り物だが言っている内容は本音だ。

 ”冒険者マリナ”こそ彼女の自由であり、最悪の事態になった時の逃げ道だったのだ。最初は家族でさえも捨てて逃げようと考えて居たのだろう。だからマリナに興味を持った俺は警戒され、避けられるようになった。

 彼女の不自然さがやっと分かった気がした。


 彼女は殿下の簡素な文章とサインを確認し、自らのサインを一番下に記名し、ジーンに渡しながら『これを陛下に』と言った後、優雅に淑女の礼を取り、食堂内に集まる観衆に向け挨拶した後は一度も振り返る事なく学園を出て行った。


 彼女の目的はただ”皇太子殿下との婚約破棄”そのものだった。聖女にでさえ『お幸せに』と、微笑んでいた。命を狙われ続ける事に疲れ切ってしまったのだ。全くと言って良いほど守ってくれない皇宮への不満もあったろうか。



 これは…… やっと自由を手に入れた彼女とマリナを口説き落とすのは難儀しそうだ。

 どっちが落としやすいかを考えた場合、やはり分かりやすいマリナだろうと思った。だが居場所を確実に特定するのには多少無理をしてみるしかないか。お互いに恋愛に免疫が無く、向こうは相当察しが悪い。自己評価もかなり低いマリナには直球で行くしか無いだろう。そう思ったが、あまり強引に攻めても速攻で逃げられてしまうかもしれない。


 若干気が付くのが遅くはあったが、令嬢が領地からの呼び出しで帝都にいると云う。だがいつ領地に帰ってしまうか分からない。ただ、今日はかなりの無理をしたようだ。まさか現場検証を終業前に終わらせる為に薔薇の棘を両手で握るとは誰が考えるだろうか?いや、大胆不敵なマリナらしいと言えば、らしのかもしれない。令嬢のままでは終わらないと踏んだのだろう。




▽▲▽▲▽


 翌日。マリナが学園の授業中を狙って帝立図書館に居る事が分かった。”奥の手”の成果は思ったよりも早く届いた。彼女の置かれている環境の所為でもあったかもしれない。幸い聖女様の送り迎えの担当日では無かった為、今日は()()()()()があるからと、授業を休む事を侍従に伝えて寮を出た。当然私服だ。彼女が”本人”では無くマリナで現れたのには理由があるだろう。帝都で知り合いに会いたく無いのだ。”婚約破棄”を望んでは居ても、決して傷ついていない訳では無かった。それと同時に、彼女がいつの間にか冒険者ランクBに上がっていた事に気が付いた。学園中退後早速活動したんだろう。元々それ以上の実力があると見ている。


 マリナが図書館で調べたい事、と言えば先ず考えつくのは魔法関連書だ。果たしてその予想は当たった。真剣に読み込んでいる様子だが、ページをめくるのが早い。内容は意外にも座学の初期に学ぶ様な内容だった。声をかける前にページから一旦デスクに置かれた手を押さえた。話をする前に逃げられては堪らないからだ。マリナは高精度の座標移動が出来る。図書館は出入りに入館証を通す必要があるが、戻ってから通して出れば済む事だ。

 今日は出来れば()の約束も取り付けられる様には持って行きたいと思っていた。鈍感なマリナには多少は積極的に行く必要があるだろう。


 前回怖がらせた分を補う様に出来るだけ優しく声をかけようと思っていたが、振り返って俺を目にした彼女は普段以上に可愛く、自然と柔らかい声が出た。彼女が基礎寄りの書物を読んでいるのなら、学園で四年生から学ぶハズだった座学を自習で補おうとしているのかもしれないと思い当たる。ならばそれを手伝いながら友人に昇格し、心を通じあわせられるように持って行こうと思っていたのだが……。全く躱されてしまい、さらに追い打ちで、学園をサボって来ている事を、言葉は違えどほとんど直球で聞き返された!


 うわぁ……。サボりを責められただけで全く脈無し、重ねた手を振り払われないだけマシってところか。

 マリナの声が少しばかり掠れている事に気が付いた俺は、自分の状況は置いておき、美味しいスウィーツと飲み物を提供する店に連れて行く事にした。手は離さない様にしつつも、他は普段よりも更に紳士的に振る舞う様に心がける事で、彼女を怖がらせる事なく、穏便に、これが一番大事だが逃さない様に、何とか図書館の外まで連れ出した。ケープを羽織らせている間も大人しいものだ。そうだ、マリナは普段令嬢として暮らしているのだから、コート類を羽織らせてもらうのなど当たり前のことだったな。

 今日のマリナは普段着に近い衣服を着ている。素材は殆どが最高級品ばかりだ。ラビット毛皮だけは彼女の好みなんだろう、だが冒険時と違い汚れを気にしない可愛らしい真っ白いケープは彼女によく似合っていて可愛い。と、左手を通している時に何かが引っかかった。少し広めの袖口から手を入れて確かめると装飾品が裏生地に巻きつき引っかかっていた様だったので、丁寧に取り外した。

 それは、良い想い出として残っている通称”学園ダンジョン”のドロップアイテムのティアラで、彼女はブレスレットとして使用していたらしい。俺は当時、フードの上から頭に乗せた覚えがある。今はちょうどフードを被っておらず、簡単に髪を高い位置でまとめて結んだだけのシンプルな髪型だった。


 「引っかかったのはブレスレットだったみたいだ。 曲がってしまいそうだから取り外したけど、これって学園ダンジョンのドロップアイテムだったよね? 小さ目だがティアラだから髪に付けた方が似合いそうだと思うが」


 そう言い、兼ねてより実行したかった通りに髪を束ねた部分の付け根にそのティアラを置くと、自然にそこに収まる。思った通り、とても似合うし可愛い、可愛すぎる……髪を一束手に取って唇を寄せたくなってしまう、何ならそのまま……あまりにも気が早い事に気が付き、ケープのボタンを止め始めたが。


 「ぁ、ありがとう、アート。 これね、効果が〔癒し、幸運、水中散歩〕って珍しいでしょ? 特に幸運ってお守りみたいで気に入って持ち歩いてたの」


 うっ、これは可愛過ぎるだろう。幸運のお守りって、理由付けはあるものの、コレを持ち歩いていてくれていることが何だか嬉しい。俺がプレゼントしたものでは無くドロップアイテムではあるが、大切な思い出につながる品だ。自分で選んだ宝飾品やドレスを身につけさせたがる男の心理が分かった気がした。


 それに、彼女のこの銀の光り輝く髪は『生きる至宝』とまで言われている、世にも美しい珠玉の宝物だ。そのままでも美しいが、より飾りたくもなるだろう。そしてケープのリボンを結び終わり、今度は淑女(レディー)をエスコートする様に手を引いて歩いた。


 彼女の舌を満足させる事が出来そうな店は一件だけ心当たりがあったので、そう遠くもない道のりを一緒に歩いた。それだけで何か満たされた気がする。

 それに、今日のマリナはいつもの分厚い目隠しではなく、白い厚手の絹の縁をパンチング加工してレースのようにした上に、幅広のル・ピュイレースを重ねただけの上品な幅広リボンで目元から耳まで隠して後ろでリボン結びした、初春にふさわしい、可憐な目元マスクだった為、普段よりも表情や雰囲気が伝わりやすく感じた。



 俺はあまり出向かないが、両親に付き合わされて来ることがある大きめの商店に着いた。マリナが分かりやすく挙動不審だが、恐らく周囲の者にはそれほど分かるまい。彼女はマリナの時でさえ根底には淑女(レディー)教育が身についたままだからだ。気にする事なくそのまま扉を引いて、先に彼女を通してから俺も入った。バトラーが俺を見て挨拶し、次にマリナの一秒チェックだ。彼女はドレス姿ではないがすんなり通った。まぁ通る事は分かっていた。二人共コートとケープを預けると、そのまま女性店員に席まで案内された。マリナはキョロキョロ店内を見るような事はしないが、今ここに居る事が不思議でしょうがないといった風情だ。どうにも自分のことに鈍感なマリナに教えておく事にした。


 「マリナって本当に分かりやすいね。 この店は多分君が思っている通りの店だが、マリナ自身が君の事を分かっていない。 君は何処から見ても育ちの良いお姫様のお忍び姿にしか見えない。 初めて会った時だって、ルーンの奴がエルフかと聞いていただろう?」

 「あー……そんな事も言われたことあったよね」

 「今のマリナはさしずめ(めしい)の巫女姫様のお忍びと言った設定かな」


 だが、まだ納得し切れていないのか、自分の服装チェックをしている。少し困ったような気配がしたと共にチラリと自分の髪の毛を見た気がした。背筋に何とも言えない悪寒が走った。ほんの一瞬の事だったが、最悪の考えが頭に浮かんだ気がした。マリナの自己評価は低い、今の彼女は自由こそを愛している……。


 嫌な予感は忘れないようにしながらも、今この場を楽しまなければと思い直した所で、沢山のスウィーツからデザート類をワゴン一杯に乗せて店員がやって来た。マリナは分かりやすく明るい雰囲気になった。彼女はチョコレートがよほど好きらしい、以前も何度かチョコレート素材のケーキを食べていたな。続いてブルーベリーソースがけのチーズケーキを選んだ。


 流石、と言って良いのだろうか?ここでケーキを二個選ぶご令嬢を初めて見た気がする。双子も甘い物好きでよく食べているが、兄妹揃って甘いモノに目が無いらしい。


 選んだ紅茶は、先ず普通の令嬢が選ばない希少な輸入高級茶葉だった。産地、収穫時期、等級の全てでこの店で扱う茶葉の中でも最高級品の一つ。どんなに庶民の演技をしようと、TPOに見合った所作や言動が身に染み付いて居るからそう誤魔化す事など無理なのだ。現にこの店のバトラーの一秒チェックを通ってしまっているのだから。

 一々言い訳がましく庶民アピールしようとする姿も可愛らしい。店を出る時にはつい令嬢が出てしまっていてもう微笑ましさしかない。



 そして図書館に戻り、魔法書を読む彼女の講師役でもしようとしたのだが……流石と言うか、専門用語、古語に至るまで、何も教える事が無く、どう明日の約束に繋げて行こうか思い悩んでしまった。とりあえず、教えてあげられる事は何も無さそうであったが、明日も図書館に来ると言う言質は取った。二日のサボりくらいどうでも良い、こっちには一生が掛かっているんだ。


 今日は図書館の閉館まで一緒にいる事が出来てそれなりに満足した。1mmくらいの距離は縮められたのだろうか?

 そうだ!双子はとっくに帰宅してしまって居るだろうから、急いで緊急用の通信用魔術道具で知らせなければ、手遅れになったら事だ!

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